機界戦隊ゼンカイジャー感想③ 第13カイ~第18カイ

スーパー戦隊シリーズ 機界戦隊ゼンカイジャー Blu-ray COLLECTION 2

 

1クールが終了しながらも、まだまだ登場したばかりのゾックスの暴走が止まらない。

ステイシーにも転機が訪れ、ゼンカイジャー、ゴールドツイカー一家、ステイシー、トジテンド4勢力の構図が徐々に浮き彫りになっていく第18カイまでの感想を。

 

 

・第13カイ!リサイクルすりゃもう一回!

今回の敵はリサイクルワルド。怒涛の販促…そして販促すらほとんどされていないステイシーザーの登場などでさすがに予算が嵩んだのか、ゴミワルドにリサイクルマークを付けただけの怪人を登場させ、再生怪人回をする気持ちの強さ。

 

このカイでもまだ、ゾックスの追加戦士としての厄介さが強調されている。クダックに変えられた人間たちが持つトジルギアを奪うため、人間クダックにも容赦なく攻撃を加えるゾックスと、それを止めようとする介人達。前回に引き続き、介人には家族を救いたいというゾックスの気持ちが痛いほど分かるからこその、「回収は俺たちがやるから!」と相手の意思を尊重した折衷案の提示。そこからサンバに繋がるのは本当に意味が分からないんだけど、その暗くなりすぎない演出こそがゼンカイジャーの良さ。

 

相手も傷つけない、自分も納得のいく、そんな方法を全力全開で探し出す介人だからこそ、きっと4人もゾックスも惹かれているのだろう。今回で結ばれたゾックスとの絆は、次の第14カイにも持ち越されていく。

 

このカイもそうだが、介人は本当に相手の意思を尊重した上で自分の正義を貫き通す解答を全力で取りにくるというか…。正解かどうかではなくて、とにかく全力でっていう姿勢が、やはり彼をヒーローたらしめているのだと思う。キラメイレッドも同じタイプではあったけど、そこにしっかりと彼なりの独創性やセンスが入っていて。ただ介人はとにかく方法が馬鹿げてしまうのだけど、それが個性になっている感覚。

 

敵がリサイクルワルドということもあってか、ゼンカイジャーという番組の魅力をもう一度再提示するようなカイでもあったように思う。

 

今回はツーカイオーリッキーが初登場。しかし、前回お株を奪われたことに腹を立てたかのように、再びバトルシーザーロボにステイシーが搭乗し、なんとダイリサイクルワルドを撃破。何事にも全力全開な介人と、家族を救うためならどんなことをも厭わないゾックス。この2人がメインで話が進むからこそ、身の振り方を決められないステイシーの葛藤は、なんとも言えない哀愁を醸し出す。

 

 

 

・第14カイ!決闘!ゼンカイVSツーカイ!

ステイシーがゾックス達に協力を持ち掛け、ツーカイザーとゼンカイザーが勝負をすることに。実はステイシーは邪魔なゼンカイザーをゾックスに倒してもらおうとしていただけなのだが、そこはヒーローサイドが一枚上手。「こいつらの方が面白いから」という理由でステイシーを裏切ったゾックス。結局何もかもから見放されるステイシー…。

 

ゼンカイザーとツーカイザーの対決は、お芝居にしても本気だとしても、ダンス対決が始まったりといつものノリなので、そこまで深刻にならず。ただ、いつも以上にセンタイギアをふんだんに使ったアクションは、見どころ満載だった。

介人とゾックスの絆が試されるカイでもある。これまでゾックスの海賊らしい暴挙を介人がどうにかフォローするという流れが続いていたが、ここに来てゾックスが介人達を認めていることが明らかに。

 

ステイシー、確かに『ゼンカイジャー』という番組の中で1人だけシリアスをやらされているというメタ的な面白さが強いだけで、面白い人物かどうかで言うと、かなり面倒な中二病患者ではある。そういう意味ではゾックスの意見も正しいかもしれない。しかしこっちはトジテンドですら誰にも相手をしてもらえないステイシーの悲哀を知っているわけで…。ほぼ初対面のゾックスにすら暗に「つまんねえ」と言われる彼の心中に、どうしても同情してしまう。早く来てくれ、テニス回…。

 

 

 

・第15カイ!ガチョーン!レトロに急旋回!

