ドラマ『ブラックファミリア 〜新堂家の復讐〜』感想 秋生の性欲にケリをつけてほしかった…

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ブラックファミリア〜新堂家の復讐、最終話まで観ました。

リアタイはできていないどころか、中盤くらいが放送されていた頃に駆け足で一気に観て追いついたので作品の背景についてはよく知らず。調べてみると日テレはこの路線で既に「ブラックシリーズ」としてシリーズ化をしているらしい。これが3作目とのことだったが、あまりドラマに詳しくない私は1作目と2作目を知らなかった。女性主人公のちょっと暗めなシリーズという位置付けなのだろうか。佐藤友治さんという日テレでドラマ脚本を多く手掛けている方がシリーズに関わっているようだった。

普段特撮ヒーロー作品ばかり観ているので、1話を観た時にはキョウリュウグリーンと仮面ライダーナーゴが出てるぅ〜とかなりテンションが上がる。特にナーゴの星乃夢奈はついこの前までニチアサで毎週観ていたし、1年追いかけたヒーロー作品に出ていた役者さんがすぐに他のドラマに抜擢されていると、途端に嬉しくなってしまうのがニチアサ民なのだ。

 

観た動機としては、今期追ってるドラマ作品にサスペンスがなかったため。ちょっと物騒な作品もレパートリーに入れてみるかあとU-NEXTに出てきたこのドラマを選んだ。だが、まずキャスト欄を見て手が止まる。板谷由夏が主演……!?

正直ドラマを観るまでは、失礼ながら顔と名前さえ一致していなかった。他のキャストも名前や顔こそ知っているものの、地上波ドラマなのにメインメンバーをこの面子で???と首を傾げざるを得ない。だが、実際ドラマの良し悪しに役者さんの知名度は一切関係ないし、売れっ子の拙い演技に嫌気が差して視聴を止めてしまったドラマもいくつかある。そんな中で、「何かしらの映画やドラマで見たことがある」メンバーを中心に固められたこの作品には、他のドラマにはない強い意志を感じた。坂道出身の渡邉理佐も出ているし、星乃夢奈も演技経験こそ浅いが、ノイズになんてならないどころかしっかりと役割を果たしている。渡邉理佐のクールな瞳は妹を失い復讐に燃える沙奈にピッタリだったし、星乃夢奈の溌剌とした雰囲気は家族の光だった梨里杏そのものに見える。

そして板谷由夏山中崇森崎ウィン。それこそテレビをそんなに観ない人に「誰が出てるの?」と聞かれて名前を答えてもリアクションは薄いドラマかもしれない。それでも役者の知名度だけに頼らない作品が地上波で放送されるということそれ自体に意味があると思うし、実際それがうまくハマっていた作品だと、最終話まで観た今改めて感じるのである。

 

 

 

 

正直、どの役者さんが出ているかは私はあまり気にしない。なぜならドラマの面白さは全てに優先するからである。ドラマ自体が面白ければ、演技力など二の次と言っても過言ではない。ではこのドラマはどうだったのか。私はほとんど一気に観たので毎週リアタイしていた人とはまた切り口が異なるかもしれないが、一言で言うのなら期待したほどではなかったなあという印象。ネットではそれこそ「期待外れ」「途中で切った」「矛盾多すぎ」といったネガティブな感想が散見された。

 

ただ、私はこのドラマに対してそこまでネガティブな感情は抱いていない。つまらない、展開が雑、共感できない…そんな感想に寄り添う気持ちもあるが、このドラマにはそうした理屈を越える「歪さ」「禍々しさ」が存在しているのだ。サスペンスなのに思わず笑ってしまうような、シュールギャグにも見えてくる復讐劇。それこそ直接的に作り手が意図したものではないかもしれないが、このドラマは演出と演技によってかなり目を引く場面が度々ある。その瞬間最大風速を感じられるというだけでも、このドラマには大いなる価値があると私は思っている。

 

