映画『バイオレント・ナイト』評価・ネタバレ感想! ハンマー持ちサンタなる、新王道ヒーローの誕生

簡単に人の命が奪われる映画が苦手だ。

フィクションを取り扱う映画では、人の命が非常に軽んじられてしまうことが偶にある。ゴア描写たっぷりで、人の命が矢継ぎ早に奪われていくことが一種の感動に繋がる瞬間さえある。

80年代や90年代くらいまでなら、ゴア描写のインパクトや作りこみで、おおっと唸らされたかもしれない。ただ作られる映画の本数も増えた現代では、「ただ勢いよく命を奪えば良い」と思って作ってるのではないかと、首を傾げてしまうような作品に出くわすこともある。下品だったりグロテスクだったりすることに意味が伴っておらず、鑑賞後に不快感だけが残ってしまう映画を観てしまったという方もいるはずだ。

 

しかし『バイオレント・ナイト』は、一味違う。「サイレント・ナイト」に掛けたであろうチープな邦題も、サンタが強盗と戦うことになるという一発ギャグのような題材も、そして数多くの暴力描写も。その全てが、「子どものために戦うサンタ」という物語の本筋を大きく際立たせている。サンタがプレゼントを渡そうとして入った家で強盗と戦うことになるなんて聞いたらバカ映画だと思うのが普通だが、かなり頭のキレる人達が作ったであろうことは、一度作品を観れば明白である。

監督はトミー・ウィルコラ。『ヘンゼル&グレーテル』などの監督でもあり、アクションにおいては私はかなり信頼のおける方だと思っている。脚本はパット・ケイシーとジョシュ・ミラーがクレジットされているが、彼らは実写版の『ソニック』でもタッグを組んでいた。それらの映画を知る方にとっては、説明不要の面白さだろう。

 

 

ソニック・ザ・ムービー (吹替版)

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サンタクロースというファンタジーの存在に、軽々しく人の命を奪う暴力性を付与する。それは少なくともTwitterでは間違いなく「バズる」組み合わせ。今作のサンタは白髭で太っちょのまんまサンタ。ファンタジーの世界観にありながらも、殴ったり蹴ったりの肉弾戦を繰り広げるサンタの姿は、もうそれだけで充分に面白い。

 

中盤、サンタは過去に戦士だったことが明かされる。サンタが強盗と戦うという世界観がもうあまりにも滑稽なので、いちいちツッコむ気も起きない。それどころか、「昔は脳天潰しというハンマーを振り回していてな…」という説明で、こっちのハンマーへの期待が否が応でも高まっていく。そして案の定ハンマーを手に入れたサンタは、敵の人数が倍以上になろうと、全く気にせず次々と脳天を潰しまくる殺戮サンタへ変貌。

 

この映画の肝はアクションだろう。冷蔵庫の中身は全て使おうと言わんばかりに、周囲に転がっているものをどんどん使っていく。思えば『ジョン・ウィック』などもそうだった。序盤はダーツやクリスマスツリーの飾り。しかし徐々にスケート靴のブレードまでをも用いて、敵と戦っていく。それはドタバタ感の演出でもあり、サンタが機転の利くタイプであることをも物語っている。『龍が如く』の桐生一馬並みに、そこら中のものを使って攻撃してくるので、とにかく飽きない。途中からハンマーだらけになるが、そもそもサンタがハンマー使ってるのがもう面白いので全く飽きない。

 

私はアクション映画のアクションシーンを退屈に思ってしまうことが多いのだが、このサンタはとにかく手数が多いのでずっと楽しむことができた。その上、四次元ポケット的なプレゼントを入れる袋や、暖炉に近づくとそのまま煙突まで一気に行ける能力。サンタ的なギミックがアクションに取り入れられているのも非常にポイントが高い。そうしてやられた敵達は、首がぶっ飛んだり真っ二つになっていく。

 

サンタが人を殺しているというコミカルさだけでなく、アクションの手数の多さが滑稽さに一役買っており、その先にぐちゃぐちゃの死体が広がっていることがもうとにかく面白い。まさに「痛快」である。ギャグとは、ゴアとは、という点をしっかり抑えて、観客のツボを突いてくれる感じが本当にうれしい。

 

しかしこの映画で私が何より感動したのは、「良い子にプレゼントを届ける」というサンタのスタンスが、徹頭徹尾描かれていたことである。

トルーディという娘にプレゼントを渡すために偶然入った豪邸で、強盗事件にサンタが巻き込まれる…という話なのだが、トランシーバーで彼女とやり取りをするのも、情緒があって良い掛け合い。そして彼女は中盤、「サンタはいない」と父親に言われてしまう。サンタを信じていた少女にとってそれは非常に酷な言葉であり、何より自分を救おうとしてくれているサンタへの侮辱でもあった。

 

トルーディの「本当に欲しいのは親友」という言葉に励まされ、彼女の「親友」になることを決めるサンタ。そして強盗団のボス・スクルージへと行きついた時、彼がサンタクロースに対して恨みを持っていることが判明する。言うなれば逆恨みでしかないのだが、サンタクロースに全てを狂わされた男がラスボスに配置されているのは、非常にテーマ性が強い。そして、それまでハンマーで敵を潰し続けたサンタが彼を倒した方法こそ、暖炉から煙突への瞬間移動という、サンタ特有の方法だった。スクルージはサンタを信じていなったからこそ、サンタに負けたのである。

 

瀕死状態のサンタに、トルーディを含めて生き残った家族全員が「サンタを信じる、サンタは親友」だと投げかける。サンタは居ないと言い切ったトルーディの父親でさえも、自分たちを救ってくれた英雄をサンタだと認める。

私はこの英雄譚のような側面に、非常に惹かれた。サンタクロースは両親なんだよ、というよくある結論に落ち着かないアンサー。「サンタはいるし、あんたを強盗から救ったし、プレゼントもあげた」という、もうサンタ万歳と言わんばかりのサンタ讃歌。そして、人々の信じる力…?のような、不思議な力でサンタは見事よみがえる。説明不足かもしれないが、こういうファンタジーっぽさが、作品の推進力にもなっていた気がするので、私は大いにアリ。

 

『バイオレント・ナイト』という物騒なタイトルではあるが、サンタの裏の側面や悪いサンタを出す映画もある中で、逆にサンタをヒーローへと祀り上げた、一周して新しいエンタメ作品だった。一人倒すのにも時間がかかってお腹を切られちゃうようなおじいさんが、ハンマーを手に入れてからばったばったと敵を潰していくのも爽快。

「信じる者の味方」「良い子にのみプレゼントをあげる」「煙突瞬間移動」というサンタらしいギミックもふんだんに盛り込まれていて、コメディアクションのお手本みたいな作品だったと思う。

サンタだけでなく人質家族のキャラクターも、浅はかでアホで、すごく印象的。一見奇をてらった作品に思えるが、実はガワがイレギュラーなだけで、中身は正統派ヒーロー映画なのかもしれない。

 

本国でクリスマスシーズン公開だったために、日本では2月初めという季節外れな公開になってしまった本作。

すでに続編も決定しているらしいので、楽しみである。

 

 

 

 

全然余談だが、漫画『BEASTARS』の作者・板垣巴留先生の新作がサンタクロースもので、映画を鑑賞中、この漫画のことを思い浮かべていたので紹介。

超高齢化・少子化社会で、子どもがお年寄りよりも丁重な扱いを受ける世界で、サンタクロースの末裔である三田が、奇妙な学園の謎に仲間たちと迫っていく物語。

この漫画もサンタクロースギミックの使い方が非常に上手いので、未読の方はぜひ。