映画『アクアスラッシュ』評価・ネタバレ感想! ところてんのシステムで人が死ぬ

アクアスラッシュ(字幕版)

 

 

毎日暑い日が続いている~夏だ~ということでプール映画を観てみました。市民プールとかレジャー施設とか全く行ったことないですけど。

前々から映画の評判は聞いていて、ちょっと変わったギミックのB級映画があるということは知っていたんですが、なんというかくだらなすぎて「観る」まで至らなかったんですよね。ただ71分という短さもあって早起きできた朝にサクッと観たんですがこれがもうすごい。何が凄いってパッケージ以上のことが起きないんですよ。

 

確かにウォータースライダーに刃物が取り付けられてたらめちゃくちゃ怖い。逃げられないですからね。ウォータースライダーに怖いイメージは一切持ってなかったけど、ちょっぴりの恐怖心を足せたという意味では功績を残した映画かなと思います。でも肝心の映画として、ちょっとやっぱり期待を全然超えてこない感じが勿体ないなというか。ホラー映画って結局思いついたもん勝ちみたいなところがあって。それこそ特徴的な殺人鬼とか面白いシチュエーションとかだけで永遠に面白がれるジャンルだと思うんですよ。そういう意味でこの『アクアスラッシュ』は「ウォータースライダーに刃物がついてる」っていうだけで映画を撮ろうとしたのは本当にすごい。

 

ホラー好きとしても「バカなこと考えるな~」というくらいの軽いノリで観られるし、パッケージの女性陣だったり若者たちがプールに集うっていうシチュエーションだけで「あ~バカ学生がどんどん死んでいくんだな~」ということが分かるのも素晴らしい。でも本当にそれだけ。ビックリするくらい肉付けが甘い。

 

これ観た人は多分全員思っているでしょうけど、やっぱりウォータースライダーまでが遅すぎる。70分しかないとはいえラスト15分くらいに殺人が一気に詰め込まれてるのはどうにかならなかったのか…。こっちは「ウォータースライダーで人が死ぬんだろうな」ってことはもう覚悟できちゃってるので、それをそのままラストに持ってくるだけっていう構成は結構キツかったです。というかドラマパートも誰に感情移入していいかよく分からない。主人公っぽいジョシュはバンドマンを目指す冴えない少年かと思いきや、スポーツマンのトミーの彼女キムが元カノで、しかも再会そのままに寝取っちゃうので「なんだこいつ…」となる。こういうパリピのノリが強い作品って普通主人公だけはちょっとそのノリについていけない純朴さを兼ね備えてるじゃないですか。そういうのが一切ない。見た目こそイケメンだけど結構クズ。つかトミーがかわいそうだろ。俺は全然トミーの方が好きでした。途中からトミーが主人公になるのかと思ってたくらいに。

 

でまあ終盤までずっと水着の女性が踊り狂ったりクスリやったり、ちょくちょく濡れ場を挟みながら延々とパリピのノリが展開されるんですが、別にドラマをやっていないわけではなくて。ジョシュの父親との関係のぎこちなさとか、それぞれの恋愛模様とか。そういうことを少しずつやっていくんですよ。これもちょっと凄い。ホラー映画好きとしては学生達が夏の思い出に集まるような映画はそこに殺人鬼が現れてどんどん人が死んでいく展開が「普通」になってるんですけど、そのメンバーって多くても7人くらいが基本なんですよね。なのにこの『アクアスラッシュ』は平気で数十人の学生を出す。覚える必要もないけど別にラストに一気に死ぬわけでもない人達がどんどん出てくるので、セオリーを破ってくるのはすごいなと思いました。一気に死ぬのかなって期待してたけど9人しか死ななかった。

 

というか観る前まではウォータースライダーに憑りついた悪霊によって刃物が出てくるようになってしまった!的な話かと思ってたので、人為的なものであることに驚いたんですよね。まあ、できなくはないけどスピリチュアル系ホラーではなかったんだ、みたいな。これは事前情報入れなかった自分が悪いんですけども。それで正直ドラマとしては中途半端なんですけど、やっぱりこの「ドラマを60分展開する」っていうのは結構思い切ったな~と感心していて。

 

だってどう考えても鑑賞者のニーズと違うじゃないですか。こっちはもうスラッシュででバンバン人が死んでいくのを期待しているのに、全然それが起こらずドラマが展開されていく。マクドナルドに行ったのにメニューがサラダしかないみたいな状態なわけですよ。ハンバーガー食べに来てるのに!っていう。でもそれってやっぱり監督やプロデューサー、誰かのこだわりなのかなあと。どうしてもドラマをやった上でラスト一気に殺したいという気持ちがあったのか。それともホラーなんて本当はやりたくなくて、ドラマパートに力を入れたかったのか。まああんまり考えなかった結果変な映画になってしまっている可能性もなくはないけど、でもこういうセオリーをぶち壊してきたところは普通に好きです。ドラマがあるとはいえ脳みそを使う必要はないので、そういう配慮もいい。

 

観ている中でどんどんトミーに感情移入していったので、彼が異変に気付いて皆を止めようとしたのにポンッって押されてウォータースライダーに流されちゃったのマジで悲しかった…。というかこの「戻れない」っていう一点だけで強すぎますよね。確かにウォータースライダーを上るなんてありえないもんな…。で、刃物で結構スパスパいくのかと思いきや、そうでもないという。先頭の人はすぐにバラバラになるけど、後続メンバーは身動きが取れなくなるくらいに痛めつけられて、後ろから来た人に押されて命を失うところてん方式。このギミックは良かったです。ちょっとリアルなのが面白い。

 

ラストで真犯人はOGの女性だということが明かされ、そのモノローグから過去にプールの従業員の職務怠慢で親を失ったのかな~ということが想像できるんですが、正直ここにはあんまりドラマ性や必然性を見出せなかったです。毎年パーティは開催されてるのになんでこの年に決行したんだろうとか。どう考えても逆恨みでしかないなとか。あとスライダー3個あるのに1個にしか刃物取り付けなかったのはなんでだろうとか。学生達も言うほど気分の悪いタイプのパリピではないし、あんまりスカッともしない。あ~一応真相は用意されてたんですね…くらいのテンション。

 

どうして刃物のギミックをもっと活かせなかったんだろう、どうしてドラマをあんなに長くやっちゃったんだろうとかそういう疑問は払拭できないんですが、71分という短さなのでさすがに全てを許せます。90分だったらちょっと厳しかったかもしれない。これ観ていて思い出したんですけど、『地獄先生ぬ~べ~S』に似たような回があった。『ぬ~べ~S』は掲載誌が「最強ジャンプ」になったことで子供向けになって、無印よりも都市伝説に特化した話が多いので読みやすいです。よければ、ぜひ。

 

 

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タイトルロゴの2つのSが地味に刃物っぽく描かれているけど出てくる刃物は鎌状じゃないじゃん…と思ったりもする。そういう中途半端さも71分なので許せます。続編はなくてもいいけれど、こういう変なホラー映画をこの制作陣には無限に作ってほしい。

 

 

 

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