スーパーヒーロータイム語り ギーツ第7話・ドンブラ ドン33話

 

 

仮面ライダーギーツ 第7話『邂逅Ⅵ:ラスボスと缶けり』

 

デザイアグランプリを1年で何度も繰り返すのだろうなとは予想していたものの、まさかもうラスボス戦とは。年末の山場辺りに持ってくるのかなあと薄々思っていたので意外だった。でも確かに年末だとするなら残りのメンバーが少なすぎる。各キャラクター紹介が一巡したこともあり、再び第1話と2話のような、英寿と景和のやり取りが中心となっていた第7話。良かったのはそれぞれの戦う理由が更に深く掘り下げられたこと。

 

アバンでいきなり「母さん…」と呟いてた英寿に「お母さん何で民族衣装みたいなの着てるんだよ…」とつっこんでしまったが、西暦元年から参加しているという英寿の発言から、デザイアグランプリの根幹に関わる存在かもしれないことが示唆された。いやでも英寿がそんな超常的な存在だとは予想してなかったのでさすがに驚く。母親がデザイアグランプリの運営と何らかの繋がりを持っていて、英寿はその母親と再会するためにデザイアグランプリで優勝して不老不死になった可能性もある。母親と再会する世界を望んだけど、それは何故か果たされなかったから、デザイアグランプリの叶えられる世界の上限や線引きを探っている…とか。でも2000年はさすがにかかりすぎに思うし、やはり母親と運営に何らかの関わりがあってそれを探っていると考えるのが妥当だろうか。

 

景和と沙羅の姉弟の仲睦まじい姿に閉口して蕎麦を食べ続ける英寿も良かった。セリフでは語らず、表情だけで心情が伝わってくる演出は好み。母親と会えない辛さは押し殺せても、どこかそこを羨ましく感じてしまうのかもしれない。後は母親の人形にされ常にGPSで追跡されていた祢音が姉弟に憧れる描写も納得。そして沙羅役の志田音々さん、めちゃくちゃ演技がいい! これまではコミカルな脇役に徹していたけど、いざちゃんと前に出てくると愛嬌と演技力でどんどん好きになってしまう。妹の志田こはくさんがドンブラザーズで頑張っているが、負けず劣らずの快活さで一気にキャラが立った。 

 

そして、今回景和のキャラクターにも肉付けがされた。彼が世界平和を望むのは、決して何となくではなく、両親の居ない人生を生きてきたがゆえに、大切な人を失う痛みを誰にも味わってほしくないという彼なりの思いがあったのだろう。それを瞬時に見抜ける英寿の洞察力。ただ、その力を優勝のために利用してしまうのがな…。

1話でジャマトに攻撃された蕎麦屋の店長を出すことで、しれっと景和の心情に寄り添わせる脚本が上手く、だからこそ英寿の「化かし」が効いてくる。初のタイクーン ブーストフォームも、緑と赤という目を引くカラーリングが良かった。戦い慣れしてない感じがあったのに、しれっとブーストライカーでジェットコースターのレールを走るの、なかなか度胸がいるだろうに…。失敗して英寿に利用されるところは、正直予想通りというか。7話にして既に、英寿が素直に人を認めたりしないだろうという目線が視聴者の中に植え付けられているのが凄いところ。こいつ、主役なのに。

 

ただちょっと思ってしまったのは、世界を守ることを望むのなら、実力のある英寿に全部やってもらうのがセオリーなのではないか、と。実際タイクーンは6話までで大した戦績を残せていないわけで。景和としても自分の実力を過信してる風でもなく、むしろ「世界を守る」というヒーロー性が強調されていたわけだから、別に世界が守られればそれでいいのでは?とは思ってしまった。確かに自分を認めてくれた相手に利用されることは辛いし、恨みつらみを言いたくなる気持ちもわかる。でも、景和自身の実力が英寿に劣る以上、どうしても子どものやっかみというか、英寿が何となく嫌いという個人的な感情に過ぎないように見えてしまうのだ。祢音や道長もちょっと英寿に対して「ひどくないか…」みたいな顔をしてたのだが、この流れが作品の流れになったらちょっと違和感でついていくのが厳しくなるかもしれない。

 

