映画『アントマン:クアントマニア』評価・ネタバレ感想! 観たかったアントマン3作目とは程遠かった…。

本当に「残念」以上の感想がない。アントマンは大好きなヒーローで、1作目を鑑賞した時の感動を今でも鮮明に憶えている。大好きと言っても別にアメコミを読んでいるわけではないからあくまでMCUにおけるアントマンが好きなだけなのだが、1作目の感動、シビル・ウォーに参戦した時のコミカルさ、エンドゲームで重要な役割を果たした時のワクワク感。庶民派でありながら重要なポジションを担うことの多いアントマン。その3部作ラスト(今後4が全くないとは言えないが…)が、過去2作とかけ離れてしまったことがただただ残念なのである。

 

アントマン&ワスプ:クアントマニア/ダイカットステッカーB IS909

 

予告が解禁された時、「アントマンも遠いところに来てしまったなあ…」という思いを抱いた。量子世界でのスペースオペラがメインの物語であることは覚悟していた。それでも、何か突き抜けた面白さがこの『クアントマニア』にあるのなら、余裕で手の平を返すつもりだった。

だが実際には、アントマンが過去2作で訴えてきた「家族」というテーマもぎこちない形となり、子供部屋やレストランのキッチンを舞台に繰り広げられる縮小アクションもほとんどなし。それでいて『スター・ウォーズ』にしか見えないビジュアル。ビジュアルに頼り切るばかりの量子世界の設定には、奥深さをあまり感じられなかった。

 

何より言いたいのが、今回MCU映画には初登場となるカーンの存在感がちっぽけすぎることである。「最小のヒーローが最大の敵と戦う」というコンセプトがこの映画の「引き」であったはず。カーンと言えばアメコミの知識が浅い私でもその強敵具合を知っているほどの重要キャラクター。そして、今後のMCUの展開では、『アベンジャーズ:ザ・カーン・ダイナスティ』の公開も予定されており、フェーズ5と6においてアベンジャーズの前に立ちふさがる強大な敵であることが示唆されている。

 

ドラマの『ロキ』でも登場した彼が、満を持してスクリーンに登場。もちろん別個体ではあるのだが、そのお披露目の相手が、庶民派ヒーローのアントマンというのは非常に面白い組み合わせだった。劇中でもアベンジャーズマルチバースで何度も全滅させたことを話しており、観ているこちらは「本当にアントマンで倒せるのか?」という不安を抱く。抱くはずだった。今回のカーンは、あまりに弱い…。

 

アベンジャーズを全滅させたという箔こそついているものの、使う技は人の動きを止めるような、テレキネシス的な力のみ。大層な武器を持つわけでもなく、攻略不可能な能力があるわけでもない。「カーンって何者?」という問いに対して、「何かいっぱいいる」くらいのことしか分からなかった。

MCUのフェーズを跨ぐ強敵と言えばやはりサノスが挙げられるが、彼は徐々に地球に迫り、アベンジャーズやガーディアンが戦ってきたヴィランのバックにいるという点で、少しずつその恐ろしさが強調されてきた。言わば今回の『クアントマニア』は、今後におけるカーンの説明、そして他のカーンが打倒アベンジャーズを目的とするきっかけを作る作品となっているのだが、肝心のカーンの強敵感が全くなかったのが残念。

 

もちろん、演じるジョナサン・メジャースの演技力は圧巻だった。感情のない怪物のような飄々とした佇まい、そして平気で人を痛めつける残酷性、性格の面ではサノスとはまた違ったキャラクター性が打ち出されていて、非常に魅力的だったように思う。だが、それを「アントマンが倒す」という流れが、どうにも雑に見えてしまうのだ。

 

そもそもアントマンの特徴は、「縮小化・巨大化」にある。メイン映画では主役だが、アベンジャーズの一員としては端役のような立場。強さよりも能力のトリッキーさが際立っており、スコットの人間性も相俟って、とても親しみやすい庶民派ヒーローとなっている。そんな唯一無二の(正確にはワスプやキャシーもできるが)特性を持つヒーロー「だからこそ」のカーン戦を期待したのだが、結果はただの殴り合い。アントマン、ワスプ、キャシーの3人でカーンを殴り、ハンクが連れてきた千年以上生きた進化したアリの群れに押し流され、最後はスーツ半壊状態のスコットとこれまた殴り合い。

 

「これで本当にアベンジャーズを倒せたの?」と疑問に思ってしまうし、アントマンらしい戦い方が全くなされなかったのも残念だった。特に私は1作目の子供部屋でのトーマスを用いた演出や、2作目の身の回りの品を縮小・巨大化させるアクションが大好きだったので、既視感ばかりのエセスペース・オペラに成り下がってしまったのは残念でならない。パンフレットを読む限り、VFXなどもすごく作りこんであるし、深海生物のようなブヨブヨウネウネしたクリーチャー達は見ていてすごく楽しかったのだが、私が『アントマン』に求めていたのはそれではない。

 

例えばこう、カーンの力は量子世界ではうまく発揮されず、何か適当な装置を作って力を維持しているけれども、縮小化が可能なアントマンならそれを破壊できる…など。アントマンらしい解決法をどこかに見出してくれてもよかったのではないだろうか。

 

 

 

 

