映画『仮面ライダーギーツ 4人のエースと黒狐』評価・ネタバレ感想! ブーストかかりまくりのコメディ版ギーツ

44話「創世Ⅵ:ネオン、かがやく」

 

残り1ヶ月でクライマックス秒読みの『仮面ライダーギーツ』の映画、正直全然期待してなかったんですよね。なぜならギーツ本編をそこまで好きになれていなかったので。好きなキャラはいるし、シリーズの中でもかなり挑戦的な作品だし、令和ライダーの中ではまとまりがある方だなあと楽しめてはいるんだけど、それでもやっぱりノイズが激しくて。物語の推進力、それこそブーストばっかりが働いてしまって、キャラクターを好きになったり流れに翻弄されたりできるほどの余裕をくれない作品だなあというイメージがありました。次から次へと新しいものが飛び込んでくるのは高橋脚本ではお馴染みで『エグゼイド』はそれがカチッとハマっていたんですけど、『ギーツ』ではやっぱりとっ散らかってしまっていたんですよね。例えばリアルタイムで進行中の景和の闇堕ちも、自分はまだ全然納得がいってなくて。これまでも伏線として「景和には姉しかいなかった」って描写がされてたという考察を読んでも、「冬映画の時からこの案はありました」と公式が発表しても、「いやそんな文書の端の方にちっちゃく書いてあるんだから読まなかったこっちが悪いみたいな言い方されても…」と不満に思ってしまっていて。とにかくブーストブーストな作品ではあるけど、一度引っ掛かってしまうとどうしても前に進みづらい作品でもあるよなあという印象が強かった。

 

なんてつらつらと書いてしまったんですが、この『仮面ライダーギーツ 4人のエースと黒狐』、めちゃくちゃ最高でした。多分このコメディテイストがすごく自分にハマったんだと思います。本編との差もそうだし、前の映画のキングオージャーがとてもシリアス風だったのもあって、余計に緩急が付いていてすごく楽しかったです。高橋脚本、テーマの総括みたいな集大成映画が本当に上手い。エグゼイドもゼロワンも単体映画すごく好きなんですよね…。

 

そして映画を観て改めて思ったのが、『仮面ライダーギーツ』のテーマって「願い」に集約されるよなあということ。最後に残った勝者のみが願いを叶えられるデザイアグランプリを軸に、主人公の英寿が「誰もが幸せになれる世界」を創るという夢を見つけ、進む。1年間、ギスギスした人間関係から始まって今も全然ギスギスしているんですが、この作品の持ち味って「お互い願いを叶えるために手を取り合おう」というすごくポジティブな部分なんだなあ、と。

 

映画のパンフレットを読んだら中澤監督が「明るい話にしたいというところからスタートした」と言っていたのですが、ギーツ本編に足らなかったものって正にこれなんですよね。英寿の目的とかデザイアグランプリの謎とか、運営側の企みとか。群像劇としての面白さはあったんですけど、突き抜けて楽しいと思える爽快感みたいなものが足りていなくて。いつもどこかに不穏な空気が漂っているし、狐モチーフのギーツも化かしてくるけど他の奴らも結構素性が知れない…みたいな点で、ちょっと物語にブレーキがかかっていたとこもあったんですよ。でもこの映画は冒頭の英寿4分割だけでもう面白い。これは考えた人に拍手を送りたい。普段あんなにかっこいい英寿が醜態を晒していくだけであんなに面白いのはもう発明。しかも道長達のアシストも最高。というか道長の世話焼きな性格がよく出ていて、もう60分丸々力の英寿の世界でもよかったくらい。道長が巻き込まれておかしなことさせられてるの、本当に大好きなので。

 

一応雑誌のインタビューなどでも景和が飛ばされた世界の英寿だけ謎の存在になっていて。ただまあ『ギーツ』のテーマからして「願い」とかだろうなあと思っていたので、「心」っていうオチは結構読めていました。ここを複雑にする理由もないしストレートですごく良かった。そして心の英寿が最後に残るということ自体が、願いを叶えるための物語である『ギーツ』のテーマそのものなんですよね。英寿がこれまで他のライダーに放ってきた言葉が、ギーツをパワーアップに導くというめちゃくちゃ熱い展開。

