Vシネクスト『仮面ライダーリバイス Forward』評価・ネタバレ感想! 「俺の観たかったリバイス」がそこにあった。

12月に『MOVIE大戦バトルロイヤル』の公開があったとはいえ、私の心はもう完全に『仮面ライダーギーツ』に傾いている。並行して放送されている話題作『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』と遜色ない面白さを誇り、視聴者の感情を巧みに誘導してくれる、非常に安心できる作品だ。同じ高橋脚本の『エグゼイド』でもそうだったが、小出しにできる謎や伏線と、物語の本筋に関わる大きな謎とがきちんと両立していて、なおかつバトルロイヤルという舞台設定ならではの面白味に溢れている。序盤の邂逅編こそのめりこめなかったが、今はもう毎週の放送が楽しみでならない。

 

しかし『ギーツ』の前には『仮面ライダーバイス』という歪な作品が放送されていたのだ。全編を通しての私の感想はこちらの記事で。

 

curepretottoko.hatenablog.jp

 

2万字近くあるので率直な感想を言うと、「面白がっていたから楽しかったけど、面白くはなかった」である。

悪魔と共に悪魔と戦う物語という設定から期待していたものとはまるで違う作品であり、納得いかない設定や演出も多い。それでもやはり、1年観ていた分愛着は何となくあるのだ。

 

放送終了から早五ヶ月。毎年恒例のVシネクストでのスピンオフが公開となった。『仮面ライダーバイス Forward 仮面ライダーライブ&エビル&デモンズ』。なんと長いタイトルだろうか。去年の『セイバー』のVシネが主人公を含めたメイン3ライダーの物語になっていたので、今年はどうなるかと気にしていたが、例年通りの2号ライダー(?)達を主演に据えた物語となった。

 

正直、あまり期待はしていなかった。そもそもVシネクストでのスピンオフ自体、取ってつけたようなものになるパターンが多いのと、もうこれ以上リバイスという作品に期待することができなかったためである。

それでも毎年観るようにはしているので雪の降る中朝イチで劇場に向かったのだが、これがもう本当に面白くてしっかりと制作陣に頭を下げたい。アクションを得意とする坂本監督とテーマの汲み取りがうまい毛利脚本だからまあチケット代くらいは取れるかななんて甘く見ていた俺を許してほしい。本当に素晴らしかった。俺の観たいリバイスが、この作品には詰まっていたのだ。

 

 

 

冒頭、アリコーンのアジトから子どもたちを救出する大二の顔つきでもう感動してしまう。源太には悪いが、完全に父親目線になっていた。あんなにメンタルがボロボロで暴走しまくっていた彼が、子ども達にこんな顔ができるようになったなんて…。戦いで傷ついたのに「こちらへどうぞ…」とワクチン接種会場の案内をする大二が懐かしい。

 

ブルーバードの制服(パーカー)が色鮮やかすぎてダサいのが困るが、それ以外は概ね問題なし。テレビ本編のような違和感が全く感じられない話運び。リバイスを心から好きになれない原因はどこだろうとずっと探し続けていたのだが、やはり私にとっては木下脚本がネックだったのかもしれない。さくらと一輝の他愛ないやり取りや、各キャラクターの出し方、そのどれもが上手すぎる。リバイス本編でも「リバイスってそんな話だったっけ?」となるような急な展開が多くあったわけだが、今回はそれがどれも良い方向に作用していて「こんな話ではなかったと思うけど、俺が観たかったのはこれだ!」とうんうん頷くだけのイエスマンになってしまった。リバイスという作品のテーマと、毛利さんのテーマの汲み取り方が完全に解釈一致。一心同体感が強い。

 

こまごまとした点を挙げればキリがないが、私が何より嬉しかったのは、「安定した大二」を70分以上も堪能できることである。五十嵐大二は、主人公の弟であり、フェニックスの重要ポジションであり、2号ライダーでもある。序盤では、大二が一輝を妬む気持ちから生まれてしまった悪魔・カゲロウを乗り越える話が描かれたのも印象深い。この時点での、まさに「人間の二面性」に正面から立ち向かったリバイスは本当に良かった。そしてカゲロウを抑えつけ、見事仮面ライダーライブへと変身を遂げる大二。

 

しかしその次の回、守られてばかりの状況に納得できないさくらに対し、「危険だから」の一点張り。あれだけ兄を疎ましく思っていた大二が、妹の心情に全く寄り添えていないのはショックだった。それと同時に、リバイスって1個解決したらもう次でそれが活かされることはないのか…というシステムを理解した。

