映画『バッドガイズ』評価・ネタバレ感想! 海外版かいけつゾロリみたいな質感の悪党5人光堕ちムービー

アニメーションスタジオはディズニーとイルミネーションだけではないんだ!ということで以前から応援しているドリームワークスの最新作が公開。原作付きの作品で、5人の悪者達がひょんなことから世界を救う方向へと転がっていく痛快な娯楽作。行きつけの映画館で公開予定だったのに、劇場で一度も予告を観たことがなかった。

ドリームワークスと言えば『シュレック』シリーズや『ボス・ベイビー』。それに『カンフー・パンダ』などの有名作品も多いものの、DVDスルーや配信での公開となることも多く、ちょっと不遇なアニメーションスタジオという印象も強い。私も公開初日の初回上映に行ったのだが、お客さんは私を含めて6名。平日ということもあるが…。

 

しかし今回は宣伝に心強い味方が加わっている。日本語吹き替えの声優陣は、尾上松也をはじめ、安田顕、A.B.C-Zの河合郁人、チョコレートプラネットの長田、ファーストサマーウイカ。バラエティなどにも引っ張りだこの俳優、芸人、アイドルを起用。そう聞くと悪い予感もあるかもしれないが、この5人、本当に見事に役をこなしている。本職の声優に遜色ないレベル。アイドルには詳しくない私だが、ピラニアを担当したA.B.C-Z河合の歌声は本当に素晴らしかった。彼らがメディアに登場する度にこの『バッドガイズ』がプッシュされるというのなら、これほど嬉しいことはない。

 

華麗なテクニックで財宝を奪う怪盗集団「バッドガイズ」の5人が、世界の命運を懸けた一大事件に巻き込まれていく物語。原作は児童書らしく、映画も分かりやすいギャグが多かった。

冒頭、ウルフとスネークがレストランで話し合うシーン。このやり取りだけでもう引き込まれてしまう。タランティーノ作品を観ているかのような愉快な掛け合い。開始数分でウルフとスネークの仲や性格が一目瞭然になる秀逸さ。そこから2人を後ろから追うようにしたカメラアングル。彼らが世間から「恐れられている」ことが分かり、この世界にはウルフ達のような喋る動物もいれば、普通に人間たちも暮らしているという世界観がぱっと表現される。

 

そこから「お構いなく!ただの銀行強盗だ!」という最高のフレーズと共にスムーズに強盗。カーチェイスの道中でウルフのナレーションによるメンバー5人の説明。軽快な音楽とテンポ、5人の強みと弱みがすぐに理解できる…!この情報化社会において、ここまでユーモラスでスムーズでエキサイティングな自己紹介が観られるとは…!正直英字タイトルが出現するここまでの間だけで、鑑賞料金分の価値は十分にあると言える。監督のピエール・ペリフェルは長編映画は初めてとのことだが、ここで既に構成能力がずば抜けていることが一目瞭然なのだ。

 

ルパート教授に授与される「黄金のイルカ」を盗もうとしたバッドガイズ。しかし計画の途中、ウルフがスリを働こうとしたおばあさんを偶然助ける形に。「ありがとう!」とおばあさんにハグされて、無意識にしっぽを振ってしまうウルフ。狼という見た目からいつも恐れられ、ヒールとして生きてきた彼が、優しさや善意の温もりを知ったことで、計画は狂っていく。その場で5人は逮捕されるものの、優しいルパート教授の提案で、彼の下で改心させられていくことに。ウルフはそれを利用して逃げようと考え、チームもその提案に乗っかるが、段々とウルフは優しさにほだされていくようになる。

 

悪人が良いことをする展開を「闇堕ち」に掛けて、「光堕ち」と表現することがあるが、この映画は正に「光堕ち」の物語と言えるだろう。優しさや善意の温もりを知ったウルフ。しかし悪党として生きてきたが故に、それをうまく言葉にできず、仲間であるはずのバッドガイズのメンバーにも、どこか後ろめたさを覚えてしまう。これまで「この生き方しかない」と思っていたことが急に覆されてしまうのは、たとえ善行だとしてもきっと恐ろしいことだろう。まして「悪事」こそが、彼らを繋げているものだったのだから。

 

高い木から降りられなくなった猫をこっそりと救ってあげるウルフ。そんなウルフに、親友のスネークはどこかがっかりした顔。自分の友だちが一抜けしたかのように、自分とは違う世界に目覚めてしまった時の苦しみや孤独が、スネークを通して痛いほど伝わってくる。そして猫を救うウルフの動画がバズり、ルパート教授の改めての授与式が行われる当日。バッドガイズも黄金のイルカを盗み出すために計画を練っていたが、ウルフの心変わりにより計画は中断。だが、街に以前落ちてきた隕石が、何者かによって盗まれてしまう。用意していた計画が仇となり、ウルフ達の仕業という扱いに。

 

ここで刑務所に護送された後、彼らを救うのがフォクシントン知事であるというのも良かった。伏線から正体は明らかだったが、伝説の怪盗だったという痛快な流れが最高。良い意味で期待を裏切らない展開と演出にずっとワクワクさせられる。ウルフの話を受け止めきれず、バッドガイズは実質二分。ウルフとフォクシントンは隕石を盗んだ犯人であるルパート教授を止めるために行動し、他の4人は自宅へ帰る。もぬけの殻となった自宅で、スネークは最後のアイスキャンディーをついシャークに食べさせてしまう。自分を犠牲にした行いは「良いこと」だと他のメンバーに諭されるも、彼は出て行ってルパート教授に協力。

 

そこからゾンビのように大量のハムスターと戦ったりと見どころ満載。アクションシーンも申し分なく、個人的には「変装の名人」とされているシャークが全く鮫のままなのがツボだった。タランチュラの頭の回転の速さ、ピラニアのアホっぽさ。めちゃくちゃテンポの早い「かいけつゾロリ」みたいな感覚で、さすが児童書が原作という辺り、とにかく分かりやすく、視覚的にも楽しい展開が続く。

 

ウルフとスネーク。哀しい行き違いは結果的に、お互いをよく理解していたというハッピーエンドに落ち着くのも最高。善に目覚める悪人なんていうのは、もう誰しもが好きな物語で、そこに特化したこの作品が人の感情を揺さぶらないわけがない。児童書やアニメ映画だからといって、侮るには勿体ないほどの心の機微や感情の振れ幅、ユーモアに展開。計算し尽されたであろうスピード感にぐっと心が引き込まれていく楽しさをとにかく味わうことができた。

ドリームワークスの新たな代表作になれるくらいのポテンシャルは持っているし、ぜひ続編なんかも作ってほしい。