Netflixドラマ『幽☆遊☆白書』評価・ネタバレ感想! スピーディーでスタイリッシュな新たな幽白だった

 

Netflixで配信された実写版の幽☆遊☆白書、観ました。

正直期待もしてなかったし、かといって不安があったわけでもない。連載当時生まれてなかった自分は幽☆遊☆白書に対してそこまで思い入れもなく、配信始まったら観てみよ〜くらいの軽い気持ちだった。最初のメイン4人のビジュアル解禁では、ちょっとリアリティラインが危なそうなイメージ。演技派俳優とはいえこの見た目で動いてたらさすがに浮いちゃうんじゃないかなあと。あと桑原役の上杉柊平さんを存じ上げなかったので失礼ながら「誰だよ!」となってしまった。そこから時間を置いて他のキャストが解禁される。気になる戸愚呂(弟)はまさかの綾野剛。肩に滝藤賢一を乗せているのはさすがにインパクトが強かった。

 

ただ、「おおっ!」と唸らせてくれるような絶妙な配役があったかというとそういうわけでもなく、志尊淳の蔵馬面白そーとか、そういった何となく面白いものが観られそうなふわっとした感触で昨日までいたのだけれど、Netflixが宣伝にかなり気合とお金を掛けているのを見ていろいろ調べることにした。するとアクション監督には『るろうに剣心』で殺陣を務め、『HIGH&LOW』シリーズでもアクション監督を務めた大内貴仁さんの名前が。そして予告編ではキャスト陣が縦横無尽に戦う、ドラマとは思えない驚異のクオリティが披露される。元々観る気ではいたけれど、なるほどアクション重視の方向性かと期待が高まった。

 

そもそも原作の『幽☆遊☆白書』は、少年漫画としてはかなり「変な」漫画だと思う。『ドラゴンボール』のような熱いバトルよりも、どこか冷淡でしっとりとしたバトルが多く、大技を繰り出したり熱い展開を繰り広げるより、その場での閃きや舞台装置を上手く利用して勝利をもぎ取るようなバトルが散見されるのだ。それこそ暗黒武術会という、バトル漫画の王道=トーナメントも存在するのだけれど、それもメインキャラが外で敵に足止めを喰らって参加できなくなったりと、ただ相手とぶつかるだけでなく、かなり捻ったシステムになっている。言ってしまえば『幽☆遊☆白書』においてバトルはメインではないのだ。『HUNTER × HUNTER』に顕著だが、冨樫義博先生は善を善として、悪を悪として描くことは少なく、どこまでもキャラクターの正義に基づく倫理観のぶつかり合いで物語を進めてきた。だからこそ有名な蔵馬VS海藤(五十音が一つずつ使えなくなっていく心理戦)のような、特別な戦いが輝いて見える。『ハンタ』の心理戦はもはや名物となっているが、言い換えれば従来の少年漫画にある「力と力のぶつかり合い」ではなく、「精神と精神のぶつかり合い」を視覚的に示してきたのが冨樫義博先生なのだ。

 

何が言いたいかというと、幽白においてアクションが最たる魅力となることはあまりないということ。キャラクターやストーリー、テーマが持ち出されることはあっても、アクションに目が向けられることはあまりない作品だったように思う。しかし、そんな幽白のアクションに焦点を当てたのが今回の実写版なのだ。幽白においては希薄ですらある少年漫画としての熱量を、アクションの見応えによって担保してくる。言わばこの実写版の幽☆遊☆白書は、冨樫先生とは真逆の製作陣が作った新たなる『幽☆遊☆白書』なのだ。幽白実写化に対してこのアプローチを世界向けで出してこれるのは彼等しかいないのではないだろうか。そう思わせてくれるほどのまさかの着眼点であり、その上でアクションやVFXが本当に圧巻なのである。『ゴジラ -1.0』で日本のVFXが評価されつつあるこの流れで物凄い実写化が来たということが既に嬉しい。

 

