Vシネクスト『爆竜戦隊アバレンジャー 20th 許されざるアバレ』評価・ネタバレ感想! 一切媚びのない理想的な続編に心を掻き立てられ

スーパー戦隊シリーズの続編ものとして、個人的には現時点での最高傑作にすら思えている。これのために記憶が薄れかけていた本編全50話・劇場版・VS2作をしっかりと復習しておいて本当によかった。最終回から地続きのアバレンジャーの世界観がこれでもかと詰まっており、時の流れを一切感じさせないスピード感と演出・演技に魅了される。それでいて物語では20年の時を経ての新作であることをしっかり強調してくる。2003年、一風変わった4人編成やブルーとイエローがレッドに力を託して変身するアバレマックス、前半の狂ったギャグ回オンパレード、後半でのブラック・キラー長編などなど。とにかくいろいろな意味でアバレ続けた『爆竜戦隊アバレンジャー』が令和5年…スーパー戦隊シリーズも様々な挑戦を重ねてきた現代に一体何を訴えるのか。その結果は、やはり「アバレた数だけ強くなれる」だった。

 

忍風戦隊ハリケンジャー 10 YERS AFTER』が公開されて以降、ファンの間ではとにかく「10YAできるか予想」みたいなムーブメントが広がっている。例えば『侍戦隊シンケンジャー』は松坂桃李が大ブレイクしているから難しい、逆にそうした突出して売れたメンバーがいない戦隊はいける、でも引退してるメンバーがいるから厳しいか、などなど。キャスト陣の状況を鑑みてのこの予想、実際問題できるかどうかはそれだけではないのだろうが、私がこの一連の流れを体感して思っていたのは、「そんなに続編観たいか?」ということであった。正直私は無理に続編を作られるのはあまり好きではない。公開されたら観に行くが、絶対に10YAをやってほしい作品などはないのだ。もちろん後続のシリーズにメンバーが出てくれることの嬉しさなどはあるのだが、「1年掛けて作っていくものを楽しむ」というのが私のスーパー戦隊視聴におけるスタンスなので、1年間+劇場版やVSのVシネクスト以外のパッケージに関してはそこまで強くは望んでいない。

 

その理由はやはり、本編終了から時間が経てば経つほど、ファンへの目配せが強く打ち出されてしまっているためである。10年前に『ハリケンジャー 10YA』が公開されて以降、デカレンジャーゴーオンジャーゴーカイジャーと10周年記念作品は続いていく。だがしかしそのどれもが、「10周年でメンバー揃ったぜ!」というどや顔が透けて見えてしまっていた。もちろんそれこそが醍醐味なのだとは思うし、当時のキャストが集結というのは視聴者だったこちらとしても大きなポイントであるのは分かっている。だがこの「集まっただけでもう満点」みたいな空気感が私はどうも苦手だった。どの10YAもキャストやスタッフの尽力による賜物であることは分かっているし、ストーリーを面白いとも感じていたが、それでもやはりこの「10周年で全員揃ったぜ!すごいだろ!」というファンへの、悪く言えば「媚び」みたいなものがどうしても蔓延ってしまっている気がしていたのである。実際そういうものが求められている10周年記念でもあるのだろうし、それがあることを否定はしない。ただ私自身がその作風に違和感を覚えてしまうのだ。直近での『ハリケンジャー 20th』は実質ハリケンジャーのメンバーのご先祖様の物語であるため、そのドヤ顔はほとんど感じられなかった。10YAを既にやっていたということもあったかもしれない。

 

