スーパーヒーロータイム語り ギーツ第2話・ドンブラ ドン28話

仮面ライダーギーツ』もいよいよ2週目。対する『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』は、タロウとソノイが決戦を終え、なぜかイヌブラザーを軸にしたゲスト回。どちらが良いというわけではないが、今週は『ドンブラザーズ』が強すぎた。あまりに井上敏樹過ぎる。正直泣いた。

 

先週分はこちら。

 

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仮面ライダーギーツ 第2話「邂逅I:宝探しと盗賊」

第1話はまさかのデザイアグランプリ最終戦を見せ、主人公の英寿が優勝。事前情報でデザイアグランプリのことは知っていたものの、まさかの繰り返し行われるシステムに驚かされた。そして、英寿が理想の世界「自分が世界スターになっている世界」を実現させ、景和達も巻き込んだ、新たなデザイアグランプリがスタート。今週で、私の『ギーツ』への想いは大きく変わることとなった。

 

第1話は、事前情報を入れている自分のような特撮ファンの度肝すらを抜くために、「デザイアグランプリ最終戦」という展開からスタートしたが、もしかすると『ギーツ』としてはかなり無理をしていたのかもしれない。そう感じたのは、第2話があまりに手堅かったからである。

 

平成2期以降の仮面ライダーはとにかくスピーディーな展開がウリになっていた。それは固定ファンが玩具の販促や例年の傾向から、ある程度物語を割り出してしまうせいもあるだろう。それを超えるため、とにかく迅速に設定とキャラの紹介をこなす。『ギーツ』と同じ高橋脚本はその最たるものだったように思う。もちろんスピーディーな展開は飽きを防いでくれるが、同時に息つく暇もないほど目まぐるしく動く展開というだけで、食傷気味なところがあった。『W』から『ウィザード』まで、お悩み相談2話完結フォーマットが続いていた頃、それはそれで辛いものがあったが、今ではあのフォーマットすら懐かしい。

 

しかしこの『ギーツ』。お悩み相談をやるでもなく、「本気でデザイアグランプリをやろう」という気概が見えてきた。もちろんクリスマスを過ぎた頃にはまた大きく動いている可能性はあるが…。なんというか、実直にデスゲームものをやりたいんだなあというのが強く伝わってきたのがこの第2話だったのだ。もっと俗的に言うのなら、「マガジンで連載されてそう感」というか。

ネットでも『GANTZ』との類似点が取り沙汰されていたが、「優勝者は願いが叶う」というだけで戦いに放り込まれポイントを稼ぐことになる展開は、正に『GANTZ』そのもの。ライダーバトルを最初に大きく打ち出した『龍騎』ですら、人の命を護ることを当初から真司に主張させていたのに、『ギーツ』はそれさえもしない。仮面ライダーとしてはかなり革新的な作品である。

 

一方で、デスゲームものとしては目新しさはほとんどない。ベテランのチート系主人公、命が奪われていくことや戦いが繰り広げられることに戸惑う平和主義者、感動エピソードを持つおっさんのあっけない死、謎だらけのゲーム。マンガやアイドルの主演映画でもう何度も観たこの流れが、日曜朝9時に「仮面ライダー」の名を冠して放送されるというだけで、これほどまでにワクワクさせてくれるとは。

 

話の構造さえもが、これまでのシリーズと一切異なるので、どう物語が動くのか予想ができない。もっと言うと、ここ数年のライダーに顕著だった生き急いでる感じが一切ない。序盤に重要な設定を提示し、伏線を張り、キャラクターを魅力的に動かす。まるで第5話辺りからが本番でしたと言わんばかりの生き急いでいる感じが一切なく、手堅くデスゲームものをやっているのはとても好印象。大仰なギャグを挟むでもなく、戦いに戸惑う景和と、謎多き英寿の魅力、そしてデザイアグランプリだけで物語を引っ張ってくれる頼もしさ。

 

おそらく『ギーツ』は、遅効性の物語なのだと思う。1話1話の爆発力は、そこまでではないかもしれない。だが、緻密に物語を練っているという感じがひしひしと伝わってくるのだ。『リバイス』が目先の爆発力を取って、整合性をおろそかにしてしまったことの反省なのだろうか。1年かけてのプランや方向性が、きっちりあるような感じがする。登場人物が多いわりにまだ謎が尽きないので、ここからが非常に楽しみである。

