映画『FALL/フォール』評価・ネタバレ感想! 出オチに終わらない、手に汗握るスリル満点の友情映画

地上600mのテレビ塔に登ったら、梯子が取れて降りられなくなっちゃった!というだけで100分の映画を撮るなんてことが可能なのだろうか。可能だった。

 

シチュエーションスリラーに分類されるであろう本作。高所恐怖症の人はまず観ない方が良い。横になるスペースすらない地上600mの塔に、女性2人が取り残されるだけの映画。そこからどうにか生還を果たそうと頑張る…、本当にそれだけの映画なのである。

 

個人的にはシチュエーションスリラーと言えば、満潮でいずれ沈むであろう岩礁でサメと戦うことになった女性を描いた『ロスト・バケーション』が思い浮かぶ。タイムリミットが迫り、体力が奪われていく中で、頭を働かせ活路を見出していくその勇気とドキドキハラハラ感が堪らない映画なのだが、この作品にも同じものを感じた。

 

 

 

 

しかし横に移動できるスペースすらない上に、掴まれるものも中心の柱のみ。ちょっとでも意識を飛ばせば即死というこのシチュエーション。テレビ塔に登るまでに30分ほどストーリーがあるとはいえ、映画が100分も持つわけがないと高を括っていたのだが、大きな間違いだった。むしろ塔の上でできることが限られているからこそ、主人公たちは思い立ったらすぐ行動のマインドでとにかく何でもトライしていく。緊張や恐怖を煽るだけでなく、生き延びようという精神が強く伝わってくる、良い映画だった。

 

主人公のベッキーは、かつて山でのフリークライミングでの最中に夫のダンを失う。正直、あんな山に登ることが、高所恐怖症の私からすれば自殺行為である。そこから1年、ベッキーは酒に溺れる自堕落な生活をしていた。そこにダンの死にも居合わせた親友のハンターから旅のお誘いが、地上600mのテレビ塔に登り、ダンの遺灰を撒いたら供養になるんじゃないの?という、優しいのか非情なのかよく分からない誘いに乗るベッキー

 

ダンの遺灰を撒いてあげたいという気持ちが、感情移入の要素でもあるという意見も耳にしたのだが、明らかに封鎖されて立ち入り禁止感満載のテレビ塔に勝手に行ったのだから、正直自業自得だと私は思う。この自業自得感がずっと拭えない映画ではあるので、私はちょっとのめりこめなかった。ただ、それはあくまで動機の話。テレビ塔に取り残されてからの、ちょっとでも足を踏み外せば死ぬという緊迫感には、さすがに巻き込まれざるを得ない。

 

スマホは当然圏外。でも塔の下では電波が立っていたのだからと、ハンターのスマホでフォロワーたちに助けを求めるが、撃沈。偶然近くにいた男性二人組に信号弾でアピールするも、車を奪われる。この映画、二人の所持品も少ないので、できることも限られており、それがとにかく緊迫感を醸し出す。

 

そんな中で、ベッキーはハンターの足のタトゥーに気付く。「143」これは、夫のダンが「I love you」を文字数で伝えるときの言い方だった。そう、ハンターはかつて、ダンと浮気していたのだ。もうこんな状況でギスギスしたら終わりだろうと思っていたが、親友と呼べるほどの仲だった二人はあっさり仲直り。そもそもダンが死んでいるわけだし、ここに時間を掛けないのもよかった。

 

そしてハンターは、少し下のアンテナに引っ掛かっている水とドローン入りのリュックを取りに行くことに。ロープを使って慎重に下へ向かい、見事生還を果たす…。

いや、果たしたはずだった。実はこの時ハンターはロープを掴むことに失敗し死んでいたのだが、演出ではしばらくハンターは生きていることに。ベッキーは親友の死、そしてこの状況での孤独を受け入れられず、彼女の幻を作り出していたのだ。

 

確かに、ここからハンターが手を怪我したとはいえやけに何もしないな…という違和感があった。応援や説明に徹しているのが、若干引っ掛かってはいたのだが、ここに来てこういうトリックを使ってくるとは。物語に引き込まれ、ハンターのこともだいぶ好きになっていた段階での種明かしだったので、余計につらい。

 

ドローンに手紙を挟んで助けてもらう計画も、興奮のあまりドローンがトラックに轢かれてしまったことで失敗。ハンターの死体はハゲワシに食われ続ける…。むごい。塔を登る前にハゲワシが出てきた段階で、鳥に襲われるシーンはあるのだろうと予想していたが、実際に来ると本当にきつい。しかも頂上にしがみついて必死にドローンを充電しているベッキーまで攻撃してくる。思わず「やめろ!」と叫びたくなった。

 

そんな彼女が左足の怪我の血の匂いを嗅ぎつけてやって来たハゲワシを返り討ちにし、逆に食糧にするシーンは痺れるものがあった。ここでベッキー、覚醒である。それまでは巻き込まれた女性という印象が拭えなかったが、そこからは獲物を狩る「狩人」の目になる。彼女は何としても生き延びようと、決意を固めたのだ。ベッキーがしたようにアンテナに降り、ベッキーをついばんでいたハゲワシを目で気圧す。覇王色の覇気である。そしてベッキーの靴に自身のスマホを入れ、父に救助メッセージを打ち込む。

 

今度は確実に成功するよう、その靴をベッキーの体内に入れて、ベッキーの死体ごと落とす判断は、少し前の彼女だったら到底できなかっただろう。ハゲワシを食べ、覚悟を決めたからこそ彼女は前に進んだのだ。いや、隣にいるベッキーが幻覚だと気づいた時には既に、彼女の心は決まっていたのかもしれない。

 

そして作戦は見事成功。迎えに来た父親と抱擁を交わして映画は終わる。

正直「登るなよ」というだけの話なのだが、地上600mの何もない塔からの脱出劇というワンシチュエーションで100分超えの映画を作ってしまうその気概がすごい。回想シーンなどもほとんど入れず、緊迫感にステータスを全振りしたような作風が見事に功を奏している。

スコット・マン監督のこともあまり知らなかったのだが、こういうシチュエーションでグッと引き込むタイプの映画は好みなので、これからも作り続けてほしい。

 

ベッキーのお父さんが『ウォーキング・デッド』のニーガンでお馴染み、ジェフリー・ディーン・モーガンでした。