映画『ミンナのウタ』評価・ネタバレ感想! 清水崇、呪怨ぶりの傑作ホラーを誕生させてしまう

とんでもない作品が世に出てきた。『ミンナのウタ』、本当にすごい。すごく怖い。「GENERATIONS全員本人役で出演!」なんて触れ込みで客を入れようなんて考えた人は誰ですか?そんなキャッチーな宣伝にした判断、大正解すぎる。「えー、GENERATIONS出るのかー。ホラー苦手なんだけどなー」って人もきっといるだろうに。そういう層の脳裏に永遠に恐怖を刻みつけるであろうガチホラーが令和5年の夏に解き放たれてしまった。邪悪すぎる。

 

本作はホラー映画界隈では有名な清水崇監督の最新作。自分にとって「呪怨清水崇監督」と「リングの中田秀夫監督」の作品は少し身構えるようなところもある。多分同じような人は多いだろう。それこそJホラーに画期的なアイデアをもたらし金字塔を生み出した2人ではあるのだが、どうにも後続作品は独特すぎたり二番煎じだったりでパッとしない作品が多い。一応観に行くが、肩を落として劇場を出る。失礼ではあると分かっているのだけれど、そういう経験の方が圧倒的に多いのが両監督なのだ。もっと評価されてほしいホラー映画監督がたくさんいるのに…と不満も募ってしまう。しかし、この『ミンナのウタ』は完全に当たり。大当たり。今後は「呪怨の」よりも「ミンナのウタの」の肩書きをつけていってほしいと思うくらいに素晴らしかった。いつもの「それ本当に怖がらせようと思ってます?」みたいな謎シーンもない。ただただ、怖い。演出の意図する恐怖とこちらの感情がしっかりリンクしている安心感。ただ音を大きくしてビビらせるジャンプスケアではなく、重厚な雰囲気を作り出した上で恐怖で閉じる演出の数々。私が観た上映回では観客の女性の悲鳴が何度も聞こえてきた。

 

 

 

 

まず触れたいのが「GENERATIONS全員、本人役で出演!」という面白さ。ホラー映画とアイドル・アーティストというのはズブズブの関係にある。ホラー映画は基本的に低予算で作られることが多く、上映規模もさほど大きくないパターンが主。そのために売り出し中の男性・女性アイドルやタレントなどの登竜門というような側面も持っている。逆に言えばそのアイドルやタレントのファンに向けたご褒美のようなものでもあり、ファン以外が観るとどうしても演技力などの面で思うところが出てしまうようなこともある。実際、有名シリーズの新作の主演が10代のアイドルグループということも珍しくない。だが今回はGENERATIONSである。アーティストに疎い私でも当然知っているし、彼等の出演する作品をいくつも観ている。『SHONEN CHRONICLE』は何度も聴いた。そんな大きなアーティストがホラー映画に…!でも清水監督だからまあまあまあという感じなのだろうなあと、さほど期待はしていなかった。むしろ映画館に通うような私にとっては毎回映画前にあのうるさい(音でびっくりさせてくる)予告を何度も観るのが苦痛だったため、早く上映してほしいとまで感じていた。2ヶ月前に清水監督の『忌怪島』という作品も上映されており、これが物凄く退屈な作品だったのもよくなかった。興味がある人は観てもいいかもしれない。

 

 

だが、何度も言うが大当たりである。GENERATIONSのファン、本当に泣いてしまうのではないだろうか。少なくともそんなに安易に劇場に足を運んでいいクオリティではない。逆にホラー苦手でこの映画が大丈夫なら、おそらく大概のホラー映画は大丈夫だろう。それほどに怖い映画だった。近年の清水作品の中でも随一。今回脚本には角田ルミさんも監督と並んでクレジットされており、その配分が良かったのかもしれない。もちろんどこをどちらが書いたかは分からないのだけれど、私が特に好きだったのは至る所に挿入される「呪怨オマージュ」である。『呪怨』シリーズを網羅していると、喜べるポイントがかなり多い。しかもそれが「呪怨で観た!」にとどまらず、更に一歩先の演出になっているのが凄い。清水監督のアップデートと言ってもいいかもしれない。

 

まずは根底にあるグロテスクさ。『呪怨』は出産や胎児の話が軸にあるため恐怖以上に不快感が襲って来る場面が多い。今回も怪異の本体となる"さな"の母親が妊婦という設定であり、なかなかに胸糞悪い演出もあった。あまりいないだろうが、妊婦さんなどが観るようなことはおすすめしない。また、場面設定も正に『呪怨』。伝統的な木造建築の日本家屋。「入ったら引き込まれる」ルールに、なぜか過去と繋がってしまう演出。既視感はあるが、令和の今これをGENERATIONSがやっているのは逆に新しい。その他、さなの弟の名前が「としお」だったり、シャワーを浴びていたら後ろから頭を掴まれる、布団の中を覗いたらこっちを向いている顔があるという演出も『呪怨』からだろう。わざとらしさなしにあっさりと恐怖演出の1つとして呪怨展開を繰り出して来る小気味良さが素晴らしい。

 

そして何より怖いのが中務が家に入るシーン。ここ、勘の良い人はさなの母親が出てきた時点ですぐに気付いたはず。『呪怨 白い老女』の"アレ"だ、と!『呪怨 白い老女』はシリーズのスピンオフ作品で清水監督作品ではないのだが、あまりに恐ろしい物語と演出のおかげでシリーズベストに挙げる人すら多い傑作。恐怖も不快感も同時に味わえる1時間ほどのホラーとして秀逸すぎる作品。そんな『白い老女』の「つかみ」が、宅配便を届けに来た男性が出くわす奥さんなのである。玄関に入ると「今手が離せなくて、待っていてください」というようなことを言われ、受け応えをした後素直に待つ男性。しかし数秒後、奥さんが全く同じトーンと声量で同じセリフを繰り返す。その後も何度も何度も繰り返される。もう怖い。恐ろしすぎる。あのヤバすぎるつかみが、この『ミンナのウタ』で進化して帰ってきた…!「さなー、部屋片付けなさーい」という、2階に向けての声量の大きさがすごく嫌。嫌すぎる。止まらないループに思わず身構え、絶好のタイミングで近づいて来るババア…!!!!しかも早い!!!!!こっち来んな!!!!!!マジで!!!!!