 

仮面ライダーギンペンは誰を救うこともなくあっさり死んでしまった。デザイアグランプリに参加した者が途中で命を落とせば、優勝者が世界を変えない限り戻ることはない。景和はその路線にいきそうだが、彼の未熟さはちょっと危うい感じもあるので、加賀美のような真っ当なヒーロー路線もありそうだし、光実のような闇堕ちもいけそう。お人好しキャラだが信念が希薄なせいで、ついていく人物を間違えるだけで敵にも味方になりそうな危うさがある。

 

対する英寿は、デザイアグランプリに優勝し、得られる理想の世界の限界を試しているのだろうか。突然巻き込まれながらもルール把握のために力を尽くすのは、『デスノート』の夜神月を想起させる。理不尽なデスゲームものにはルールの把握が不可欠だが、それが英寿がデザイアグランプリに参加する動機とどう重なるのか、これも非常に楽しみである。

 

ギンペンの息子は結果的に英寿が匿名の寄付をして助ける形に。世界中の恵まれない子供たちのためという、景和の前での言葉が一瞬にして嘘だと分かる胡散臭さが最高。しかし、きちんと子供の命は救うという律義さ。正体を明かさないことにも何か理由があるのかもしれない。ただ嘘つきでお調子者の嫌な奴というだけではなく、そこにはしっかりと信念がある。こういう主人公像を第2話にして提示できるのはすごい。

 

アクション面でいうと、やはり必殺技のバイク狐が最高。狐はやはり良い。前回はライダーキックをアシストする形だったが、ブーストを使用した必殺技で召喚できる仕様なのだろうか。タイクーンのタヌキやバッファの牛なんかも見てみたいので、この路線は続けてほしいところ。思えばウォーターやシールドなどの下位武器こそあるものの、大きなバックルはまだあまり公開されていないので、その辺りも気になる。もしかしてタイクーンが上半身と下半身をしっかり手に入れるのは、かなり先になるのだろうか。

 

ギンペンの見た目がなかなかかっこよく、明らかにヤバいキャラのダパーンの顔がデカイ。この辺のミスマッチさが面白いが、ダパーンのせいでかなり荒れそうな予感もある。ダパーン、実写化したら絶対本郷奏多が演じるやつだよ…。

 

いきなり戦いに召集されるサバイバルゲームモチーフのライダーと聞いた時には、『ドンブラザーズ』との類似点を心配していたが、実際にはかなり趣の異なる作品だった。『ドンブラザーズ』が、既存のスーパー戦隊という枠に捉われないよう、とにかく革新的な設定の末にそこに辿り着き、今はシチュエーションコメディというキャラクターの魅力で勝負しているのに対し、『ギーツ』はデザイアグランプリという設定を着実に活かし、仮面ライダーでデスゲームものに挑戦しようとしている。

 

『ドンブラザーズ』が既存の戦隊への足し算なら、『ギーツ』はこれまでのシリーズから引き算をしてこの形になったと言うべきだろうか。お馴染みのライダーバトルも排し、近年飽和状態だったベルトも全ライダー共通に。物語も大きく度肝を抜きセンセーショナルな話題になるようなものではなく、どちらかというと地味に堅実に、話を進めていく。とにかくインパクトを意識してきたのが平成・令和ライダーだと思うので、この静けさはあまりに不気味で、逆にそれが心地良かったりもする。何にせよ、ここからの展開に大いに期待できそうなので良かった。

 

 

 

 

暴太郎戦隊ドンブラザーズ ドン28話「ひみつのヒミツ」

正直に言うと、これまでで最も好きなエピソードかもしれない。タロウとソノイの決着と言う大きな節目を迎えたドンブラザーズ。閑話休題と思われたイヌブラザーメインのゲスト回が、ここまで高いクオリティに仕上がっていたとは。何かと女怪盗に思い入れのある井上敏樹だが、その中でも随一の筆力を見せてきた。単発回の爆発力だけで言うのなら、令和のスーパーヒーロータイムでは抜群の威力だろう。

 

