『ソー:ラブ&サンダー』評価・ネタバレ感想! ゴアをもっと出してくれよ!!!

MCUで1ヒーローが主役を張る映画のシリーズ4作目が公開されるのは初のこと。そこからもソーの人気の高さが窺える。

MCU興行収入の面や、様々なヒーローの単独作で物語を進めながら集合映画の『アベンジャーズ』で集大成となる構造、そして世界的な人気により、盲目的に「素晴らしい作品」認定をされるようになってきた。しかし、長く続くということは関わる人々も多くなり、実は様々な紆余曲折を余儀なくされている。例えばキャストの交代や降板などが挙げられるだろう。

ソーは、特にその被害を受けたシリーズと言えるかもしれない。第1作のラストで彼は、地球の恋人ジェーンと二度と会えなくなる覚悟でビフレストを壊した。にも関わらず『アベンジャーズ』では父オーディンの命令であっさり地球に再来。2作目の『ダークワールド』でもビフレストはしれっと直っている。1作目の感動は何だったのだろう。

続く3作目に抜擢されたタイカ・ワイティティ監督。彼により、それまでのソーのイメージは大きく覆されることとなった。神の息子であり、時に凛々しく、しかしどこか純粋無垢な印象を醸し出していた彼は、いつの間にかメタボ体型でオンラインゲームに勤しむことすらも認められる作品となったのだ。2作目までのヒロイック・ファンタジー的要素は排除され、ギャグ満載のスペースオペラだった『バトルロイヤル』。

 

同期のヒーローが次々と終末を迎える中、ソーは『エンドゲーム』後も4作目『ラブ&サンダー』が作られる。もし3作目の方向転換がなければ、彼もまた、トニーやキャップと同様、エンドゲームで何かしらの結末を迎えていたかもしれない。

今作では『ダークワールド』以降音沙汰の無かったジェーンが、何故か新たなマイティ・ソーとなって再登場。ガーディアンズの面々や、ヴァルキリー、コーグといったお馴染みキャラクターも集結。ソーが今作で対決するのは、神殺しのゴアという男。某ヒーローとして有名なクリスチャン・ベールMCUの人気キャラと戦う構図は、嫌が応にも心が揺れる。

 

 

ソー:ラブ&サンダー (オリジナル・サウンドトラック)

 

 

正直、『バトルロイヤル』のノリには初見ではついていくことができなかった。あまりに作品のトーンが異なっていて、冒頭の「こちらに語り掛けてくるソー」の時点で強い違和感が生まれてしまった。何年か経ったし何度も観ていくうちに楽しめるようになったのだが、これは『インフィニティ・ウォー』や『エンドゲーム』のソーが『バトルロイヤル』の流れを引き継いでいたのも大きいかもしれない。自分の中のソーが『バトルロイヤル』以降に更新されたのだろう。

 

そう考えると、同じくタイカ・ワイティティ監督の4作目はきっと今なら楽しめるはずだと鑑賞に臨んだ。

 

 

 

 

 

 

結果から言うと「非常に惜しい!」と思ってしまった。

『バトルロイヤル』の延長であはるのだが、それ以上でもそれ以下でもない。MCUとして驚きの流れがあるわけでもなく、ただひたすらにソーとジェーンの関係性を突き詰めていった、正に『ラブ&サンダー』の名に相応しい作品。

過去に愛していたジェーンのことを、実はソーはまだ引き摺っていて…という出だしから、ジェーンの命がもう長くないという王道のシチュエーション。彼女がムジョルニアに選ばれた理由は詳しく語られないのだが、ソーが彼女と過ごしていた時にムジョルニアに「彼女を助けてやってくれよ」とデレデレしながら話し掛けていたのが、理由だったのだろうと私は解釈した。

 

再会したとはいえ、別にいがみ合うわけでもない2人。もう10年以上MCUを観ているのに全く知らなかったソーとジェーンのラブラブ時代の映像が挿入され、あまりのイチャつき具合にめまいがしてくる。そこから2人は、次々と神を殺すゴアを止めるために、ヴァルキリーとコーグを連れて神の集う場所へ。ソーは憧れだったはずのゼウスと対決し、彼の武器を奪う。そしていよいよ、ゴアと対決…というのが大まかな流れ。

 

最初に思ったのが「ガーディアンズ一瞬じゃんか!」ということ。アスガーディアンズとしての活動に期待していたというか、ソーとガーディアンズのやり取りがたくさん観られる~と思っていたので、冒頭15分くらいでお別れになってしまってちょっと肩透かしだった。トレーニングなどの、予告から知っていた面白要素もここで一気に消化。あまりのスピード感にびっくり。

 

また、愛を謳い、タイトルに「ラブ」とまで付けた作品なのに、ラブストーリーに傾かない辺りはさすがタイカ・ワイティティ監督だなあと唸ってしまった。痴情の縺れだったり喧嘩だったりは一切なく、2人の微笑ましい関係を、バトルや冒険を通して観ることができる。ちょっとラブ要素が入っているヒーロー映画というか、80~90年代に出てきてたらめちゃくちゃ伝説になりそ~というクオリティ。後はソーのコスチュームのマンガ過ぎる感じが個人的にツボ。

 

ただ、私が最も不満を感じている、というかこの映画を良作だと認められないのは、ヴィランのゴアにある。元々MCUというのはファンの間で「ヴィランに魅力がない」とまことしやかに囁かれているシリーズ。それは2時間かけてヒーローを魅力的に見せる+過去作や今後とのリンクなど、とにかくやることが多いというのも理由にあるかもしれない。また、ヒーローとサブキャラのやり取りに時間をかければかけるほど、敵に割ける時間は少なくなってくる。