このカイ、他のカイに比べるとそこまでのインパクトはない(というか他が強すぎる)のだが、私はかなりお気に入りのカイでもある。

レトロワルドの能力により、街がレトロ(大正や昭和初期っぽいけど色々混ざってもいる)な雰囲気にされ、当初は懐かしんだり楽しんだりしていた人々。しかし、レトロワルドの能力はそれだけで終わらなかった。レトロな世界に浸ってしまった人々は、戻りたい過去に囚われ、無気力になってしまう…。

 

東映のHPにもあったが、観ながら「絶対撮影大変だったろうに…」と裏側の事情を察してしまう。この記事を書きながら毎週分を一気にチェックしているものの、ゼンカイジャーは表面的なこと以外でも革新的な番組だったんだなあということを強く実感する。撮影方法とか技術とかも、かなり凝っていて感心させられることがほとんどである。

 

レトロワルドによりゼンカイジャーもツーカイザーも無力化されると思いきや、キカイノイドの4人には、実は戻りたい過去などなかった!というオチが最高。勇気を出せなかったり、トジテンドにひたすら虐げられていた彼らにとっては、介人と共に戦っている今こそが人生で一番楽しい時なんだ、誰もが過去を懐かしむと思うな!というのが本当に堪らない。それでいて過去に囚われる介人達を愚者として扱うでもなく、戻りたい過去があるのは良いこと、進みたい未来があるのも良いことと、どちらも立てる構成になってるのが感動してしまう。

 

介人もゾックスも、戻りたい過去、取り戻したいものがあるからこそ、今を全力で楽しく生きようとしている。過去は未来へと進む原動力にもなるけど、過去がなくたって未来を楽しくはできる。そんな強いメッセージを受け取れるカイだった。後、タイムレンジャーギアを使ってのジュランの「俺たちは今を生きる未来人なんで、よろしこ!」というセリフ、アドリブらしいけどマジで気が利きすぎてて痺れる…。

 

ゼンカイジャー、各話単位で「答え」を出さないのがすごくいいなあと思っていて。物語として「これが正しいよ」と伝えることはあまりなく、強いて言えば「個性を受け入れよう」という多様性の話になっているのだと思う。正しいものを提示するのではなく、多様な価値観の一つ一つを、傷つけないように押さえないようにと、それぞれの価値観の良さを引き立て合う構成になっていて。

これが意図的なのか結果論なのかは分からないけど、キャラクターの魅力が本当に素晴らしい作品だなと、強く実感させられた第15カイだった。

 

そして、これまでトジテンドにも物語にも虐げられ続けてきたステイシーにも新たな出会いが。レトロな世界で自身の母の面影を持つやっちゃんと出会ったことで、彼の運命の歯車が急激に動き出していく。

 

 

 

・第16カイ!磁石シャクだぜもう限界!

ジシャクワルドの能力に振り回されるゼンカイジャー。特にキカイノイドの4人はゾックスの母艦までをも磁力で引き寄せてしまう程の大ピンチに陥る。勝ち方がジョジョ3部と全く同じなことに笑ってしまうが、このカイの見所は何よりもステイシーのカラフル初来店である。

 

ゼンカイジャーもゴールドツイカー一家も、既に「何をしても面白い」の域にまで達しているこの番組。彼らのせいで逆説的に1人悲哀を背負うステイシーすらもその領域に突入してしまう。何も知らず、ただやっちゃんに会うためだけにカラフルに来店。変装もせず堂々とサンデーを食べているところに、ゼンカイジャーの5人が帰宅。サトシと偽りその後も堂々と店に居座るステイシー。こんな面白い展開があるだろうか?

 

ステイシーはバラシタラの息子という出自を持つが、母親を失い、心境としてはジュランやガオーン達、トジテンドに虐げられていた庶民キカイノイド達と何ら変わらない。ただ違うのは、トジテンドに属しているという境遇だけである。自分たちを虐げてきたトジテンドを倒す、大切な人々を守る、という大きな目的を持ってゼンカイジャーに加入したジュラン達だが、ステイシーには自身がトジテンドとして人々を苦しめてきたという自責の念がある。

 

友も仲間もいなかったステイシーにとって、父親であるバラシタラの存在は、良くも悪くも大きくなってしまったのだろう。亡くなった母親のことを想うことはあっても、過去はもう戻らない。彼にとってはトジテンドこそが唯一の居場所なのだ。だが更に辛いのは、彼自身本当にトジテンドを居場所だとは思っておらず、消去法での選択でただ居座っているだけという事実…。

 

 

 

・第17カイ!ぬぬっとオカルト同好会!

