Netflix映画『恵まれた子供たち』どこかパンチに欠けるごった煮ホラー<ネタバレあり>

2022年2月9日にNetflixで配信が開始された映画『恵まれた子供たち』。ドイツのティーン向け映画ということで、ちょっと期待しつつ観たので感想や考察を。

 

ただ良くも悪くも、いつものネトフリ映画だなあという印象。

期待を上回るような展開がなく、ホラー映画としてもあまり怖がることができない残念な出来だったように思う。

 

意志薄弱な主人公

今作の主人公フィンは、ホラー映画でよくある巻き込まれ型の主人公。要は怪異に振り回されるタイプのキャラクターなのだ。

幼い頃、18歳の姉と留守番をしていた時に、突如姉が叫び出し血塗れに。包丁を突き付けられ「口を見せなさい!」と脅された挙句、悪霊のような存在に二人共々追い回される。そうしてダムのような場所に逃げたものの、狂ってしまった姉に怯え、フィンは姉を突き放し、殺してしまう。そのトラウマを拭えないまま、フィンは18歳になり、物語はここから始まる。

 

双子の妹、レズビアンの親友、突然距離の縮まるガールフレンドなどなど。

冴えなさそうな雰囲気とは裏腹に、やけに女性に恵まれているフィン。

ある晩妹が自宅で老婆たちと怪しげな儀式めいたことをしているのを目撃し、その日から妹の様子が豹変。姉のこともあり、心配するフィン。更に、父親の勤める製薬会社から処方された薬に、死体に寄生する寄生虫が入っていたことを知り、戸惑いを隠せない。

 

そこから霊媒師親子が現れたりと事態は二転三転するのだが…。

どうにもこのフィンが、自発的に動かないのである。

薬の成分の件はさすがに怪しいと思い専門家に調べてもらったものの、基本的にフィンは「身の回りで異常が起きている、何かがおかしい」と違和感を抱えるだけのキャラクターになってしまっている。

 

せっかく姉を殺してしまったトラウマがあるのだから(せっかくというのは酷いけど)、ピンク髪の親友やガールフレンドが危険に晒され、彼女らを命懸けで護るみたいな流れに持っていっていいはずなのに。

狙われるのはフィンばかり。そのため、開示されていく謎に、「フィンが自分で探り当てた情報」という付加価値がなく、行き当たりばったりな印象を受けてしまう。

 

衝撃的な展開もあるし、その御膳立てもオープニングからされているのだから、もっとのめり込めるような流れがほしかったなあというのが本音である。

 

ラストも結局親友に助けられての逃走。「えっこれで終わり?」という呆気なさ。

せっかくトラウマがあるわけだし、フィンが怪異に立ち向かうようなシーンがもっと観たかった。

 

・結局寄生虫ホラーなのか怪異ホラーなのか

ホラー映画と一括りにしても、そのジャンルは更に細分化される。心霊もの、スプラッターもの、クリーチャーものなどなど。血飛沫は平気だけど、心霊系は全く受け付けないという人もいるだろう。

 

しかしこの『恵まれた子供たち』は、どうにもその区別が難しい映画であると言える。

映画の中での説明がちょっと弱い面もあるので憶測も含むのだが、最終的な結末からすると、「悪魔や鬼と呼ばれてきた邪悪な存在」的な側面が強い映画かなと思う。心霊とモンスター半々と言えるかもしれない。

その存在が巨大な製薬会社という後ろ盾を得てますます力を強め、怪しげな薬を作り、人間を自分たちが乗り移れる器として利用しているということなのだろう。

 

最初は『ハリー・ポッター』の吸魂鬼のような怪物が出てきたので、その手の悪霊系ホラーかと思ったし、霊媒師の登場で悪魔祓い的な要素も出てきた。しかし蓋を開けると、口から虫を入れるという気持ち悪さもあり、最終的には怪物が若者の体を乗っ取ろうとしていることが明らかになる。

これについては、『ゲット・アウト』との類似性を指摘する意見もあった。

 

ただ実際には、心霊・悪魔・怪物・カルト宗教…などなど、ホラー映画に多く用いられる要素が混在しているように感じた。

カルト宗教ではないけれども、街ぐるみくらいの規模で若者を囲おうとしている辺りは、そうした不気味さを思わせる。

 

ただその一つ一つがうまく組み合わさっていなくて、説明も不足気味。

観た後にいろいろと脳内で補完して、ようやく一つになるというか。「あの時のあれはああだったんだ!」というアハ体験的なものよりも、「えっ、幽霊みたいなのが出てきたのにそっち系のホラーなの?」という戸惑いが大きくなってしまう。

 

私はホラー映画と聞けばとりあえず観てみるくらいの精神なのだが、きっと映画を観る人の多くはあらかじめジャンルを知りたいだろうし、それが想定と違うとテンションも追い付かないだろう。

要素がたくさん盛り込まれているだけに、そういった齟齬が非常に残念だった。

 

ただ、気の強い女性キャラクターとか、「まだ恐怖は続く…」的なラストとか、そういったホラー映画のお約束もしっかり踏襲している点では、めちゃくちゃ間口が広いなあと感心させられた。

要は闇鍋感というか。ホラー映画っぽいものをふんだんに盛り込んだ作品という意味では、意欲作だと思う。

それでまとまりがなくなってしまったのは、非常に残念だが…。

 