全話を観た上でやはり印象に残るのはアクションなのだが、次点でストーリーにも触れておきたい。驚くべきは原作再構築の巧さである。漫画はそもそも連載されるものであって、最初から展開の何もかもが決まっているわけではない。読者人気を取るために露骨に路線を変えることもあれば、人気投票で上位を獲得したキャラクターに焦点が当てられることもある。それが作品を盛り上げることになることもあれば、迷走を感じさせてしまう結果に繋がることも。その上で実写化の際には、それをどう作品に落とし込むのか、新たに物語を整理するにあたってどう取捨選択を行うかを私は重要視している。個人的には漫画の展開をひたすらなぞるだけのものは面白くないので多少なりオリジナリティがあるほうが好みだ。そしてこの実写版幽白は、とにかく原作の圧縮が凄い。かなり端折りながらたったの5話で原作の暗黒武術会編までの物語をやり切ってしまう。爆速…爆速である。

 

しかし、幽助VS戸愚呂(弟)のバトルをクライマックスとして盛り上げるための要素はちゃんとピックアップしていく。いやむしろ、そのバトルへの感動に特化させるための幽白と言ってもいいかもしれない。桑原・蔵馬・飛影との共闘がたったの5話なのにしっかりと盛り上がり、ほとんど出てきていないはずの戸愚呂ですらビジュアルに頼るばかりでない感動を生んでくれる。もちろんそこに超絶アクションが説得力を持たせてくれているのだけれど、それを差し引いても原作の再構築が本当に上手い。取捨選択の巧みさに感動してしまった。多分この実写版を観て、四聖獣が出てないとか蔵馬と鴉のバトルが違うとかそういう細かいところを挙げちゃう人は、根本的に実写化作品の視聴に向いていない。そう言えるくらいに再構築が素晴らしいのだ。

 

第1話で登場した人を操る虫(魔回虫)は本来四聖獣の朱雀の使い魔だったのだが、実写では魔界のゲートが開いたことにより現れた存在となっており、その魔回虫が幽助に助けられたいじめられっ子に憑依して人々を襲う。また、幽助を轢き殺した車の運転手さえも魔回虫に乗っ取られていたという設定を作ることで、幽助と妖怪の間の因縁を手っ取り早く構築するこのスピード感。幽助が生還を果たすまでには原作1冊分になるのだが、気弱ないじめられっ子が無理矢理街を破壊する描写だけで悲哀が生まれ、「彼を救いたい」と幽助と視聴者の感情がリンクする。合間には蛍子が幽助の遺体を守るために火の中に飛び込む原作ノルマもこなし、更に友達を傷つけられて怒る桑原もしっかり描写されていく。第1話は幽助が甦り霊界探偵になるというだけでなく、彼のライバルである桑原が正義に目覚めていく物語にもなっていた。

 

続く第2話では剛鬼を倒し、蔵馬と幽助が和解。幽助が蔵馬と和解するのは原作通りだが、それに対して魔回虫の一件で桑原が「妖怪を信じるのかよ!」と幽助と対立するのが面白い。原作では三枚目キャラとして、重要人物でありながらかなりギャグ的に成り上がってきた桑原和真の成長に、こんなにも地に足のついたドラマを与えてくれるとは……!街で人とすれ違ったら挨拶をする桑原。友達の怪我を病室の廊下から見て言葉を失くす桑原。このような桑原の扱い方だけでもう満点を出したいくらいである。

 

第3話は幻海との修行。場所のせいでマトリックス感が出てしまっていたが、言わば原作の乱童編を端折った形。修行には桑原も同行し、なぜか彼は炭治郎のように岩を斬ることを命じられる。霊界探偵になった理由を「生き返る条件だったから」と答える幽助を「その程度の覚悟で?」と諌める幻海がよかった。というか幻海役の梶芽衣子さん、76歳なのか…。無事に幻海から奥義を授けられる修行編だが、幽助達が去った後に戸愚呂(弟)が現れる。たった1エピソードなのにしっかり爪痕を残せる幻海。でも登場から死亡までのスピード感で煉獄さんを超えることになるとは。地味に飛影と幽助の決着がつかないままで、飛影の格が落ちてないのも良かった。

 

4話は蔵馬VS鴉、飛影VS武威がメイン。原作の暗黒武術会編での彼等の戦いを一戦にまとめたかのような形。この辺りは強火原作ファンだと結構キツいかもしれない。妖狐蔵馬が見られたのは嬉しいけど、さすがにどんぎつねすぎて笑ってしまった。いい実写化だとは思っているが、総じてキャラクターのビジュアルはかなり映像から浮いて見えてしまうかもしれない。幽助や桑原のビビッドカラーの制服もそうだし、蔵馬なんてあの見た目だったらどう見ても妖怪だろう。妖怪とまでいかなくとも、変な人だなあとは思ってしまう。映像の色味が控えめで物語もかなり現代的になっている分、あのビジュアルはちょっと目立ちすぎているように見えた。でも志尊淳のどんぎつねは結構見たい人多いと思うのでそういう意味では楽しかった気がする。

