映画『おまえの罪を自白しろ』評価・ネタバレ感想! 「おまえの罪」がすぐ分かっちゃうの何なんだよ。早く自白しろよ

映画「おまえの罪を自白しろ」オリジナル・サウンドトラック

 

 

最初に一言だけ言うと、「犯人は誰?」とか「親子の確執」に焦点が当たるような作品ではないのかな…という印象だった。最後の親子のやり取りでこの映画がやりたかったことは明確になるのだけれど、だとしたらちょっと積み重ねが弱いよなあ、と。それにこの手の物語で犯人の存在感が希薄になってしまう…そもそも犯人が誰なのかが焦点ではないというのはちょっと致命的な気も。誘拐事件の起きるサスペンスなのだから、もっとそこに向かってこちらの感情を誘導してくれてもよかっただろう。もちろんそこにテーマ性があることは読み取れるのだけれど、いやなんというか…ちょっと「弱い」気がしてしまったのである。というか、「おまえの罪を自白しろ」なんて強いタイトルなのに「おまえの罪」が速攻で明かされて後は「自白するかどうか」だけで頑張るの何なんだよ。早く自白しろよ。有罪が前提で結局それを自白しない理由もただの保身だというのが明確なので、サスペンスらしい緊迫感があんまり伴ってなかったような…。

 

TikTok風の予告編を映画館で何度も観て、「宣伝頑張ってるな~」とは思っていた。中島健人主演とはいえ確かに政治色の強い作品だとファンでもある程度篩に掛けられそうではある。内容が難しそうだからいっかと鑑賞しない人もいる可能性はある。脇を固めるキャストも重鎮ばかりだし、実際ケンティーが主演を務めていること自体がちょっとイレギュラーな感じもする。言い方は悪いがある種の客寄せパンダではあると思う。とはいえ、中島健人自身は充分に演技力もあるし、主役という大役をしっかりと演じ切っていたのではないだろうか。演技の面でいうと、歌舞伎役者である中村歌昇の演技のほうがちょっと演出の意図と合っていないように思えて気になっていた。上手い下手というよりもこのサスペンス調の映画で表情や声の出し方が少し仰々しい感じ。そこまで大きな役ではなかったものの、もし出番が多かったらこの映画自体結構きつかったかもしれない。これはどちらかというと中村歌昇がどうこうよりも水田監督の演出があれかなあと思っている。こういうのを統率するのも監督の役割な気がするので。

 

水田伸生監督は、これまでいくつか邦画を手掛けており、基本的にはコメディ系の映画が多い。『舞妓 Haaaan!!!』や『謝罪の王様』など宮藤官九郎作品、中には『252 生存者あり』などのシリアスな作品も存在する。経歴を見る限り、この映画は程よい邦画サスペンスが観られればいいなあくらいに構えるのが良さそうだ。おそらくそこまで原作が改変されているということもないだろうと踏んで、敢えて原作は読まずに鑑賞した。その結果、「省かれすぎじゃない???」というくらいに中身が薄くなってしまった…ように思えたのだけれど、そもそも原作を読んでいないのでこれが原作まんまという可能性もある。何だろう…個人的にはちょっと色々な意味でワクワク感が足りない上に、家族や親子のドラマとしても少し不十分な気がしてしまったのだ。

 

『おまえの罪を自白しろ』というタイトルの通り、衆議院議員の孫娘が誘拐され、「返してほしければおまえの罪を自白しろ」という脅されるというストーリー。もうタイトルだけで大体の状況が分かるのですごい。金銭じゃなくて自白を要求するという面白さがストレートに来る。しかも言葉が強いので圧もちゃんとかかっている。もっと正確に言うのであれば晄司(中島健人)の父親である清治郎(堤真一)が総理大臣から命じられ、上荒川大橋なる橋の建設に関して、位置を意図的に操作し総理の友人がいる会社に多額の金が行き渡るようにしており、そこを追及される…というもの。そうした汚職があったことは物語の冒頭から明らかであり、彼の行動が汚職か否かという点は論点ではない。孫娘の命が懸かっているというのに何だかモタモタしている清治郎への苛立ちが、晄司の持つ感情とリンクしていく…という構成。

 

唐突に襲われ娘を奪われた晄司の妹である麻由美(池田エライザ)に対しても、父である清治郎は「人通りの多い道を歩けと言っただろ!」と一喝。娘を守れず自暴自棄になっている家族に対してどう考えても投げかけるべきでない言葉を放つことからも、清治郎という人間のデリカシーのなさや厳しさが読み取れる。更には「全てを喋るけど自分は捕まらないように根回ししよう」と様々な調整に時間を使ったり、1度会見を開くも肝心の上荒川大橋についてはスルーしたりと、本当に孫娘を救う気があるのかという言動を繰り返す。もちろんその後の自分や家族、お世話になった人々の未来を考えての行動であるという理屈は分かるのだけれど、清治郎の冷酷な言葉からは感情が全く感じられず、共感するのはかなり難しい。そのカウンターとして父親に怒りをぶつけ、別の方向から問題にメスを入れて解決に導こうとするのが主人公の晄司。会社を興すも事業に失敗し、泣く泣く父親に付き従い政治家の道を辿ろうとしているこの男が、映画を観ている私たちの代わりに清治郎に物申してくれる。

 

