映画『リゾートバイト』評価・ネタバレ感想! ホラーが明確にエンタメへと変わる貴重な瞬間をぜひ体験してほしい

 

 

 

皆さん…朗報です!!!

『真・鮫島事件』『きさらぎ駅』の永江二朗監督がまたやってくれました!!!!

いつの間にかシリーズ化していた「ネット怪談実写化シリーズ」。それを牽引しているのがこの永江二朗監督で、今回も『きさらぎ駅』のスタッフが集結。今回映画化するのは、「リゾートバイト」というネットでは有名な怪談。夏休み、リゾート地の旅館でアルバイトを始めた3人の大学生が巻き込まれたこの恐ろしい物語をベースにした本作は、やはりこれまでと同様、途中から全く別方向へと舵を切り徹底的にエンタメを追求していく。

漫画の実写化が常にあれこれ言われる日本。漫画に比べると読み手が少ないためそこまで公に槍玉には上がらないが、おそらく怪談好きの人間からすれば「あの怪談をわざわざ映画にするの?」みたいなこともあると思う。だが永江監督の過去2作はそんなプレッシャーを「予想を絶対に裏切る展開」で跳ねのけてきた。個人的に「絶対に何かを仕掛けてくれる監督」として邦画界ではかなり活躍を期待したい人物の1人である。過去2作の面白さについてはそれがギミックの肝でもあるので敢えてここでネタバレは防ぐが、とにかく怪談をただ実写化するだけでなく、恐怖をしっかりと演出した上で想像の斜め上をいくオリジナル要素で観客を魅了しようという姿勢が素晴らしい。多分嫌いな人は嫌いだろうけど、私はこれがめちゃくちゃツボなのだ。そして今作『リゾートバイト』は、オリジナル要素が序盤から散りばめられた『きさらぎ駅』に比べるとスロースタートではあるものの、後半の「もうホラーノルマクリアしたし原作要素もきっちり入れたから好き勝手やらせてもらいますわ!!!!うおりゃあああああああああ!!!!!」と言わんばかりのフルスロットル具合が最高。メーター振り切れすぎ。個人的に映画に求めるものが「驚き」なので、そういう意味で永江監督作品はかなり自分の好みにあったエンターテインメント作品であり、新作が出るのを楽しみにしていた。

 

私はネット怪談には疎いため、「リゾートバイト」という怪談も最近知った口である。実際の投稿サイトは既に閉鎖されてしまったようで、そこから転載されたものを先日読んだのだが、そこまでの恐怖は感じなかった。おそらく初出の2009年から14年経過したものであったために、これをブラッシュアップしたであろう多様な作品に触れてしまったためだと思う。後はホラーを実話として楽しんでるわけではない人間なので、こういう語り口をどう読めばいいか悩んだということもあるかもしれない。映画だと完全に作り物なので割り切れるが、実体験に基づいたというような触れ込みが個人的にはあまり好きではないのだ。霊はいない派なので。

 

その上で色々と事前の予想や評判を読み、「主人公女なの?」みたいな批判も見たのだけれど、それはさすがに的外れな気がする。別にあの怪談の主人公が男性である必要はない。実際映画を観てみると幼馴染の男女の恋模様が軸となっており、この辺りの実写化に向けた人間関係の肉付けもすごく良い塩梅だった。あくまで「リゾートバイト」を元ネタにした映画というか。いや後半からはもうそういうのどうでもよくなるんだけれども。

 

幼馴染3人組の桜(伊原六花)・聡(藤原大祐)・希美(秋田汐梨)がリゾートバイトを始めたのは、とある旅館。旦那さんと女将さん、そして気の良いフリーターの岩崎(松浦祐也)の3人だけで切り盛りしているその旅館は一見普通の旅館だったが、桜は毎夜女将が2階に上がって料理を運んでいっているのを目撃してしまう…という物語。原作では3人の男子大学生が旅館へアルバイトに赴き、旅館には一人の可憐な少女がいたが、本作ではやはりだいぶ性別が入れ替わっている。これも後々大きく効いてくるギミックの1つだと言えるかもしれない。一人称で淡々と語られていた背景の大半は、岩崎が口頭で3人に説明してくれる。3人の関係も桜と聡が両想いながらお互い一歩を踏み出せず、それを横で見ている希美がやきもきしている…という状況。リゾート地の美しいロケーションも相俟って、めちゃくちゃ甘酸っぱい。

 