 

ここまでテーマというか包括的なことに触れてきたんですが、印象に残ったシーンについてもちょっと書いてみようと思います。

 

・力の英寿

既に少し書きましたが、やっぱりバッファをイジると本当にギーツは全てが面白くなる。道長、戦いの動機が逆恨みでしかない以外は本当に真っ当な人間なので、周囲に巻き込まれるとどんどん面白くなってしまうんですよね。幸い『ギーツ』本編にはあんまり馬鹿がいなかったんですけど、今回道長が組まされる英寿は大バカ。変身もしないしバックルも投げちゃうし銃で敵を殴るようなバカに翻弄される道長は本当によかったです。変身サポートするの最高。あとそこにウィンが馬乗って来るのもめちゃくちゃ良かった。中の人が乗馬経験あるかららしいんですが、あまりにインパクトが強すぎる。

 

・メラとメロ

ギーツXがチョコプラ長田と聞いた時はビックリしました。多分皆さんそうだと思う。ギーツX、絶対に寡黙タイプか「ギーツ、コロス…」みたいな片言キャラのどっちかだと思っていたのにまさかのチョコプラ長田。そして実際メラというキャラクターもチョコプラ長田にめちゃくちゃ近い。その正体は道楽で世界を滅亡させる未来の指名手配犯。未来世界の設定とかジャマトの出自とか、色々明かしてくれて本当にありがたい限りでした。でもそれくらいぶっ飛んだ悪い奴の方が、この映画には合っているんですよね。ギーツXも変身したらそこまでコミカルじゃなかったので、かっこよさを残しつつバトルしてくれて良かったです。

 

創世の神の力を持った英寿に対して、4分割して力奪っちゃおうぜ~という独特な発想。未来人の割にスマホサイズの端末で配信するんだ…とかは思っちゃったんですけど、ピエロ的な衣装もギーツの世界観の中で良い意味で目立ってくれてました。深みはないけれど痛快さで好きになってしまう感じ。チョコプラ長田で大正解ですよねこれ。何ならギーツの持つ神の力を奪って変身した…つまり恰好通りの「道化師」みたいな意味合いもあるのかなあと。ギーツが神の力を人々の幸せのために使うという正に「神」的なスタイルなのに対して、私利私欲のために力を行使するというのは対比になっていてよかったです。

 

工藤遥演じるメロも、ルパンイエローを思い出すような感じで印象的でした。あそこまで明るい工藤遥はもう初美花でしかない。英寿達が仲間の力で立ち上がるのに対して、メロはギーツXが負けそうになったらすぐ見限るのも対比になっていました。思い返すとメラとメロ、すぐ別れそうなバカップル感がめちゃくちゃ良かった。

 

・ケイロウとガッチャード

毎年この夏映画の途中に「あ、そっかそっか新ライダー出るんだった」と思い出すんですが、今年も同じくでした。恒例となったお助けポジション。誰かが苦戦している時に突然新ライダーが現れて「困ってるみたいだな!」みたいな感じで適当に敵を倒してくれるの、結構好きです。そして今年の助けられ枠はまさかのケイロウ。というかケイロウがこんなにしっかりと出てくることにビックリしました。もう忘れてたもんなこのおじいちゃんのこと…。しかもギーツワンネスに変身するための一人にもカウントされるという。好きなキャラではあったんですけど、ここまでフィーチャーされるとは思ってなかったのであまりに意外でしたね…。

 