ギーツが優勝のために誰かを犠牲にするとかなら分かるのだが、景和を助けることは決めていたわけだし、誰一人犠牲者は出していない。そもそも主人公ライダーにそんな極悪非道なことはさせられないだろう。景和くんも、どちらかと言えばそこは「助けてくれてありがとう」と言ってもいいくらいの場面だったように思うので、次週で何かフォローをしてくれたら嬉しい。

 

ただ実際のところ、英寿は景和を本当に救いたい気持ちもあり、敢えて道化を演じてる可能性も全然ある。少なくとも誰かを犠牲にするタイプではないので、この辺りもやはり彼の過去が明かされてから色々と動くのだろう。裏切られて英寿を信じられなくなった景和が、彼のことを知りどう行動を起こすかは気になるところ。

 

ギーツの良さはやはり英寿と景和のW主人公感にあるような気もしている。『カブト』の天道と加賀美にも似た関係性で、そこにデザイアグランプリという独自の設定が加わり、更に独特な味付けに。ただ今のところ景和があまりに純真すぎるのと、視聴者との目線共有に注力し過ぎな感もあるので、景和というキャラクターの動かし方で作品の面白さも決まっていくかもしれない。景和に掛かってるからな…頼むぞ…。このままでは令和ライダーが陥りがちな善良系変人ルートもありえるぞ…。

 

それにしても、道長が景和にブーストバックルを寄越すよう言うセリフも、まるでお前を危険に晒したくないから俺がやるよとでも言いたげで、笑ってしまった。残った4人が基本的に善人なので英寿の景和化かし以外ギスギス要素が発生しない。斬新な状況ではあるが、面白味に欠けてしまう可能性もある。一旦はこの邂逅編がどう幕を閉じるのか、期待したいところ。

 

 

 

 

暴太郎戦隊ドンブラザーズ ドン33話『ワッショイなとり』

先週の天丼が正直あまり好みではなく残念だったのだが、今週は本当に最高だった。シチュエーションコメディという作品の持ち味が存分に活かされ、観たこともないようなパワーアップ回がこの世に爆誕。白倉・井上コンビ、もう何作も特撮ヒーロー作品を世に送り出しているというのに、こんなに斬新なことができるのが恐ろしすぎる。TTFCのコメンタリーを聴くと、加藤監督が脚本から膨らませた演出なども多いよう。個人的には加藤監督の演出がすごく好みだなと感じた。ドンブラザーズのシュールさを保ちつつの演出というか。脚本を殺さない旨味がある。

 

ソノイに倒されたタロウを運ぶ闇ジロウ。よりによって彼がタロウを運ぶというのも面白いし、ヒーローが倒れた時に決して病院に行かずなぜか濡らした布で看病するのも、正に井上イズム。親の顔レベルで見た光景である。「お前が死んだら俺はどうすれば…」という葛藤、ますます闇ジロウを好きになってしまう。ムラサメからも必死にタロウを守るし、実際実力もあるしで最近どんどん魅力的になってきている闇ジロウ。どうにか人格の統一や吸収だけは避けてほしいところ。というか、タロウ復活という節目なのに光ジロウ全く出さない選択してるのすごい勇気だな…。

 

ソノイがタロウエキスによって復活し、ソノニとソノザを実力で屈服させお供にする。まるで歯が立たず、あっさりとお供に成り下がる2人が愛おしい。そしてドンブラザーズの4人を呼び出し、新たにお供に加えようとするソノイ。犬塚だけが夏美を追うために普通に断っているのが最高。別に行かなくてもお咎めないのかよというふわふわさがいかにもドンブラザーズである。

そして喫茶どんぶらにて、脳人とドンブラザーズのコメディ対決が開催される。並行してタロウの手術を行うマスター。ゼンカイザーブラックの上から手術着を着て(そもそも変身する必要あるか?)、変な器具でガチ手術をこなす姿はあまりにシュール。集中力を要求されているはずなのに、はるかに呼び出されたり、ソノイがきび団子を喉に詰まらせたりととにかく忙しなく動かなくてはならない。最近あまり活躍がなかったマスターだったが、大活躍どころか今週のMVPである。いやでも、やってることの見てくれがあまりにおかしすぎるんだ…。

 

