スーパー戦隊シリーズ『秘密戦隊ゴレンジャー』感想 その11

 

第11回です。

9回と10回の間は何か月も空いたのに、10回と11回は1日しか空けていない。いややっぱり早く最終回まで観たいなあと改めて思ったので、比較的時間のある年末年始にどんどん進めています。ゴレンジャーを1話メモを取りつつ視聴して、その後に文章にしてるので1話に倍の時間が掛かるんですよね…。しかも片手間で観られないので始めるのに気力が必要。ならば年末年始を使ってしまおうという目論見です。残りも駆け抜けていきたい。

今回は51話~55話。幹部交代回もあったりと、結構目まぐるしく状況が変わる5話でした。有名な野球仮面も。でも自分はガンマン仮面が好きです。かっこいいので。

 

 

 

 

 

第51話「青いニセ札づくり! 夕陽のガンマン

青いニセ札づくり!夕陽のガンマン

 

曽田脚本3連チャンの最終回。今回はガンマン仮面が登場します。銃がそのまま顔になっているという驚異的なインパクトを放つガンマン仮面は、外見だけでなく中身もウエスタンテイストでこれは子どもの心を掴むだろうなあと。いきなり試し撃ちから始まり、馬に乗って移動するガンマン仮面。今のヒーローはバイクや車にすら乗らないというのに、ゲスト怪人があっさりと馬に乗ってしまうの、何だか新鮮でいいですね。この回のコメンタリーとかあったら終始馬のことだけ話してそう。というか、そういうコメンタリーめっちゃ欲しいですね…。TTFC、現行の作品だけじゃなくて過去の作品のオーコメもやってくれないかな。ガンマン仮面が狙うのはイーグル部隊。「ここは西部じゃないぞ!」というモブのセリフが良かった。というか、ここで流れてるBGM初めて聴くかも。いや普段からあんまりBGMに注意を払ってないので勘違いかもしれませんが。

 

ガンマン仮面、西部劇モチーフということでかなり古風でコミカルな見た目なのに、作戦自体はとにかく現金を奪うというシンプルなものなので、そのギャップも良かった。「風の如く襲い、風と共に去っていく」などの面白語録もどんどん飛び出すし、ゲストにしておくのが勿体ないくらいキャラが強い。曽田さん、西部劇が好きなんでしょうか。ガンマン仮面の動きを知ったゴレンジャー。ペギーの「偽札を作れば解決なのに」ってセリフ、この後の展開に繋がる示唆的なセリフとはいえ、ヒーローがさらっとそういうこと言えちゃうのが怖い。一方のガンマン仮面は指名手配までされていました。この世界の人々は仮面怪人をそんなに簡単に受け入れちゃうのかよ。顔が売れてるから正面から入りづらいなあとか、そういう理屈じゃなくてまず見た目でしょうに。そこから無事にまた金庫を強奪。ゾルダー達が綱で金庫を運んでるの、前回に引き続き苦労人感が出ていていい…。

 

「俺の拳銃は素早いぜ!」とゴレンジャーの面々と交戦するガンマン仮面。敵に囲まれてもシンプルに拳銃を使って応戦するこだわり具合が良いですね。しかも逃走は馬。銃というよりも西部劇全体がモチーフなんでどうしても細かい描写に気合が入ってしまう様子。ガンマン仮面を追跡したペギーと新命は、そこでガンマン仮面がミスターXなる人物と取引していることを知る。窒素爆弾を買い取るために、500億円を作ろうとしていたらしい。500億って結構な金額だ…。とはいえ、黒十字軍とは別の悪い組織が出てくるのはなかなか新鮮でした。こういう世界観の広がり、話に深みも出るのでもっとやってほしいなあという思い。今回限りなのが非常に勿体ない。ペギー達の存在に気付き、その場を去るガンマン仮面。総統に対してそろばんで現状の金額を説明するのがかわいい。口頭で言えばいいだろうに。黒十字の金庫(そんなんあるんだ?)に301億。ガンマン仮面がかき集めたのが99億。強盗ばっかりとはいえ、単体で99億持ってこれたのすごいな…。マグマンが「世の中不景気のようで…」とか言うのも面白かったです。というか、総統まで出張ってくるようなデカい作戦なんですね、今回。

 

それに対してゴレンジャーは偽札を作る作戦を決行。作る必要あるかどうかは分からないけれども。ヒーローが平気で偽札作る面白さが勝ってるので別にいいです。バリタンクにコピー機を入れて、人力で印刷したものをあたかも機械がやったかのように見せかける。造幣局を褒めちぎるマグマンとガンマンがかなり滑稽に見える。その後、ペギーが変装して取引に潜入。ミスターX達も偽札に気付かず窒素爆弾を渡してしまう。結構ちっちゃいな窒素爆弾…。今にも捕虜のイーグル隊員が殺されようという時、ガンマン仮面は変装したペギーにも矛先を向ける。香水で分かったんだ…。ペギー香水付けるなよ…。しかし、偽札が突如「ニセサツ」と書かれゴレンジャーの顔アイコンが描写されたものに変わり、みんな大パニック。その隙に逃げ出し、ラストバトルへ。ラストバトルでもちゃんと拳銃使うの、本当に愛おしくてしょうがないですね…。顔面の銃まで発動するものの、ウルトラブルーチェリーで蓋をされ動けず。ゴレンジャーハリケーン「黄金銃」を口に喰らい爆散。キャラが立っていて結構好きでした、ガンマン仮面。

 

 

第52話「ピンクの電話鬼! 殺しのダイヤル」

ピンクの電話鬼!殺しのダイヤル

 

ニューゴレンジャーマシンを設計中の若山教授が殺害されてしまうという衝撃的な冒頭からスタート。ニューゴレンジャーマシン…!さらっとそんな訴求力抜群のマシンを開発してることを明かすなんて。今回の怪人、電話仮面の目的は拉致ではなくて殺害。いつもなら「マシンを黒十字軍にも作ってもらおう」というノリで拉致に目がいくのに、電話仮面はバンバン殺していきます。この思い切りの良さと、暗殺特化の能力が魅力。電話を掛け、相手が出ると相手側の受話器からいきなり炎が。しかも「死亡時刻が参りました」っていうホラー的なフレーズも素敵。そんなこんなで若山教授はあっさりと殺され、調べるとなんと受話器に火炎放射器が取り付けられていたらしい。てっきり電話を掛けて出た相手の受話器を通して攻撃できる能力かと思ったので、ただ単純に相手の隙を突いて電話に何か仕掛けてるだけならちょっとダサい。それなら爆弾とかでいいんで…。

 

続いて清水博士も毒ガスで殺されてしまう。ちゃんと警備してたのに、裏声くらいで騙されやがって、明日香…。ゴレンジャー達は、敵の情報源はスパイなのではないかと疑うが、結論としてこちらがジュネーブに送っているファクシミリの情報を読まれてしまっているのではないかと疑う。戦争は通信網を掌握したほうが勝つなんてよく言いますけど、そういう意味ではこの電話仮面のスキルってかなりすごいものなのかもしれない。ゴレンジャーは新型ロケットの偽情報を流して相手を誘き出すことに。これ、第51話でも同じことしてたな…。するとやっぱり黒十字軍が襲ってきて、電話仮面の情報源が確実なものとなっていきます。

 

