映画『ブラックアダム』評価・ネタバレ感想! 強さMAXのロック様と個性豊かなJSAによる、強火のヒーローアクション!

Black Adam (Original Motion Picture Soundtrack)

 

MARVELが3ヶ月に1作くらいのペースで新作が公開される(その上ドラマも配信される)のに対し、DCEUは『ザ・スーサイド・スクワッド”極”悪党、終結』以来1年ぶりの新作公開。シャザム2に出てくる~というような情報が当初はあったように記憶しているが、悪の誕生譚として単体公開された。主演は普段映画を観ないような人でも名前を知っている名優、ドウェイン・ジョンソン。主に『ワイルド・スピード』シリーズでの活躍が知られ、その筋肉量から何かと話題に挙げられることの多い俳優だ。

 

プロレスラー時代のロック様の愛称で知られる彼が全身タイツ型で遂にアメコミ映画作品に殴り込むというのだから、とにかく話題性は抜群。正直「満を持して」という待ってました感すらある。しかもヒーローではなく悪役。今作は悪役が主演の物語。

ドウェイン・ジョンソンを主演に据えるというだけでもうある程度の面白さが見込めているのだが、実際に鑑賞してみるとこれがまあ個人的に大当たり。MCUと比べてDCEUはオワコンなんて雰囲気も漂っているどころかそれが漂い切ってしまっている中で、こうまで単独作として面白いものが出せるのは、逆に仕切り直しを繰り返してきたDCEUの強みなんじゃないかと思えてきた。

 

監督はジャウム・コレット=セラ。以前に 『ジャングル・クルーズ』でもロック様主演の作品を監督している。その他だとリーアム・ニーソン主演の作品をいくつか撮っていたり、有名なホラー映画『エスター』も彼の監督作品である。

ブラックアダムはシャザムと出自を同じくするキャラクター。『シャザム!』もホラー映画経験のあるデイビット・F・サンドバーグが監督を務めており、ガラス越しに人が次々と殺されるシーンなど、ホラー的な描写が印象深かった。私はホラー映画や人が飛び散るタイプの映画が好きなので、『ブラックアダム』にもそうしたちょっと観客をドキッとさせる演出があるといいなあと思っていたが、そういう部分は今回鳴りを潜めたと言っていいかもしれない。他に演出面で言うと、やたらとスローモーションが多いのが気になった。決して悪いわけではないものの、「また?」というくらい肝心な場面で多用されるので、ちょっとイラっと来たのもある。

 

ただそんな細かいことを差し置いて、充分に面白いと言えるくらいのパワーを持った映画であるように感じた。悪役誕生に2時間掛けるのはさすがに…と思っていたが、実際にはブラックアダムを止めようと活躍するJSAジャスティス・ソサエティ・オブ・アメリカ)の面々のドラマも同時に展開され、こちらが非常に良い。特にホークマンとドクター・フェイトは良すぎてブラックアダムのキャラクターを食いそうになっているレベル。だがブラックアダムも負けじと、中盤のタイミングでとんでもない出自を繰り出してくる。お、おもしれえええええええ!

 

ただキャラクターが多いせいで取っ散らかってる印象は確かにあったし(JSAの話がセリフの割にちょっと薄い気もした)、ブラックアダムが結構寡黙で無表情なキャラクターなので、JSAが加わるまではギャグのノリが弱い。JSA登場以降は画面も楽しくなるし、セリフのやり取りもより軽く感じられ、作品のノリが一気に明るくなる。正直序盤のブラックアダム復活辺りまでは「大丈夫かこの映画…」と不安だったが、JSAが私を救ってくれた。

 

仲間を奴隷から解放するためとはいえ、虐殺を図ったブラックアダム。その彼をヒーローと呼ぶことができるのか、というのがこの映画のテーマ。悪人や気に食わない人間は容赦なく殺すブラックアダムに対し、助けられたものはヒーローだと訴え、止めようとするJSAは悪だと定義する。

そして中盤、実は彼は力を受け継いだ人間ではないことが明かされる。冒頭の少年の消失はミスリードで、アダムはその少年から力をもらった父親だったのだ。彼は認められることなく力を手にした危険人物。故に一度は監禁されるものの、彼を認めたJSAのドクター・フェイトによって復活し、力を手にしたイシュマエルと戦う。

 

私はヒーローとは人を奮い立たせる存在だと思う。もちろん各々ヒーローの定義は異なるだろうし、わざわざ定義するようなものでもない。だが、ヒーローの活躍が力のない人々の心の支えとなる展開が大好きな人間なので、終盤の民衆がガイコツ達から街を護る展開は本当に胸が熱くなった。世界にとって危険人物だとか、認められずに力を得たとか、そういうことは些細な問題なのである。誰かや何かを護りたいと思った時に即座に行動できる者こそがヒーローなのだ。そういう意味で、ブラックアダムは正しく彼らにとってヒーローだった。

余談だが、テス・アダムと呼ばれ続けた彼がラストで「その名前は古いな…それじゃあ」と言った後に「ブラックアダム」のタイトルドーンは反則。最高の演出だった。

 

そして既存のヒーローであるJSAにも、きちんとドラマが存在している。登場いきなりブラックアダムに蹴散らされるので、どうしても力の面では劣ってしまっているし、箔もつかないのだが、それでも彼等には彼等なりの葛藤があり、ヒーローもまた、一人の人間であるということを思い知らされる。自分の死に悩み、仲間の死を悼む。それでも、「自分がやらねば誰がやる」という精神で、勝てないと分かっている相手にも立ち向かっていく姿勢は、人々の胸を打つ。特にドクター・フェイトはこの1作限りになってしまうのが勿体ないくらいに素敵なキャラクターだった。JSAの過去活動のスピンオフ、絶対に観たい。

 

筋肉が印象的なドウェイン・ジョンソンにスーパーパワーのCGで戦わせるのは何だかミスマッチな気もするが、ずっとプカプカ浮いているドウェイン・ジョンソンは、その無表情さと相俟って何だか面白い。また、本作はとにかく勢いと破壊重視の作品のため、DCEUの『アクアマン』のように、とにかくドラマが深くなりそうだったら何かが襲ってくるみたいなノリ。飽きる暇がなく、2時間があっという間に感じられる。最初はぶっきらぼうにしか見えなかったブラックアダムが、JSAの登場で面白いキャラクターになっていくのも新鮮で、徐々に人間味が現れてくるのもよかった。

 

ぶっちぎりで「ここがいい!」というと難しいのだけれど、自分の好きなものが詰まっていて、「ヒーロー映画を観ている」という感覚に頭のてっぺんまで浸かれる、テンション爆上げ映画だった。ラストにスーパーマンが出てきたことで、DCEUの今後は更に加速していきそう。個人的には暗めのノリで始まった(それも嫌いじゃなかったけど)DCEUから、こういう個性を持った作品が出てきてくれたことが何より嬉しい。MCUの『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー』が喪失と向き合い続ける重苦しい作品だったので、半月違いでこういうテンションのヒーロー映画が公開されるのはバランスを取る意味でもよかったと思う。