映画『イン・ザ・プール』評価・ネタバレ感想! あまりにもゆるすぎるコメディ

イン・ザ・プール

 

悲惨な形で話題となってしまった『大怪獣のあとしまつ』。私も公開初日に観に行ったが結果は酷いものだった。面白いか面白くないか否かという問い以前に、何だかモラルや品性みたいなものを問われているような気がして、どうしても受け付けられなかったのである。三木聡監督作品であったことは後から知った。

 

私は(既にほとんど内容を覚えていないが)、ドラマ『時効警察』はとても楽しんで鑑賞できた。独特のセリフ回しと雰囲気。ほどよく緩いキャラクターが織りなすシュールギャグにクスッとなりながら、事件解決を楽しめるとても良い作品だと思う。しかし『大怪獣のあとしまつ』に関しては、そうしたギャグの方向性が全てマイナスに作用してしまい、結果的に令和という時代に合わない、前時代的な道徳観ばかりが強調される形となってしまった。特撮作品好きとして、「怪獣を倒した後の物語」にかなりの金額を費やした邦画が観られると期待したのだが、三木監督はきっとこういう大きなスケールの作品は合わないのだろう。その上で少し後に話題になったプロデューサーたちのインタビューを読み、私の『大怪獣のあとしまつ』に感じた思いに関しては、全てプロデューサー2人のせいだということにした。観客を小馬鹿にした態度が本当に鼻についたので。

 

 

 

 

そんな三木監督の作品、実はほとんど観たことがないなと思い、長編映画初監督作の『イン・ザ・プール』を鑑賞。しかしこれが思った以上にキツイ作品だったので、もしや三木監督は映画と相性悪い…?とまで思ってしまっている。これから他の作品もチェックするつもりではあるが…。

 

イン・ザ・プール』は、伊良部という精神科医の男を主人公に据え、3人の悩める者達の姿を描いたコメディ映画である。ストレス解消に通い始めたプールがいつの間にか欠かせないものになっていく大森、妻が登場する淫夢を見た後に広辞苑股間に激突し勃起が収まらなくなった田口、ガスを消したかという不安から強迫性障害エスカレートして仕事に支障をきたすようになった岩村。悩みに向き合おうとする3人と、常にふざけた態度で医師としての風格を一切感じさせない奇妙な男、伊良部が物語を進めていく。

 

…のだが、個人的には本当に申し訳ないのだが、特に何かを感じることができなかった。もちろんコメディ映画であり、大きなテーマというのがこの映画のキモではないということは分かっているのだが、それでもやはり「物足りない」というのが第一印象。この作品が直木賞候補にもなった短編集を原作にしていると聞き、映画への残念感はより一層強くなってしまった。

 

まずは仕組みについて。『イン・ザ・プール』という作品ながら、プールに関係するのは田辺誠一演じる大森だけである。一応途中で伊良部がプールで迷惑行為を働く描写があるものの、そもそも大森はラストシーンまで伊良部の元を訪れない。それもそのはず、原作に短編の3作を同時並行という形で映画化したためである。岩村なんかは性別も変わっているらしい。それならもっと良いタイトルがあっただろうなと思ってしまう。田口と岩村、そして大森の間に明確に扱いに差が生まれているような気がして、どうにも収まりが悪いのだ。

 

しかも3作が本当に同時並行するというだけで、3人の物語がリンクすることは一切ない。もちろんリンクさせればよいというものでもないのだろうし、原作の順序を入れ替えていくだけで成立するのも分かるのだが…。それでもやはり、世界観が繋がる気持ちよさを、こうした作品には求めてしまう。3人の人間を繋げるのが、伊良部という精神科医だけというのはあまりに勿体ない。悩みを抱える者同士の葛藤などあっても良かったのではないだろうか。

 

更に言うなれば、この伊良部という医師の性格が結構きつい。私なりに調べたところ、原作ファンからも伊良部の描写については不満の声が多く上がっていた。「伊良部はこんなやつじゃない」など。正直なところ原作を読んでない私でも「そうだろうな…」と賛同してしまうくらい、映画の伊良部は適当すぎるのだ。映画のあらすじに「テキトーな診察でお気楽に過ごしている。だが何故か彼のもとには、引き込まれるように患者が次々と訪れる~」みたいなことが書かれていたのだが、その「テキトー」にステータスを全振りしてしまったようなキャラクターにしか見えなかった。

 

要は一見おふざけに見えるようなことが巡り巡って患者の治療に繋がる~みたいな緩さを求めていたのだが、それにしてはあまりに品性に欠けており、勃起で悩む田口をイジり続ける描写などは、コメディを通り越して不快なものまで感じてしまった。しかも質の悪いことに、その伊良部のおふざけは全て、「三木監督節」に集約されてしまっている。『時効警察』を観てしまっている私には、伊良部の行動を伊良部のキャラクター性として捉えることができず、いつもの三木ワールドの登場人物にしか思えなかったのだ。

 

時効警察』はやはり比較的落ち着いたキャラクターである程度礼節をわきまえている霧島という男と、周囲の変人達という関係性が心地よかったのだろう。変人枠を主人公に据え、尚且つ彼の治療で周囲の悩みが晴れていくというこの映画は、どうしても相性が悪かったのかもしれない。伊良部の「天才医師ぶり」を全く堪能することができず、正直田口がなぜ伊良部にキレなかったのか不思議なくらいなのだ。

 

とはいえ、面白くないわけではない。短編小説の奇妙な面白さはしっかりと残っており、特に3人のキャラ造形は秀逸。おそらく演者の良さもあるのだろう。私はオダギリジョーが好きなので、田口の苦しみが声や表情一つ一つから伝わってくる面白さを堪能することができた。彼が最初に診てもらった医者に呼び出され、研究材料としていいように扱われたことを知りブチギレるシーンは、どこか感動すら覚える名シーンであったと思う。オダギリジョーは声や表情が優しい分、感情を発露した時の演技には本当に心を打たれるのだ。

 

岩村も大森も。三者三様の悩みによって人生がちょっとずつ壊れていく姿は面白い。原作を読んでいないのだが、目の付け所が非常に独特で感性を刺激されるのだ。これが映画のおかげなのか、それとも原作の旨味なのかは分からないが…。

大森の話は妻も性病の薬を飲んでいた、というオチも良かった。こういうコメディっぷりに加え、もう少し群像劇みたいなものを味わいたかったのが本音。

ザブングル加藤が端役で出演していたり(ザブングルは解散しちゃったけど…)、既にふせえり江口のりこなど、三木監督お馴染みの面々が揃っているのも楽しい。真木よう子のちょっと棒読みな演技も、初々しくて良かった。オダギリジョーときたろうの共演は、『仮面ライダークウガ』を連想出来て楽しくなる。

 

ベテラン俳優が多く出演しているだけに、そうした楽しみも多く、時間も短いのでダラダラと観るにはちょうど良い。同じ原作のドラマもあるようだが、逆にこの作品を三木監督が連続ドラマ化していたら、結構化けていたのではないかという思いもある。小気味よく悩める人々を解決に導いてくれる伊良部の良さも、連続ドラマならもっと好きになれたかもしれない。

 

何かを求めるとどうしても粗が目につく作品だが、気楽に楽しむには打ってつけな映画であった。評判等を聞いて比べてみたくなり、つい原作をポチってしまったので今から読むのが楽しみである。