そしてこの『爆竜戦隊アバレンジャー 20th 許されざるアバレ』なのだが、そのドヤ顔が一切ない。すごい、すごすぎる。本当に媚びの全くない当時の『爆竜戦隊アバレンジャー』が出てきている。これは記念作品が既に何作も作られたために、「メンバーがそろったぜ!」の勢いだけではもう引っ張れないみたいなところもあるのかもしれないが、それ以上に作風の緩さ・キャスト陣の演技・物語の構成などなど。至る所に当時の『爆竜戦隊アバレンジャー』が詰まっているのだ。20年という時の経過をほとんど感じさせないのには、シリーズ初参戦である木村ひさし監督の功績が大きいのかもしれない。キャスト陣の本気度もあるのだが、本編を一視聴者として楽しんでいた目線が加わっているのはやはりデカいだろう。

 

キャストの事情で言えばアバレイエロー/樹らんる役のいとうあいこさんは芸能界を引退している。そんな彼女の出演というのは非常に大々的なことのはずなのに、それをドヤ顔で演出することは一切しない。私は公開日前日までずっとアバレンジャーを復習していたのだが、本当に地続きの作品が出てきたことにまず驚いている。荒川脚本とアバレッド/伯亜凌駕役の西興一朗さんの当時の再限度がとにかく素晴らしい。映画がスタートしていきなりスーパーでの買い物のシーンから始まる辺り、本当にアバレンジャーだった。今回全話を改めて通しで観て気付いたのだが、本編全50話は実はめちゃくちゃ真面目な物語をやっている。前半こそ浦沢義雄さんの脚本をはじめとする頭のおかしい回もたくさんあるし、釣りバカ日誌とコラボするようなヘンテコな回まで存在するのだが、30話くらいからは基本的にずっと縦軸の物語をブラックとキラー主導で進めていくのだ。前作の『ハリケンジャー』もゴウライジャーの兄弟が大きなドラマを担っていたが、それをよりブラッシュアップした形と言えるだろう。ともすればメインの3人が置いてきぼりにさえなりそうなほどに、残る2人の物語をとにかくごり押ししていく。そうして緻密に計算されたアバレは終盤で大きな感動を生むのだ。

 

縦軸はちゃんと展開させながらも、どうでもいいところでは本当にふざけ切る、タブーは平気で破壊する。これが『爆竜戦隊アバレンジャー』のスタンスだったのかもしれない。そしてこの『許されざるアバレ』でもそれは存分に発揮されていた。仲代先生の復活やダイノアースに来れなくなったはずのアスカの登場などなど、ファンが気になっている点にはしっかりと理屈をつけてくる。戦隊メンバーだけでなくヤツデンワニや舞ちゃんまで登場させるゴージャスさ。しかしその一つ一つにはやはりドヤ顔感が一切ない。「キター!」と思わず叫んでしまうようなテンション上昇よりも、作品の空気感を制作陣がとにかく大切にしていることがあらゆるシーンから伝わってくる。期待外れはもちろんないし、かといって期待通りとも少し違う。とにかく『アバレンジャー』なのだ。正直20年ぶりの新作がちゃんと『アバレンジャー』であることが私にとってはすごく大きくて、もうそれだけでだいぶ泣けてきてしまった。

 

何よりよかったのは、凌駕と幸人の立ち位置である。『アバレンジャー』本編において凌駕はとにかくまっすぐで誰にでも優しい男として描かれていた。ともすると偽善者とも取られかねない彼のまっすぐな性格は、幸人や仲代先生の心を打つことに繋がっていく。ある意味『仮面ライダークウガ』の主人公・五代雄介的なフィクションらしさ全開の明るさを強く持ったキャラクターだった。そんな彼の発言は綺麗事と言われればそれまでなのだが、それでもやはり彼の純粋な言葉や行動に、観ているこちらは共感し感動してしまう。本作でもアバレンゲッコウによって復活させられたアバレンジャーと共闘した記憶を失ったアバレキラーに対して、彼はとにかく正義の心について訴えかける。逆に言えばそれだけしかしない。しかしその熱い心がアバレキラーの正義の感情を目覚めさせることに結び付く。この凌駕らしさが素晴らしかった。

