映画『ランナーランナー』評価・ネタバレ感想!ギャンブルとワニは恐ろしい

ランナーランナー(字幕版)

 

ブラッド・ファーマン監督の『L.A.コールドケース』がもうすぐ公開ということで、同監督の過去作の中で唯一アマプラに入っていた『ランナー・ランナー』を観た。オンラインカジノを題材にした実話モチーフのサスペンスだそうで、主演のジャスティン・ティンバーレイクがダイスをこちらに投げているかのようなポスターがかっこいい。オーナーを演じたベン・アフレックは何でちょっと斜め上を観ているのだろうか。完全にバットマンの時の顔つきをしている。

 

レオナルド・ディカプリオも製作に携わっているそうだが、特に出演はなし。他にはMCUでファルコンことサム・ウィルソン役を演じているアンソニー・マッキーがFBI役で出演。本国での公開が2013年。MCUの大成功によりヒーロー映画が鎬を削り始める中で、ファルコンとバットマンが共演していたというのは、ちょっとテンションが上がる。主演のリッチーは『ソーシャル・ネットワーク』などに出演したジャスティン・ティンバーレイク。個人的には寿命がお金に代わって通貨となるSF作品、『TIME』で坊主頭の主人公を演じていた印象が強い。

 

 

 

 

調べてみると、「お金の使い方を学べる映画」として、何やら投資系のYoutuberがオススメしていたりもする。オンラインカジノが題材ということが大きく関係しているのだろう。ただ実際に観てみたところ、意外にもそういう部分は薄い。そもそもカジノと聞いて一般的な人が連想するのはポーカーやルーレットなどの分かりやすいモチーフだと思う。だが、これはあくまでオンラインカジノの話であり、悪党と刑事の板挟みになった主人公の物語なので、それほど「お金!」「カジノ!」という印象はない。何ならポスターでリッチーがダイスを投げているのが不思議なくらいである。

 

総じて言うと、残念ながらあまり印象に残らない映画だった。自業自得ながら絶体絶命の状況に追い込まれる主人公のハラハラ感が見どころなのだと思うが、全体的に駆け足でモノローグでの説明が多く、キャラクターが掴みづらい。突出してよかったシーンもなく、「こう終わるだろうな」という綺麗な着地をすっと決め込んでしまう。悪にいいように操られる主人公の話なら、もっと「スカッと」が重要なはずなのだが、「頭が良い」と評価されていた主人公のその頭の良さをあまり感じられなかったのが残念である。

 

大学の学費を払えずにオンラインカジノアフィリエイトに手を出すリッチー。それが大学にバレて窮地に陥り、遂に彼はオンライカジノに本格参戦。全貯金を費やすものの、結果は大負け。しかしその負け方に疑問を抱いたリッチーは、不正の証拠を掴み、カジノ王のブロックに直訴する。

 

と、端的に書いたこの冒頭エピソードが10分程度で終わってしまう。しかもブロックは彼の人柄の良さと頭の良さを認め、破格の報酬で彼を雇いたいと提案してくるのだ。そしてその数分後には月日が経ち、完全にブロックの舎弟となるリッチーの姿が。あまりのスピード感にこっちが驚いてしまう。90分ほどで完結する映画は結構好きなのだが、あまりに駆け足で、リッチーとブロックの人間性がまるで頭に入って来ない。

 

リッチーがお金がなくて困っているのは分かるが、彼は単に学費を稼ぐために周囲の人物を利用していたに過ぎない。そこに同情の余地はなく、正直あまり共感できないキャラクターだ。対するブロックは怪しさ満点。というかカジノのオーナーで胡散臭い話を持ち掛けてくるというだけでもうアウトだろう。いくら耳障りの良いことを並べたてられたとはいえ、その誘いにすぐに乗っかるリッチーを「頭が良い」と評価できないのが本音だ。終盤のセリフからしても、ブロックはこの時点で既にリッチーを馬鹿扱いしているのが分かる。そう、リッチーは自分のことを頭が良いと思っているタイプの馬鹿なのだ。きっと大学の勉強も単にうまくこなしていただけなのだろう。もしくは学校では強いが社会に出ると弱いタイプなのかもしれない。

 

そんな中でリッチーは突然FBIのシェイバース捜査官に拉致される。そう、アンソニー・マッキー演じる型破り刑事の登場だ。ブロック逮捕のためなら手段を選ばない。多分空を飛んだり左から失礼したりもするのだろう。拉致や恐喝も平気で行い、ブロック逮捕への執念が伝わってきはするが、どうもブロックとの因縁は薄い。使命感が暴走してしまっているタイプの熱血刑事のよう。

 

