映画『貞子DX』評価・ネタバレ感想! IQ高い人達が作った愛すべきクレバーなバカ映画

もはや世界中で知られ、Jホラーを代表するどころか「ホラーと言えば貞子」と言えるレベルにまで成長を遂げた貞子。原作小説では3部作にて思いもよらぬその正体と進化が語られたが、『リング』からスタートした劇場版では、また別の発展を遂げ続けた。段々と文学性には乏しくなり、映画のプロモーションのために始球式にまで登壇する貞子に、ホラーファンは難色を示し、「こんなの貞子じゃない!」と訴え続ける。

 

「やっぱり原点の『リング』こそ至高」。原作にない、テレビ画面から飛び出す貞子というインパクトあるシーンは数々の作品でオマージュやパロディに用いられ、未だに根強い人気を誇る第1作。原作の続編を映画化した『らせん』、何故からせんを無視して作られた続編『リング2』、その後貞子の出自に迫るエピソードゼロが作られ、少し間を開けて3D映画が日本中を席巻し始めた頃に、『貞子3D』が2作作られる。怪物と化した貞子の大群から石原さとみが逃げ続け、終いには物理的な戦いを繰り広げるモンスターパニックがメインの2作はすこぶる評判が悪い。そこから「呪怨」シリーズとコラボした『貞子VS伽椰子』が作られる。私はこの監督の白石晃司が大好きで、サダカヤも今でも大切な作品である。最近だと『チェンソーマン』のアニメOPにオマージュシーンがあったことで話題になった。

 

 

 

 

そして、池田エライザ主演の『貞子』が公開。第1作の『リング』を撮った中田秀夫監督が久々に登板し、原点回帰を図るような内容だったが、正直言って古臭い。近年の(いや、昔からかも…)中田秀夫監督は冗長な演出が多く恐怖よりも先にギャグが来るどころか、ただただ退屈で変な映画を撮り続ける重鎮に成り下がってしまった。でも最近の『"それ"がいる森』は、その変さが映画の題材とマッチしてていい感じに狂ってて良かったと思う。

 

 

 

 

とまあ、公開するたびにああだこうだと言われ、でもシリーズが作り続けられるのはありがたいもねと怒る人を諌めるみたいな流れが毎度繰り広げられるのが、このリングシリーズ。「貞子はこんなことしない!」から、「もうどうでもいい…」という流れが生まれるまでがセットみたいなところすらある。

 

そういう意味で『貞子DX』は…もう振り切っていたというか。貞子が持ってしまったギャグ性を存分に活かすことにして、ある意味開き直りとも取れる映画になっている。それは予告からも明らかだろう。IQ200の天才大学生(小芝風花)が、謎を解き、貞子の呪いに迫る!

もうこれはスピンオフとかそういう領域の楽しみ方であって、本家リングとは程遠い。だが、それすらも一縷の望みに見えるほど、リングシリーズというのは複雑な事情を孕んだ作品なのだ。

 

前置きが長くなってしまったが、感想を端的に言うと…

 

「「「「めちゃくちゃ面白かった」」」」です!!!!!

 

正直、100分近くのホラー映画とは思えないタイプのノリで、金曜の夜に何となくテレビ点けたらやっててつい観ちゃう〜みたいな、そういうドラマの感覚。ホラーにおいては本来ノイズになるはずの、「怪異以外のキャラクター」のキャラ造形が死ぬほど凝ってて。アニメやドタバタコメディに出てくるような登場人物達は、正直貞子よりキャラが濃い。怨念みたいなドロっとした手触りは一切なく、質感としては『TRICK』とか、そういうのに近い。もしかしたらお手本にしてたのかもというくらい、バディスピリチュアルミステリーが繰り広げられる。

 

ホラーにバカ映画のノリが混入することで、思わぬ傑作映画が誕生することはままある。シチュエーションを客寄せパンダに使うだけの出オチ映画かと思いきや、根幹がしっかりしていたり、とにかく面白かったり。最近だと『きさらぎ駅』なんかはそうだろう。都市伝説を元ネタにした低予算映画だが、都市伝説にとんでもない脚色をした上に、ホラー度も一流で人間ドラマとしても楽しめる。ただ、リングシリーズはJホラーの王道にして頂点。おそらく貞子という名前だけで劇場に人を入れることができる程の力を持っている。そんな王者が、遂にこの「ヘンテコ映画」の領域に自ら踏み込んできたのだ。「ヘンテコになってしまった」のではない。今回の貞子は進んで「ヘンテコを選んだ」のである。ここには天と地ほどの開きがある。

 

そんな『貞子DX』の功労者は脚本の高橋悠也ではないかと私は思っている。知らない人もいるかもしれないので簡単に説明すると、アニメや特撮作品において主に活躍しており、速筆かつ多彩で、特徴的なキャラクター造形とスピーディーな展開がウリの名脚本家である。正直、この名前がクレジットされているのを見ただけで、私は「勝ち」だと予想した。おそらくホラーにはならない、しかし「面白い」映画にはなる、と。その予想は鑑賞後にぴたりとハマることになる。