それなら電話仮面のアジトを叩き潰そうと、血眼になってアジトを探すゴレンジャー達。バリドリーンで空から探せるって言っても、あいつら結構地下にアジト作るからな…。一方の電話仮面、トイレに行きたいという部下に対して「人間は…」みたいな発言を。仮面怪人ってトイレ行かないんですね。というかそういうことにちゃんと言及する特撮ヒーローものすごいな。むしろヒーローを茶化したコメディやコントで言いそうなセリフ。しかしその科学者は黒十字軍に潜入していたイーグルのスパイであり、ゴレンジャー基地にこっそりと暗号を送っていた。しかし正体がバレ、電話仮面に狙われることに。夜闇の中、影だけで逃走を見せる演出がおしゃれでかっこよかったです。基地に電話を掛けようとするも、その電話は電話仮面だった…!じゃないんだよ。どう見ても電話デカいだろ。その後に普通に若い男が女性に「今日はありがとう!」みたいな電話掛けるの、無理矢理入れたコミカルさって感じで好きでした。あんだけ人殺しておいて何でそこは見過ごしたんだよ。

 

その後もイーグルの高官が次々に殺されてしまう。電話に出たら負けだなんてそりゃあ無理ですよね。でも殺す前に電話仮面がその電話に何か仕掛けてるんだよな…。映像にはないけど一手間あるから、ちょっと回りくどい作戦な気もしてしまう。というかどうせ電話が凶器になる展開なら、情報の周知が上手くされないことであたふたするゴレンジャーサイドが見たかったかも。暗号も解けず電話仮面のアジトも分からずただ被害が増えていくのみ。そんな状況が太郎君の一言によって一気に解決します。誰にも解けなかった暗号が太郎君の一言で解かれてしまう展開、ベタだけどいい!!電話仮面の次の狙いは江戸川総司令。これ太郎君との会話がもうちょっと遅かったら総司令がやられていたのでは。

 

そんなこんなで電話仮面のアジトに向かい、いざ勝負。とはいえ電話仮面は暗殺向きの怪人なので、まあアジトがバレちゃったらね…。特別な技の披露もなく、ゾルダー達に命令するだけでした。あまりに何もないせいでキレンジャーに天気予報に電話を掛けられてしまう始末。戦闘中に天気予報に繋げられちゃう怪人すごいな…。ゴレンジャーハリケーンは設計図。今回の倒し方も狂ってて最高でした。目の前の設計図に感心した電話仮面が本部に電話を掛けようとしたら「それはゴレンジャーハリケーンの設計図だ!」とアカに言われそのまま爆発。戦闘中のテンションじゃないだろ。何かもうゴレンジャーハリケーンって当たる直前で一種の催眠術みたいなの使ってる気がしますね。

 

 

第53話「赤いホームラン王! 必殺の背番号1」

赤いホームラン王!必殺の背番号1

 

いよいよ来ました、野球仮面。ゴレンジャーどころかスーパー戦隊で一番有名な怪人と言っても過言ではないかもしれないほどの知名度を誇る怪人。確か王貞治の話題にかこつけたんでしたっけ…。いや王貞治じゃないかも…。とはいえ、野球に全く詳しくない自分でも全然楽しめるのがすごい。ただ、2つ前の回のガンマン仮面なんかもかなりコミカルだったので、その延長線上にある怪人なんだなあとは思いました。こういう社会現象になっている出来事や子供たちのヒーローをさらっと出せるのは他のヒーローにはない強みですよね。『仮面ライダー』にもここまで露骨なゲスト怪人はいないし、『ウルトラマン』でもちょっと軸がブレてしまうような。その点『秘密戦隊ゴレンジャー』はあらゆるパロディを可能とする土台の上で成り立っているんですよ。基本がコミカルだから振れ幅が広い。その土壌を育ててきたこともそうだし、すぐにトレンドを活用できる懐の深さが人気の理由だったんじゃないかなあ、と。後は時代背景もありますよね。今は娯楽の形が多様化していることで、万人受けを狙うのが非常に難しい時代。ただ70年代でまだテレビが強かった時代だからこそ、こういうやり方ができるんだろうなあという気がしました。いや、でも大谷翔平モチーフの怪人とかは全然出せそう…。

 

冒頭、死刑囚の死神博士を護送するシーンからスタート。ゴレンジャー、囚人の護送までやるんですね…。死神博士はボール爆弾なる大量殺戮兵器を作った罪で収監されるらしい。にしても顔が白すぎる。にしても死神博士って名前はいいのだろうか。イカデビルが出てきちゃうけど…。そんな死神博士が収監されたのは世界一警備が堅いイーグル刑務所。イーグル、軍事組織なのかと思ってたけど刑務所まで持ってるんだ…。でもイーグルの守りってかなり脆弱だしそこは民間に任せたほうがいいような気がする。野球仮面も警備が堅い~とか言ってたけど、怪人レベルならもう警備とか関係ないだろ。というか野球仮面、永井一郎さんということもあって声がもうコミカルすぎる。

 

収監後も帽子とスカーフが何故か特別に許可されている死神博士。それ取っちゃっても多分色の白さで死神博士だと分かるから安心してほしい。ここで出てきたゾルダー、キャッチャーのミット付けてるんですよね。こういうちょっとした戦闘員の着せ替え、結構楽しいのでどんどんやってほしい。戦闘員が上司の怪人色に染められているの大好きなので。一方のゴレンジャーは刑務官も務めているらしい。人手不足っぽいもんなイーグル。すぐやられちゃうし…。とか思ってたら野球仮面が投げ返したボールに入っていた薬を飲んで、死神博士が死亡。呆気ない最期を迎えることに。そこに現れる野球仮面!「黒十字軍のホームラン王」って肩書がすごい。悪の組織にホームラン王絶対いらないだろ。でも爆発するボールを正確なバッティングで当ててくるのは結構強い。遠距離もいけるし近距離ならバットでボコボコにしてくる。前回の暗殺特化の電話仮面とは違って、かなり戦闘タイプ。あんなにコミカルなのに。しかもゴレンジャーハリケーンまで打ち返してしまう始末。これはまあストレートを選んだアカも悪いと思うんだけれど、それでも必殺技が効かない怪人っていうのはやっぱり格が違う。そんなことをしている間に、死神博士すら奪い返されてしまう。今は仮死状態で、生き返るらしい。

 

ゴレンジャーは死神博士の記憶頭脳の脳波を解析。何気にすごい技術だ。それによると死神博士はボール爆弾なる兵器を作っているらしく、ボールが爆発すると中の小さい爆弾が散り散りになり、辺り一面を爆発させられるという恐ろしい兵器。いやでもこれ死神博士じゃなくても全然開発できる気がする。生き返った死神博士は早速ゾルダー達で実験を行う。部下達を殺されて憤る野球仮面。きっと休み時間に野球とかしてたんだろうな…。部下思いの怪人ほど良い奴はいない。この回、野球仮面ばかりが取沙汰されるけれども、死神博士のビジュアルもすごいし、死神博士と野球仮面の相容れない(でも協力している)関係性もかなりハッキリしてるんですよね。ゴレンジャーが完全に隅に置かれている。野球仮面を引き立てることに全力を注いでることがよく分かる回。

 