冒頭から笠を被った住職が出てきたり島の至る所に祠が置かれていたりと、「何かある感」も抜け目ない。原作を読んでいると「あ~なるほど」と思う部分もある。岩崎は希美に気があるようだが、年齢差の離れたおじさんを希美は相手にしていない。一方で桜と聡は初心な男女関係がしっかりと描かれており、見ていて微笑ましくなる。個人的には岩崎も胡散臭いなと思っていたが、蓋を開けると本当にただの良いあんちゃんだったのでだいぶ好きになってしまった。ただ『きさらぎ駅』で声のでかいおじいちゃん(観た人には伝わるはず)がだいぶ怖かったので、岩崎の序盤の声の大きさに何かあると思ってしまったのである。

 

桜が主人公だから2階に上がるのも彼女なのかなと思ったが、最初に2階に上がるのは聡だった。本人は部屋の中に入ったはずなのに、実際にはただ後ろを向いて腐ったご飯を貪っていただけ…という原作の恐ろしさを第三者目線でまず堪能することになる。その後、子どもが見えるようになってしまった聡を救うためのヒントになればと、桜も2階へ。するとやはり、不気味な目をして自分たちに迫って来る子どもたちが見えるようになる。ジャンプスケアを多用した、2階に上がる恐ろしさの表現が見事。「来るぞ…」としっかり思わせておいて、大きな音でちゃんと怖がらせてくれる。そしてこの辺りの恐怖感の演出の手腕が、後半の急展開に更に拍車をかけるのだ。あんなに怖いものを撮れるメンバーなのにこんな変なことしてる…!という信頼感が面白さに繋がる。

 

聡が襲われ意識不明になり、とうとう原作の終盤の除霊シーンに。ぶっきらぼうな旦那さんが突然味方をしてくれる上に、住職が介入してくる流れは原作と同様。違うのは、原作では3人一気にの除霊だったのが、都合上桜だけになったことである。お札を張った本殿に入れられ、決して言葉を出さず、決して扉を開けずに夜明けを迎える。耐えられれば勝つが、負ければ持っていかれるという恐怖感。原作では真っ暗闇で耐え忍ぶ3人の描写に緊迫感があったため、この改変はどうだろう…と思っていたが、ここで事態は急展開。

 

おそらくこのブログを読みに来てくれている方はネタバレを知りたい方か作品を観ている方だと思うので言ってしまうと、桜達を付け回す怪異の正体は「八尺様」だったのである。もうね、ここの温度感だけでめちゃくちゃ面白い。このデカい怪物が登場した時点で明らかに映画の温度が変わる。「え?」みたいな。「は?」もあるかもしれない。ここで、ホラー映画が明らかにエンタメに変わるのだ。

 

八尺様は、身長が8尺あり、魅入られた子どもをさらってしまう白いワンピース姿の女性。怪異の中ではかなり有名なほうであり、ネット怪談に疎い私でもこの話は知っていた。聡が襲われたタイミングの「ぽぽぽぽ」で気付くべきだったなあと反省。いやでもそこまで飛躍するとは思わなかったじゃん!ビジュアルが出たら速攻で気付いてめちゃくちゃ面白かったです。というか八尺様の顔の作りとかが全部ちょっと雑でもうさすがに笑いを取りに来てるのが面白すぎる。八尺様の登場により物語はホラーからエンタメに振り切られ、しかもそのまま主人公の桜が魂を抜かれてしまう。オリジナル要素どころではなく、ただただ展開に翻弄されると同時に、「これが見たかったんだよ!」とガッツポーズをしてしまった。正直漫画だろうが小説だろうがネット怪談だろうが、何かを映画化する際にほとんど物語が同じってつまらないじゃないですか…。忠実にやってほしいという願いを込めるのが主流だというのも分かっているのだが、個人的には監督をはじめとした映画スタッフ独自の味が濃いほうがいいなと思っていて。だからアニオリとかも自分はすごく好き。もちろんそれを漫画などでやるのはかなりリスキーなのは分かっているのだが、最近の原作至上主義みたいな流れにはいまいちピンと来ていない。

話が逸れたが、そういう意味で怪談というのはかなり実写化に向いている気がする。原作準拠が主流というわけではないし、多分好き勝手やってもあんまり怒る人はいない。それを逆手にとっているこのシリーズの振り切り具合は素晴らしいと思っている。漫画に例えると「ドラゴンボールの新作で悟空達のピンチに現れたのは、なんとルフィだった!」ぐらいのことをこの映画は平気でやるのだ。ほとんど関係ない2作品を結び付けるけど、まあ知っている層はカブってるしいいよね、みたいな。漫画だと色々ダメだろうが、怪談はそういう制約がないし何より前例がないので全然アリになる。

 