ジーヌカイと見せかけて地味に透明にされたジュランの活躍が光るカイ。改めて観ると、既にゲゲが甘ったるい声で不穏な動きを見せていたりして、既に正体の伏線が張られていたことに驚く。この頃から色々決まっていたわけではないかもしれないが、ゲゲが重要なキャラになるかも、くらいは織り込み済みだったのかも。

 

レトロワルドのカイもそうだが、この頃から単発ゲストが出るようになり、往年のスーパー戦隊らしさもある。学校の怪談を確かめようとする無邪気な子どもたちの夢が壊されないかと心配するマジーヌ。オカルト好きで周りに馴染めなかったからこそ、そうした子ども達への理解と愛情は誰よりも深い。孤独にそうして寄り添えるのが、彼女の強みでもある。

 

トウメイワルドに恨みを募らせるマジーヌも面白いのだが、それだけで終わらないのがゼンカイジャー。トウメイワルドによりトウメイにされてしまったジュランは、結局変身も名乗りも透明でやらされ、撃破するまでずっと透明。必殺技でも横並びでもちゃんとジュランの立ち位置を空白にする等の演出の妙で、逆に存在感が強調される面白さ。この辺りのユーモアも本当にさすがだよなと感動する。

 

そしてゼンカイジャー名物、ひたすらギャグをやって最後の最後、次回予告直前に一瞬挟まれるステイシーのシリアスパート。「僕は一体どうしたいんだ」という一言のセリフだけなのにこんなに面白くなってしまうのは最早お家芸である。

 

 

 

・第18カイ!いのち短し、恋せよゼンカイ!

17カイをマジーヌカイとするならば、今回はブルーンカイ…どころじゃなかった。レンアイワルド(デザインのキューピッドが秀逸すぎる…!)の能力により、人々は次々と恋愛を始める。ジュランとガオーンが、マジーヌとフリントが、ゾックスはシンガーソングライターっぽいキカイノイドと、介人はやっちゃんの新作サンデーに…。そしてブルーンは介人の中学時代の同級生・花恋に惚れてしまう。

 

ゼンカイジャーはギャグ戦隊だのカオスだのと言われているが、このカイはそれを象徴するカイでもあったと思う。基本が笑えるノリの戦隊が更にブーストをかけると、ここまでのものができるとは…。このカイの良いところは、それぞれの個性が爆発しているところ。「いつものメンバーが変なことをしている…」という笑いではなくて、「この人たちが恋愛をしたらきっとマジでこうなんだろうな」というある意味めちゃくちゃキャラクターへのリアリティに溢れたカイなのだ。

 

介人が片想いをしたらきっと全力でベタベタして空回りしてしまうだろうし、ゾックスはああいう気障なセリフを平気で吐くし、ブルーンのぎこちなさもよく分かる。ジュランとガオーンのいちゃつき具合は観ているだけで面白い。ここまで全ての脚本を担当してきた香村さんだからこそできる解像度抜群の恋愛カイである。

 

ジェットマンギアの能力がちょっと過剰すぎないかと物議を醸してもいたが、正直あれだけ切り取ってゼンカイジャーという番組を判断するのは違うなとも思っている。このカイはゼンカイジャーという基本がギャグの番組の中でも屈指のギャグカイ。だからこそのあの演出であるわけだから、不快に思う人はいるかもしれないが、それはあくまでゼンカイジャーのいつものテイストとはちょっとずれているわけだし。

 

ちなみに個人的にはジェットマンギアは最高だった。元ネタを知っている身としては、あそこまでの再現度の高さにまず笑ってしまうし、これまであくまで「ヘンテコな技」を重ねてきただけのセンタイギアが、ああいう使われ方で度肝を抜こうとしていることも面白い。

 

 

・最後に

なんとなく6話分で区切ってしまったが、14話までで一通りの販促とキャラクター説明が終わり、15話からがゼンカイジャー第2部のスタートという感がある。何が劇的に変わったかというと、ゾックスがゼンカイジャーを認め、ステイシーとやっちゃんが出会ったということなのだけれど…。ステイシーの葛藤はそれ自体が物語をぐんぐんと前へ進めてくれるわけではないのだが、これから起きる様々な要素にきちんと濃いめの味付けをしてくれる。

こうして振り返って観ていても細かい内容を忘れているカイがあったりするので、本当に面白い。