どうも、翔太郎の「まだはえぇよぉ!!!!!」で絶対号泣する男です。
いやあ、『風都探偵 仮面ライダースカルの肖像』、とんでもなく面白かった。TVシリーズの第1話冒頭で描かれた部分を『ビギンズナイト』で詳しく描き、漫画版『風都探偵』の第6巻で更に描写が加わり、何ならTVアニメ版の冒頭でもWの最初の戦いが描かれていて、全部追いかけているこちらとしては仮面ライダーWの始まりの物語としてお馴染みなはずなのに、それでもまだまだ面白い。無限に味がする。『風都探偵』が決してあっさりと決まった企画でないのは今作のパンフレットや入場特典のインタビューからも明らかなのに、Wの続編なら誰もが待ち望んでいるだろうしスッと決まって永遠に展開されるんだろうなあという不思議な信頼がある。『仮面ライダーW』の世界観の奥行きはそれくらい果てしないものだなあとしみじみ感じた。かく言う私は風都探偵の漫画を毎回発売日に買っているにも関わらず読むのが億劫になっていて、つい先週まで3巻くらいまでしか読んでいなかったのである。アニメ版は観ていたため、放送当時には読んでいた分を既に追い越されていた。しかし今回新作映画ということで改めて貯蓄本をどんどん読んでいったところ、あまりの素晴らしさに舌を巻く。素晴らしいというか、塚田Pが監修していて三条さんがシナリオを担当しているのだから当然なのだけれど、それでも『仮面ライダーW』の物語から地続きで風都という世界が息づいていることをまざまざと思い知らされた。結局時間が取れずまだ13巻までしか読めていないのだが、逆にすぐに読めるWの続編があと4冊もあることが素直に嬉しい。
そんな中でも今回映像化された第6巻はかなり特異な単行本だと思う。『風都探偵』自体が実写テレビシリーズの続編の漫画という変化球なわけだが、第6巻に関しては映像(主に2作の映画)で描かれた部分も多く、翔太郎と壮吉の出会いなど、映画から更に色々なものが加わることで成立している。映画を観ている人にとっては「知っているのに知らない」という稀有な読書体験が可能となるユニークな1冊。設定補完のレベルは超えているため、物語として純粋に楽しむことができるのだが、知らないこともどんどん飛び出し、正に「ゾクゾクする」単行本になっている。そして、そんな1冊をアニメ化したこの『仮面ライダースカルの肖像』は、単に漫画に色や音がついただけに留まらない、凄まじい力を持っていた。アニメ版の時点で既に信頼は完ストしていたが、これは更なる続きにも期待がかかる。
内容自体はほとんどが漫画版のアニメ化で、既に実写でも映像化されているため、あらすじの紹介は省きたい。だが、やはり触れておかねばならないのは映画におけるオリジナル要素、大嶋凪とサイクロンスカルだろう。
大嶋凪、いやあまさか新たに園咲冴子の男が出てくるとは…!
霧彦、井坂、加頭と、『仮面ライダーW』は冴子の男が退場していくのが物語の指標にもなっていたが、ここに来て新たな男が登場。しかもTV版最終話で登場したオーシャンメモリの使い手。オーシャン・ドーパントの姿まで拝むことができるなんて、作り手はどうしてここまでファン心理を理解できているのか。直前に第6巻を読んでいたこともあって、漫画にはいない大嶋の、印象付けに必死な登場(ピアスキラーン!)に笑ってしまったわけだが、更に福山潤の声で喋るのだからこんなキャラに惹かれないはずがない。明らかに他の黒服とは異なる正統派イケメン(パンフレットに拠ると吉沢亮のイメージだそう)で、冴子との距離感もどう見ても近い。散り際にはずっと局長と呼んでいた彼女のことを「冴子…様…」と親し気に呼んでおり、ただならぬ関係であったことが窺える。ときめが公園の噴水でシャワーを浴びているなんてヤバい描写をしてくる『風都探偵』なら、せっかくの映画だし大嶋と冴子のベッドシーンくらいはやるんじゃないかと予想していたが、さすがにそれはなかった。じゃあ日曜朝8時にタブーを舐めまわしてた井坂は一体何だったんだ。ただ、細かいニュアンスで冴子との関係を匂わせる筆致は見事で、彼が倒されたと分かった後の冴子の非情さもいい味を出していた。風都探偵で園咲家が登場することは回想シーン以外にはあり得ないはずなのに、ここに来てTVシリーズのキャラクターの解像度まで上げていく。