アニメ感想『SSSS.GRIDMAN』 登場人物が「現実を見ようよ」と寄り添ってくれる優しさへの感動

とっても今更になるが、アニメ『SSSS.GRIDMAN』を観た。

ので、その感想をざっと書いていこうと思う。

普段特撮ヒーロー作品を観ているものの、アニメの元ネタである『電光超人グリッドマン』は、生まれる前の作品ということもありほとんど知らず、このアニメの放送開始前に予習として一気に観た記憶がある。

そこまで準備を整えていたにも関わらず、初回放送を見逃したか何かの理由で4年間も放置してしまった。すでに本家グリッドマンの記憶は朧気。このタイミングで視聴したのは、単純に週末にアニメの総集編映画が公開されるからである。

4年間も放置していた結果、アニメは放送終了どころか続編まで作られ、2作のクロスオーバーとなる映画の公開まで目前に迫らせてしまった。全12話。ノンストップなら5時間程度で観られるというのに…全く怠惰な自分に腹が立つ。

 

観た感想を率直に言うのなら、「リアタイしておけばよかった」の一言。単純に面白い。TRIGGER特有のアツさと、構造の緻密さ、そして何より丁寧な心情描写。そこに『電光超人グリッドマン』をはじめとする円谷作品への愛も込められていて、とにかく「語りたくなる」作品だった。見つけたネタを誰かと共有したいし、ミステリアスな世界観にも引き込まれる。全12話というスピード感も相俟って、見事なジュブナイルアニメとなっていた。

 

私は一気に観てしまったので情報の波にとにかく圧倒されるばかりだったが、考察も捗りそうな作品。リアルタイムではきっとああだこうだと議論が交わされていたのだろう。もっと早く観ていれば、退屈から救われたかもしれないのに…。

 

 

 

 

君=アカネを救う物語

正直、このアニメを視聴して最も驚いたのが、アカネが敵サイドであるということ。

4年以上放置していたとはいえ、さすがに特撮ファンの方とSNSでつながっていたりすると、稀に六花やアカネのイラストが流れてくるということはある。アニメ界隈でも美少女ヒロインとして話題になっているのねなるほどなるほど、と確かにきれいな正統派美少女という趣の六花と、オタク系の風貌ながらやけに体がムチっているアカネは人気が高そう…と外から眺めていたのだが…。

 

視聴して2話目であっさりとアカネが怪人を生み出す側であることが明かされる。引っ張ることもなく。え???この子、敵なの???と驚き。

ただ同時に作品の構図がすごく明確になったのもこの2話である。生まれて初めてフィクションに触れたのならともかく、ある程度の年齢になっているのなら、アカネがどう考えても怪しい存在、アレクシス・ケリヴに利用されていることは明らか。

なるほど孤独をこじらせてしまったこの子を主人公の裕太達が救うことが物語のゴールなんだなあという路線がはっきりと伝わってくるのが、明朗快活で良い。そして実際全12話を通してアカネを救う物語が進み、OPの歌詞の「君を退屈から救いに来たんだ」の「君」が指しているのもアカネなんだなと早い段階で見当がつく。

 

折り返し地点の第6話でアカネが作中世界における神であり、怪獣を生み出すに留まらず、裕太達を含めた世界全てをまるっと作り出した存在であることが明かされる。彼女が最初に作った13体の怪獣の出す霧で人々の記憶はリセットされ、そこに住む人々はもれなくアカネに好感を持つ。要はリアリティの高いシムシティみたいなことを、アカネはやっていたということである。

 

彼女がなぜ自分とは別の世界に逃避しているのかまでは直接の言及はないが、最終回の実写パートから判断するに、何らかの理由で引きこもりになってしまったのだろう。そのために自分が傷つかない世界を作ったはずなのに、所々で気に食わないことが起きてしまい、その度に怪獣を作って嫌いな人間を殺していた。

原作でも同じポジションのキャラクターがいたが、そちらは冴えない学生。時代もあるのだろうが、見るからに陰気で、「いかにも」というキャラクターだった。彼がアホみたいな不運にさらされ、その度に黒幕にそそのかされながら怪獣を生み出していく滑稽さが、『電光超人グリッドマン』の魅力の1つであったとも言えるだろう。

 

アニメの『SSSS.GRIDMAN』はここに美少女キャラを配置し、彼女を救済する物語として組んだところが本当に上手いと思う。そしてその軸は一切ブレることがなく、彼女の孤独と悲哀に寄り添った物語が展開されていく。手元にある『SSSS.GRIDMAN超全集』によると、彼女が作り出した怪獣の鳴き声は彼女のその時々の心の叫びを反映しているらしい。そうした徹底っぷりが、作品のクオリティを高くしている。

 

嬉々として殺戮を命じるアカネのぶっ飛んだイカレっぷりに魅了されるも、その奥にある暗い感情は、きっと誰しもが一度は感じたことのあるもの。社会でうまく立ち回れず、現実逃避したくなる時というのは、ままある。そして彼女は、それを可能にしたのだ。

この作品のテーマを突き詰めると、「逃げてばっかりいないで現実を見ろ」なのかもしれない。そうしたテーマを盛り込んだ作品は古今東西のエンタメに存在するが、正直私は苦手な訴えである。そうしたものから逃げるために、社会から離れて自分の時間を確保するためにエンタメに触れている私からすれば、わざわざ時間を掛けて現実に引き戻されるなど意味が分からない。

 

