映画『怪物の木こり』評価・ネタバレ感想! こんなんもう仮面ライダーだろ…

 

サイコパス VS 殺人鬼

このフレーズだけ聞くと一時期流行した「舐めてた相手がヤバい奴だった系映画」かと思うが、『怪物の木こり』の実態はそこから連想されるものとはかなり異なっていた。連続殺人鬼が狙った相手が偶然にも平気で人の心を理解しないサイコパスだったんだぜ~みたいな、そんなノリかと勝手に思っていたので、映画を観てしっかり驚いてしまった。ただ、そういう作風を匂わせているのはあくまで予告だけで、劇中では割と序盤にはっきりとリアリティラインを決定づけてくれる場面があるので「期待と違った!」とまではならない。その場面が、「亀梨君が自分の頭に脳チップが埋め込まれていたことを知る場面」である。脳チップ!??????

 

斧を使って人の脳みそを奪う連続殺人鬼、通称「脳泥棒」に突然襲われた二宮彰(亀梨和也)が、何度も襲われながら自分の出自と向き合い、戦いに身を投じていく物語。監督は三池崇史。三池監督はオファーを基本的に断らないことで有名で、「多くの監督から断られた漫画の実写化映画を最終的に全部請け負う男」とまで言われている。そのため実写化映画も数多く手掛けているが、『悪の教典』などの血生臭いサスペンス映画も得意としている。死人が出続ける今回の『怪物の木こり』も、三池監督にピッタリな作品と言えるかもしれない。

 

主人公の彰はサイコパスであり、平気で人を傷つけ、殺害することができる弁護士。序盤だけでも自分を追ってきた男と自分を診療した医者、2人をあっさりと殺していく。その会話の中で殺人に慣れていることも示唆されており、死体を内密に処理してくれる医者も味方につけているのだ。おそらくは快楽殺人鬼なのだろう。息をするように人を殺めてしまう彼の異常性が、亀梨君の冷たい瞳に確かに宿っているように感じられた。

サイコパス」という言葉は日常でも一般的になっているが、実際に身近にいるとしたら本当に恐ろしい人物だと思う。「お前サイコパスじゃん!」なんて掛け合いも普通に横行しているし、サイコパスだと言われてちょっと喜んでしまう人がいることも分かっているのだが、本当のサイコパスはたとえ犯罪に手を染めていなくとも、社会に適応しづらいという特徴を持っていて、簡単に人に使う言葉ではないよなあと私は考えている。

要は共感性に乏しく社会に適応することが難しい人のことを「サイコパス」と呼称するのだけれど、この映画では少し話が変わってくる。『怪物の木こり』において「サイコパス」は人工的に作り出すことができるのだ。人工サイコパス…人工サイコパス!?

 

殺人鬼に襲撃された彰のレントゲン写真には、頭蓋骨の辺りに脳チップなるものが埋め込まれていたのである。存在を全く知らない彰は驚くが、医者の前では何とか平静を装う。この場面でこっちは完全に「え????」状態。まず脳にチップが埋め込まれてるって何? というかそれはもうチップでよくないだろうか。脳チップとわざわざ言う必要があるか? いやそもそも脳チップって何????

 

結論から言うと、この脳チップは人間をサイコパスに変えることができるチップなのである。ある児童養護施設を経営する夫婦が、そこで育てていた子どもたちに次々とこの脳チップを埋め込み、サイコパスを作り出していた…というオチ。

劇中だと「サイコパス」と言われているからちょっと微妙なニュアンスも出てくるのだが、簡単に言えばこれはもう「仮面ライダーの改造手術」レベルだと思う。何ならこの映画、非常にニチアサ度が強い。亀梨君がとことこ夜道を歩いていると突如斧を振り下ろす殺人鬼! ニチアサの怪人もこんな感じでサラッと出てくるんだよな…。それに対してまあまあ応戦できる亀梨君も完全に変身前の仮面ライダームーブ。

 

脳チップを埋め込まれると強烈な殺人衝動に駆られる…とか共感性が著しく欠如する…とか、彰の特性が文章で表せるものだったのなら分かるのだけれど、「サイコパス」と実際に存在する用語にしてしまうとちょっと話の趣旨がズレてくるよなあという気もしてしまう。サイコパスであることに悩んでいたり、突然殺人衝動が一気に消えて罪悪感が湧き出たりとか、そういう葛藤があるともっとスムーズにこの人工サイコパス設定が入ってきたかもしれない。ただこの「脳チップ」発言でこの映画のリアリティラインがかなり現実と乖離していることは一瞬で明らかになるので、ちょっとした「バカ映画」だと思うと一気に2時間が楽しくなる。映画自体は非常にシリアスだけれど、実はそんなに身構えて観る必要はない映画なのだと思う。