それと、映画界における、霊媒師の悪魔祓いというのは基本的に「中盤での失敗」か「ラストでの成功」の2パターンで。今回は前者の「中盤での失敗」に当たる内容。

そしてこの失敗は、「力を持った霊媒師でも敵わない相手」であることを強調する役割を担うことが多いのだが…。

 

今作の怪物は、製薬会社を利用して人間社会に溶け込もうとしている、精神性の恐ろしさという着地をしてしまう。

この辺りはカルト宗教系の作品めいている。

それゆえに、「悪魔祓いの失敗」というシーンが何とも虚しくなってしまっているのだ。

 

有能な霊媒師でも倒せないような相手だから特別なアイテムが必要になるとか主人公の出自が鍵になるとか、そういう展開でもない。

ただただ、霊媒師が倒されるだけのシーン。

この辺りのちぐはぐ感も、きっと私がこの映画にのめり込めなかったことの一因なのだろう。

 

・絶対要らないベッドシーン

観た人には伝わると思うのだが、ベッドシーン、要らなくないですか???

 

一応説明すると、霊媒師親子との悪魔祓いを両親に目撃され、フィン達3人はやむを得ず車で逃走。近くの建物で一夜を明かすことになる。そこで感情が昂ったのか、3人でのベッドシーンが披露されるわけなのだが…。

なんだろう、フィンとヒロインの関係がそこまで遠いわけじゃなかったから、別に感慨深くもなし、そこに親友まで入ってくることの意味もよく理解できない。

 

3人の絆が深まったぜ!という象徴として入れたとしても、ヒロインは偶然フィンの家に遊びに来たら巻き込まれた…という流れなわけだし。そこでやることって、フィンに事実を問い質すことじゃないの?と思ってしまう。

 

ただこのシーン、ヒロインはこの時既に怪物に取って代わられていたとなると、また見方が変わってくるかもしれない。

ヒロインが既に寄生されていたことは最後の最後で明らかになるので、そのタイミングは分からない。つまり冒頭では既に寄生されていて、フィンと仲が良くなったことにも、そういった悪意が込められているという可能性は十分にある。

 

とはいえ、最初に書いたように意志薄弱なフィンがヒロインを救うという展開でもないので、別にベッドシーンが要るか要らないかで言ったら要らないな…となってしまうのが残念。

たとえばこれ、フィンが必死になってヒロインを助けて、何なら誰かが犠牲になったりして、それでも姉のトラウマを払拭できるくらいのヒーロー性を手に入れて、その後で実はヒロインは寄生されてました~ってネタバラシ!とかだと、また違った感情が生まれたと思う。

この怪物の方が手強かったか~というパターン。ホラー映画ではままある展開だけど、カタルシスの後にこれが来ると、なかなか衝撃も強い。

 

ただ本作では、終盤捕まったヒロインは終始家のリビングに放っておかれたので、そのうちに寄生されたのかもなとか、そんな風にも考えられてしまうのだ。

それに、全て怪物の計画のうちだった…にしては仲間を何人も焼き尽くされているわけだし、ここまで手の込んだ計画を立てる理由がない。

 

想像の余地が膨らむ終わり方だっただけに、いろいろと粗が目立ってしまうのが難点である。

 

 

・随所に見られる不気味な演出

ここまで結構貶してしまったのだけど、全部が全部悪い映画というわけではないので、そういう意味も込めて良かった点を挙げていこうと思う。

 

〇フィンの戸惑い

冒頭の血塗れの姉、妹の豹変、そしてガラス越しの妹が怪物に襲われる幻覚(?)、カップを超能力のように引き寄せる妹…などなど。

そうした「何これ…」と思わせるタイプの演出が、すごくよかった。

盛り上げ上手というか、違和感がどんどん増長していく感覚と、観ているこっちが感じる不気味さがフィンの戸惑いとリンクしていく感覚。

部分点を着実に取りに来るようにして、細かいところでしっかりと違和感を出すのが非常にうまかったなあと思う。

 

〇ホラー演出

「怖い!」と叫び出してしまうような演出こそなかったものの、演技面においての不気味さは結構強かった。

まずは序盤のパンツ一丁ババア。『ミッドサマー』にも裸のババアが出てきたし、裸のババアはもう「髪の長い白服の女性」と同じくらい、ホラー映画に欠かせない重要アイテムとなりかけているのかもしれない。

面白くなりすぎない具合というか、あの厳かな感じがすごく不気味でよかった。

 

後は寄生虫に気付き、屋上から飛び降り自殺を図る友人。他にも、拘束されたフィンを笑顔で迎え入れる両親たち。これは役者さん達の演技力が大いに強かった印象。若者達は支配される恐怖をしっかりと演じてくれていて、逆に寄生済みの大人達は着実に恐怖を与えてくれる。

 

・最後に

ホラー映画成分はたくさん入っているんだけど、どれも薄味でパンチに欠ける…という映画だった。一番アレだったのは、特筆すべき点がないこと。この映画のどのシーンが一番よかったかと訊かれても、私はきっと「パンツ一丁のババア」と答えてしまうと思う。

 

話自体は結構しっかりとしていて、序盤から伏線も散りばめられている。学内の講義で「タイワンアリタケ」というアリに寄生する菌類の話をしてたりとか。いろいろ「ちゃんとしている」映画だとも思う。

 

でもその「ちゃんとしている」が、「遊びの幅がない」に繋がってしまっているのが非常に残念。なんというか…ちょっと真面目すぎたのかもしれない。