 

その後、カゲロウをあまり意味もなく消滅させ、カゲロウも出番が少なかった割に何となく大二を想う大切な存在として描かれるようになる。ここにも言いたいことはたくさんあるが、まあカゲロウというキャラがもうリバイス随一の素晴らしい造形なので、何も言うまい。しかし赤石の実力を知って何故か大二はギフ側にシフト。その後約二ヶ月に渡って、大二が他のライダー達と反目する状態が続いた。誰一人大二に寄り添うでもなく、ただ正論を押し付けるのみ。こんなんで大二のメンタルがもつわけがない。

 

そこでいよいよ我等がお節介兄貴の一輝が本領発揮かと思いきや、この暴走は実は生きていたカゲロウに助けを求めて終わる、という何とも驚きの結末を迎える。もう何も言うまい。

 

 

 

 

とまあ、物語の中心に居る時はメンタルを崩していて、それ以外の時は大した活躍をしないことでお馴染みだった大二が、遂に主役を張れるレベルにまで成長したことがもう感慨深い。しかも今回の大二は、メンタルが非常に安定している。偽物のヒロミ・ムラマサの出現やカゲロウの裏切り等に対しても、周囲の力を借りながらきちんと立ち向かっていく。

 

テレビ本編での大二はとにかく周りに振り回されてばかりだったため、大二がヒロミを救うために、留美を護るために、自分自身で決断と選択をして前に進んでいく姿というだけでもう大感動。また、本編ではあまり見られなかった、大二とカゲロウが並び立つ演出が常にされているのもいい。カゲロウの実体化により、直接(とはいえ合成か吹替だが)対峙するシーンが増えることで、より臨場感が増している。

 

その上で、カゲロウに助けられることの多かった大二が、最後の戦いの後に疑問を持ったカゲロウに対し、「察しろよ」と上から言うのも本当に良かった。大二とカゲロウという2者の関係性が、もうこの作品だけで明確に違ってくる。悪魔と時に協力し、時に反発する。しかしどちらもが自分自身。「手段は違っても目的は同じ」という一輝の言葉が光る。

 

今回はゲスト的な立ち位置でしかなかった一輝だが、テレビ本編の時とは段違いに良い兄貴になっていた。本編ではとにかく持論を押し付けるだけの性格で、それが「お節介」と称されることにとにかく違和感があったのだが、今回の一輝は答えを押し付けず、「風呂に入ろう」と促し、相手に寄り添って答えへと導いていく凄腕カウンセラーのようなキャラクターに。しかもそれが消えてしまったバイスとのやり取りを踏まえてのものであるため、説得力が段違い。いつも正論を唱えてばかりだった彼が、数々の戦いやバイス消滅を経て成長した…とも取れるが、おそらくこれは脚本家が毛利さんだからなのだと思う。

 

1本の作品としても、「ヒロミが留美との約束を果たす」物語として、根幹がとてもしっかりとしている。刀剣乱舞にでも出てきそうなムラマサのビジュアルは、演じる小松さんの整った顔面をさらに底上げ。おまけに銃や弓が主だったヒロミに(というか途中から弓が主だったの何?)、剣の殺陣までが加わる。多彩な武器を使うヒロミさん、やはり真面目に修行してきたんだろうという背景が伺えて素晴らしい。ムラマサのアンドロイド的な演技も良かったし、パンフレットでは小松さんがムラマサの演技について長く語っていて、物凄く気合を入れたことが伝わってきた。

 

留美を演じる芹沢凛の演技力も圧巻。ライダーのVシネではお馴染み、謎めいた少女枠である。その正体は治癒能力を持った突然変異であり、肉体年齢が80歳のヒロミを完全に治癒することにも成功する。リバイス本編には一切なかった設定だが、まあライダーのVシネはそういうこと普通にやってくるし、やらないと敵いなかったりするからな…と妥協した。ただ、観た後に気付いたことではあるのだが、仮面ライダーバイスはそもそも「生物の遺伝子」をスタンプに落とし込んで変身するヒーローではなかっただろうか。

 

