Vシネクスト『王様戦隊キングオージャーVSドンブラザーズ』・『王様戦隊キングオージャーVSキョウリュウジャー』感想

『キングオージャーVSドンブラザーズ』『キングオージャーVSキョウリュウジャー』 特別版ドンブラ ver.(初回生産限定) [Blu-ray]

 

はじめに自分の各作品へのスタンスを示しておきたい。

『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』はこれまでにないくらい素晴らしい作品だった。

『王様戦隊キングオージャー』は縦軸の物語のあまりの拙さに辟易しながらの視聴だった。

『獣電戦隊キョウリュウジャー』は放送当時こそノれなかったものの、繰り返し試聴していくうちにかなり好きになった。

 

ちなみに、『キングオージャー』と『ドンブラザーズ』についてはそれぞれ放送後すぐに感想を書いている。

 

curepretottoko.hatenablog.jp

 

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『キングオージャー』と『ドンブラザーズ』に正反対の思いを抱いていた自分としては、今作の脚本が高野水登さんだと聞いた時点で肩を落とす結果となり、全く期待もしていなかったのである。しかしその分、いろいろ割り切って観ることができたのかもしれない。率直に言うと今回のVシネ、2作ともかなり面白かった。

 

キングオージャーVSドンブラザーズ

2作のテンションがあまりに違うので1つずつ触れていきたい。まずは前半の『キングオージャーVSドンブラザーズ』(通称キンドン)から。私は前述の通り『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』を心の底から楽しめる傑作だと思っており、反対に『王様戦隊キングオージャー』をあまりに拙い作品だと捉えている。今作は脚本が『キングオージャー』の高野さんだったのでかなり落胆したのだが、それが逆に良かった。私としては本作は非常に見事な『ドンブラザーズ』のトレースであり、「ドンブラザーズを丁寧に研究して作った作品」であることが強く感じられる1作だったのだ。

端的に言うのならば、「高野水登さんのオタク気質を思いっきり堪能できる」のである。『ドンブラザーズ』の旨味を上手く抽出し、物語として昇華する。すごく丁寧に作られた二次創作のように、違和感がなかった。井上脚本っぽさは感じられないのだけれど、『ドンブラザーズ』へのリスペクトが欠けているというようなことはないと思う。

冒頭、いきなりシュゴッダムに荷物を届けに来る桃井タロウ。本来なら惑星すら違うはずだがそんなことはお構いなしに玉座の前に堂々と現れる。けれどよく考えてみれば前作『ドンブラザーズVSゼンカイジャー』でも最終回で失われたタロウの記憶をラーメンで思い出させるような作品だったのだから、整合性などどうでもいい。むしろ2作の世界観の擦り合わせに変に理屈をつけているほうが収まりが悪い気もする。どうせ繋げるのが難しいならさっさと繋げてしまおうという潔さは、『ドンブラザーズ』本編にも度々感じられるものだった。ギラが餅を詰まらせて死ぬというのも『キングオージャー』本編にはない馬鹿馬鹿しさで、新しい側の戦隊であるキングオがドンブラの世界観に寄せてきているのもいい。そしてシュゴッダムでカブタンを見たタロウは、自分の子どもの頃の友達であったカブトムシのギィちゃんを思い出す。偶然居合わせたブーンにギィちゃんのことを尋ね、ハーカバーカにいるのではと聞くと、自ら嘘をついて死ぬ。確かにキングオージャーのメインモチーフである昆虫要素とドンブラを繋げるのならその接点くらいしかないのだけれど、そういう細かいネタを拾ってくる辺りのオタク仕草が新鮮で嬉しい。おそらくだがこういう仕込みは井上脚本だったら存在しない。というように、井上脚本だったらまずこういう作りはしないよなあ…という部分が度々見受けられるのだけれど、それらはドンブラで登場した要素の構成(雉野がキングオージャーにやられてるとか)であり、普通の作品なら絶対にやるべきことかつ井上敏樹が絶対にやらなそうなことなので、そのギャップが妙に面白くもある。というかこれは敏樹がちょっとおかしい。けれど、井上脚本にない攻め方で井上脚本を再現するというのがすごく自然で、ハードルを低めに設定していたにも関わらず思わず感心してしまったのである。

 