 

この辺りをクリアしているのは個人的に、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』、『ブラックパンサー』ぐらいではないだろうか。この2作品においては、ヴィランと戦い勝利することが主人公の成長や決断ともリンクしており、尚且つ印象的な敵として君臨していたと思う。後は言うまでもなくサノスもだろう。

 

 

 

 

本作のヴィランは神に見放されて娘を失ったことで、神を殺す剣ネクロソードに選ばれ、神への復讐を誓った男、ゴア。真っ白でホラー味溢れる姿と、演じるクリスチャン・ベールの迫力で、ビジュアルは完璧。また、弟や姉とも戦い、両親や故郷など、様々なものを失ってきたソーにとって、仲間である神を殺すという目的を持つゴアは、強敵になり得た。

映画はゴアが娘を失い、ネクロソードを手にするシーンから始まる。この時点で私は既にゴアの魅力に取りつかれてしまっていた。というのも、「神に見放される」系のキャラクターが大好きなのである。信仰心を頼りに何かを盲目的に崇拝していたキャラクターが、その存在に見放されることで闇堕ちを果たす。この展開に心惹かれるのは、決して私だけではないだろう。

 

神殺しを誓ったゴアは次々と神を殺し、遂にはニュー・アスガルドにまで出現。ここでソーと対峙するのだが、どうにも格が弱い。怪物たちを操り、影の中に紛れて姿をくらます戦闘はすごくかっこいいのに、ソーを脅かすには至れていなかった。その上、最初にあそこまで魅力的に葛藤と変化を描いたにも関わらず、しばらくは誘拐犯として旅を続けるだけなのである。

 

ソーがゴアと対決するためにゼウスに会いに行く流れは、前作『バトルロイヤル』とも似た構成になっている。ヘラにムジョルニアを破壊された彼は、ロキの逃走に巻き込まれ、宇宙の果てに飛ばされてしまう。そこでグランドマスターのおもちゃにされ、ハルクと戦わされる。ヴァルキリーとロキ、ハルクを連れて、打倒ヘラのためにそこを脱出する展開となるのだが、このグランドマスターのパートが、そこまで打倒ヘラに関係がないのだ。もちろん仲間集めの意味もあるし、そこでハルクが登場する展開にも燃える。ギャグもたくさんだし、ヴァルキリーとの出会いもある。しかし、根本的なテーマとの乖離は激しく、結果的にグランドマスターが好き勝手やるせいで、ラスボスであるヘラの格が下がってしまっていたように思う。

 

 

 

 

そして今作も、ラッセル・クロウ演じるゼウスという強烈なキャラクターに時間を割いてしまったことで、ゴアがただの誘拐犯である時間があまりに長くなりすぎてしまっている。ゴアがもっと神に憎悪を抱くシーンがあったり、娘に想いを馳せるカットを挿入させたり。後はソーとの対決をもう1回増やしたり。そんな風にソーVSゴアを積み重ねていけば、きっとラストの感動も更に大きなものになったはずだ。

しかもゼウスとのやり取りの一切がソーの成長やジェーンとの関係の発展、そしてゴアとの対決に直接関係がない。「武器を手にする」ミッションだけが達成されるのだ。どうせなら人への愛を持たないゼウスと、娘への強い愛を抱くゴアを対比させたりとか…。正直ゴアのパートのギャグは、予告で観てしまっていたのもあるが、あまり笑えなかった。エンドロール後のシーンから察するに次回作で重要な立ち位置となるのだろうが、それにしては長い前フリだ。

 

その結果ゴアが割を食った形となる。というかもっとバンバン神を殺してくれよ、ゴア!

色のない星で戦う映像はすごく引き込まれた。それ以前が常にコメディタッチだっただけに、映像でシリアスが表現され、一気にトーンが変わっていく。子ども達にソーが力を授け、ぬいぐるみ等様々な武器で戦う展開も面白い。

 

そしてラスト、”永久”に辿り着いたゴアが、ソーの言葉で復讐ではなく愛を選び、娘を復活させる展開に。死にゆくゴアはソーに対して「この子を頼む」と娘を託す。一方でジェーンは死亡。ソーは父親として娘と共にヒーロー活動を続け…『LOVE&THUNDER』のロゴがドーン!

 

ゴアの娘と共に戦うというめちゃくちゃなラストが本当に良かっただけに、ここまでの積み重ねがしっかりしていれば、もっと感動を呼べるものになったのだろうなあと、どうしても負の側面に気持ちがいってしまう。ゴアを魅力的に描けていれば、ゴアの娘への思い入れもまた変わってきただろうに…。

 

とはいえ、タイカ・ワイティティ監督のコメディ節は今作でも炸裂しており、とにかく「カッコイイ!」と思える構図が巧すぎる。ハンマーを突き立てての変身シーン。ジェーンの登場。そしてソーとゴアの娘が並び立つラスト。とにかく外連味溢れる印象的な映像が多いのも確かだ。私はゴアというキャラクターに非常に思い入れが強くなってしまったために、どうしてもノイズが発生してしまった。しかし、『バトルロイヤル』を楽しめた方ならきっと今作も堪能できるだろう。マット・デイモンの再登場には自分も声を上げそうになった。

今回たっぷり前フリをしたのだし、ゼウスとその息子ヘラクレスが活躍するであろう次回作(ソー5作目なのか新たな集合映画なのか…)にも大きく期待したい。

そしてガーディアンズ3も待ち遠しい。