機界戦隊ゼンカイジャー感想⑤ 第25カイ~第32カイ

スーパー戦隊シリーズ 機界戦隊ゼンカイジャー Blu-ray COLLECTION 3

 

総集編を挟み、ゼンカイジャー第2幕のスタートとも言えるであろう第3クール目。もう折り返し地点にきているのかあという気持ちと、折り返しなのにずっとバカバカしいどころかバカバカしさが増していってるが…?という感情。新幹部の登場や並行世界を旅するなど、実はしっかり縦軸が進んでいるのも、ゼンカイジャーの良いところ。

 

 

 

・第25カイ!やり直せ!ゼンカイジャー・改!

仮面ライダー龍騎』第28話を彷彿とさせる総集編。過去を振り返るのはゼンカイジャーの面々ではなく、時を戻す能力を持つヒドケイワルド。ゼンカイジャーやゴールドツイカー一家が過去を振り返るなんて野暮なことをするはずがないのだという宣言にも聞こえる。

今回の脚本は八手三郎名義。ということで若干介人の口調などに違和感があるものの、スピンオフの時ほどではない。地味にゲゲの声優が変更されていたりと、様々な小ネタを挟んでくるあたりはさすがである。

 

このカイの見所はやはりヒドケイワルド。時を巻き戻すという凄まじい力を持ちながら、過去のバラシタラやイジルデに全く理解してもらえないという不遇。タイムリープもののお約束である「未来の出来事を話しても信じてもらえない」を、何故かゲスト怪人が担ってしまうのがこの番組なのである。とはいえゼンカイジャーがピンチであることには変わりなく、そんな窮地を救ったのがセッちゃん。これまでナビゲーターの立ち位置に甘んじていたが、タイムリープに巻き込まれ、ひそかにゼンカイジャー側に情報を共有。それによりゼンカイジャーはヒドケイワルドの存在を把握しており、撃破に繋がった。

 

レトロワルドのカイがやっちゃんカイなら、今回はセッちゃんのカイ。サブメンバーにもきちんと見せ場があるのは、ゼンカイジャーのテーマが「家族」だからこそだろう。セッちゃんの活躍がここでしっかりと描かれることで、後述するギュウニュウワルドカイの感動にも繋がってくる。

 

ドアワルド戦でステイシーが介人を自分の足でうろうろしながら探していたことまで明らかになった今回。ヒドケイワルドがあまりに可哀想なせいで、ステイシーですら極悪人に見えてしまう。ただ、「歌って踊る海賊に気を付けろ」というのはさすがに無理があるし、やはりゾックスのキャラクターは唯一無二なんだよな…。

 

 

 

・第26カイ!改造王子と闇の外科医!

ステイシーがパワーアップ!サブタイトルの「闇の外科医」はイジルデのことなのかな。第23カイで介人との決闘に敗北し、ゲゲに拾われイジルデに強化改造されたステイシー。その間にバカンスと総集編を挟んでいたが、今回はしっかり真面目なカイ。どころかここまでで一番のシリアスかもしれない。

 

ステイシーと再会を果たして喜ぶものの、彼の中の迷いに気付き、戦えなくなってしまう介人。そんな彼が、「俺がずっとやられなかったら、お前の気持ちが変わるかもしれない!」と決意表明をするカイ。くよくよ悩まないのが介人の魅力的な部分として描いてきて、悩む時には5人一緒にを心掛けていたゼンカイジャーだからこそ、この決断はすごく心にくるものがある。

 

パワーアップしたステイシーザーは右腕にミサイル、左手に盾、そして胸部に砲口が追加。ゼンカイザーもツーカイザーもしっかりパワーアップしたのに、マイナーチェンジしかさせてもらえないステイシーザー…。人気はあるのに、DX玩具が一般発売されないというだけでこうも扱いに差があるとは…。

 

そしていよいよ介人の母親が目覚め、トジテンドを脱出。その背景に、美都子がやっちゃんの大切な人だと気づいたステイシーの協力があるのがいい。ステイシーの葛藤を起点として、縦軸がバンバン動いていく構成もすごく好き。介人が全力で向き合ったからこそ、ステイシーがその眩しさに魅せられて、結果的に介人のためになる行動に繋がる、という。まあそれがここから彼にとっての地獄に繋がってしまうわけだが…。

 

 

・第27カイ!7つの世界を大航海!