野球仮面はガスタンクをボール爆弾の入れ物にし、大爆発を引き起こそうと画策。一方のペギーは野球仮面に対抗できるゴレンジャーハリケーンの開発中、太郎君の何気ない言葉からヒントを得る。太郎君はいつから野球少年になったんだろうか。そしてペギーはコントローラーで動かし魔球を作れるゴレンジャーハリケーンを開発。いやそれ閃く必要あるか?というくらい簡素な発想。でもこれくらいシンプルな方が相手には効くし、子ども達にもウケるのかもしれない。ラストバトルはいきなり死神博士が仕切り出す。バットを使って戦うアカレンジャーが新鮮で良かったです。戦いの最中、出世欲が仇となり野球仮面の邪魔をしてしまう死神博士。怒った野球仮面に反撃され、ゾルダーに撃たれてやられてしまう。何だこのドラマは…。そして突然始まる野球対決。さらっとキャッチャーを務めるキレンジャーが最高。最後は動くボールに翻弄され、目が回った所にボールが当たって爆散。ゴレンジャーサイドのドラマがめっちゃ薄味になってる辺り、制作陣も個性的怪人路線に完全に舵を切ったなあという印象でした。

 

 

第54話「真赤な挑戦! 火の山最期の大噴火」

真赤な挑戦!火の山最期の大噴火

 

1クール続いた火の山仮面マグマン将軍編も遂にラスト。テムジンの期間が長かったのでちょっと短い気もしますが、ナバローン要塞という圧倒的な火力を誇る兵器を度々登場させていた分、印象はかなり強い。ただやっぱりゴレンジャーとの因縁みたいなものはちょっと薄味だったかなあとも思います。そういう意味でも日輪仮面がアカレンジャーと決闘するのはすごく良かった。

 

周囲のものをことごとくナバローン要塞でぶっ壊そうというシンプルなローラー作戦。半ば自暴自棄とも思えるこの作戦ですが、単純に火力で攻めてくるのは結構強い。その上ナバローンはバリアも張られているのでこちらの攻撃が効きづらい(地下から攻めると倒せる)。黒十字軍にはコンドラー部隊もあるため、バリドリーンさえも牽制されてしまう。ナバローンの恐ろしさに改めて気付かされる回。その上火炎放射まで使ってくるの、火の山仮面っぽくていいですね。ゴレンジャーの怪人は結構トリッキーな奴が多いので、こういうシンプルに火力でガンガン攻めてこられると箔が付くような気もする。バリタンクでの地下からの攻撃で案外あっさりやられてしまうかと思ったものの、資料室(まさかの禁煙)を切り離して戦線離脱。ゴレンジャーが手に入れた設計図によると、各部屋が即座に分離できるように作られているらしい。潜入されてもそこだけ切り離せば逃げられるの、結構賢い仕様だ。

 

とはいえ総統は1度のミスさえ許さないので、マグマンはあっさりと見限られてしまう。禍々しい祈祷所に篭り、大量のゾルダー達がツタンカーメンの墓のようなものに「目覚めよ黒い魂」とひたすらに唱え続ける。日輪はちょっと呪術感ありましたが、テムジンとマグマンはどちらかというと軍人要素が強かったので、スピリチュアル系の映像が結構新鮮。ゴールデン仮面大将軍を復活させようとしていると気付いたマグマンは一刻も早く手柄を立てなければと奮起する。昭和特撮あるあるだけど、幹部の退場回って同時に新幹部が出てくるんだよな…。その焦りさえなければ勝てたかも?と思うこともあるのでちょっと勿体ない気も。一方のゴレンジャー側は設計図の解読に悪戦苦闘。しかし007がこぼしたコーヒーによって設計図に文字が浮かび上がる。3ヶ所を同時に爆破すればナバローンを破壊できることに気付いたゴレンジャーは、ゴレンジャーマシンを犠牲にし、命を懸けるほどの作戦を決行。

 

ゴレンジャーマシンの引退回でもあるらしく、駐車場(正確にはナバローンの中だけど)での戦闘シーンはかなり見応えがあるものに。ゴレンジャーマシンっていっつも警備と移動くらいにしか使われないので、ゾルダー達を追いかけるようなシーンは結構新鮮味がある。バリブルーンの時のような悲しみこそないけれど、最後の販促を果たしたように見えてグッときてしまった。もっと印象的に使われてほしかったなあ。そしていよいよマグマンとのラストバトル。とはいえ特徴はなく、いつもの怪人と同じ…かと思いきや、ウルトラブルーチェリーを武器であっさりと回避。モモ爆弾はもう通常怪人にさえ通用しないので全然いいけど、ウルトラブルーチェリーはあんまりかわされないのでさすが幹部~となりました。ただ、肝心のマグマン側の攻撃が地味すぎる。頭から火の玉を出すだけって…。そりゃあアカも卵のゴレンジャーハリケーンで倒せると思っちゃうよ。後世の今でもネタにされ続けてるゆで卵死に。もはやゴレンジャー名物でもあるけれど、1クール頑張った幹部怪人に対してこの仕打ちは結構酷い気も。さすがにここはカッコよく倒してほしかったぜ…。テムジンの時はバリブルーンを破壊するという重要なファクターがあったのに、マグマンはどうしてゆで卵に…。断末魔も「これは悔しい~」ってそりゃそうだろ…。そして遂に最終幹部であるゴールデン仮面大将軍が登場。ゴレンジャーの初陣の相手が黄金仮面であったことを考えると、一周して因縁があるようにも見えてワクワク。5種類の色を基調としたヒーローが戦う幹部がゴールデン仮面なの、すごくコントラストが効いてるんだけど、そういう意図は昭和特撮において蔑ろにされがちなのが残念。それにしても海外で実績を上げてきた日輪・テムジン・マグマンとは違って寝てた奴に幹部を務めさせる辺り、総統にとってもゴールデン仮面はかなり切り札なんだろうなあという印象。ラストカット、いつもならゴレンジャーマシンに乗っているのに、バリタンクだけなのはちょっと寂しいですね…。

 

 

第55話「金色の大将軍! ツタンカーメンの呪い」

金色の大将軍!ツタンカーメンの呪い

 

新幹部登場とゴレンジャー新メンバー登場と新マシン登場を一気にやる情報量過多の回。いろんなことが矢継ぎ早に!という興奮よりも、そこをもうちょっと掘り下げてくれや~という思いのほうが勝ってしまった。新幹部の圧倒的な強さとか新ヒーローが周りに馴染んでいく過程とか、もっと楽しみたいじゃないですか!!いやまあ色々と事情がある中での仕切り直しだろうから無理もないのだけれど、どうしても情報量と熱量の間に差を感じてしまう回でした。けれど本当に仕切り直しなのか、話自体はかなり王道のスパイ路線をやってるんですよね。

 

ハイキング中の人々の上空を謎の飛行船が通過すると、彼等は一瞬で白骨死体に。これは黒十字軍がばら撒いている死の細菌ガスZによるものらしい。民間人に被害が出るのかなり久々な気が。いつもイーグル隊員ばかりがやられているので…。今回の作戦を担うのは大耳仮面。その名の通りデカい耳というかなり奇抜なデザイン。どう考えてもゴールデン仮面大将軍より目立ってしまっている。仕切り直しみたいな回なんだからもっと落ち着いた奴でもよかっただろうに…。ここ数話のコミカル怪人と比べると性格はかなり真っ当(女性というのは特徴的だけど)なのに、デカい耳というだけで圧倒的なインパクトを誇ってしまっている。そしてこのZをどこから持ってきたかというと、ツタンカーメンの墓を暴いた科学者が持ち帰ったものらしい。ゴールデン仮面のツタンカーメン要素をちゃんと拾ってくるわけですね。多分徐々に薄れていくだろうけど…。そう思うと部下のほとんどが鉄属性だったテムジンは偉い。大将軍の目的はツタンカーメン号という冒頭に出てきた飛行船に細菌ガスを積んで世界中の人間を白骨死体にすること。いやそれじゃ征服も何もあったもんじゃないが…。