そこから続く、それぞれの戦隊メンバーが絡む件ではVシネっぽさが色濃く出ている。前作のVシネはそれぞれパートが分かれていて前々作は焼肉対決だったので、この各メンバー毎に絡む懐かしの構図に嬉しくなる。そこで反発してラストバトルで共闘というのがお決まりの流れだが、今回は尺も短めなのであまり反発もないままにキャラのやり取りを楽しめるというのは斬新だった。またしてもヒトツ鬼になった大野に関してもさすがにもう驚きはないのですんなりと受け入れられ、そしてまた案外あっさりと倒されるのもお馴染みになっている。一点、リタ・ヒメノ・はるか・ソノザの「子ども向け番組論争」に関しては高野さんの心の声があまりに漏れすぎているようにも思いため息が出たが、それが作品のテーマになっているというようなことはなかったので安心した。これが大きくピックアップされていたら作品のイメージもだいぶ違ったものになっていたかもしれないが、これくらいの小ネタなら全然許容範囲である。ただやはり気になったのは、ソノイについてだろう。多くのファンはハーカバーカが舞台という時点でソノイ登場を察していたようだが、私は一切考えていなかったので当日劇場で鑑賞して心底驚いてしまった。まずは、高野さんよくソノイに触れたな…とその勇気を称賛したい。前作でもあっさりと命を落とし、ソノザに看取られるのみという何とも言い難い死に方をしたソノイ。そんな彼のその後、ましてタロウとのやり取りにメインライターでもないのに触れるというのはかなり勇気の必要なことだったと思う。結果的に言うと、私は登場に驚きこそしたものの、「場所が違うだけ」という彼の言葉に納得はしていないし、特に感動することもなかった。場所が違うも何も、ハーカバーカは『キングオージャー』の世界での舞台。『ドンブラザーズ』において死後の世界は存在しないのである。これが井上脚本で扱われていたらまた違っただろうけれども、正直に言って高野さんが描くタロウとソノイのその後にはあまり興味がない。作品自体は楽しめたが、それはあくまでこれが番外編的立ち位置であったからにすぎないのである。なので、このソノイの曖昧な言葉に対して怒りを募らせている人をSNSで見かけ、まあ怒るよなとも思ってしまった。この作品でソノイに関しては唯一、タロウとソノイを再会させたという意味で「公式がドンブラの物語を進めてしまった」部分なので。

 

本作は、特にテーマがあるわけではないというのが逆に『ドンブラザーズ』らしく、ただ単にドンブラとキングオの間に縁を繋いだだけのちょっとしたコメディ回という肌触りが心地よかった。変に重い物語が来たらどうしようとも懸念していたのだが、30分という枠もあってか杞憂に終わったのである。元々私は『映画 王様戦隊キングオージャー  アドベンチャー・ヘブン』や本編入れ替わり回などの短編はかなり楽しんで観ていたので、実は高野さんは短編を書かせるとかなり良いものを作る人なんじゃないかなと密かに思っている。何より『キングオージャー』の悪いところはシリアスとコメディの落差にあると考えているため、コメディに振り切ったような今作は高野脚本と凄く相性が良かったのかもしれない。『ドンブリーズ』で井上脚本以外のドンブラは駄目だな…と思ってしまった自分でも、この作品はすごく楽しむことができた。

 

 

キングオージャーVSキョウリュウジャー

『王様戦隊キングオージャーVSキョウリュウジャー』(通称キンキョウ)は打って変わってかなりストーリーの濃い作品。まず触れたいのは何よりキョウリュウジャーの勢揃いである。Vシネが2作同時上映でその上キョウリュウジャーが全員揃うと聞いた時は正に「聞いて驚け!」状態だったが、実際それをかなり高いクオリティで映像にしてくれて本当に驚いている。竜星涼のキングがまた観られるだけでも儲けもの…くらいに捉えていたのにその100倍は良かった。というか良すぎた。自分は『キョウリュウジャー』をリアタイこそしていたものの、最近観返してようやくその魅力に気付いた人間なので素直に感動したが、これは思い入れがもっと強い人なら号泣してしまうのではないだろうかと、そんな風に勝手に心配してしまうほどに素晴らしい出来である。『VSドンブラザーズ』が前座に感じられてしまうくらいには気合の入り方が違う。いやどちらも面白い作品なのだけれど、この『VSキョウリュウジャー』は熱量が段違いなのだ。当時のキャストやスタッフもかなり気合を入れて作品に取り組んだことがよく分かるのである。

 