待ちに待った…というか、むしろその手があったかと驚いてしまうくらいに盲点だった、並行世界に介人達が赴くという展開。異世界を描いていた『仮面ライダーセイバー』が終了したことを受けてのようだが、しっかりそういう差別化はしているのねと驚き。柏餅にレトロに氷にキノコ、背景さんや美術さんの苦労が窺えるカイだった。

 

美都子が逃走したことを知り、並行世界を駆け巡るという筋書きだが、ゾックスの「お前だから協力してる」というセリフは彼を象徴しているなあと感心。スーパー戦隊にはあまりいなかった、世界を守ることを信条としないキャラクター。と書いてて気づいたが、香村脚本のルパンレンジャーなんかは正にそれだったかもしれない。平成ライダーにはこういう面倒なタイプが多いのだが、ゾックスはその厄介さを、歌とダンスで見事に覆い隠してしまっている。その上に家族想いな一面と、介人に心を動かされる成長っぷりが観ていて堪らない。根っこが蛮族だからこそ、ヤンキー更生物語のような感動すら覚える。

 

 

 

・第28カイ!週刊少年マンガワルド大図解!

2週連続で縦軸を進めてしまったからか、急激にIQを低下させたようなカイが続く。その前編となるのがこのマンガワルドカイ。マンガワルドの「執筆スプラッシュ」なる技を喰らったものはマンガにされてしまう…という意味の分からなさ。ジュランとマジーヌ…おまけに介人までマンガにされ、ゾックスのマンガ好きという意外な一面が明かされる。

 

縦軸を進めなくとも、キャラクターの新たな魅力を掘り下げたりしっかりと関係性を築いていったり、ギャグに振り切ったりととにかく楽しませてくれるゼンカイジャー。そういう意味でこのカイは演出がとても楽しいカイだった。変身シーンや名乗りすらもマンガのまま。セリフを喋るとそのマンガが更新される…。ギャグ以前にその作り込みというか熱意に圧倒されてしまう。

 

冒頭ではステイシーが介人に攻撃をしかけるものの、「ごめん!」と後回しにされたことに笑ってしまう。26カイでしっかり決意をしたからこそ、ステイシーを倒したくないし、倒されたくもないし、他に用事がある時はなるべくそっちを優先したいという、介人なりの理論が爆発しているのが結果的にどうしようもなく面白くなってしまっている。ステイシーにとっては介人を倒すことこそがアイデンティティを確立する方法なのに…。あの返答はステイシーからすればかなり侮辱的な行為でもある気がする。ただそれがしっかりキャラ理解になっているのが、ゼンカイジャーの素晴らしいバランス感覚でもある。

 

ゾックスのマンガ好きどころか、「マンガを描けばいいんだ!」と楽観的な介人達に「マンガを舐めるな!」と激昂する熱さまでが披露された今回。マンガワルドから盗んできた大切なお宝さえも、弟達のためなら平気で作戦に利用できるのが、彼の良さだよなあと改めて実感。ゾックスをますます好きになるカイ。

 

 

・第29カイ!王子のねらい、知ってるかい?

「やばすぎる」の一言に尽きるカイ。

ギャグ戦隊のゼンカイジャーがこれまでになく本気を出したとんでもないカイである。本人達は至って真面目、だけど起きている現象はどうにも笑えてしまう…というのがゼンカイジャーの大きな要素なのだが、ここまでしっかり仕上げてくるのは、本当にズルい。私はテニプリをほとんど知らないのだが、それでも明らかにおかしいことは分かる。列挙するとキリがない。

 

テニスでしか倒すことのできない怪人テニスワルド、テニスは格闘技だと言い張るゾックス、滝行により無から滝を生み出せるようになったブルーン、テニスのパワー、徐々に上がっていく介人のパンツ…。

 

以前芸人のチョコレートプラネットが、自身のYouTube動画について、「ツッコまない方が面白がってくれる。ひたすらボケてツッコミは視聴者に任せるようにしている」という趣旨のことを話していたのだけれど、ゼンカイジャーは正にそれに当てはまるよなあ、と。