 

そんな作戦を知ったゴレンジャー。「許せん!」といきなり部屋に入って来る熊野大五郎が凄い。OPの映像は大ちゃんのままでクレジットだけ熊野大五郎になっている違和感。というかマジで誰なんだよコイツ…みたいな顔をメンバーにされてるのいいっすね。追加戦士っぽい強引な加入。江戸川総司令の命令は絶対なので、大ちゃんは何の断りもなく九州支部の教官になってしまい、ゴレンジャーの面々はそれをあっさり受け入れる。でも大ちゃんという強力な個性がいなくなってしまうの、制作陣はかなり痛手だっただろうなあ。怪人の活躍がメインの回でも、大ちゃんのコミカルさだけはやっぱり輝いていたので。そんなわけで新メンバーが加入したのだけれど、今回は結構未熟者として描かれるシーンが多かった。

 

一方、ゴールデン仮面のアジトにはイーグルのスパイである0010が潜入していた。0010って前にもいた気がするんだよな…。生きてたんでしたっけ。しかし罠にかかってあっさりと殺されてしまう。この辺りかなりインディ・ジョーンズ味があるんですけど、インディの公開はゴレンジャーより全然後なんですよね。こういう描写、インディ以前にもあったんだ。結構古典的なトラップ。そこから0010救出(?)も兼ねてゴレンジャーが急行。しかし大五郎が転換できない…!お前、急ごしらえの未熟者だったのかよ!しかも「ダメだぁ~」ってすぐ弱音を吐くのか…。でも確かに明日香も成長しきっちゃってるし、ここで後輩キャラを出してくるのは正解だったのかもしれない。にしても精神統一が鍵なんですね、ゴレンジャーって。

 

転換後は良い所を見せようと奮闘する大五郎。しかし大耳仮面の触手にあっさりと捕まってしまう。ミドメランに助けられたものの、大耳仮面は化粧直しだと言ってコンドラー部隊を召喚。コンドラー、何機倒しても次の時には4機のフル装備で来るので結構頻繁に製造されてるのかもしれない。飛行船も改めて出してくる辺り、アトランティス号が相当気に入ってたんだろうなあ黒十字軍は。バタバタしていて大耳仮面には逃げられてしまったものの、ゴレンジャーはツタンカーメン号ごと細菌兵器を宇宙へ運び出す作戦を実行する。そ、そんなことができるんだ…。しかも飛行船に発信装置つけるだけで。

 

硫酸の池はさすがにエグいけど、正統派のスパイ路線が帰ってきたかのようで嬉しさもあり。にしても大五郎の発言、他のメンバーにすぐ否定されるの結構キツイな。というか明日香の発言で気付いたんですけど、ゴールデン仮面がちょっと象っぽいのってツタンカーメンの像ってことなのかな。最近まで寝てたような奴に簡単に従える大耳仮面、結構懐が深いのかもしれない。一体どういう感じで宇宙まで飛行船を運ぶのかと思いきや、バリドリーンの爪の部分が切り離されてそのまま宇宙へ。え?そんなことできるの?と驚く。宇宙まで絡んだ大規模な作戦なのに、本当に一瞬で終わってしまった。しかしそれで終わるわけにはいかず、今度は毒ガスを東京にばら撒く作戦に。だいぶスケールが小さくなってしまった。そこで登場するスターマシン!前回ゴレンジャーマシンが華々しく散っていっただけに、新マシンの活躍が弱いのが何とも言えないけれど、新しい乗り物は素直にワクワクしてしまう。必要に駆られたとかじゃなく、前のが壊れたからっていうシンプルな理由がいいですよね。バリブルーンがやられた時には5人で敬礼までしてたのに…。

 

そしてラストバトルへ突入。大耳仮面、渦巻き光線がシンプルに強そうだったのに、横からのアカの飛び蹴りでやられてしまう。敵を縛る触手も1本しかなさそうだったし、多人数戦に慣れていないのかもしれない。多分1対1だったら結構強いですよこいつ。ゴレンジャーハリケーンは耳栓。モチーフほぼ関係なく卵でやられた怪人がいるけど、さすがに大耳のインパクトには耳栓しかなかったか。アカは一体これをどういう基準で選んでるのか。他のメンバーも「え?卵?まあいいか…」くらいの気持ちでやってるんじゃないでしょうか。最後、残っていた細菌ガスをイーグルに運んでいたので次回に何か続くのかもしれない。

 

 

 

 

というわけで第55話までの感想でした。

マグマンの退場とゴールデン仮面の登場。かなり盛り沢山だったけどその分駆け足になってしまっているようにも。ただ怪人はもう本当にどんどんコミカルになってきていて楽しいです。後は大五郎とか新要素とか、そういう1回で終わらない部分にも目を向けてくれたらなあと。もちろん大人の事情もあるだろうし急ごしらえなのは分かっているのだけれど、目が肥えてしまっている分贅沢を言っちゃいますね。残りは30話ほどですが、もう幹部交代は確かなかったはずなので、純粋に単発回を楽しんでいこうと思います。

 

 

 

 

スーパー戦隊シリーズ『秘密戦隊ゴレンジャー』感想 その10

 

遂に第10回。第50話までの感想です。

前回からかなり日数が空いてしまったのは、単に色々と忙しかったため。49話までは順当に書いていたのに、50話までに4ヶ月ほど空いてしまいました。そのため記憶がちょとリセットされてもいるんですが、ここからは良いペースで再開できるよう頑張ります。というか久々に観たらめちゃくちゃ面白かったです。

 

 

 

 

 

 

 

第46話「黒い超特急! 機関車仮面大暴走」

黒い超特急!機関車仮面大暴走

 

街中を走り続ける機関車仮面の目的は?という謎だけで30分引っ張るという異色の回。1975年にSLが全廃になったそうで、何かと悲壮感の漂う怪人ですね。怪人として生まれた時はきっとSLの全盛期だったんだろうな…。ペギーと明日香が定期パトロール中にいきなり機関車仮面に出くわすという唐突なスタート。ゴレンジャーの定期パトロール、いつも黒十字軍の何かに出くわすのでそういう意味ではすごく意義のあるパトロールと言えるのかもしれません。トンネルからSLの音がすると思ったら、「シュッシュッポッポ!」を連呼する機関車仮面の登場。あまりに異様な光景でした。さすがの二人も突然すぎて1度はスルーしてしまう。追いかけて問い詰めるとやっぱり黒十字軍。しかしその目的は機密事項だとして明かしません。機関車仮面、態度が子供じみているのもいいんですが何より目がかわいい。石炭を入れてフルパワーを発揮すると、突撃だけでゴレンジャーマシンを吹き飛ばすほど。ミドパンチャーは効かないし、モモの爆弾も当然効かない。マジでモモの爆弾が効く怪人が全然いないんですけども。ゾルダー蹴散らすくらいしかできないですよね。ただの体当たりだけでめちゃくちゃ強い機関車仮面は、ミドとモモを吹き飛ばし走り続ける。木の上にまで吹き飛ばされたミドが哀れ。

 