誘拐事件で映画を引っ張るのかと思いきや、半ばで孫娘は保護され、事件は犯人逮捕へと流れを変えていく。正直に言えば「己の保身を取るか、家族の命を取るか」という二者択一に揺れる清治郎を描く作品…もしくは何か事情を抱える父親に対して純粋な息子が憤り、段々と真相に迫っていく…的な物語を予想していたので、真実を話すか否かという1点にのみ焦点が絞られていくのは肩透かしでもあった。もちろん勝手に予想したこっちが悪いのだけれど。ただやはり、「孫が誘拐されたのに一向に誠実に対応しようとしない議員」と聞けば、そこに何か秘密があるのではと考えてしまう。しかし実際にはその中身ではなく事態に翻弄される家族や警察を描く物語に終始していたのが少々残念である。

 

そしてネタバレをすると、犯人は市議会議員である麻由美の夫をサポートするボランティアの1人・寺中初美(尾野真千子)とその弟であった。弟と共にかつて上荒川大橋の建設予定地に埋めた父親の死体が見つかることを恐れた彼女が、それを辞めさせるために清治郎の失脚を狙った形である。本筋とあまり関わってこないのに不自然に挟まれるこのボランティアの描写や尾野真千子というキャスティングのおかげで、犯人が予想出来てしまった人もいると思う。というか、公式サイトのキャスト相関図を見てほしい。尾野真千子がめちゃくちゃ浮いている。必要か?というくらい浮いていて今見るともう犯人だと主張しているようにしか見えない。面白すぎる。

 

とはいえこういったサスペンス映画で犯人が予想できちゃうというのはままあることであり、実際そのトリックや背景を完璧に予想できない限りは全然いいと思っているし、逆に予想できたとしても展開の面白さで魅せてくれる作品はたくさんある。なので個人的には犯人が読めた=肩透かしという評価にはならないのだが、ちょっと唐突だよなあとは思った。一応それなりに伏線はあるし、辻褄が合わないということもないのだけれど、この初美自体が物語に全然関わってこない(ポジション的に仕方ないけどさ…)分、犯人判明の高揚感は薄い。あぁ、そういうことだったのねと納得はするけど、感情は喚起されないというか。

 

ただ彼女と弟の犯行はそもそも清治郎の汚職を発端としており、清治郎が橋の建設予定地を動かさなければ彼女等が路頭に迷うこともなかった。つまりはこの誘拐事件は清治郎自らが蒔いた種であると言えるのである。そういう意味で国のためにと身を粉にして悪事に手を染めていた清治郎が自らを見つめ直すという展開はよかったと思う。小説だったらきっと読み応えがあるだろう。ただその後、清治郎が実は晄司の会社を潰すよう根回ししており、兄弟の中でも自分の後を継ぐのは晄司だろうと半ば確信していたということが明かされる。おそらくこの事実こそが、この映画最大のキモであろう。晄司が事業に失敗しやむなく政治家の道を辿ろうとしているという悔しさの背景に清治郎の意図が介入していた。既に活躍している兄ではなく、晄司のほうが認められていたのだ。

 

実際、晄司に政治的な駆け引きの才能があることは劇中でも仄めかされてはいた。総理の失脚が間違いないと分かれば、総理からの電話に掛け合うことをせず、次期総理である幹事長を優先するなどがそれである。要はかなり狡賢いのだ。また、序盤から煮え切らない態度の父親に対し怒りをぶつけるシーンが何度も挿入されている。だが、それでも圧倒的に描写が足りず、結局中島健人が主演を務めているのにあまり中身の伴わない役にはなってしまっていたと思う。行動していないわけではないのだが、妹や周囲の人物に完全に寄り添えているかというとそうでもないし、先見の明がありそうにも見えない。直情的というほどまっすぐではないが、狡猾と言うほど頭の回転が早いかと言われると首を傾げてしまう。誘拐事件を通して彼の行動力や判断力がアピールされる流れならともかく、事態は「清治郎が真実を話すか否か」に全振りされてしまったので、清治郎の抱く息子像と我々が見た晄司が一致しないのである。話の終わり方はよかっただけに、もったいね~と思ってしまった。「俺政治やりたくないんだよ!」みたいな晄司の反発がもっとあってもよかったかもしれない。「政治家なんてクソだ!」くらい言ってほしかった。父親が政治家をやっていたことで色々苦労したんだぜ~とか。もっと人間らしい泥臭さを見せてくれても良かった気がする。もちろん姪を誘拐されているという局面で家族とはいえ一般人にできることは限られているのだけれども、もっと彼のすごい一面を見せてくれたらなあというのが本音である。

 

原作がどうなのかは分からないのだが、おそらくは文章である分映画よりも心情描写に重きが置かれているはずだし、その辺の機微がより映画の中にあったら締めの流れにも心を掴まれたかもしれない。父子の継承や、自信を喪失していた主人公にこそ輝く才能があったという展開は嫌いではないのだけれど、その積み重ねがちょっと弱かったなという印象。ラストの静けさや、そもそもお前らが悪いんだぞと突き付けてくる感じもかなり小説的である気がする。ただ映画的なスペクタクルにこそ欠けるものの、特段つまらないということはないし、話が分かりづらいということもなさそうなので、そういう意味では良い映画だったかもしれない。ただやっぱり、「おまえの罪を自白しろ」という強いタイトルなのに、「おまえの罪」は冒頭で全て示されており、そこに焦点がいかないのは気になってしまった。誘拐事件が発展するわけでもなく、ただ根回しに時間が費やされるので、そういう意味ではサスペンスとして薄味かもしれない。「謎」が圧倒的に足りてないんですよね。とはいえ、個人的にはアキラ100%が真面目に演技しているのがツボな人間なので、端役とはいえしっかりと出演しているのがとても良かったです。