第1話を観た時、「かったるい」と感じた。あらすじすら知らなかったので「なるほど次女が死んでその真相を突き止めるために復讐って話ね」と納得する。昨今のドラマのスピード感ならいきなり板谷由夏が家政婦として出てきて「絶対に犯人を許さない…!」みたいなモノローグと共に次女の死という潜入の理由を少しずつ明かす…というのがセオリーだと思うのだが、このドラマはしっかりと1時間かけて梨里杏の死を描く。他のドラマと比べても明らかに展開の動く速度が緩慢だった。2倍速で観てもくっきりとした輪郭を保てそうなくらいである。これはハズレだったか…と思ったのも束の間、第1話の後半に板谷由夏が突然泣きながらケーキを頬張るシーンで「な、なんだこれは!!!」と目を見開いてしまった。

 

そのケーキは梨里杏の芸能界デビューのお祝いのためのもの。しかしその日に彼女は約束の店に現れず、駆けつけた家族の目の前で死ぬという恐ろしい結果となってしまう。食べさせてあげられなかったケーキ、祝えなかったデビュー、戻らない娘。そんなケーキが仏壇に置かれている。生物なのに…とツッコんでしまいそうになるが、彼女を失った家族の気持ちを汲むのなら自然だったかもしれない。すぐに腐るけど、彼女を祝いたいというせめてもの思いがお供え物のケーキなのだ。しかし、彼女の死によって失意に暮れる母の一葉は突如嗚咽を漏らし、そのまま…ケーキを手で貪る……!!!

 

何故食べるのかは分からない。こういうシーンでとにかく物に当たるというのはよく分かるし、その上で家がめちゃくちゃになって帰ってきた旦那が優しく抱きしめる〜みたいなシーンもよく見る。なのに、このドラマはひたすら一葉にケーキを食べさせるのだ。そしてその後、一葉は食べたケーキを全て戻してしまう。このシーンの気持ち悪さと独特さにガツンとやられてしまった。最後まで観た今、1クールのドラマとしては薄味だったかもしれない。しかしあの映像を観た時の興奮と驚きは今でも鮮明に思い出すことができる。その後流れてくるエンドクレジットには「城定秀夫」の文字。元々ピンク映画などを撮っていた人で、映像の艶っぽさと気持ち悪さがウリの監督である。おそらく城定監督の作品だからとこのドラマに触れる方も多かったのではないだろうか。

 

私も好んで城定監督の作品を観るほうではないが、それでも彼の撮る映像に含まれる「何か」には強い刺激を受けてしまう。最近だと映画『女子高生に殺されたい』。古屋兎丸原作で、タイトル通り女子高生に殺されたいという欲求を持った教師が女子高生に殺されるために奔走する物語。教師を演じるのは田中圭。原作の設定の時点で相当な気持ち悪さだが、城定監督はうまくそれを映像に落とし込み、オリジナルのキャラや展開まで捻り出す変態っぷり。おそらく『ブラックファミリア』のねちっこさがハマった人にはドンピシャだと思うので、未見の方はぜひ観てほしい。

 

 

 

 

話を戻す。一葉のケーキバカ食いに光るものを感じた私の興味は、その後早乙女秋生へと移っていく。新堂家の敵であり、梨里杏殺害の容疑者でもあったこの人物。演じる平山祐介の演技力がとにかくものすごかった。女好きの権力者。オーディションを利用して女優の卵を食いまくる。鍛え抜かれた肉体と恵まれた身長、そして何より強大な権力が彼の歪んだ欲望の心強い味方となっていたのだろう。女性を道具としてしか見ていない秋生の行動には、性欲以外の一切が存在していなかった。何の深みもない、欲求にただただ忠実な男。そのために子供たちからも嫌われている。だがその性欲は天井知らずで、遂に一葉にまでその魔の手が伸びようとしていた。確かに復讐のために忍び込んだ一葉の挙動は側から見たら怪しいのだが、それを「あんたの目的は俺だろお!」と半裸の寝巻きでグイグイ迫り来る姿はさすがに滑稽である。しかし一葉からしたら早乙女家に取り入るためにそれを受け入れるしかなく、一葉の夫である航輔からしたらそんなことを許せるはずがない。そして何より犯人が明かされた時、この物語が彼の性欲によってスタートした作品であるとも読み取れる構図になっていた。早乙女秋生のテンションだけで後半はこのドラマが輝いていたような節さえある。本当に面白かった。

 