人目を気にせず街中を走り続ける機関車仮面。人々のリアクションからするとゲリラ撮影なのでしょうか。思えば青すじ仮面も街中を走っていたけれど、アイツは毒矢が自分に刺さっちゃって自業自得でしたね。それを見ながら作戦を立てるゴレンジャー。どうやら2時間も走っているらしい。マラソンか? フルーツパーラーになったゴンには女性客も増えたようで、やっぱりメニューからカレーは消えてしまったらしいです。そう聞くと急にスナックゴンが懐かしく思えるから不思議。大ちゃんがカレーおかわりし続けるの好きだったんだけどなあ。1杯はもらえていましたが、もっと食べていてほしい。敵が用意したのを食べるのはダメだけど。そこに突如として現れる機関車仮面。またもやラッキーでゴンにたどり着く怪人が…!エレキ仮面があんなに時間を掛けて基地を突き止めようとしていたのに、こいつはどうしてこんなにあっさりと…!要求はお水で、あんまり動きすぎるとオーバーヒートしてしまうらしい。ちゃんと007にお礼を言うの偉いですね。丁寧な怪人大好きなので結構好きかもしれません。一方で機関車仮面の足に何かが取り付けられていたのを見逃さなかった江戸川総司令。

 

とりあえず大ちゃんが接触を図ろうと、機関車仮面と一緒に走ることに。新幹線には勝てないでしょと煽られて石炭を入れて加速、見事新幹線を追い越すほどに。いや、これは強い。強すぎる。その後土手で大ちゃんと語らう機関車仮面。しかし大ちゃんの正体を見破っており、バトルに突入。分かってたならどうして新幹線を追い越したりしたんだ…。挑発に乗りやすいタイプのようです。ゴレンジャー随一の力持ち、大ちゃんでも機関車仮面を止めることはできず、その隙にペギーと明日香がモモセセリなる蝶型の小型探知機で機関車仮面と総統達の話を盗み聞き。にしてもでかくて不自然だな、モモセセリ。そこで分かったことによると、機関車仮面の目的は足につけた地底探知機で地層を調査し、ゴレンジャー基地を突き止めることにあったよう。マグマンが来てからはとにかくゴレンジャーの本拠地を潰そうという作戦が多いですね。マグマン自体ナバローン要塞という砦を持っているので、それが大きいのかもしれない。

 

出撃したバリドリーンを迎え撃つコンドラー。そのまま海城のバリタンクも出撃し、敵の基地を破壊していきます。バリタンクの登場で地中も水中もいけるようになったの、バリドリーンの空も併せて本当に万能ですね。ゴンも破壊されたわけだし、黒十字軍の基地はめちゃくちゃにしてもいい。しかしナバローン要塞が登場しバリタンクを攻撃。海城は火薬庫の爆破に成功するものの、それに気づいたマグマンはナバローンを切り離して逃走。ナバローンこれがあるので全然破壊できないのが惜しいですね。しかしこれによりデータを破壊できたため、機関車仮面の走りは無駄に。

 

残されたミド達は石などでバリケードを設置。これで本当に機関車仮面を止められると思ってるのかよ…。やって来た機関車仮面は機関車部分だけのモードになって突進し、見事バリケードを突破。しかしアカレンジャーがバリタンクで迎え撃つ!キでも勝てなかった機関車仮面ですが、さすがにバリタンクの馬力の前では無力。アカは「轢き潰してやる!」の言葉通りに倒れた機関車仮面をバリタンクで轢きます。無慈悲か。しかしまだまだ倒せない機関車仮面。バトルに突入し、ゴレンジャーハリケーン石炭が繰り出される。しかしパスの途中でハリケーンを奪う機関車仮面。必殺技がラグビー形式になったことでパスだけでなく、たくさんのパターンが加わったのはいいですね。投げ返されたハリケーンをモモがキャッチし、アカの「SLは坂道に弱い」という言葉を元に機関車仮面をキーステッカーのじゃんけんで挑発し坂道に誘導するキレンジャー。普段おちょくられている分、怪人をおちょくらせると右に出る者はいないですね。にしてもどんどん挑発に乗ってくれるな…。新幹線追い越してくれた時もマジだったのかもしれない。そのままゴレンジャーハリケーンを喰らってしまい、煙突に石炭が詰められ爆発。断末魔は「わしの時代は終わった」という機関車ならではの言葉でした。いやこれ坂道に誘導する必要なかっただろ。

 

 

第47話「赤い大逆襲! 怒りのゴレンジャー」

赤い大逆襲!怒りのゴレンジャー

 

サムネが氷漬けの江戸川総司令だったのでビビっています。今回の怪人、鳥牙仮面の作戦はバリドリーンとバリタンクの奪取。それによってゴレンジャーサイドの戦力を削ぎ、黒十字軍の力を高めていこうというのが狙いのよう。そのためにまずバスごと幼稚園児を誘拐。ゾルダーに一人だけやけに恰幅のいいのがいるのが気になる。にしてもこの鳥牙仮面、瞳がきれいですね…。仮面ライダーエグゼイドみたいだ。バスごと幼稚園児を誘拐するので子どもがたくさん出てくるわけですが、彼らがゴレンジャーと関わることがないというのも一つの特徴。第一話では「大丈夫だからね」と子ども達をなだめる保母さんにも焦点が当てられていましたけど、今回はメインがそこじゃないらしくかなりあっさりとした手つき。

 

バスの行き先が何もない原っぱだということを知ったゴレンジャー。罠だと分かっていながらも人質がいるので飛び込まずにはいられない。案の定黒十字軍は戦車まで用意してバリドリーンを待ち構えていた。そこにコンドラーが登場し、スパイダーネットでバリドリーンを捕獲! 本当にこの世界では網が有能すぎる。と思いきやプロペラを回して網を切断。遂に網が敗北する時が来ました。焦った鳥牙はバスに時限爆弾を仕掛けるよう命じます。というかゴレンジャー、バリドリーンだけでなく並行して地上メンバーも配置して挟撃すればいいのに…。いっつも分かれて行動するのに何で今回に限ってバリドリーンに5人乗ったんだよと思っていたらバリタンク投下!やけにメカの活躍が書かれるので販促回だったのかもしれない。無事に園児達を救出し、めでたしめでたし。

 

かと思いきや、鳥牙仮面は諦めていなかった。怪人は作戦が失敗しようとも倒されるまでは襲ってくる。逆に言えば倒されればどんなに良い作戦でもそれが次の怪人に引き継がれることはない、というのが昭和特撮のお約束。作戦会議に出向く江戸川総司令を護衛するゴレンジャー。ゴレンジャーマシーンを使ったら素顔だとしても護衛なのバレバレだろうに。そこにはやはり黒十字軍の魔の手が迫り、コンドラーで車ごと総司令を持っていかれてしまう。めっちゃ怖いなあの拉致…。というか江戸川総司令の正体って知られていいんでしたっけ。総司令なのかどうか吐かせるために頑張ってた怪人もいたような。そのまま冷凍される江戸川総司令。なんで冷凍されてるんだよ。意味わからなすぎて確かに怖いけどさ。バリドリーンとバリタンクを引き換えに総司令を解放すると言われて、すぐに出向こうとするゴレンジャー。しかし総司令が残したカセットテープには、仮に自分に何かがあってもバリドリーンとバリタンクだけは守り、そしてゴレンジャー基地の場所だけは知られないようにと記録されていた。総司令、覚悟がエグイ。

 