 

殺人鬼に襲われつつ婚約者の吉岡里穂との関係を進めていく彰。実は婚約者の父親を殺していたりもするのだが、それを公言したりはしない。話したらヤバいと思っているというより、話したらヤバいと「理解している」とだけ思わせる亀梨君の絶妙な冷たさが素晴らしかった。マジで体温ないだろアイツ。本当に亀梨和也がハマり役で、仲間の医者の染谷将太もしっかりとサイコパスなので、多分目が死んでる系人間が好きな人には堪らないだろう。そして同時に菜々緒演じるプロファイリングを得意とする刑事の話も進行しており、その過程で過去の殺人事件の犯人である武士(中村獅童)が登場したりもする。殺人鬼に襲われたことで脳チップが破損し、人を殺せなくなっていく彰の葛藤と、殺人鬼の正体を軸に物語は展開していくのだが、犯人候補が異常に少ないので観ているこっちは消去法で結構簡単に犯人を当てることができてしまう。

 

そう、殺人犯の正体は中村獅童演じる武士だったのだ。そして彼の目的は、サイコパスをこの世から消すこと。自身も幼い頃に脳チップを埋め込まれ、残虐な事件さえ起こしてしまっていたが、チップの破損により罪悪感が芽生え、自分と同じような脳チップ入りサイコパス達を世界から葬ることを決意する。いや、これまんま仮面ライダーにいただろ…。『仮面ライダーアマゾンズ』の仁さんっていうワイルドなホームレスみたいな男がまんまこの武士なので気になる方はぜひ観てほしい。ここまでずっと「仮面ライダーだろこれ…」と思ってたのにこの正体と動機発覚で「仮面ライダーだろ!!!」と叫びたくなった。仮面ライダー過ぎる。

 

 

 

 

というか人工サイコパスが何人もいる日本社会がもう面白すぎるし、正義に目覚めたサイコパスが他の悪しきサイコパスと戦おうとする物語も、ヒーロー映画のようで興奮してしまった。私は予告から全く想像できない展開に話をシフトしていく映画が大好きなので、出来はさておきこの映画が大好きになってしまったのである。後はこういう暴力性や残虐性の中に見え隠れする人の心や人情、友愛というのは三池監督の得意とするテーマでもあるので、そこが上手く乗っかってきているのも良かった。何だかいろんな意味で興奮させられる映画だった。

 

公式サイトの原作者のコメントによると、ラストは原作とは異なっているらしい。映画では婚約者を救出し2人で歩んでいこうとした彰が、父親を殺されたことを知った婚約者によって刺されてしまうラスト。それに怒り狂った彰は婚約者の首を絞めて殺そうとするが、それは実は演技だった。彼女の首に絞め跡を付けたことで、正当防衛を主張できるようにしたのである。自宅のリビングで腹から血を流し、白い敷物が真っ赤に染まっていく…。心から愛した婚約者に殺されるという皮肉なオチは、サイコパス時代に多くの人の命を奪ってきた彼への報いなのだろう。彼は正義に目覚めることとなったが、それでも過去の罪が消えるわけではない。ダークヒーロー映画としても、かなり考えさせられるラストだったように思う。

 

ただ、映画自体のトーンは非常に重い。また、彰が徐々に人間性に目覚めていく…という過程をほとんどすっ飛ばして犯人の正体に迫っていく物語なので、感情移入もしづらいかもしれない。せっかく人の心を取り戻す物語なのだから、もっと丁寧に心の機微を演出してくれてもよかった。人を殺せず以前と明らかに変わってしまったことによる戸惑いだったり、周囲の人々の彰への見方だったり、そうした側面から彼の変化を上手く追ってくれていれば、もっと前のめりになって観ることができただろう。とはいえ私はこのトンチキさやニチアサ感に一発で心を奪われてしまった。多分世間的評価はそこまで高くはならないと思うのだが、それでも一蹴することはできない独特な味のするサスペンス映画だった。