同時に脳人とドンブラザーズのコメディ対決が開催される。タロウ不在時の猿原の生き生きとした表情が癖になってしまう。この仕切りたがりな俗人っぽさこそが猿原の持ち味なので、そういう意味では彼を堪能出来て嬉しい。沈黙ゲームで「いや、もういい」なんて勝手に言い出して負けるアホさも最高である。地味にソノイが3人にドン家のことを話したりと、重要な情報も飛び交っていた。しかしドンブラザーズと脳人の距離が縮まるにつれ、未だ合流できていない犬塚との情報格差が深刻になっていくのが面白すぎる…。彼は彼で来週一波乱起こしてくれそうなのでそれも楽しみ。

 

終いにはマスターの提案で大食い対決。タロウにエネルギーを注入するために6人にいっぱい食べさせて放出したエネルギーをギアトリンガーで搾り取る。確かにソノイがタロウエキスで復活したっていう前フリはあったが、そんなところまで天丼に持ち込むのは完全に予想外。しかも口から飲ませるのなんなんだよ。なんでエネルギーが経口摂取なんだよ。

それにしても、マスターの存在も正体も出自も目的も一切が謎で、視聴者からすると去年の主役と同じ顔をした全くの別人という更に怪しげな男なのに、シュールさだけでこうまで彼の手術を応援したくなるの、本当にすごい。正体や目的よりもそのキャラクターが変なことをしたり変なことを言ったり変なことに巻き込まれたりで、とにかく愛着を湧かせてその場の行動理念だけ作り上げ、好感度を積み重ねる手法。ゴツい怪人には幼子やかわいいペットを愛でる描写を入れたりと、とにかくギャップというものを根本的に理解していないと難しいだろうに、おそるべし井上敏樹

 

そして復活したタロウの初陣は、まさかまさかの太陽鬼となった雉野つよし。他メンバーのエネルギーを注入することで新たな力を手に入れるパワーアップ回と言うと聞こえはいいが、それ以外のノイズやバグがあまりに多すぎる。そもそもコメディの路線で戦隊メンバーをさらっと怪人にするなよ。ヒーローと怪人の境目を平成ライダーでどんどんぶち壊していった白倉・井上コンビが、また新たな形でその境界線に挑んでいる。怪人になっても「ごめんなさあああああい」で許される作品を生み出せる胆力、本当にすごい。

 

ゴールドンモモタロウはすごくかっこよくて好みだった。ドンモモタロウが演者さんの手足の長さを活かしたすごくスリムな見た目だったこともあり、マントなどの付属パーツでシルエットが明確に変わるのも面白い。後は必殺技を放った後のゴールドンモモタロウのポーズもタロウらしさ抜群。というかゴールドンモモタロウにオミコシフェニックスっていう名前、とんでもないな…。

「天国も地獄も俺には縁がない。俺は不死身だ。フェニックスのようにな!」と、販促と繋がっているのかいないのかよく分からないセリフを吐くタロウも良かった。というか死んでなかったし、やられた後に頑張ったのはマスターだけどな。タロウ復活には雉野の怪人化がセットになっているようなので、もし終盤再びタロウがピンチに陥ることがあったら、雉野がまた怪人になるだろう。

 

総じて、はちゃめちゃに面白い回だった。1話30分の中で目まぐるしく展開が移り変わり、全く先が読めない。パワーアップ回はヒーローが何らかの決心をするのがセオリーだが、そうしたことをしないのは見事。思えば去年のゼンカイジャーも白倉Pの提案で、日常回のような手触りだった。よっぽどうまくやらないと難しいとも思うのだが、一応タロウ復活という流れがあるので、そういう意味ではセオリーに則っている。ただ、そのセオリー以外の部分があまりにヤバすぎる。パワーアップ回から摂取できる成分以上のドンブラザーズ成分が押し寄せてくるのだ。

 

 

ギーツもだが、ドンブラザーズもとにかく先が読めない。ギーツがライダーにおいて斬新なことをバトルロイヤルもののセオリーで描いているとするのなら、ドンブラは全てのセオリーの上をいくあまりに独自性の強すぎる作品である。

ギーツも面白いが、ドンブラザーズがとんでもない爆発力を発揮した週は全て持ってかれてしまう。とはいえ、ギーツもまだまだこれからなので、今後に期待したい。