 

私が高橋脚本に初めて触れたのは『仮面ライダーエグゼイド』である。バグスターウイルスという人間に感染して怪物を生み出すウイルスと戦うドクター=仮面ライダーの物語。ライダー達はゲームをモチーフにしたガシャットというアイテムを用いて変身し、主役ライダーはピンク色に加えてSDフィギュアみたいなクリっとした目を持つと言う、見た目や設定からしてとにかく異色の作品だった。しかし、命を救う医療と、ゲームのライフという価値観を掛け合わせた上に、毎週ヒキの強い展開を用意して視聴者を釘付けにし、今でも高い人気を誇っている。

とにかくアニメ的な演出が強いため、苦手な人は苦手かもしれないが、勢いとノリの良いキャラクターを書かせたらかなり強い脚本家なのは確か。その上、モチーフをしっかり作品のテーマに落とし込んでもくれるので、とにかくアフターケアが丁寧なのである。

 

 

 

 

そしてその手腕は、この『貞子DX』でも遺憾なく発揮されていた。危うく貞子を食ってしまいそうな程にキャラ付けされた登場人物。IQ200の天才大学生、文華。占い師を目指し、ホストのような軽いノリと浮いた言葉を武器とするアホ、王司。引きこもりのハッカー、感電ロイド。スピリチュアルバイオレットナンバーワン、Kenshin。いやスピリチュアルバイオレットナンバーワンってなんだよ。

 

文華が謎解きの際に見せる耳の裏を押す仕草だったり、王司がいい雰囲気のことを言う際の鼻の下を撫でる仕草だったり。観た後についやりたくなる〜みたいな所作がキャラ付けとしてとにかく発揮される辺りもすごい。Kenshinは演じる池内博之の目力だけで説得力が段違いである。

 

そう、この『貞子DX』、一見バカ映画に見えて、実はめちゃくちゃクレバーな奴らがバカ映画を作っている…!!!という、頭の良さが透けて見えてしまうのだ。

身内が呪いのビデオを観てしまったために主人公が呪いを解くために、仲間達と奔走するという筋書きはリングシリーズの王道。お祓いシーンなんかも、ホラーではよくある場面。正直ホラー映画愛好家からすれば、「あるある」すぎる光景なのだが、そうした「あるある」に独特の風味を持つギャグを加え、とにかくスピーディーに展開が動く。観客の緩急が完全に作り手のコントロール下にあると認めざるを得ない。

 

それは木村ひさし監督の手腕もあるだろう。私はこの監督の『屍人荘の殺人』のノリが大好きなので、『貞子DX』も小気味良く挟まれるギャグやテンポ感のあるやり取りが本当に楽しかった。言葉の応酬というだけで、こちらは映像に没入できるし、そうしているうちにキャラクターに愛着が湧き、いつの間にか映画自体を好きになっている。完璧…完璧すぎる…。

 

正直言って、ホラー的な側面は一切ないに近い。怖がらせようという意図よりもキャラクター映画として楽しんでもらおうという気持ちの方が強いのだろう。そのため、純粋なホラーを求めている人にとっては憤りを覚えるほどのものかもしれない。だが、貞子という作品の近年の落ち込み具合にため息をつくばかりだった私からすると、この路線は全然アリ。むしろキャスト続投でいろんな怪異を解決していくようなドラマとして続編を希望するほどだ。

 

至る所に伏線が張り巡らされ、セリフの全てがキャラ説明か状況説明か伏線、この3つのどれかに当てはまっているような、そんな天才の意図さえ感じてしまう。そして、貞子の呪いの解決法も見事だった。

貞子のビデオを1日1度必ず観る。元がウイルスであるからこそ、免疫を作り続けるというのはなかなか盲点だった発想。それでいて、withコロナという言葉が叫ばれ、未だにコロナウイルスの影響を生活に受けまくっている私達にとって、非常に身近な落とし所でもある。24時間ギリギリになると親しい人が貞子っぽくなって周囲をウロウロし出すが、「早く観なきゃ〜」で済まされる軽さ。それは同時に、「貞子」という存在がキャラクター性を帯び、恐怖の対象ではなくより親しみやすくなったことの表れでもあるように思える。

 

リングシリーズやその後続Jホラーの"あるあるネタ"をとにかくスピーディーに盛り込み、その上でシリーズの変遷と現代におけるテーマを包括。更にキャラクターの味付けと小気味良い演出でエンタメ性も確保。この手腕が一番怖い。こういうトンチキを賢い人達が本気で作ったらマジで凄いものができるのだな…という発見があった。

 

この映画を楽しめた人は是非、木村ひさし監督と高橋悠也の名前を覚えておいてほしい。

いやしかしこれ、マジで続編観たいな……。