確かにメカの戦力を削がれるのはかなり痛いので、途方に暮れるゴレンジャー。そこで太郎くんがなぞなぞを出すと、その答えであるトロイの木馬に海城がヒントを得る。なぞなぞ、毎回出されてたのにゴレンジャーの作戦のヒントになるパターンはそういえばなかったですね。そして現地へ赴くゴレンジャー。江戸川総司令は冷凍カプセルから出されていた。マジで何で冷凍されてたんだよ。バリタンクと引き換えに総司令を奪還。そのままバリドリーンも持っていかれる…かと思いきや、バリタンクには007が乗っていました。それにより地上のゾルダーの不意を突いて一掃。バリドリーンで大暴れしようとする鳥牙はオートコントローラーによって、緊急脱出装置みたいに座席ごと飛ばされてて面白かったです。パラシュートつけてもらえるの優しい。

 

今回はアクションも新鮮でした。キが近くにいるのに爆弾を投げてしまうモモ。「危ないだろ~」とかで済んでたのでよかった。でもモモの爆弾って本当に殺傷能力があるのか疑問なくらい怪人に効かないですからね…。鳥牙戦も、アカとアオ、キとミドの共闘が見られたりと、ありそうでなかったタッグ技がどんどん出てきて面白かったです。確かに5人バラバラに戦う姿がカメラで映し出されてる時点で、多分当時の映像からしたら斬新なんでしょうけど、こういうタッグ組むパターンももっとあってよかったですよね。今のスーパー戦隊では普通だし。とどめのゴレンジャーハリケーンは青い鳥。髪飾りに欲しかったんだよな~と言って頭に載せちゃう鳥牙がかわいい。それまではマトモな怪人でもゴレンジャーハリケーンに対してはもう絶対ノリツッコミをしなくちゃいけないルールなので、多種多様でいいですね。

 

 

第48話「黒い補給基地! 遊園地危機一髪」

黒い補給基地!遊園地危機一髪

 

かなり久々の高久・新井脚本。調べたところ第30話以来…つまり18話ぶりでした。びっくりするほど情報量の詰まったナレーションから始まるこの48話。要約すると、イーグルが通常の20倍の高性能を発揮する航空機用の燃料KLCを開発したぜ…!という感じ。これでバリドリーンとかに応用すれば黒十字軍への勝利は間違いなし。しかしイーグルも結構軍備拡張に力を入れている組織ですよね。正義のためとはいえ、結構あらゆる兵器を開発しているので政府の統治下にはいられないかもしれない。そしてまあ、イーグルが何か大きな発明をした時というのは、絶対に黒十字軍にそれがバレており、絶対に黒十字軍にそれを使われてしまうのです。

 

今回もKLC輸送中に速攻で襲われるタンクローリー。いっつもゴレンジャーが護衛ついてるのに何で今回はいないんだ。乗っ取られたタンクローリーはドリームランドという遊園地へと向かっていきます。おそらくこの遊園地とのコラボ回と思われるというくらいドリームランドが出てくる。対するゴレンジャーの海城・ペギー・明日香は偽物のタンクローリーで敵を誘き出す作戦に。まんまと騙されたのがカメラ仮面。ストロボ爆弾なる技で応戦しますが、ゴレンジャーの猛攻に太刀打ちできず、マグマンがナバローン要塞を出してその場を収めることに。突然目の前にあの要塞出てくるのマジで恐ろしい。

 

ドリームランドに戻って行方不明のタンクローリーを捜索する海城達。するとアナウンスされた迷子の子供がどこにもいないとの情報が。ペギーと明日香はドリームランドの宣伝を兼ねた園内捜索へ。イッツアスモールワールドみたいなアトラクションでマネキンに化けたおっさんがナイフ投げてくるのが面白かったですね。結局明日香に当てられず怒られるのもよかった。そして喋る大量の着ぐるみ。全員中身ゾルダーなら、着ぐるみ脱がないほうが不気味だったかもしれません。映画の『ウィリーズ・ワンダーランド』じゃないですけど、ああいう着ぐるみが悪感情を持って接してくるのって結構怖いので。戦おうとするペギーと明日香でしたが、女の子を人質に取られているためにうまく身動きができず…。

 

一方でお留守番だったアオとキも行動を開始。今度はイーグル隊員を装ってわざと囮になり負ける作戦に。奪われたタンクローリーには海城が乗り込み、そのままゾルダーに変装してドリームランドへ。しかしカメラ仮面の記念写真…ならぬ透視カメラによって正体は既にバレていた。燃料をホースにつないだところで黒十字軍に囲まれる海城。現れた明日香達を助け出そうとするものの、カメラ仮面は燃料に火をつけて火の海にしようと企む。いやいやもったいねえだろ!! 通常よりすごい燃料だって謳ってだからこそアンタら黒十字軍もその確保に動いたのにどうしてそんな普通の石油でいい使い方しちゃうんだよ! とはいえ海城が持ってきたのはただの水だったので、カメラ仮面の作戦は徒労に終わる。

 

その後のセリフによるとコンドラーにKLCを搭載し、東京大空襲を行うことがカメラ仮面の目的だったらしい。なら尚更火の海とかに使うなよ。人質の女の子はゾルダーに化けたアオとキが奪還し、もうゴレンジャーが躊躇する理由はない。ならばドリームランドのタンクを爆発してもう火の海にしてやるぜ!とヤケクソになるカメラ仮面。いやマジで…作戦の本質を見失うなよカメラ仮面。そんなちっちゃい遊園地を潰したい程度の男だったのかお前は。しかもその爆弾もあっさりゴレンジャーに発見されてしまう。最終兵器のナバローンもバリドリーンで攻撃されて撤退する始末。カメラ仮面、50話を目前にしてなぜこんなポンコツ怪人が生き残っていたのだろうか。ただ、現れるゴレンジャーを一人一人望遠レンズで確認し、名前を言ってくれる演出はよかったです。

 

アクションはトランポリンで跳ねるキが楽しそうでした。遊園地を広く使ったアクションだったけど、もっとコーヒーカップとかバンバン使ってほしかったなあという印象。ストロボ爆弾も利用されちゃって、カメラ仮面は本当に間抜け。ゴレンジャーハリケーンは「レンズカバー&マグネシウム」。海城のイントネーションを正確に表すのなら「レェンズカバーエーンドマグネッシュー!」でした。ボールが何かに変化するでもなくただレンズに蓋をされ爆散するカメラ仮面。うわっ、オチまでなんと特徴のない怪人だ…。ドリームランドの宣伝もうまくいっていたか?と訊かれると首を傾げざるを得ない。久々の高久・新井脚本でしたが何とも奇妙な回だったように思います。

 

 

第49話「みどりの大脱走! 卍のトリックプレイ」

みどりの大脱走!卍のトリックプレイ

 

まさかのパリスタート。いきなりロケットスタートの曽田脚本でした。トリッキーな仕掛けが飛び出す曽田脚本の中でも、今回は一番規模の大きい回だったかもしれません。それくらいめちゃくちゃ。でも面白い。かなり勢いのある印象的な回でした。

 

明日香とペギーがパリにいたのは、新鋭ロボット・フランケン1号の設計を学びに行っていたため。主にペギーが学んでいたようなので、明日香は護衛だったのかな。1万度の高熱にも耐え、放射線も効かないという高性能ロボット。そりゃあまあ黒十字軍も狙うよなあということで、既につの骨仮面は動いていました。イーグルにそっくりな研究所を作ってペギー達を騙すという大胆な作戦。ヒーロー側がちょっとおバカな怪人を騙す時に使うような手を、まさか怪人がやるとは。というかどこにこんな労力かけてるんだよ。パリからフランケン作れる人誘拐してきていつもみたいに家族を人質に取ればいいのに…もしかしたらつの骨仮面は平和主義者なのかもしれない。最初は「大丈夫か?」と懐疑的だったのに、通信も遮断してますし特殊金属の壁だから出られませんよっていう雑プレゼンだけで素晴らしい作戦判定しちゃう総統も総統。この作戦の肝はペギー達に違和感を抱かせないことにあるので、そこをうまくやってほしい。

