映画ドラえもん全作感想 第3作『映画ドラえもん のび太の大魔境』

映画ドラえもん のび太の大魔境

 

1作目が恐竜、2作目が宇宙ときて、3作目はアフリカ奥地の大魔境…かと思いきや猿ではなく犬が大きな進化を遂げた世界での大冒険に。映画ドラえもんをほとんど知らないので、今回はこういうモチーフなのね、と純粋に驚くことができるのが嬉しい。そして、『宇宙開拓史』につづき、これまたはちゃめちゃに面白い。ドラえもん映画には何となく、「泣かせにくる子供向け」というイメージがあったのだが、多分自分が小さい頃に観たテレビCMなどの影響が大きかったのだろう。あとは『のび太の恐竜』が自分にあまり刺さらなかったこともあり、どうしてもチープな印象を持っていたが、3作目にしてそれが大きな間違いであったことを知る。今作のジャイアン、とんでもないっすね…。

 

前半はけっこう退屈に感じてしまった。私は映画を観る前にあらすじなどを読むタイプの人間なのだが、のび太についてきた犬のペコが実はある世界の王子で…というのを既に読んでいた。そのため、「まだ犬の世界に行かないの?」と長すぎるアフリカパートにちょっと驚いていたのだ。実際ラスト40分くらいに唐突にペコがしゃべり始める。そしてここからがとても面白く、前半の意味なさげなアフリカパートが伏線であったことがきちっと示されるのが素晴らしい。

 

この映画はいつも通り「のび太と」なんてタイトルを打ち出しているが、実質ジャイアンが主役である。映画になると漢気を見せてくれるキャラクターとして有名だが、3作目にして既にピークに達している。ガキ大将の域を軽く超え、責任を感じて友を守る勇姿、そこで流れる主題歌。

思えば本作の言い出しっぺはジャイアンだった。彼が「秘境を探検したい!」と突然言い出し、スネ夫がそれに追従。そしてのび太を呼び出して「ドラえもんに頼み込んで秘境探検させろよ!」という、どう考えても自分で頼んだ方が早い案件を人に押し付ける辺りが本当にジャイアンなのだが、それがすべての始まりだった。

 

のび太がアフリカ奥地に目星をつけ、偶然居合わせたペコが案内人となる。そして彼らはアフリカ奥地へと足を踏み入れるのだ。しかし、ひみつ道具に頼ってばかりで探検感が乏しいと感じたジャイアンがブチギレ。ペコにより巨神像を見せられたジャイアンは、ひみつ道具なしで仕切りなおす。このパートが異様に丁寧なのがすごい。一見すると襲い来るアマゾンの動物達をひみつ道具で退けるだけの、あまりワクワクしないパートなのだが(それでもゴリラを殴るしずかちゃんは見応えがあった)、その攻略がジャイアンのストレスとなってしまい、結果的に「ひみつ道具を置いてきてしまった責任を発生させる」に繋がるのだ。そう思うと急に強い意味を帯びてくる。ただ、映画ドラえもん、全体的に動物に対しての扱いが酷い。

 

そんなジャイアンに全てを背負わせまいと他の4人がついていく展開もいいし、そこで敢えてセリフなし・主題歌だけを流す演出もニクい。この一連の流れが完璧すぎて、ここだけでもう充分この映画の素晴らしさが伝わってくる。あとはジャイアンがペコと仲良いのもすごく好きな組み合わせ。ジャイアンにあまり動物のイメージがないため、小動物と戯れているような描写はすごく刺激的であった。

 

ただまあ、欲を言えばペコと最初に関わったのはのび太なのだから、そちらにも比重を傾けてほしいという気持ちもある。もしくは最初からペコとジャイアンの絆を描くなど。その辺りが取っ散らかってしまっているために、ペコという強いキャラクターがジャイアンの漢気の前に霞んでしまっているという側面もある気がした。でも急に喋り出した時の光のない目は本当に怖くて良かったです。ああいうシュールな画に弱い。

 

そして忘れちゃいけないのが先取り約束機。初めて知った道具なのだが、要はクレジットカードみたいなものかと納得した。しかし、あまりにチートすぎる気もする。10人の外国人という時点で、何らかの方法で5人が分身するんだろうなあと予想はしていたが、しっかりとタネを蒔いてあるのがうまい。そしてラストも「約束を果たすためにタイムマシンでもう一度行かなくちゃね」という、俺たちの戦いはこれからだエンドにも通じるかっこいい演出となっており、その閉じ方もすごくよかった。『宇宙開拓史』のタイムふろしきもそうだが、こういうひみつ道具のギミックがラストに作用していく展開は見ていて気持ちが良い。

 

とはいえ、もっとペコがしゃべり始めてからの展開がすこぶる面白かったので、もっと早くギアを上げてくれてもよかったのでは…という気持ちはある。最後まで観ればアフリカパートにもちゃんと意味があることが分かるのだが、その時はあまりボルテージを上げきれていなかった感。ペコの国にたどり着き、圧政を敷くダブランダー達をぶっ倒そう!という流れになってからようやく話の縦筋が見えてきて格段に面白くなった。魅力溢れる犬のキャラクター達の描写も少ないながら丁寧で、この辺りは『宇宙開拓史』でゲストキャラクターの心情をさらっと描いていることにも通じるものがある気がする。映画ドラえもん(というか大長編)、ゲストキャラの心の動きや世界観の構築がめちゃくちゃ上手いなあという印象だ。

 

何より、『のび太の大魔境』はこれに留まらず、水田わさび版でリメイクもされているようなのでそれが楽しみである。3作目にしてもうずいぶん満足してしまっているが、引き続き楽しんでいきたい。