映画『エスター ファースト・キル』評価・ネタバレ感想! 前作を超える衝撃に偽りなしの大傑作前日譚(2作目)

衝撃を受けてしまった。「前作を超える衝撃」みたいなお触書がついた作品は大概肩透かしだと思っていたし、そもそも全く身構えていなかったので、急展開に大きく唸らされ、気付いたらスクリーンから目が離せなくなっていた。

1作目の『エスター』はネタバレ厳禁とされる作品だが、今回の2作目にして前日譚『エスター ファースト・キル』も、絶対にネタバレを踏んではならない。

「前作と同じくイザベル・ファーマンが主演のエスターを演じます!13年ぶりで彼女ももう23歳なのに!どう?すごいでしょ!」みたいなメタ的な宣伝をバリバリにしておきながら、きちんと脚本にギミックがついているのが本当に最高。衝撃度で言えば今年ベストだったかもしれない。もはやイザベル・ファーマンが主演することさえこのための前振りや隠れ蓑にしか思えないレベルである。

 

 

※ここからは『エスター』及び『エスター ファースト・キル』の内容に踏み込んでいるのでネタバレにご注意ください。

 

 

私が『エスター』を初めて観たのは確か1~2年前で。ネットで「リアルエスターじゃん!」と話題になっていた記事を読んだのがきっかけである。最初に記事を読んでしまったことで、エスターが少女の振りをした成人女性であるというネタバレを喰らってしまった。喰らってしまったものは仕方がないので、確認の意味も込めてそのまま鑑賞したのである。大ネタを知っていたがゆえに衝撃度はそこまでではなかったが、それでもエスターの陰湿かつ悪質な嫌がらせがどんどん狂気に発展していく演出は、見応えたっぷりだった。

旦那を寝取りたいエスターが旦那にだけは甘い顔をして、さすがに旦那が鈍すぎて「もういい加減にしろよ!」とツッコミを入れたくなるが、そのイライラも監督の術中にハマっている感じがある。何よりエスター役のイザベル・ファーマンの13歳とは思えない大人びた演技力に目が釘付けになる。公開から10年ほどしてから観たものの、確かに面白かった。

 

という感じで1作目のネタは既に知っていたのだが、2作目の「前作を超える衝撃」と聞いて、まあさすがに嘘だろうと思っていた。誇大広告である。そもそも衝撃を受けるかどうかは主観なので、別に罪でもないし、お客さんを呼ぶためにはそういう文言を付け加えるのが普通だよなと思っていた。しかし実際、「前作を超える衝撃」である。超えたかは主観によるが、1作目をネタバレされていた段階で観た私にとっては、完全に前作は超えていた。

 

今回は続編ではなく前日譚。それもそのはず、1作目にてエスターは冬の池の中へと沈んでいったのだから。彼女の「ファースト・キル」、つまり最初の殺人が描かれる。実際には最初ではなさそうだったが、どうなのだろう。ともかく1作目に至るまで、つまりは精神病院を抜け出し、孤児として潜伏するまでを描いた作品になっている。

 

23歳になったイザベル・ファーマンだが、正直に言うと違和感はかなりあった。幼い方ではあるものの、さすがに顔立ちが少女には見えない。

YouTubeに公開されたこちらのメイキングによると、後ろ姿などは本当に子役が演じているらしい。

www.youtube.com

 

それほどまでに「エスター=イザベル・ファーマン」という点にこだわったのは、やはり前作のインパクトのおかげだろう。イザベル・ファーマンの顔を見るだけでパブロフの犬みたいに恐怖を感じてしまう人もいたはずだ。

 

だが観ているうちに違和感はどんどん消えていく。それもそのはず、今回は前作のようなスローペースではないのだ。観客がエスターの正体を知っていることが前提であるため、前作に漂っていた「いや~な雰囲気」をこれでもかとバンバン消化していく。

それでいて「正体がバレないように頑張らなきゃ!」みたいな健気なエスターの心情がとにかく伝わってくるのも上手い。精神病院から抜け出す序盤はメタルギアソリッドシリーズを思わせるワクワク感があり、オルブライト家でも予想外の展開により、エスターが窮地に陥ることとなる。

 

前作ではサラッとしか語られなかった「彼女はロシアから来たんじゃなかったの??」みたいな件も、今作で丁寧に説明される。精神病院を抜け出して警察に保護された時に、「誘拐されてロシアに来た」と嘘を伝え、自分に似たエスターという行方不明の少女の振りをする。作戦が成功し、見事エスターを探していたオルブライト家の元へとたどり着くが…。

 

なんとエスターは失踪したのではなく、兄が起こした事故によって亡くなっていたのである。家族の体面を保つために全てを知った母親は偽装工作を敢行。兄は無関係として、エスターの遺体を秘密裏に処理し、父親には何一つ真相を伝えていなかった。

そう、母親は知っていたのである。エスターはもうこの世にいないことを…。

しかしエスターの登場により旦那が元気を取り戻したことに気を良くし、エスターに対して「送還されたくなかったらずっとエスターの振りをしていなさい」と交換条件を持ち掛ける。1作目のエスターは家族を翻弄する側の殺人鬼だったが、本作では秘密を持った家族によって、エスターが窮地に陥るのである。

 

お互いに素性を父親にバレないように頑張る姿は、もはや『SPY×FAMILY』のようなコメディにさえ見えてくる。果てには、真相を悟られないためにどっちが先に相手を殺すかという合戦が行われ、事態は泥沼の様相を呈する。1作目で印象的だったエスターのブラックライトで照らすと浮かび上がる絵が、オルブライト家で教わったものだったというのは個人的に嬉しい演出。

 

私は映画に対して文学性やテーマの重みよりも「初見の衝撃度」を重視しているので、『エスター ファースト・キル』は本当に面白かった。エスターよりも嫌な奴を平気で出せるのは本当に凄い。これを観てから1作目を観ると、エスターがかわいそうに思えてくるだろう。

1作目は夫婦がとにかくどこでも交わろうとするのが若干気まずかったが、本作ではそういった描写は最小限。監督も脚本家も1作目から変更があったものの、それがむしろ良い効果を生み出していたのかもしれない。

 

エスターはもはやホラーファン以外の層にもその正体を知られていて、恐怖の対象から「キャラクター」へと変質している。それはジャパニーズホラーにおける貞子や伽椰子がたどってきた道である。そんな彼女の変質を、この続編(前日譚)は巧みに利用し、恐怖の対象から応援する対象へと変化させた。もちろんエスターも悪人ではあるのだが、彼女の心の動きがしっかりと伝わってくる上に、観客の心情は彼女のそれとリンクし続ける。

過去を掘り返すことでエスターというキャラクターを深く掘り下げ、その上で単発の衝撃度も1作目に引けを取らない、素晴らしい前日譚だったと思う。もうこれ以上エスターシリーズを作ることは脚本的にも演者的にも不可能かもしれないが、せめて監督のウィリアム・ブレント・ベルと脚本のデイビット・コッゲスホール2人の今後の作品は追っていきたいところ。

 

 

エスター (字幕版)

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