映画『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』評価・ネタバレ感想! 『ブロリー』とは一味違う、ピッコロさんファン大歓喜の意欲作

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ドラゴンボール超 ブロリー』を劇場で観た時の衝撃は4年が経過した今でも鮮明に覚えている。フリーザ軍がサイヤ人を手中に収める冒頭、バーダックの登場などなど。原作では語られなかった物語で一気に引き込まれ、ただの暴走魔に留まらない魅力的な新解釈のブロリーで目が離せなくなる。そしてラスト数十分の怒涛のバトル、バトル、バトル!

ドラゴンボールと言えばやっぱりバトルだろ!」と言わんばかりに圧倒的な画力と勢いでひたすらバトルを続けるゴジータブロリー。思わず笑ってしまうくらいのハイクオリティは、正に「頭を空っぽにして」楽しめる傑作だった。ドラゴンボールの底力、そして日本アニメの真髄を垣間見た気がした。

 

TVアニメも放送を終え、漫画等で展開してはいるものの、ドラゴンボールに触れる機会はめっきり減ってしまう。そこで突如報じられた新作映画の情報。正直、不安もあった。『ブロリー』が突き抜けた傑作だったのは、予告からは予想不可能の怒涛のバトルに魅了されたのが主な理由だったからである。つまり、もう同じ手は通用しない。圧倒的作画バトルをどれだけ長時間提供してくれようとも、それは二番煎じでしかなく、まして拳と気をぶつけ合うのが主なドラゴンボールにおいては、ただのコピーにしか見えないかもしれない。

 

ただ、予告や情報が解禁していくにつれ、別の感情に支配されていく。悟飯とピッコロの物語、レッドリボン軍の復活、ガンマ1号と2号というモロ鳥山明先生っぽいデザインの新キャラ。ストーリー面で大いに期待を寄せると共に、CG作品であることがちょっと残念でもあった。色々な意見があると思うが、正直私はCGアニメはあまり好みではない。理由は単純で、「不気味」だからである。所謂「不気味の谷」の問題にも繋がってくるのだと思うが、どうしても観ていて違和感が拭えず、物語よりもその違和感に気がいってしまうのだ。

 

ストーリーに大いに期待を寄せていたからこそ、今作がCG作品であることがどうしても許せずにいた。しかしそれも、鑑賞前までの話。パンフレットやインタビューを読めば分かるが、今回はドラゴンボールにおいて初の試みを盛り込み、CG作品の旨味をふんだんに活かした作品となっている。それでいてしっかりした骨太なストーリー。魅力的なキャラクター達も相俟って、『ブロリー』とはまた違う軸を持った素晴らしい作品となっていた。

 

やはり一番嬉しかったのは、ピッコロの大活躍だろう。これに関しては予想以上だった。『神と神』でビルスに媚びを売るためにダンスをするベジータを観た時と同等の衝撃があった。ビーデル達に変なぬいぐるみを押し付けられ、部屋中はぬいぐるみだらけ。スマホカバーもそのキャラクター(ペネンコというらしい)に。というか、ピッコロさんがビーデルスマホでビデオ通話というだけで、なんだかもう不思議な気持ちにさせられる。パンのお迎えまで任され、パンからもちゃんと信頼されている絶妙な関係性。もはやマジュニアとして天下一武道会に参加していた頃の面影は微塵もない。

 

そんな彼のコミカルな一面が圧倒的なまでに発揮されている。『ブロリー』はサイヤ人の全滅やブロリーの過去など、悲哀を背負う側面が強く出た作品だったが、今作はどちらかと言えばかなりコメディチック。至る所に笑いが盛り込まれ、敵もどこか憎めない面々。まるで原作初期を彷彿とさせるこの感覚を味わっていると、上映時間100分があっという間に終わる。「ドラゴンボールを観た!!!!」という思いに浸れる素晴らしい映画だった。

 

そしてサブタイトルでもある「スーパーヒーロー」。昨今はMCUマーベル・シネマティック・ユニバース)も世界的な興行記録を打ち立て、日本のテレビ特撮も大いに進化し(むしろ一巡したような感まである)、直近では『シン・ウルトラマン』という作品が公開されたばかりである。例の騒動さえなければこの映画は4月公開で『シン・ウルトラマン』より早いはずだったのだが、結果的には6月11日の公開となってしまった。そんな状況で繰り出される鳥山明先生のヒーロー観。

 

ガンマ1号とガンマ2号の、シンプルでいて特徴的なデザインにも、既にそれは表れているように思う。角やマント、そもそも人造人間という設定自体も、改造人間である仮面ライダーと通ずるものがある。そして彼らを作った、Dr.ゲロの孫、Dr.ヘドの正義感。彼がマゼンタとの会話で「ヒーローを生み出したい」と口にした辺りから、「あ、やっぱりガンマ達とは最後共闘の流れだろうな」と気付く。セルマックスなる人造人間の存在が示唆され、「ラスボスはこいつか」と予想もついた。しかし、ここまでセルが関わる話とは。人造人間編が大好きな私としては感無量である。