しかしこの作品は、そんなテーマを突き付けるでもなく、テーマを武器に殴り掛かるでもなく。

現実から逃げたくなる私に寄り添うようにして、背中を押してくれるとても暖かみのある作品だった。

 

どう見ても、アカネは狂っている。自分が作った存在とはいえ、あっさりと命を破壊できる異常者。夢を見せ、記憶を作り変えてまで自分を好きになってもらおうという生粋のメンヘラ。

キャラソンの「もっと君を知りたい」では、「もっと君を知りたいなんて 言われたくて意地悪したくなるよ」と歌詞にあるが、意地悪の度合いが常軌を逸している。最終的には怪獣達ではグリッドマンに勝てないことで自暴自棄になり、裕太をカッターで刺す始末。

しかしそんな彼女を、裕太も内海も六花も、誰一人異常者扱いはしない。自分を見てほしいという彼女の欲求を知っているからこそ、「彼女を救いたい」という気持ちを原動力に動くのだ。

 

アカネはグリッドマンの正体に気付き、何度も裕太達に接触。裕太はアカネのことを好きになる存在として、六花はアカネの友達として作られたはずだった。しかしグリッドマンの登場によりアカネの世界のバグは大きなものとなり、裕太も六花も、世界の神であるアカネを救おうと奮闘する。

「現実を見ろ」と間違いを突き付けるのではなく、「現実を見ようよ」と正しい方向へと手を引いてくれるのが、この作品の主人公達なのだ。それは決して、彼らが彼女を救おうと熟慮して出した最適解ではない。ただ彼らの気質が、この結末とアカネとの向き合い方へと自然に向かっていったのだと思う。しかし、心を閉ざした人間にとって、否定せず接してもらえるというのは何より嬉しいことである。そうした優しさを不用意にピックアップせず、世界観の土台としている点が本当に素晴らしいと思う。

 

 

 

ロボットアニメとして

『SSSS.GRIDMAN超全集』によると、特撮とアニメのファン層はあまり一致していないらしい。要はアニメで特撮をストレートにやっても受け入れられないということなのだろう。それゆえに『SSSS.GRIDMAN』では、美少女やロボットというアニメの王道モチーフをゴリゴリに打ち出したそう。

 

私が特に感動したのは、ロボットアニメとしてのクオリティである。元々原作にも合体などはあったわけだが、それをロボットアニメとして換骨奪胎している。そしてさすが『天元突破グレンラガン』のTRIGGER。その辺りのクオリティが凄まじい。

グリッドマンには基本形態の他に、アシストウェポンと合体した3つの強化パターンが存在し、更に4つのアシストウェポン全てと合体した最強の形態フルパワーグリッドマンというものまである。しかもアシストウェポンはそれぞれ人間体を持ち、ドラマパートで裕太達をサポート、たまにアクションまでこなすという徹底ぶり。

現在放送中のスーパー戦隊シリーズでは、ヒーロー達がそのまま巨大化し、ロボになるというシステムが組み込まれ、それによりロボが実質ヒーローのフィギュアとしての役割を果たすという仕組みになっている。この『SSSS.GRIDMAN』のアシストウェポン達は、その先駆けと言えるかもしれない。

 

何より4体のアシストウェポンの人間体・新世紀中学生は4人共非常にキャラが立っており、何やらスピンオフ小説まで出ているらしい。アニメでは心情の掘り下げこそ少なったものの、あまりに「アニメすぎる」強烈なインパクトでそれぞれ存在感を放っていた。アシストに留まるのが勿体ないほどの個性。そうして各武器にキャラクター性が付与されているのは、やはり玩具展開を見越してのことなのだろう。ただのロボでは一定のファンしか買わないが、そのロボをキャラクター化することでキャラのファンの需要を狙う。本当に実によくできた仕組みである。

 

全合体まで果たし(序盤でフリーズにより失敗しておいて、後半で満を持して登場なのもニクい)、もうこれ以上はないだろうと思わせたところで、まさかまさかの原作グリッドマンの降臨。BABY DAN DAN! BABY DAN DAN! さすがにずるい。ずるすぎる。正直ずっと泣きながら笑っていた。原作へのリスペクトを強く感じたし、何よりロボットものという枷を取っ払って、「特撮のアニメ化」に振り切ったのがかっこよすぎた。

 

初回から通して、常に「特撮的なカメラワーク」が意識されているのも、ポイントが高い。グリッドマンやグリッドナイトの動きは、ウルトラマンなどの巨大特撮でお馴染みのものが非常に多い。初回のグリッドマン登場での粉塵演出で一気に心を掴まれてしまった。アニメなのに、往年の巨大特撮を観ているという感覚に陥らせてくれるのだ。制作陣が生粋のファンだからできることだが、ファンサービス以上のクオリティをしっかりと維持し、物語が構成されているのも本当に素晴らしい。既存ファンもアニメファンも新規も取り込めるブラックホール。速攻で同盟を結びたくなる罠。

 

 

 

 

最後に

とまあ備忘録を兼ねてざっと思ったことを羅列した乱雑な記事になってしまったが、まだアニメ本編しか楽しんでいないため、続編の『DYNAZENON』はもちろん、ボイスドラマや小説版・漫画版なども少しずつ摂取していけたらなと思う。スピンオフなどが充実しているということも、この作品がいかに人気なのかを示しているのだろう。

 

ひとまずはOPの『UNION』を含め、キャラソンを何周もする日が続きそうである。そして何より、週末公開の総集編、再来月の新作映画が楽しみでならない。