亡くなった彼氏・武夫の遺作『秘密』を盗むため、逃亡犯の犬塚に接触する瑞穂。井上脚本お得意の、図々しい女性ゲスト。お嬢様という背景を服装と喋り方だけで見せてくる辺りが既に強い。別にお嬢様である必要はそんなになかったのだが、古めかしいお嬢様言葉と、時折見せる俗っぽい言動で、こちらは一瞬にして虜になってしまう。そして何より、お節介でいつも何かに巻き込まれている犬塚が彼女と出会ってしまうのが面白い。

 

タロウが介入すれば他のお供が参入し、ジロウが暴れ、マスターが全てを持っていくコメディチックな流れになる。しかし、犬塚がメインで巻き込まれた場合には、何故か湿っぽい流れだったり、どこか情緒を揺さぶってくるのがドンブラザーズのお約束なのだろうか。もうそこからは瑞穂と武夫の物語に、どんどん呑まれていく。オークションのシーンも、バトルシーンも瑞穂と武夫の物語の圧倒的な強さの前に成す術もない。どう考えてもこの回でやるべきではなかったトラドラオニタイジンの初登場すら、物語の厚みに持っていかれてしまっていた。

 

瑞穂への想いを描き切ることができなかったからこそ、作品を「失敗作」と言い切り、燃やしてくれと頼んだ武夫。描き切れなかった溢れる想いを最期まで伝えられなかったがゆえの「秘密」というタイトル。犬塚の言葉に促され、瑞穂は彼の気持ちに「とっくに気づいていた」と漏らす。それは結局心を通わせることの叶わなかったタロウとソノイの物語の後に出されるエピソードとして申し分ないものだった。敏樹が意図しているかどうかは難しいところだが、メインキャラをあまり絡めずたった30分でここまで素晴らしい物語を描けるのは本当にすごい。

 

自分は若干敏樹信者であることを自覚していたものの、正直これを超える回は今後ドンブラでもギーツでも出てこないのではないか…と思ってしまうほどの強引さ。『ドンブラザーズ』でやる必要を一切感じさせないエピソードが、視聴者の心を鷲掴みにしてしまうとは、恐ろしいものである。もっと肉付けをして小説化してほしい気持ちすらある。芸術を語らせたら敏樹の右に出る者はいない。『555』の「夢の守り人」などもそうだが、敏樹は人の感情を少ない言葉で表すのが本当に上手い作家なのだ。

 

「あなたのことは嫌いですわ。浮気者ですもの」「僕も君が嫌いだ、面白すぎる」

このたった2つの台詞に、登場して十数分の2人の関係性が詰め込まれている。敏樹の脚本は様々な解釈の余地を残しながらも、普遍的な愛や孤独などの感情を描いているのだ。癖のある作家ではあるものの、時に大きな爆発力を発揮する。下手をすると他のヒーロー番組が1年かけて謳うテーマを、敏樹は30分や1時間でエモーショナルに描き切ってしまう。

 

本当にお気に入りのエピソードになってしまった。そして敏樹が『ルパパト』の脚本に全く参加しなかったのが本当に悔やまれる。『ドンブラVSゼンカイ』があるのなら、敏樹を脚本に据えて少しでもルパンレンジャーの3人を書かせてあげてほしい。快盗を生き生きと書く敏樹に、これ以上うってつけの戦隊もないだろう。

 

物語はあまり動かなかったものの、変な頼みを押し付けてくるマスターの変人っぷりが際立つ。当初は前作の主人公ということもあり、どこか深味や謎を感じさせる佇まいだったが、改めて観返すともう完全に変人でしかない。この辺りの謎は今後明かされるのか…。気になるところだが、「ヒーローであり続ける者」という称号で突き通してもそれはそれでアリと思わせてくれるのがこの作品のすごいところだ。

 

次回はまさかのソノイのお葬式。確かに、人が亡くなったらお葬式をやるのが当然である。過去のスーパー戦隊でも死人は出たのに、むしろ今まで何故やらなかったのだろうか。思わぬ展開に目からうろこだが、ムラサメも大暴れしてくれそうな予感があり、期待が高まる。もうあと半年もないのかと思うと本当に辛いが、それでもまだ五ヶ月ほどはドンブラザーズを観ていられると考えると、自然と平日を生きる活力が湧いてくる。本当に今一番楽しみな番組だ。