 

鳥山明先生の、少なくともこの作品における一つのテーマは、「ヒーローとは護りたいもののために戦う者」なのではないだろうか。ピッコロは人々や仲間を、悟飯はパンを、ガンマ1号と2号は正義を守るために、命を賭して戦いに挑んだ。それは正義の価値観が様々なヒーロー作品において一巡した現代では、少し古臭いかもしれない。だが、『ドラゴンボール』という世界観でこんな真っ当なヒーロー作品をやられたら、感激しないわけはないのだ。命を散らしたガンマ2号も、きっとマーベル映画でやれば「自己犠牲は~」と批判を受けてしまうかもしれない。だが、ドラゴンボールはこういう作品なんだと、見せつけられたような感がある。ベタでコミカルで、ちゃんと感動できる。何なら死んだらドラゴンボールで生き返らせればいい。本来不可逆性を持つキャラクターの死までをも、可能にしてしまうのがこの作品の凄いところである。

 

嬉しいサプライズはセルマックスの登場だけに留まらない。ドラゴンボールに潜在能力の覚醒を願ったピッコロが到達したオレンジピッコロという新たな姿。正直これについては、ドラゴンボールの力でパワーアップってどうなのだろうとも思ってしまった。修行して自然と身に着いたとかでもよかっただろうに…。そして悟飯がアルティメット悟飯を超えた銀髪の姿で繰り出す魔貫光殺砲。これは素直に嬉しかった。悟飯とピッコロの絆の象徴であるように感じられたラストだった。

 

後は、ガンマ1号とガンマ2号が勿体ない…!この1作だけの出演というのは非常に勿体ないほど魅力的なキャラクターだった。おそらくラストで散るからというのもあるのだろうが、特にガンマ2号のおちゃらけたノリは本当に素晴らしく、言葉が出ない。すぐ調子に乗る感じも、いかにも口が軽そうなキャラクター性も、レギュラーキャラになれるほどの輝きを放っていた。逆に比較的物静かなガンマ1号が食われていたほどである。どんどんグッズを出してほしいし、もし次回作があるなら是非メインで出演させてほしい。戦いでのアメコミ的演出に対し、ピッコロの「何故音が出る…」発言は本当に面白かった。出番が思った以上に少なかったのが残念でならない。

 

そして、最後に映像技術についても触れておきたい。細かいことについては専門外の私には分からないが、「CGだから」というだけで観るのを躊躇している人がいたら、迷わず背中を押してあげたい作品であったことは間違いない。

今作はベースこそCGであるものの、そこに服のシワなどを書き加えるという、非常に手間のかかる手法を用いているらしい。児玉監督自身も、世間で言われるようなCGの不気味さをどうにか搔き消せないかと色々と模索していたのだ。その結果、一般的なCGアニメよりも遥かに自然な動きが生まれている。

何より素晴らしいのが、CGアニメにしたことによるものなのか、とにかく「飽きさせない」ことに注力している点。物語が誰かのセリフによって進行しながらも、その背景でモブキャラや喋っていないキャラが縦横無尽に個性を発揮している。ガンマ2号がわちゃわちゃしているのが特に印象的だった。冒頭のピッコロとパンの会話でも、とにかくパンの動きがかわいらしい。パンフレットにも載っていたが、ここは「大人が思う子ども」ではなく「子ども」の動きを再現するよう気を配っていたようだ。

 

他にもDr.ヘドのオレオの食べ方だったり、各キャラクターの些細な目線だったりと、とにかく画面の情報量がとてつもなく多い。一度では全てを堪能することは難しく、何度でも足を運びたくなるのだ。とにかく観客の目を止めさせず、飽きさせない工夫がふんだんに盛り込まれていた。

 

ただ、言いたいことがないわけではない。予告でも伏せられていたラスボスのセルマックスだが、正直ぽっと出感が強く、倒した時のカタルシスも弱い。セル(第二形態)を模したキャラクターでなければ、姿すら記憶に残らなかったのではないかというくらい。ピッコロやガンマ達、それぞれのキャラクター性をしっかりと積み上げてきた今作だからこそ、このラスボスに対してもちゃんと物語や背景を持たせてあげてほしかったなあというのが本音。

 

とはいえ、ピッコロが大好きな私としては大満足の作品であった。「今作は悟飯が主役」と銘打たれているが、悟飯が主役になる時にはいつもその後ろでピッコロの尽力があるのだ。

決してシリアスにならず、緩さを保ちつつもスピード感のある物語と、細部までこだわった映像、そして魅力的なキャラクター達が観客をいつまでも飽きさせない。悟空とベジータのシーンは正直「それでいいの?」とも思うのだが、この辺りはまた次回に期待したいところ。ジャンプ漫画の映画化によくある「やけに冗長なお涙頂戴展開」も全くなかったのが良かった。

 

何にせよ、色々な意味で素晴らしい作品なので、とにかく大ヒットしてほしい。