と、取り乱してしまうほどに恐ろしいシーンだった。『白い老女』を観ていなかったら絶対に劇場で叫んでいたことだろう。こういう「溜め」と「発動」がとにかく上手い。清水監督は「溜め」こそ丁寧でも「発動」があまりにスローでギャグレベルまで到達してしまうことがままあるのだが、今回はうまくその辺りが調整されており素晴らしいタイミングで怪異が「発動」される。あと怪異の本体はあくまでさな1人であるはずなのに家族を巻き込んでGENERATIONSを襲って来るのが嫌。こういう、理屈なしにとにかく何でも使ってくる霊が1番やばい。

 

 

 

 

また、GENERATIONS全員本人出演という宣伝に偽りこそないが数原龍友だけはほとんど出ていない。そして何よりすごいのが話の推進力となるキャラクターはマキタスポーツが演じていることだ。確かにGENERATIONSが出る以上余計なイケメンを増やしてはいけないし、若い女性を下手に出すわけにもいかないだろう。だからといってマキタスポーツ。GENERATIONSは襲われる側だし全員本人出演だからどうしても別のキャラクターが必要になる。だからといってマキタスポーツ。もうこれはマキタスポーツの映画と言っても過言ではないくらいマキタスポーツがすごい。家族関係に悩みを抱える中年探偵という役回りを見事に全うしている。それでいて怪異の本体であるさなとは同級生。GENERATIONSばかりがフィーチャーされるが、実質主人公ではないだろうか。スケジュール等の問題もあったのかもしれないが、GENERATIONSだけに物事を解決させず、おじさんキャストを使う。その潔さが凄い。

 

凄いと言えば、GENERATIONSを全員本人役で起用する意味である。正直、ホラー映画でここまでやるの!?と思ってしまった。こういう「観客が巻き込まれる」系の怪異はそれこそ掃いて捨てるほどあるが、あまりに丁寧なやり口が素晴らしく、それが一流アーティストのGENERATIONSを起用する理由にもなっているのが凄い。「自分の歌をたくさんの人に聴いてほしい」という欲望を持つさな。映画の中盤まではいじめられっ子の復讐と思わせたままに話が進むが、実はさなは魂の歌を集めるために人や動物を平気で殺害する狂った人間だった。猫、同級生、まだ胎児の弟。その断末魔をテープに記録していき、最後に選んだのが自分。両親に詳細を言わず部屋から伸ばしたロープを引っ張ってもらうことで自殺したさな。彼女が生前にラジオ局に送ったカセットテープを開封したところから全てが始まる。彼女の歌はGENERATIONSの間でどんどん広まっていってしまい、メンバーは次々に姿を消す。テンポ良くメンバーが消えていくシーンは圧巻。しかし亜嵐達3人がさなの家を訪れ、過去に飛ばされたマネージャーが自殺を図るさなを抱きしめることで、メンバーは復活。事件は幕を閉じたかのように思えた。だが、違った。さなの本当の目的はGENERATIONSにあったのだ。最初からそれを狙っていたのか、結果的にそうしたのかは映画の描写だけでは判断は難しい。だが、「歌を広める」というさなの目的は大勢のファンを持つGENERATIONSを乗っ取ることで最悪の形となり、映画のラストに流れるエンディングがさなの歌として聴こえてくるというロジカルな恐ろしさ。Twitter(X)のハッシュタグにもある「#ミンナのウタ取り込まれますよ」の通り、映画を観て主題歌『ミンナのウタ』を聴き口ずさむことそれ自体がさなの目的に加担することになるという追体験。巻き込まれるタイプの映画を丁寧に、しかもGENERATIONSの規模でやるのが素晴らしい。

 

 

などといろいろ書いたが、とにかく怖い作品であることは間違いない。ネットを見たところ、普段Jホラーに対して難色を示すような方々でさえ本作には太鼓判を押している。GENERATIONSに関しては事前に丁寧な説明があるのでほとんど知識は不要。だがメンディーと亜嵐だけは間違えてはならない。実際、メンバーそれぞれに結構しっかりと出番があるので自然と彼等を好きになるだろう。私も映画までの帰り道、過去のアルバム『SHONEN CHRONICLE』を聴いた。

逆に言えばGENERATIONSのファンでホラーが苦手な人は一旦避けた方が無難かもしれない。トラウマになる可能性がある。とにもかくにも、これほどまでに恐ろしい作品が世に生まれたことに感謝である。清水監督、今後もよろしくお願いいたします。

 

 

 

 

 

 

全然関係ないんですが私が最も面白いと思っているホラー映像シリーズ『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』が遂にAmazonに来たので、未見の方はぜひ。めっちゃ怖いし面白いので絶対に損はしません。