 

海城達の前に現れるつの骨仮面。ペギー達を迎えに行くのを阻止するためである。ここで迎えに行かれたら全てが終わるので…。首が取れるというよく分からない能力だが、要は攻撃があんまり効かないらしい。体をバラバラにしても意味ないよーということなのでしょうか。もうこの時点でこいつの能力が全然フランケン1号とか超えてる気がしないでもない。ただ、肩をゆらゆら揺らす動きは不気味でいいですね、つの骨仮面。そのまま逃走し、今度はペギー達の前に出現。ペギー達を襲撃した流れで落とし穴に落とし、気絶させる。そして彼女らが目覚めると、既にそこはイーグル研究所を模した黒十字軍のアジトという流れ。つの骨仮面が直接ペギー襲うよりもしれっと研究所に案内するほうがよさそうだけど、正規ルートと違うことに警戒してたし研究所の見た目も廃墟なので1回は気絶を挟まなきゃいけなかったのかな。

 

そこでペギー達に急ぎフランケン1号を作るよう要求。マグマンが江戸川総司令の声真似をするなど、かなり緻密に計算されているらしい。やってることはかなり大胆でバレればすぐに終わるのだけれど、リアリティをある程度保てているのがすごい。というかこれ絶対、ギャグマンガとかでやるべきことですよね。バレそうでバレない絶妙なラインを楽しむというか、ちょっとコントっぽいというか。モモレンジャーの声真似をしてつの骨仮面が怒られるのも面白かったです。曽田脚本、怪人に愛嬌をつけるのが上手い。一方でペギー達の失踪を知った海城達。ゴンで悲しんでる太郎くんが印象的でした。いつも生意気だもんなコイツ…。しかしゴレンジャーでもあんまり手の打ちようがない辺り、かなりいい作戦なのかもしれない。

 

ペギー達を探しに出た海城の元に現れるつの骨仮面。「ここは貴様の地獄の一丁目だ!」って全然よく分からないけど何だか痺れるフレーズですね。一方でナバローンの接近を知らせてペギー達を焦らせます。海城達に突き止められたら終わりだもんなあ。しかし、ペギーは壁の絵の違和感に気付いてしまう。絵の奥を覗き込むと、そこにはトランプに興じるゾルダーの姿が…!何でペギー側からも見える仕掛けなんだよ! でもここまで2人が一切気付いてなかったのがすごい。ちょっと詰めが甘かったですけどね。そんなこんなでフランケン1号が完成。しかしその爆発に巻き込まれ、明日香が命を落とすどころか木っ端みじんに。白衣は無事なのに明日香はマジで欠片も残っていないの、面白すぎる。まあペギーが何か仕掛けてるのは見え見えなんだけど、これでよくいけると思ったな。そしてよくいけたな。

 

見た目がとにかく恐ろしすぎるフランケン1号。仮にも正義側が作ったロボットなのだからもう少し愛嬌があってもいいだろうに。つの骨仮面のほうがまだかわいい。そこでペギーは太陽電池で動かすためにフランケン1号と共に表に出たいと言い出す。言われるがままにバリアまで消してしまうつの骨。案の定、そのまま逃走されてしまう。いやこれずっと真面目にフランケンやってる明日香が面白すぎるぜ。そのまま海城達と合流し、バトルへ突入。つの骨、フランケンのことを本当にロボットだと思ってたのがよかったですね。どう考えても騙されてるだろうに。アクションはレッドビュートで敵をクルクルするのがよかったです。意味があるのかは分からない。そして攻撃により頭を前後逆に取り付けてしまうつの骨仮面。いや長い間その体だったらある程度予想できただろ。そんなんで動揺するな。すかさずゴレンジャーハリケーン・髑髏を決められ、めちゃくちゃカラフルな髑髏に替えられてしまう。そのまま爆散。いやあんな色のついた髑髏、初めて見たな。

 

 

第50話「青い翼の秘密! 危うしバリドリーン」

青い翼の秘密!危うしバリドリーン

 

すっかりお馴染みとなったコンドラー部隊。テムジン編でだけの活躍かと思ったら、黒十字軍の通常兵器になっているのは面白いですね。そして相変わらず、その標的はイーグル部隊。またもイーグルが犠牲になる場面からスタートする記念すべき第50話。怪人は鉄ワナ仮面なんですけど、ほぼトラバサミですね。完全にトラバサミ。トラバサミ仮面でもよかった。体ごと地中に潜って頭のトラバサミだけ地上に出して罠として機能してるのめっちゃ怖いです。トラバサミ自体がもうだいぶな凶器なのに、そのトラバサミが喋り出したら恐ろしすぎる。でも捕まえた後ずっと顔が相手の足に固定される仕様なので使い勝手は悪そう。そしてイーグルの連絡網を利用して、全ての罪をバリドリーンに擦り付けることに。「バリドリーンが突然爆弾を!」という発言を疑っていそうな電話相手に対して、「本当なんだ!」と猛プッシュしてるのが面白かったです。

 

令和だったら絶対そんなのすぐバレるんですが、ここはさすが昭和特撮。イーグル本部は真相が判明するまでバリドリーンを飛行禁止に。でも該当の時間にバリドリーンは出撃していないらしいし、飛んでないならもうさすがに信じてあげてほしい。ここで怒る新命は良かったですね。外に出ると子どもにまでバリドリーンの情報が回っている。イーグル、遂にそんなにガバガバになったのか…!?と思いきや、胡散臭い男がバリドリーンの悪行を堂々と街で話していた。まさかの潮健児。『仮面ライダー』で地獄大使を演じていた方なので、強烈な懐かしさに襲われました。地獄大使の時もすごかったけど、今回もビジュアルのインパクトが強い。一発で敵だろと分かるビジュアルなのはさすがですね。あとこの講釈師の言葉、「イーグル側も強力な兵器持ってるんだぜ?」みたいな、善悪二元論を飛び越えるような趣旨になっているのが良かったです。もちろんそこはメインじゃないけど、思えばゴレンジャーって黒十字軍とイーグルの攻防を描いていて、実はどっちも軍事組織なんだよなあ、という。それが人助けか世界征服のどちらに向くかという話なんですよ。そんな真面目なことを考えてしまっただけに、突っかかる新命に対して「奥様方、この男をウーマンパワーでやっつけてください!」と命じて主婦たちが一斉に新命に襲い掛かる場面で大笑いしてしまいました。ウーマンパワーって。

 