ここまでカーンへの不満をつらつらと書いてきたが、アントマン2作が打ち出していた「家族のドラマ」という点にも、今作は非常に不満が残る。『アントマン』『アントマン&ワスプ』では、2つの家族の行方が常に描かれてきた。ラングとピムである。スコットとキャシー、ハンクとホープの2つの親子の物語が、常に物語の推進力となっていた。『アントマン』では、ハンクとホープはジャネット失踪によってぎこちない関係であり、そこに巻き込まれた形で元泥棒のスコットが参戦。何の力も持たない彼の明るさが、ハンクとホープを結び付ける。それでいて、娘のキャシーが狙われた時には必死になって戦うという、正に庶民派ヒーローの物語が描かれた。

 

続く『アントマン&ワスプ』では、三つ巴の研究所奪い合いが行われ、キャラクターが多いゆえにテーマが散漫になっていた印象こそあるものの、「家から出たことがFBIにバレたらまずいスコット」というコミカルな軸を持ち、ジャネット救出という大きなミッションへと挑んでいく内容は、とても明朗快活で面白かった。そう、『アントマン』は過去2作で、常にホームドラマのような暖かみを描いてきたのである。ハンクとホープのわだかまりが解消され、ジャネットが戻り3人が一つになる。抱き合う彼らを見て微笑む三枚目のスコット。もうこれだけで十分なのだ。

 

だが、『クアントマニア』は量子世界に突入したことで、『アントマン』本来の味であったホームドラマの側面さえも、おざなりにしてしまった。そもそも、今回の彼等には、「自分たちの世界に帰る」という目的こそあるものの、ぶつかっている人間関係の壁がない。強いて言えばキャシーが戦いたがっているという側面が強調されてはいる。というか序盤の留置所に居た場面などからすれば、「ヒーローになりたいキャシーと危険だから止めさせたいスコット」という構図が軸になるのが筋だと思う。しかし実際にはキャシーはもう戦わざるを得ない状況に陥る上に、スコットが彼女をヒーローとして認める、というようなこともない。

 

ここに対して、「ヒーローとして名を馳せ、自伝まで出した彼が、娘にはヒーローを止めてほしいと思う矛盾」からの「大切な人の気持ちを制御するのではなくて、共に戦っていく、一緒に未来へ向かっていく」みたいな構図が映画としてあれば、それだけで全然OKなのだが、そういう作品でもなかった。キャシーが捕まればスコットは怒るし、再会した時には熱い抱擁をかわすものの、物語性は非常に薄い。

 

そして、『アントマン』シリーズのシリアスを担ってきたピム一家だが、なんと量子世界においてジャネットが他の男性と親しくしていたことが発覚。浮気を許そうとは思わないが、帰れるアテもなかったわけだし、これについてはまあ仕方がない。ジャネットがハンク達に量子世界のことを一切話さなかったのも、何となく罪悪感があったのかなあと思う。だが、そこに対して一切向き合わなかたのが、この映画のもったいないところである。ハンクが「俺も男だからな」とうまくいかなかった女性の名前を挙げるに留まっており、「いや普通ずっと失ったことを後悔してた女性が他の男と親しくしてたことを知ったらもっと怒ってよくない?」と思ってしまった。何よりジャネットを失ったという過去がシリーズの肝でもあったのに、その真相をコミカルに終わらせてしまう辺りで、首を傾げてしまうのだ。

 

 

 

 

更に言えば、これはカーン弱い問題にも繋がるのだが、スコットよりもジャネットの方が、カーンとの因縁が強いのである。カーンにとってジャネットは長い時間を共にし、自身の帰還を不可能にした存在。つまり、戦うべき理由を持つ相手である。一方スコットとは今回が初対面であり、その出自がリンクしていたり、何か対比が生まれているというわけでもない。しかしカーンを倒すのはスコット(とワスプの協力)。アベンジャーズにおいてはヴィランの印象が薄いことが度々取沙汰されるが、長く宿敵となるカーンをしっかりと登場させる役割を担ったこの『クアントマニア』において、主役のアントマンとの因縁が薄いのは、非常にもったいなかったと思う。

 

量子世界における「征服者」であるカーンを、庶民派のアントマンが倒す。ちょっと踏み込んだテーマとしては、「一 対 多」の構図が、この映画の肝かもしれない。征服者として独裁を続け、民を虐げてきたカーンに対し、突如現れた庶民派ヒーローのアントマンが、圧政に苦しむ人々の心を鼓舞して立ち向かう。実際、キャシーの演説シーンなんかを見ても、「群れを作る」という蟻の特性を活かした話運びにはなっているかもしれない。だが、肝心の圧政の描写が弱く、なんなら『スター・ウォーズ 新たなる希望』で見たような茫漠とした景色や質素な服装のキャラクターばかりが散見され、感情を乗せるのが非常に難しかった。

 

とはいえ、ギャグは面白かったし、ストーリーはここ最近のMCU作品の中でも抜群に分かりやすく、フェーズ5の1作目というのもあってか、「MCU初見でも大丈夫」なくらいの作りにはなっていた。細かいところを言えば本当にキリがないし、私が観たかったアントマン最新作とは程遠いのだけれど、スクリーンで迫力のある映像を観られたという喜びは大きい。

カーンについて散々なことを言ってしまったが、今後MCUがどう動いていくのか、カーンをどう立てていくのかはすごく楽しみなので、まだまだ期待したいところ。あとモードックがコミックまんまの姿で出てきて嬉しかったので、そこは良かった。