変身形態も「〇〇ゲノム」であったし、そういうところからの突然変異という連想なのかもしれない。確かに唐突ではあるし、諸々話を進めるのに都合の良い便利さを感じるのだが、それでも物語の軸がブレず、面白さを保っているのでこの追加要素は特にノイズには感じられなかった。ツッコミどころと言ってしまえばそれまでだが、本編で特に意味もなく無駄に足されていく設定の方がノイズだったので、Vシネなわけだしこれくらいなら全然許容範囲である。

 

 

 

 

何より嬉しいのは最早ネタ的に扱われていたヒロミの決め台詞、「我が命を懸けて」が、しっかりと否定されたことである。門田ヒロミというキャラクターは、本編では全く成長が見られなかった。成長が見られないのはリバイスのキャラクター全員に言えることだが…。

 

いじめられっ子だったゆえにヒーローに憧れ、遂に変身を成し遂げた凡人。そういうキャラづけなのかと思ったが、いつの間にか五十嵐三兄妹の頼れる兄貴ポジションへと躍進。正直ヒロミさんが頼りになるという描写は薄く、何となく年長者だしライダーだからみたいな認識でしかなかったと思う。他の3ライダーとの違いもはっきり打ち出せず、戦う度に体が傷ついていくというデメリットだけが、彼のアイデンティティとなっていた。

 

ベイルドライバーの謎にもいち早く気付いたものの、ベイルは源太との因縁があるために、特に相手にされることもない。崖から落ちただけで状態の確認すらされず、死亡したものとされる。スピンオフは観ていないが、記憶喪失で田舎に帰るというのがなんだかもう…作り手との意識のギャップを感じてしまった。

本編に復帰した際には、大二復帰の救世主となるかと思われたが、全くそんなことはなく、他のメンバー同様、正論を振りかざすだけのキャラクターになってしまう。「全身全霊をかけて」の変身は一体何だったのだろうか。

 

そんなヒロミに遂に、物語が付与される。

HUNTER×HUNTER』のゴンばりに自分の命を雑に扱っていたヒロミが、ようやく留美という守り続けたい存在に出会い、自分を大切にする戦いを学んだのだ。若林司令官の幻影が登場するのも良かった。ずっと体のことを心配され続けただけのヒロミが、ようやくしっかりとキャラクター性を獲得し、成長を遂げる。それを見られただけでもこのVシネクストに価値はある。

 

ゼロワン、セイバーと、捻ったオチのVシネが続いていたこともあってか、今回は非常にシンプルに感じられた。メンタルの安定した大二がカゲロウとタッグを組んで敵と戦う物語と、命を懸けて戦ってきたヒロミが自分を大切にするようになる物語。

ムラマサという謎の存在が物語をぐいぐい牽引し、一輝やジョージをはじめとした、周囲の後押しも本編ほど厚かましくなく、個性を意識して相手の心情に寄り添ったものとなっている。

Vシネであるためか、本編で多かったギャグ描写もそこまでくどくなく、非常に「見やすい」作品となっていた。1年間蔓延り続けた違和感が全くない。

 

何より感動したのがEDの「Love yourself」。藤林聖子さん作詞のこの曲が、リバイスの全てを包括していると言ってもいい。いや、言ってはいけない。なんというか、「リバイスが目指していたであろうもの」が歌詞に詰め込まれているのだ。本編でそれがこちらに伝わってきたかどうかは別として、1年間生じていた違和感を一気に塗り替えてくれるような、そんな暖かさに満ちた曲なのである。

 

劇場でしか聴いていないという人はぜひ配信などで聴いてみてほしい。

「悪魔は僕らの敵じゃなくて もう1ランク上連れてく相棒」

「ほんの少しこじらせてるくらいが人間らしい」

こうした歌詞から連想できるシーンがもっと作品に反映されていれば…。

 

何よりPVでは、五十嵐三兄妹、ジョージ、ヒロミ、花、環に加えて、しれっと仲間ヅラをしているオルテカが面白すぎてずるい。

 

言及し忘れていたが、黒タンクトップでヒロミと大二がノリノリで歌うOPも、チープさも相俟って最高だった。あれはカゲロウとムラマサを入れたバージョンも作ってほしい。

入場特典が週替わりなの面倒だなあと思っていたが、あと2回どころか何度でも観たい、そう思わせてくれる素敵な作品だった。

Vシネ特有の設定の複雑さやエピローグゆえの難解さはなく、単体作品としても非常に見やすく、リバイスの作品群の中でも圧倒的に見やすい。つくづく、リバイスは惜しい作品だったなあという思いが湧いてきてしまう。