解放されたリッチーになんやかんやあり、ブロックはギャンブル界を牛耳る男に賄賂を渡して来いと、彼に命じる。しかしブロックが用意した金が足らず、リッチーはボコボコに。ブロックに苦情を訴えるリッチーだったが、「殴られることくらいある。俺の命令は絶対」という独善的な態度に愛想を尽かし、逃亡を決意。遅い、あまりに遅いぞリッチー。気付くタイミングはもっとあったはずだ。しかしこれまで甘いマスクで決め込んできたブロックが、遂に本性を現すのは結構迫力があってよかった。さすがベンアフ。

 

しかし決死の逃亡はシェイバース捜査官によって妨害される。麻薬所持の冤罪を着せられたリッチーは、彼に協力せざるを得なくなった。ブロックが多くの部下を(おそらく)従える中で、シェイバースがリッチーを選んだのは、きっとリッチーが馬鹿だからだろうな…と邪推してしまう。周囲から見下されまくり利用されまくっているが、当人は自分のことを賢いと思っているだろう彼が健気だ。でも、そういう気の良い馬鹿だからこそ、オンラインカジノという裏の世界に飛び込んでいく中で、世の中の理不尽や社会の負の側面を見ながら葛藤していく彼がもっと見たかったなあとも思う。そうした精神的な面があまり出ないのがこの作品の微妙なところだ。

 

しかも素晴らしいタイミングで部下がブロックの不正の証拠を発見。これをシェイバースに流せば全ては丸く収まる…というタイミングで、リッチーはギャンブル依存症で方々に借金をしている父親の存在を、ブロックに知られてしまう。父親の金を肩代わりされ、実質人質状態。

 

部下からの電話を受け、彼の元に向かう途中、リッチーはブロックの部下に連れられ、とある川に。ここでカジノ界を牛耳る男を拷問するブロックのシーンが、この映画のハイライトかもしれない。鶏の脂をぶちまけ、腕を縛った状態でワニのいる川にぶち込む。ONE-PIECEのクロコダイルの手法である。カジノという点も共通しているが、何か元ネタがあるのだろうか。

 

 

 

 

結局部下も襲われた後であり、ワニ拷問を見てしまった以上、急がなくてはならなくなったリッチー。更にFBIからも48時間以内に証拠を出せと脅され、後がなくなる。そしてラストシーン。リッチーを見捨て警察から逃げて国外逃亡を果たしたかに見えたブロックだったが、到着したのはアメリカの領土であるプエルトリコだった。そう、リッチーは全て計算の上で、ブロックを罠にはめたのである。「痛快!」とはいかないまでも、まあ最後はリッチーがブロックを倒すんだろうなあと予想はできていたので、変な方向に話が向かわなくてよかったという安心感がある。その上FBIの目を盗んで自らは女としっかり逃亡。あれほど馬鹿扱いされていたリッチーがこんな大成功を収めるのは、妙に感慨深いものがあった。それも全て女のおかげなわけだが…。

 

とまあ、自分を利用する巨悪をぶっ潰せ!みたいな話で。傲慢なキャラクターが一気に堕ちる様を見るのは、ブロックについてもリッチーについても多少の爽快感はある。ただ、物語の落としどころが王道なだけに、もっとキャラクターを積み重ねてくれれば、大きく跳ねたのかなあとも思ってしまう。リッチーの父親がギャンブル依存症だったなら、リッチーのアホさは遺伝だったのかなとか、そんな所に気が行ってしまう映画だった。父親を人質に取るというのは確かに理に適っているけど、息子を捨ててギャンブルにのめり込むような父親なら、何かしら葛藤があってもよさそう、とか。もうちょっと話を膨らませてほし~みたいな気持ちが残ってしまった。

 

一番良かったのはやはりワニだろう。死人まではでなかったが、やはりムカつく奴をワニに食わせるというのが、ちょっとこの映画のギスギスした雰囲気と乖離するレベルの衝撃で一番インパクトがあった。というかブロック、もっと大々的に悪いこととかしててもいいのにな…。悪の親玉感が薄いのも残念。

 

ただオンラインカジノのことを全く知らないどころか、ギャンブルにすら興味のない私にとっては、一つそういう分野への知識を持てる入り口にはなったかなと思う。オンラインカジノは日本でも違法性はなく、何なら結構流行しているらしい。映画でも言っていたが、家から一歩も出ることなく全財産を失う可能性すらあるそうだ。恐ろしい話である。

エンディングはトランプがKから順に1枚ずつめくられていくのだが、映画自体に言うほどカジノ要素がなかったので「ここでカジノ感を取り戻そうとしているのか…!?」と驚いてしまった。巨悪を打ち倒す爽快さも弱かったが、やっぱりオンラインカジノとはいえ、カジノでよくあるポーカーのシーンなんかが全く見られないのは少し残念。リッチーとブロックが途中で対決するとかでもいいのに。まあブロックがギャンブル強いとは限らないが…。

結果的には印象が薄かったが、オンラインカジノが題材というだけでも観る価値はあるかなと思う。