対して三条幸人。いわゆるツンデレのこの男は、口は悪いが情には熱く、言葉よりも行動で示すタイプ。くよくよ悩むゲストキャラに対して熱い言葉をかける凌駕とは正反対に、とにかく理詰めで行動し相手を無理矢理状況に巻き込んでいく。自分の整体にいちゃもんをつけるレーサーが実は精神的な理由から立ち直れていないことに気付くと、戦いの中でいきなり運転させるなど、多少荒っぽいもののかなり機転の利くキャラクターなのである。そんな幸人は今回のゲストでありアバレンジャーハラスメントを受けたと訴える五百田葵が、アバレダンスを一生懸命踊ったのに笑われてトラウマになってしまったという過去を持っていたことを知り、同級生を片っ端から当たっていき彼女のダンスに感動した人物を見つけ出す展開は本当に『アバレン』でしかなく素晴らしかった。「学校の行事でアバレダンスを踊った時のことを覚えているか?」って聞くのもう完全に不審者なのだがそれも実に『アバレンジャー』らしい。結果のためなら手間を惜しまない幸人、もうその努力が相手にとってどれだけ嬉しいことか…。

 

そんな、20年という時の重みを全く感じさせない空気作りに成功しているにも関わらず、物語では「20年経過した」ことを強く強調しているのも特徴的だった。『アバレンジャー』の作風は別に現代のコンプラに抵触しているようには思えないが、「アバレる」ということに対して真摯に向き合った脚本だったように感じる。脚本協力の西駿人さんが出した「ハラスメント」というキーワードの軽々しさはすごく『アバレンジャー』の世界観にマッチしていた。要するに、「今って誰かが誰かを簡単に嗤えたり糾弾できる時代になっていて、窮屈じゃない?」みたいな。そんなテーマが根底としてあるのだ。当の『アバレンジャー』本編はそんなこと一切お構いなしにアバレ続けていたくせに白々しいが、20年ぶりの続編でテーマの換骨奪胎みたいなことをやってくれるのは素直に嬉しい。誰かのアバレが誰かの希望に繋がっていくというのは本当にそうだと思うし、実際現在のスーパー戦隊シリーズがかなりチャレンジングな姿勢に貪欲になっているのを知っている分、かなり現代に訴えかけるテーマであるようにも感じられた。

 

自分の一挙手一投足に気を遣わなくてはならない時代になったが、それでも努力して頑張ってアバレていけば、誰かの心には響くようなものができる。それは正に20年ぶりの続編を成功させたこの『爆竜戦隊アバレンジャー』という作品の存在自体に繋がっていく。「アバレた数だけ強くなれる アバレた数だけ優しさを知る」を地で行くストーリーに満足感も大きい。

 

5人揃ったことの感動や新フォームが出てきたことの嬉しさよりも先に、『爆竜戦隊アバレンジャー』の世界観と寸分違わない続編が20年ぶりに出てきたことへの驚きと涙が止まらなかった。これは1年間掛けて築いてきたものが他の作品とは少し異なるものだったという「アバレ」の証左でもあるし、何よりそれを作ることができる制作陣の実力が素晴らしい。あまりに理想的な続編であるがゆえに、来週もまた続きが観られるのではないかという錯覚にさえ陥ってしまう。強烈なアプローチやファンへの過度な目配せもなく、とにかく世界観の維持を優先させた(もしくはそれが自然とできている)点で本当に大好きな作品になってしまった。

これからスーパー戦隊シリーズの続編をやるのならぜひともこのテイストでお願いしたいのだが、『アバレンジャー』以外にそれができるかは分からない。ひとまずもし未見の方がいたら絶対にチェックしてほしいし、パンフレットのインタビューにもたくさんの小話が書かれているのでぜひ購入してもらいたい。

そしてこれは余談なのだが、作品の公開に際して様々なメディアで主要キャスト(主に男性メンバー4人)のインタビューが公開されているが、そのどれもから仲の良さを感じられて非常に面白いのでとにかく全てに目を通してほしい。

とにもかくにも、大満足だった。