冒頭、竜星涼のあの発声でのキョウリュウチェンジ。当時と全然声が変わっていない辺り、10年前既に彼の演技は完成されていたんだなと感慨深くなる。ノリノリのキング、坂本監督味に溢れる構図とアクション、数分前とあまりに違うノリのギラ。同時上映の意味がちゃんとあるというか、同じ人が脚本を書いているのに2作品のトーンがまるで違うのが素直に凄い。『キングオージャー』本編では活躍できなかった空蝉丸と弥生の登場で更にテンションは上がっていく。その分逆に他メンバーの出番が少ないな…とも思ってしまったが、レッド・ゴールド・バイオレットの活躍だけでご褒美なので欲は言わない。何より揃ってキョウリュウチェンジしてくれたというだけで嬉しいのだ。しかもトリンやグレー、シアン、更にはラストに桐生ダンテツまで。あまりの情報量に頭がクラクラするくらいである。しかし何と言ってもウッチー。ウッチーのポンコツ具合により歴史がどんどん改変され、最終的に宇蟲王ギラが誕生してしまう。これが凄くよかった。『キングオージャー』本編ではこういう一メンバーの子供じみたやらかしが、世界規模の悲劇に繋がっているのに何故か放っておいたり(ンコソパ壊滅後のヤンマとか)有耶無耶にしたりしれっと解決したりということが多すぎたのである。制作側の事情などが関係していることもあるのかもしれないが、そういうモヤモヤを残したまま物語だけが前に進んでいくことがストレスでしょうがなかった。シリアスの顔をしているのに制作側のやりたいことだけが優先され、観ているこちらの感情を置いてけぼりにするような作風に辟易していたのだ。しかし、今作では30分という尺の短さもあるが、ウッチーがポンコツすぎるというだけで全てが成り立ってしまう。そしてそれもちょっと弥生に寄りかかってしまったり、幼いギラにお腹いっぱい食べさせてあげたくなったりという、コメディとして笑えるくらいの丁度よさだったのがよかった。「ウッチーのせいじゃん!」とツッコミを入れられる楽しさというか、こういう遊びのあるキャラクターが『キングオージャー』本編にはいなかったので、ウッチーをうまく利用したなあと思った。ウッチーなら実際こういうことやりそうなのがまたいいし、それに対して「あなたのせいですよ!」的な弥生の態度が見られるのも楽しい。また、『VSドンブラザーズ』と同様、『キョウリュウジャー』に関しての解像度も非常に高く、高野脚本のオタク具合にひれ伏してしまった。高野さん、メインライターを務めるよりもゲスト脚本の立ち位置のほうが輝く人なのかもしれない。

 

対するキングオージャー側のif世界線ルートも凄く面白かった。ンコソパのてっぺんを取れなかったヤンマ、落ちぶれたヒメノ、宝塚スターみたいになってしまったリタ、相撲の八百長試合で日銭を稼ぐカグラギ、チャラチャラしたジェレミー、そして悪役のギラ。演者達もノリノリでやっているのが伝わってきたし、スーパー戦隊の「帰ってきた」シリーズ当初のような趣が非常に懐かしくもある。それでいて、『キングオージャー』本編でのセリフや展開をうまく挿入する手腕も見事。さすがにプリンスがギラに抱き着いて「優しい邪悪の王様のままでいてね…」が宇蟲王ギラに結び付くのはオタクすぎるだろと笑ってしまったが、ところどころであのコラボ回と地続きだということを匂わせてくるのは凄く良かった。その他にもソウジがトリンに剣を渡すとか、細かい加点があまりに多い。三条さんがバックについていたんじゃないかと思ってしまう。いや当時のチーフPの大森さんがそもそも今回もプロデューサーを務めているのだけれども。

 

ただよく分からなかったのは時間改変の設定である。そもそもこういう時間改変もののでは「改変をなかったことにして本来の未来を取り戻さなくちゃ」がゴールに設定されるはずなのに、改変が終わっても改変後の世界は続いていて、そこでキングオージャーメンバーの本筋の記憶を取り戻す作業をして一緒に敵を倒す…というのがよく分からなかった。ウッチーがレインボージュルリラをギラに食べさせなかったことで正史に戻ってめでたしめでたしなのではないだろうか。何か見落としたか…とも思ったけれど、まあそういう細かい疑問を吹き飛ばすくらいに作品のテンションと勢いが凄まじかったのでそこまで大きな問題だとは思っていない。

 

最後に

という形でそれぞれについて述べさせてもらったのだが、やっぱりよかったなと思うのは、どちらも「ファンムービー」的な内容になっていたことだろう。もちろん作品の出来に関しては個人によって受け取り方が異なるものだと思うが、変に重いテーマを作品に背負わせず、ドンブラザーズとキョウリュウジャーの世界観や「らしさ」を表現しようとしたという姿勢が、この良さに繋がっている気がする。何より『キングオージャー』の良い部分も、世界観の構築だと思っている人間なので、そういう意味で今回の2作は高野さんの脚本と相性が良かったというか、高野さんが自分のフィールドに持って行ったというか、そのような感想を抱いた。これでドンブラザーズやキョウリュウジャーがヒーロー性などを説いてきたり、キングオージャーと激しく対立し彼等を諭すような内容だったら自分も楽しめなかったかもしれないが、あくまで世界観を表現することにのみこだわった(意図的にかは不明だが)点、その潔さにはかなり好感が持てる。ただ、だからこそソノイを出したのはちょっと安易だったのではという気もするし、でも出さないのも不自然な気もするし…とその点に関しては未だモヤモヤしている。ただ2作品とも驚くほど面白かったので、『キングオージャー』本編で地に堕ちた高野さんの評価を少し変えなくてはな…とは思っている。現行の『爆上戦隊ブンブンジャー』がかなり面白いので、今から来年のVシネクストも楽しみである。