「なんでだよ!」というツッコミ役を担う人材はほとんどいなくて、唯一言いそうなステイシーは孤独を極めているのでそんな場合ではない。何ならその孤独さえもボケみたいに見えてしまう。だから視聴者が個人的に、もしくはSNSでツッコミを入れたくなる。客観的な目線が作中に入らない分、介人達の全力感や一体感は強調され、それは直接的でなくとも、観ているこちら側の元気や活力につながっていく。そういったことを意識しているのかどうかは不明だけど、コロナ禍で生活スタイルに変化が要求された現代において、この「楽しそうにしているのが見られる」というのはすごく良いなあと思う。

 

ギャグカイでもキメるとこはしっかりとキメてくれるゼンカイジャー。やっちゃんがテニスボールにされたことに怒ったステイシーは自らサトシとしてテニスワルドと戦い、仮面を外してテニスワルドのほぼ無敵の能力を無効化する。その行動がゾックスに認められて、ゾックスとステイシーの間にも絆のようなものが芽生えていく重要なカイでもある。これまでたくさん悩んできたのにテニスで認められるの、マジで何なんだよ…。

今回もステイシーが介人に戦いを挑むところから始まるが、「配達があるから!」と一蹴されるステイシー。普段あんまり配達なんてしてないのに…。ステイシーを思い遣るからこそ彼の扱いがどんどん雑になっていく介人が面白くて堪らない。

 

 

・第30カイ!隣のキカイはカキ食うハカイ?!

遂に新幹部ハカイザーが登場。いかにも悪者というフォルムに反し、中身はジョルノ・ジョバァーナ並みに爽やかなキャラクター。「全力でハカーイ!」という合言葉と決めポーズ。正体はまあ明らかではあるのだが、だとしたらマジでイジルデめ…。ボッコワウスに叱られることへの恐怖やバラシタラへの対抗意識やプライドという感情は持っているのに、こと思い遣りの面となると、何故か平気で他人を改造できるし人の制作物をパクってしまえるイジルデ。

 

介人は第21カイで偽物の自分が偽物のギアトリンガーを使った時でさえ怒りを露わにした人物なので、ゼンカイジャーの初期案でもあるハカイザーと、両親の研究の成果でもあるゼンリョクゼンカイキャノンを悪事に使われて怒るのは至極真っ当である。コピーワルドのカイはそんなに好きではないのだけれど、こういう些細な積み重ねがちゃんと効いてるのはゼンカイジャーのすごいところ。

 

カキワルドと見せかけて実はホシガキワルドでした~というバカバカしさは見事。いつも語尾で正体が分かってしまうワルドだが、ホシガキワルドはしっかり使い分けるほどの分別を持つ。ゼンカイジャーは敵の能力を解析するパートよりも、やられちゃったけど倒す方法を考えよう、倒せば戻るから!という頭の切り替えが最高。今回もヒーローが漏れなく攻撃を受け、のどの渇きに苦しむものの、ゾックス達が機転を利かせてバトル中に給水所を設置。このバカバカしさこそがゼンカイジャーの真髄だとも思う。

 

第29カイのような完全に狂ったカイもいいのだが、それとはまた違い、こうしたちょっとしたおふざけ感というのがすごく好きで、私はゼンカイジャーらしさを強く感じる。ゼンリョクゼンカイキャノンも取り返し、戦力増強。やはりスーパー戦隊と言えばバズーカだよなあ(バズーカにしては小さいが)という世代なので、これはかなり嬉しい。45体のヒーローの頭が飛び出てくるのはちょっとよく分からないが…。

 

 

 

・第31カイ!ギュウっと合体!NEWっと公開!