 

最終第5話。戸愚呂(弟)と幽助は初対面なのだが、幻海を殺した相手であることから因縁はバッチリ。綾野剛戸愚呂のビジュアルは笑えるほど面白くはないが、全く笑えないこともないほどつまらなくもないという中途半端さ。けれどバトルが圧巻なので全然やり過ごせてしまう。それぞれの戦いを終えた飛影や蔵馬も参加しての戸愚呂戦。最終決戦へのルートがここまでの4話でしっかりと描かれていたので素直に面白かった。期待してた通りの着地をしてくれた感じ。死後の戸愚呂と幻海の会話もちゃんと挟まれていて良かった。

 

もちろん細かい粗を探せばいくらでも言うことはできると思う。原作の多くを端折っているので、不満が出るのも全然仕方のないことだろう。しかしそれでも、アクションを最重要視した演出と勢いに特化した物語のスピーディーさは、原作やアニメの幽☆遊☆白書にはなかったもので、同じ物語なのに全5話を前のめりに観てしまった。

 

特に桑原である。幽助のライバルであり永遠の三枚目キャラクター。原作はここから更に重要な役割を担っていくことになるのだが、それまでも幽白において欠かせないポジションに位置している。しかし、リアリティラインが高めの原作では彼の三枚目感は薄く、原作のような魅力を醸し出すには至っていない。だがこの桑原は、まるで原作の桑原から丁寧に逆算したかのように緻密で些細な描写で、その正義感が際立っていた。街で挨拶をする桑原、火傷した友人の苦しむ姿を見て言葉を失う桑原、人が傷つけられるのを黙って見ていられない桑原。幽助の覚醒よりもこっちに興味がいってしまうくらい、この作品は桑原和真というキャラクターの積み重ねを丁寧に行なっていく。少なくとも蔵馬や飛影よりは存在感があったし、幽助の相棒としても完璧な立ち位置。演じた上杉柊平はオーディションで役を勝ち取ったとのこと。確かにメインキャスト発表で1人だけ知名度が低く、自分も「だ、だれ???」となってしまったが、既にドラマの『18/40』を観ていたので深キョンの彼氏か〜と嬉しくなってしまった。この桑原、間違いなく彼の代表作になっていく気がする。

 

ギャグ濃度はかなり控えめだし、画面の落ち着いた色調のおかげでかなりダークな物語のイメージがある本作。この角度の幽☆遊☆白書は冨樫先生からは出てこないアプローチな気がするので、そういう意味でも別角度からのファンを取り入れる力のある作品だなあと思った。最初に度肝を抜かれたのはやはり幽助が車に轢かれるシーン。ありがちな「あぶな~い!」というスローモーションなどなく、躊躇も慈悲もなしにあっさりと車に轢かれる幽助。既にXでは多くの方が言及しているけれど、この車に轢かれるシーンが「この幽白はこういう路線でいきます!」と視聴者にしっかりと明言してくれるかのようだった。映像から伝わる悲惨さが、幽助や桑原の戦う覚悟に説得力を持たせてくれる。たった5話だが、こうしたグロテスクさに甘えを許さない姿勢が、物語をうまく引き立たせているようにも思う。

 

スピーディーさでどんどん観られたものの、充分に面白い出来だったので四聖獣編や暗黒武術会をすっ飛ばしてしまったのがちょっと勿体ない気もしている。このクオリティで観られるのなら原作の更に先の物語もぜひ実写化してほしい。というかあのメイン4人でオリジナルの霊界探偵編をやってくれてもいい。きっとアクションたっぷりになるだろうし、元々そういう短編の良さが幽☆遊☆白書の魅力でもある。何ならここから「実写化Netflixドラマ」の流れがきてほしいという気持ちさえ生まれてしまった。幽助が煙草を吸うシーンなど、きっと映画や地上波では観られないだろう。そういう制限なしに縦横無尽に、自由に作品を作れるというのは、実写化と非常に相性が良いのかもしれない。ひとまず仙水編を待つことにする。