何と丁寧な作品なのだろう。オーシャン・ドーパントの実写TVシリーズではまず不可能な描写も良かった。海と一体化したような巨大な下半身。そこからの能力バトルの趣は、漫画版でもはやお馴染みとなっており、スカルの活躍と悲劇が続く映画の中で、「これはWの物語だ!」ということを強調してくれる。絶体絶命のピンチの中で助けに来るのがハードスプラッシャーというのも面白かった。仮面ライダーWが他のライダー作品よりもバイクや乗り物描写に重きを置いていたからこそ、あの助け舟が効いてくる。他のライダーだったら「本編であんまり活躍しなかったバイクだ!」とか思っちゃうところだったけれど、Wにおいてビークルは大切な相棒なので違和感が全くない。挿入歌で『W-B-X』が流れるのも卑怯。
冴子関係でもう一つ言うと、とにかくタブー・ドーパントの描写が圧倒的だった。スカルの物語とあればビギンズナイトで壮吉が戦ったタブーの描写を詰めていくのは確かに正論なのに、その突き詰め方が凄まじい。実写ではプカプカ浮いているのが特徴的だったタブーが、アニメだと問答無用で全身がウネウネと動いている。特に頭の中の小さな女の子!タブー自身の動きと連動している姿がかわいらしく、目がずっとあの女の子に向かってしまった。実写ではまずできない表現なので、こういう演出にアニメーターの遊び心を感じる。スカルとタブーの戦いも体感ではかなり足されていたと思う。大嶋の件も含めて、冴子周りがかなり充実した映画だったと言えるのではないだろうか。
続いてサイクロンスカル。大嶋とオーシャンは予告編にもいたのである程度準備ができていたのだが、こちらはまったくのサプライズ。万灯の脳内シーンであるにも関わらず、あのヌルヌルとした動きは一体なんなのか。配色はサイクロンジョーカーとそこまで変わらないのに、佇まいが違って見えるのがすごい。CJだと背後から出ているだけのマフラーも、サイクロンスカルだとちゃんと首に巻き付けられているのか…とか、とにかくじっくりWの新フォームを堪能できる極上の時間。サイクロンアクセルエクストリームが画面にチラッと出てきた時の興奮を思い出させてくれる。しかも決め台詞まである。あまりに贅沢、贅沢すぎる…。というかこれはもうバンダイが既にFiguartsとか作っているのではないだろうか。それくらい入念というか、露骨というか。「はい、新フォームの販促タイムです!」みたいな強さも感じられてめちゃくちゃ面白かった。物語上、壮吉とフィリップの変身は実現不可能なわけだが、見たいか見たくないかで言われたら絶対見たい。
他にも『Nobody's Perfect』をちゃんと流してくれるとか、幼い翔太郎が鳴海探偵事務所に続く階段を上がっていく一人称視点とか、タイトルロゴ背景のスカルマークがスパイダー・ドーパントと戦う壮吉の横顔に重なる演出とか、岡元次郎とか!もうキリがないくらい素晴らしいシーンが敷き詰められていて本当に最高。オリジナル要素までしっかりと存在し、アニメーションでもとにかく楽しませてくれる。理想的かつ緻密なアニメ版のビギンズナイトだった。放送終了からもう15年近くなるのにまだこんなに自分の心を魅了してくれる仮面ライダーWに心から感謝したい。何ならこれを観て、TVシリーズ全49話や他の劇場版、Vシネなんかも全部アニメ版で観たくなったくらいである。あんなに活き活きとしたタブーを見せられたら、Wvsナスカとかもアニメで観たいと思うのは必然。実現はしないだろうけれど、それをやってくれても全然嬉しいくらいにアニメスタッフへの信頼値が上昇した。早く2期や3期も決定してほしいところだが、パンフレットのインタビューを読むにやはり椛島さんがお忙しい状況なのだろうか。でも何年でも待つので絶対にどんどん映像化してほしいところ。そしてまだ私には読んでいない風都探偵の単行本が4冊も残されているので、しばらくはW漬けになりそうである。
映画館で発売されていた2種の資料集、ネット通販でも購入できるので逃した方は是非(金額が金額なので、自分もいつか買おうと思いつつ機を逃している…)
また、こちらからは製作陣の貴重なインタビューを読むことができる。初見の情報も多かった(平成2期ってワードが塚田P発信って話、どっかで聞いたような初見のような)。