そしてガッチャード。発音、てっきり上がるタイプの発音だと思っていたので、下がるタイプだったんだ~と衝撃を受けました。それとまずホッパー1が可愛い!ああいうタイプの怪人もどきが100体超えということなのでしょうか…。出てきた時のクソデカCG形態はパイレーツの何かなのかな。多分今回と第2話くらいにしか出てこなさそう。基本形態のスチームホッパーの印象は「めっちゃキラキラしてるな!」です。あのカラーリングのライダーなかなかいないですよね。主人公も爽やか系統で突っ走るっていう感じの英寿とは真逆タイプで早くも冬映画に期待がかかります。錬金術技もすごくよかった。あれはカードの特性とか以前の個人能力なのかな。多分皆思っただろうけど「ハガレンじゃん!」ってなりました。

 

・ギーツワンネス

ギーツⅨを元にしてライダークレストや各カラーリングを至る所に施したデザイン、すごく良かったです!平成2期がよくやっていた「全部乗せ」と同じものを感じました。ガッチャードのカードを使って変身するの、販促はもうそこまで来たか~と衝撃を受けましたね。カードを入れられるバックルかあ。ケイロウがガッチャードと会ってなかったらヤバかったかもしれない。

 

多分ギーツワンネス、ギーツⅨよりいくらか弱いんじゃないかなって思うんですよ。いや創世の力を持ったギーツⅨがめちゃくちゃ強いというのもあるんですけど。だから武器と体でひたすら戦っていくことしかできなくて。でもそれが度重なるデザイアグランプリで見せてきた各ライダーの「願いを叶える」という戦いの泥臭さとマッチしているようにも思えて、すごく好きだったんですよね。ギーツXが巨大化しても、別に専用のメカとかが出るわけじゃないし、等身大で戦わなくちゃならない。「世界を滅ぼしたくない」という願いを身一つで叶えていく。悪く言えば地味で、確かに映画限定フォームにしては派手な活躍こそなかったし、どちらかと言えばドライブ夏映画の超デッドヒートみたいな、その場凌ぎのフォームではある印象なんですけど、そのスタイルがテーマとマッチしていることに気付いて泣きそうになりました。

 

・全体の感想

冒頭でも書いたんですけど、やっぱりこの「願いを叶える」ということに対して60分で向き合ったコメディタッチの作品という『仮面ライダーギーツ』が生まれたことがすごく嬉しかったんですよね。本編ではまず出せない味だなあと。とにかく情報量と勢いで圧倒するドラマ版に対して、本作はストレートなヒーロー映画を見せてくれた印象です。

発表当初は願いを叶えるバトルと聞いて、みんながこぞって「龍騎だ」って言っていて。制作陣もそこには自覚的で実際冬映画に龍騎のキャストを呼んだりもしていました。だけど『龍騎』が持つテーマとは真逆のことをこの『仮面ライダーギーツ』はやろうとしているんだろうなあ、と。もちろんドラマ版の終わり方はまだ分からないけれど、少なくともこの映画のテーマは『龍騎』が掲げていたこととは真逆なんですよね。

 

龍騎』は願いを叶えることで生まれる犠牲についてや、正義と悪の価値観の擦り合い、何が正義なのか?ということをテーマとしていたのに対して、『ギーツ』は願いを叶えるために人と手を取り合うという、非常にヒーロー的なテーマを掲げているように思います。誰かの願いのために誰かが犠牲になるなんてことはあってはならない、皆が幸せになれる世界を創っていこうという前向きな姿勢。武部Pは『龍騎』も担当していたわけですが、当時よりも更に一歩先をいったなあと。

 

最初は敵対していた(というかデザグラの性質上するしかなかった)ライダー達が、段々と手を取り合うようになる…。まるでスーパー戦隊が生まれる過程を楽しむかのような趣で、すごく奥の深いことをやろうとしているんだなあということがこの映画で明瞭になった気がします。ギーツ本編にはちょっと最近英寿が何もしてなさすぎだろとか、景和に話が通じなさすぎるだろとか、言いたいことはいろいろあるんですが、この映画のおかげで『仮面ライダーギーツ』という作品の解像度は段違いに上がりました。あと、この映画って最終回の後なのかそれともどこかに差し込まれるのか…。そういうのも気になります。とにかく残り一ヶ月が楽しみです!

 

(大智が出なかったのも話がスムーズに進んだ理由として1つかもしれない…)