あとこれは余談なのだが、個人的にこの「親しい人物の声を騙る」タイプの怪異がすごく好きで。岡田准一主演で映画化もされた澤村伊智先生の『ぼぎわんが、来る。』にもこれがあった。当時大学生だった私はこの小説のあまりの面白さに一晩で読み切ってしまったのだが、このシーンが格別に恐ろしかった。主人公が霊能者に電話越しに言われるがままに儀式のセッティングをし、後は家に入ってくる「ぼぎわん」を迎え撃つのみ…という第一章クライマックスで別の電話が鳴り、その霊能者から「私はそんなこと指示していません!罠です!」と言われ、実は怪異側の都合の良いように準備をさせられて成す術なし…という展開。深夜、あまりの恐ろしさに吐きそうになったほどだったので当時の恐怖を鮮明に覚えている。この映画でも聡と希美が桜を呼ぶことで彼女が扉を開いてしまう。まあ本人じゃないことはバレバレなのだが、原作では扉は開かずめでたしめでたしとなるので、その流れで扉を開け八尺様登場というのは原作改変としても、ビジュアルとしても、かなりインパクトがあった。

 

 

 

 

そして桜と聡の魂を元に戻すタイムリミットは夜明けまでだと住職が説明。魂を戻すためには二人の体が必要であるが運ぶわけにもいかないので、私たちの魂を二人の体に入れましょう!というまさかの「君の名は。システム」。そこで儀式の最中に強い風が吹いて地蔵が倒れてお札がはがれてあんまり詳しくない岩崎が適当に貼って~の流れで「これ入れ替わるやろ…」と予想はしたがマジで入れ替わってそのまま突き進むとは思っていないのでさすがに笑ってしまった。もうここからは何でもアリ。中身こそ違うが桜と聡が怪異を倒す流れに持っていく。力業すぎる。あとは『きさらぎ駅』でも特徴的だったビリビリ電撃エフェクトがあったのがよかったです。白石晃士監督なら霊体ミミズみたいに、永江監督の十八番はビリビリ電撃エフェクトなのかもしれない。

 

八尺様と目を合わせないよう希美の魂が入った岩崎に運転させるも、腰の痛みにより彼女は早々に離脱。ひたすら八尺様との追いかけっこが展開され、たどたどしい八尺様の走りは何ともかわいらしい。愛嬌さえある。一方で中身が住職の伊原六花はかなり強くなっており、八尺様とも互角に渡り合う。遂にはいきなり土に埋まっていた錫杖を取り出し、海の向こうの島を丸焼きにして八尺様を撃破。もう全然理屈とかは分からないんだけれど、最後の展開から察するに、住職はずっとこの機会を狙って用意していたのだろう。突然のCGバトルにびっくりはするが、綿密な計画の上での行動だったのだろうなと予想はできる。

 

そして無事に旅館へとたどり着いた二人。呪文のようなものを唱え、元に戻った希美が朝を迎えるとそこには桜と聡の姿が。しかし、何かおかしい…。生魚を食べられなかったはずの聡がはまちの刺身を貪り、桜と聡の距離もまるで恋人のように近い。それもそのはず、実はこの展開は女将と旦那さん、そして住職が仕組んだものだったのである。直接的に説明はされなかったが、描写から繋げていった真相としては、「共に子どもを失った夫婦と住職が八尺様の存在を知りどうにか子どもたちを蘇らせようとした結果、バイトに来た若者を犠牲にして自分たちの子どもを取り戻すことにした」というところだろうか。旦那さんが3人に言った「住職も娘を失ってるから君たちに嘘をついたりしない、信用できる」的な一言もまあ仕掛けだったのだと思う。原作では味方だったはずの旦那さんと住職だが、映画では理屈こそあるものの、主人公達を犠牲に子どもを取り戻すという歪なキャラクターになっていた。そして障子越しに「助けて…」と呟く桜と聡の姿で物語は幕を閉じる。八尺様パートはもう面白がすごかったが、最後はしっかりホラーというか胸糞展開で締める辺りは『きさらぎ駅』と同様。欲を言えば聡達が2階に上がった経緯が「岩崎に肝試しをしようと唆されて」なのだが、岩崎は計画には噛んでいないので、ここも女将達がそうするように仕向けた形だとなおよかったかもしれない。そういう意味で岩崎、マジで色々と重要人物だったなあと思う。各キャラのメンタルを保つ上でも、ヘタレとしてコメディ性を強調する上でも。

 

と、一つツッコミを入れてしまったが、ホラー映画にエンタメを求める人にはかなり刺さるのではないだろうか。難しいことを考えなくていい上に想像を超える物語を展開してくれ、こっちの予想を絶対に凌駕してくる。本作も『きさらぎ駅』に負けず劣らずの飛躍っぷりだったので、否が応でも次回作に期待してしまう。いやこのネット怪談映画化、マジでちゃんとシリーズ化しませんか…。

 

 

 

 

 

 

真・鮫島事件