もちろんこういった面白ポイントがモチベーションにはなっていたのだが、最終回まで観るとかなり強引な話運びのドラマであったことは否めない。サスペンスとしても「それはさすがにバレるだろ」とか「みんなに話してから行動してくれ!」みたいなことが多すぎて、感動よりはツッコミどころを探す方が楽な作品ではあると思う。ただ、最終的に新堂家と早乙女家を対比させたかったは強く感じた。新堂家にとって梨里杏が光であり、失ったことで彼等の人生が大きく変わってしまったのと同じく、早乙女家にとっても葵は眩しい存在だったということなのだろう。だから秋生も麗美も、培ってきた全てをなげうってでも葵を必死に守ろうとしたのだ。そして秋生はこれまで向き合ってこなかった倫太郎にも誠意を見せたのだ。

 

この構図は新堂家の4人がそれぞれ早乙女家の4人と接触している辺りからも読み取れる。まるで少年漫画の四天王戦のようにしっかりと因縁が生まれ、お互いに少しずつ関係性や心情が変わっていく様子は観ていて楽しかった。葵と本当の姿でぶつかりたくなった優磨や沙奈に心を許し始めた倫太郎。そういう心の動きがあったからこそ、最終的に彼等一人一人が互いの心を動かし切らずに終わってしまったことは残念でならない。復讐劇の発端は結局のところ秋生の性欲であり、それを受け入れられなかった早乙女家の面々が他に拠り所を求めたせいでもある。そんな元凶に目を合わせず秋生が倫太郎にこれまでのことを謝罪する場面はさすがに展開が急すぎた。感情の変遷をもっと巧みにじっくりと描いてくれていれば、変態的なキャラ付け以外の部分でも彼に好感を持てたかもしれない。秋生は最後、麗美の不倫相手に刺されて終わるが、麗美と彼の関係も非常に描写が薄っぺらく、ただノルマを消化しただけの展開に思えてしまった。

 

それでも最終回の秋生のセリフにあるように、「権力や名誉、地位、金。その全てを失ったとしても残るのが家族」なのだ。リスク分散と同様、人は居場所が多いほどに幸福度の高い人生を過ごすことができる。1人の恋人や1つのコンテンツに依存してしまうとそれを失った時に立ち上がるのは容易ではない。しかしたくさんのものを好きになることで、1つを失っても立ち上がることができ、失ったものを取り戻そうと思えるのだ。秋生は最低の人間だったが、それでも彼が家族の大切さに気づいたことには大いなる意味があると思う。蔑ろにしてきたものに向き合おうとする姿勢は『葬送のフリーレン』と同じだ。

 

 

 

 

ラストシーン、新堂家で暮らす葵は正直話題性以外の何物でもない気がしている。物騒な物語であったからこそ、ただ平凡には終わることができないような。でも一葉達の「葵を許さない」という思いを描写するのなら、事件後も普通に暮らす葵の写真をめっちゃ家に貼ってあるとかのほうが狂気を感じられた。復讐はまだ終わっていないんだぜ方式。正直あのラストは殺人犯と同居する新堂家の異常さや、彼等と暮らせる葵の不自然さが際立ってしまっていて微妙だった。

 

そもそもやはりこのドラマにおける「復讐」の定義が曖昧だったのがよくなかったかもしれない。「梨里杏の死の真相を知りたい」「犯人を許さない」というのは伝わってきたが、新堂家が犯人をどうするかはいつまでも宙ぶらりんなままだった。仮にこれが「犯人を私たちが裁く」とかにしていたのなら、葵が犯人だった時の衝撃もより強かっただろう。だが復讐劇のゴールが見えないままに潜入の緊迫感と各シーンのエロティックさだけで突き進んでしまったために、新堂家のゴールや一人一人の心情の変化がおざなりになっていたのかもしれない。

 

ただやはりこのキャスト陣で1クールドラマを観られたというのは素直に嬉しいし、倫太郎役の塩野瑛久もドラマを追ってきた人達の目には演技派イケメンとして映ってくれたようで満足である。もし塩野瑛久に興味を持ってくれたのなら、是非『キョウリュウジャー』や『HIGH & LOW THE WORST』も観てほしい。そこでは初々しい塩野瑛久やノリノリヤンキーの塩野瑛久を拝むことができる。

 

程よい緊迫感で楽しめたので、これからもブラックシリーズにはぜひ続いてほしいなあと思った。年末に時間ができたら過去2作も観ておきたい。