映画『スキンフォード 処刑宣告』評価・ネタバレ感想! 何者でもなかった男が不死身の女性と出会う神話。

 

 

まずは何も考えずにこの予告を観てほしい。

 

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どういう感情を抱いただろうか。

きっと多くの方はお出しされていることそのままに、露出度の高い女性によるアクション映画を想像したと思う。もちろんこのシーンは映画に存在している。しかし、それだけではない。いや、こんなの全然メインじゃない!!!

完全なる予告詐欺。「あれ?こんな話だったっけ?」と何度なったことか。しかも映画本編も時系列を何度も入れ替えてくるので余計に頭が混乱する。こういうことは上映規模の小さい映画を観に行くとたまにある。海外の映画が日本にやって来るにつれて、宣伝側の目的は当然多くの人を劇場に呼び込むこと。そのために映画のある一部分がピックアップされ、本筋よりも、所謂「バズる」要素が取り沙汰されるという道理は分かる。肌着姿の女性達によるアクション映画がウケるという予想もそれはそれでどうかと思うのだが。

 

ただこういう宣伝と中身が違う映画は、実際諸刃の剣でもある。観られると思ったものがメインでないと知れば、観客は「騙された」と思うはずである。しかし映画はチケット代さえ払わせてしまえば勝ち。逆に敢えて予告でミスリードを狙い、興奮した観客達に宣伝を委ねる手法もたまに目にする。この『スキンフォード 処刑宣告』がどちらを狙ったものかは分からないが、個人的にはガツンと騙された。まんまと「面白い」と思わされてしまったのである。いや実際、めちゃくちゃ面白い。かなり変な映画だしご都合主義なのだけれど、古き良きアニメ的展開と時系列を巧みにいじる独特な話運びにやられてしまった。

 

この映画の正式なあらすじは、

「何者でもない1人の青年が、殺されそうになったところで土に埋まっていた不死の女性と出会い、死ぬ間際の父親に親孝行をするため、彼女と共に金を手に入れようと奔走する」物語である。

ポスターに堂々と躍る「真夜中の女体連続爆発!」も確かにあるが、そこは全然メインではない。

ポスターにさえいない男がいきなり殺されそうになっている冒頭。「自分の墓を掘れ」と命じられてもなお飄々としているこの男は一体誰なのか…。大した説明もされないままに、土から別の手が伸び、そこに女性が埋まっていることが判明。彼女と触れている間は銃弾さえも効かないことに気付いた青年は、父が死ぬ前に大金を手に入れようと、自分の人生に決着をつけるための旅に出る。

 

予告詐欺の話を一旦脇に置いておくと、この映画のシナリオは非常に漫画的。いや、もはやライトノベル的と言ってもいい。無職でやばい仕事に手を出そうとしていたどこにでもいる青年(ムキムキだけど)が、偶然出会った不死身の女性との旅路でその人生の大いなる意味を知ることになる。しかもその女性が美女という、往年のアニメ的展開からこの映画はスタートする。何なら堂々と美女と自分を手錠で繋いでしまうのだ。

彼女がなぜ不死身なのかという謎はそのままに、青年は自分を雇ってくれたマフィアに仕事について交渉に行く。これがすごい。これが日本なら触れている間は不死身なんだ俺TUEEEEEEという流れでドラえもんが来た時ののび太のようにはしゃいでしまうだろうが、この映画は違う。父親が死ぬ前に立派になった姿を見せたい主人公は、大金を手にすることを諦めていないのだ。何で不死身なんだよ!という動揺すら大して見せず、それどころか自分も不死身になったことにはしゃぎ回り、悲願を遂げようとする。そう聞くと非常に個人よがりな物語に聞こえてしまうが、組織のトップに立つ血みどろ大好き少女や、監禁され雑な手術によって腹に爆弾を埋め込まれた女性たち…そしてその女性たちが次々と爆破していったりと、ゴア描写に事欠かず、とにかくこちらを飽きさせない。いやどちらかというと、作り手側が好き勝手やっているだけにも見える。映画の全体像としては非常に奇妙で、すごく”変”なのだけれど、その味がどうしてかクセになってしまうのだ。

 

主人公の成長譚と同時に、不死身の女性が抱える葛藤も描かれていく。不死身だと知られた途端にゲーム感覚で自分の命が弄ばれていく…人生に絶望した彼女は死を願っており、劇中で遂に自分に力を与えたのがかつての友人であったことに気付く。そのきっかけであり、何故か謎の組織の一員でもある、死体を撮るのが好きな女性のキャラクターのインパクトも強かった。

しかもその友人は主人公の父親と同じ病院に入院しており、2人が彼女と話していたところに、彼等を追う2大組織が現れる。しかしその組織の真のボスは、なんと主人公の父親で…というまさかのダース・ベイダー展開。自分の息子が真に後継者に相応しいかどうかを試すために、彼は試練を与えていたのだ。主人公は尊敬している最愛の父親を、不死身にまでしようと考えていたのに…。

最愛の存在に裏切られる展開というと、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』(2作目)を思い出す。主人公のピーターも、ずっと願って止まなかった血の繋がった家族との邂逅に喜ぶが、実は父親の目的がおぞましいものであったことに気付き、仲間達と共に戦う決意を固める。私はこういう、愛情の歪み的な映画にとても弱いので、この映画の哀しい構造が明かされた時、もう完全に大好きになってしまっていた。最愛の人が敵だった展開、本当に好きなので…。

 

 

 

 

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こちらのサイトでライターの氏家譲寿さんが解説しているのだが、どうやらこの映画は2017年の作品で既に本国では続編も公開されている様子。映画は不死身の力が女性に与えられたものではなく、彼女自身が友人から奪ったものだと明かされたことで終わるので妙な感じだったが、続編があると聞いて納得した。

バディものとしてもすごく面白かったし、何より「予測不能」という言葉がピッタリなくらい先が読めない展開の連続かつしっかりと伏線が張られているので、日本版予告に騙されず、サスペンスなどが好きな方にはぜひ観てもらいたい。まだまだ解決すべきこともやるべきこともたくさんあるので。

ゴア描写とか、ポイントを絞って観るタイプの映画ではなく、何故か爆発力に満ちた勢いのあるB級映画。とにかく面白いので絶対に続編も日本公開してほしい。