ゼンリョクゼンカイオーが登場し、遂にゼンカイジャー5人が合体!姿がめちゃくちゃかっこいいのだが、何よりフルCGであることに驚きを隠せない。確かにゼンカイジャーにはブルガオーンにジュラマジーン等、コストの都合上なのかCGのロボが数体いたが、まさか最終ロボがスーツなしとは…。ストップモーションらしいが、かなり自由度の高い戦いになっており、見ごたえ抜群。何よりいつもよりも長尺である辺りに、スタッフの本気度を感じる。

 

話としてはそこまで縦軸が進むわけではないのだが、介人が幼いころから心の支えにしてきたセッちゃんが、ギュウニュウワルドの攻撃によってデータを失い、沈黙してしまうというかなり悲劇的な展開に。介人はいつでも明るく、どんな時でも周りに寄り添う優しい青年だっただけに、セッちゃんを失ったことへの涙と、ギュウニュウワルドへの怒りは相当なインパクトがあった。彼がここまでワルドに怒るのも相当珍しいので、ギュウニュウワルドはその点だけでも誇っていいと思う。

 

また、地味にファインプレーをするのがゾックス達。ワルドを倒そうとするゼンカイジャーの邪魔をするハカイザー。彼を食い止めるため、1人で戦いを挑むゾックス。それでいて気を遣わせないためか、フリントと口裏を合わせて、ゼンカイジャー達には何も知らせずワルドへと誘導する。マジでゾックスのこういうところが好きなんだよなあ。さりげないかっこよさをちゃんと提示できるヒーローは強い。ただそれがゾックスにハカイザーへの違和感を抱かせるきっかけとなっちゃうのがなあ…。

 

 

・第32カイ!怒るサカサマ!まさかサルかい?

サブタイトルの回文に感心するものの、猿は一切関係がなかった。スーパー戦隊お家芸である入れ替わり回。ファンはご存知の通り、敢えて正反対のキャラクターの心身を入れ替えることで、お互いの良い部分を認め合い、絆を生み出すコメディタッチな回に仕上がることが多い。中には物と入れ替えられてしまうシンケンジャーや、おちゃらけ怪人と入れ替わってしまうルパンブルーなどのイレギュラーなものもあったが、それでもやはり入れ替わり回が楽しいことに変わりはない。

 

しかしこのゼンカイジャー、入れ替わり回にシリアスを持ち込むという暴挙に挑んできた。入れ替わったのは介人とステイシー。トジテンドへ行けるようになった介人と、カラフルに行くことになったステイシー。介人はトジテンドでのステイシーの孤独を知り、ステイシーは介人の周りが暖かい人物たちで溢れかえっていることを思い知らされる。「このまま戻らなければ…」という邪な感情すら抱いてしまうステイシーに、涙を禁じ得ない。

 

この頃からやはり、介人とステイシーの関係が、『ルパンレンジャーVSパトレンジャー』のパトレン1号とルパンレッドの関係性に酷似してきているなあと感じる。同じ香村脚本であることも大きいのかもしれない。介人という明るくてまっすぐな人物に惹かれながらも、出自や性格によってそうなれない自分を疎ましく思ってしまう孤独感は、正に魁利(ルパンレッド)が抱いていたものと同じ感情。それでいて、その心情を推し量りながらも、どうすれば相手の心を傷つけずに済むかと思い悩む介人の姿は圭一郎(パトレン1号)と重なる部分が多い。

 

ルパンレッドはルパンレンジャーであることを自身の個性として受け入れる終わりを迎えたが、ステイシーは少し違う結末をたどっていく。憧れの対象であるヒーローを強く前向きに描くことで、闇を浮き彫りにする手法は、香村脚本の得意分野なのかもしれない。

 

フリントの変身や、ステイシーザーを中心に据えての名乗りも楽しいカイ。カッタナーとリッキーが入れ替わっているのも面白い。介人の前にステイシーが現れて戦いを仕掛ける冒頭を天丼で持ってくる構成もさすが。

それでいて戦いが終わった後のジュランの「あんなところでよく一人で」という言葉に、ステイシーの心情を重ね合わせる介人の優しさよなあ。テニスワルド戦の積み重ねなどもどんどん効いてきている。何度も言うが、バカバカしいけど無駄がないのが、ゼンカイジャーの素晴らしいところ。

 

 

 

・最後に

介人とステイシーの関係性がどんどん濃密になっていき、救ってあげたい介人と、劣等感を抱くステイシーの物語が、ストーリーをどんどん前に進めていく。まだまだ登場したばかりのハカイザーの正体やステイシーのその後…。それでも緊張感ばかりにならないのが、ゼンカイジャーらしさである。