その後、正体を現した鉄ワナ仮面と新命が直接対決。新命、トラバサミかわすのすごいな。普通かわせないだろ…。そんな新命に対して「悔しい」と漏らしてしまったり、とにかく鉄ワナ仮面は感情が前に出ちゃうタイプなんですよね。結構可愛げがある。後上着の毛皮というかフワフワしてるのも可愛い。そして戦闘の中で新命が見せられるのは、ナバローンで待機している黒十字軍のバリドリーン。まさか黒十字軍もバリドリーンを持っていたとは…!裏切り者の科学者によって作られたらしいけど、帰って新命がそれを総司令達に報告すると、バリドリーンはコンピュータが作ったそうな。設計図も燃やしてしまっているために、作ることは不可能。つまりどう考えても黒十字軍の発言は嘘ということに。そこから提案する海城。「黒十字軍はバリドリーンを科学者が作ったと思ってるわけだし、そこを利用しようぜ」と。なんか理屈が分かるようで分からない作戦ですね…。一方の鉄ワナ仮面、用意した偽物のバリドリーンを披露できたことがよっぽど嬉しかった様子。後は蝶々などをコレクションするという彼のコレクター気質が明らかに。欲しいものは全て手に入れたいというその気質からバリドリーンを狙っていたらしい。世界征服やゴレンジャーとの因縁ではなく、ナチュラルに自分の趣味で行動しているという意味では結構珍しい怪人なのかもしれない。そういう内面も、表面のコミカルさに繋がってきますよね。

 

大ちゃんに雑な変装をさせて、作戦を進めるゴレンジャー。窓からいきなりロープが投げられ、大ちゃんが連れ去られようとしてしまう。まさかのゾルダーVSゴレンジャーの綱引きは面白かったです。冒頭こそシリアスでしたけど、全体的にはかなりコミカルというか。黒十字軍の苦労人感がにじみ出ていたように思いました。作戦も穴だらけですからね…。そもそも裏切り者の科学者がいる設定だったのに、それをアオが突き止めた途端にロープで引っ張って拉致するの、マジでなんなんだ…。いやそれがお前のやりたいことだったのか…。大ちゃんの変装も案外あっさりバレてしまう。というか、大ちゃんが変装した途端にこの回のメインが新命から大ちゃんに変わったので、本当に凄いキャラクターだなあと改めて。そして鉄ワナ仮面、ワナって名前についてるくらいだし、ゴレンジャーを罠にかけようみたいなのはよかったです。まあどの怪人も罠とか騙すとかばっかりなんですが…。それに対して大ちゃんが「輪を地面に7つ書いてワナ(輪7)」だと伝えるなぞなぞ展開、最高でした。お決まりのなぞなぞパートをこういう変化球で出してくるの、ちょっと感動しちゃいますね。バトルに突入すると、トリモチブルーチェリーなんて突飛な技まで飛び出し、その後トリモチからの尻もち!トリモチも尻もちも今ではあんまり使わない表現だなあと思いました。ゴレンジャーハリケーンはバタフライ(蝶々)。確かに集めてたもんな…。

 

 

 

ということで第46話~第50話までの感想でした。上原脚本、高久・新井脚本、曽田脚本を一気に堪能できる5話。他のスーパー戦隊ならそろそろクライマックスなんですが、ゴレンジャーは全部で84話あるのでまだ半分と少しといったところ。長い…。それでも飽きないところが本当に凄いなと思います。怪人のコミカルさに全振りしていくような回も増えてきたので、ますます特徴が出てきているようで楽しいです。

 

 

 

 

 

映画『劇場版SPY×FAMILY CODE:White』評価・ネタバレ感想! 古き平成の味。ジャンプ漫画のオリジナル映画ってこうでしたよね…。

これがあのSPY×FAMILY???

俺の知ってるSPY×FAMILYと全然違うんですけど???

こんなんじゃまだ原作の良さが1パーセントも分からなくないですか???

ただ、これなんですよ。鬼滅や呪術のおかげで忘れてたけど、ジャンプ漫画のアニオリのクオリティって本当に「「「「これ」」」」なんですよ!!!

 

というわけで『劇場版SPY×FAMILY CODE:White』を観てきた。仕事終わりのレイトショーだがほぼ満席。客層はお一人様の方もいれば家族連れも山ほどという感じ。原作初期の頃から「絶対流行るだろこれ」と思いながら読んでいたけれども、実際にこのファン層の分厚さを目の当たりにすると感慨深いものがある。今年はアニメの2期に展覧会など、SPY×FAMILYにとって重要な1年となった。その2023年を締め括るのがこの劇場版。原作者の遠藤先生も関わっているとのことでかなり期待値も高めにしてたのだが、まんまと裏切られてしまった。よく読めば遠藤先生は監修とキャラクターデザインとしてクレジットされているだけであり、物語の細部にまでこだわったようではない。それを知って納得がいった。この映画、SPY×FAMILYの原作者が作ったなどとは到底考えられないのだ。

 

今回の劇場版は原作にはないアニメオリジナルの物語。イーデン校で行われる調理実習でステラを獲得するため、フォージャー家はメレメレを作ることに。本場の味を確かめるべくフリジスへと家族旅行に向かう。しかし道中、アーニャが怪しげなトランクケースに入っていたチョコレートを飲み込んでしまい、ヨルはロイドの浮気現場を目撃したことで葛藤、ロイドにもオペレーション・ストリクスの担当変更の指令が。映画としてのヒキはやはり、「家族旅行」と「仮初の生活が終わろうとしている」という点だろう。もちろん原作に支障が出るようなことはしないので、アーニャがステラを獲得することもなければフォージャー家の生活が終わることもない。原作既読勢、いやおそらく未読勢のほとんども、その点を理解した上で観る映画なのだと思う。しかしあまりに、あまりに偽物すぎる。SPY×FAMILYであってSPY×FAMILYでない。動いているキャラクターは確かに彼等なのに、とんでもない違和感が映画を通して存在していた。

 

まずSPY×FAMILYの魅力の話をしよう。SPY×FAMILYの特徴を端的に言うと、とんでもない勘違いから生まれるとんでもない暴走に感動させてくる物語だと思う。スパイ、殺し屋、超能力者という凄腕一家なのに全員が何故か真面目に勘違いをしてしまい、自分の正体を家族に隠しているが故に平常心を装って大真面目に馬鹿なことをしなければならない。しかしその先にあるのは磐石な感動であり、仮初だったはずの家族がいつの間にか本物になりつつある暖かさや、各キャラクターの本音から滲み出る人の良さがSPY×FAMILYの魅力と言えるだろう。

 

原作を読んだ時はこの王道コント感を楽しんでいたのだが、この劇場版を観て王道コント感を出せる遠藤先生って本当に凄いんだな…と改めて思い知らされた。「なんでそんな勘違いすんだよ!」という微笑ましさがほとんどなく、ギャグのテンポやキレもかなり悪い。良し悪しは人それぞれかもしれないが、原作やテレビアニメ版とは明らかに異なっている。これはテレビアニメ版を担当した古橋監督ではなく、片桐崇監督にバトンタッチしたのも大きいかもしれない。アニメの時は一切思わなかったのだが、明らかにギャグがサムい。アーニャ達のアニメっぽさは一つ間違えればかなりイタい演出になってしまうし、それを知らない人と隣り合う映画館という空間で浴びるのは自分にはかなり苦行なのだが、それ以前の問題でセリフの入れ方やテンポがかなり悪い。本当に笑わせる気ありますか?と問いたくなるようなモタモタしたギャグ描写ばかりで退屈してしまった。

 

ただそれ以前に、物語の方向性が全然定まっていないことが気になった。ロイドはオペレーション・ストリクスに終わりが近づいていることを知り、ヨルはロイドが浮気していると勘違いしたことでこの関係を終わらせるべきなのかと葛藤し、アーニャは悪人達が狙っているマイクロチップを飲み込み追われることになり、更には一家はステラを取るために調理実習の練習をしなければならない。このように各キャラクターがそれぞれ役割を持ちながら、それが全く一つに集約されないのだ。これが序盤で一気に出された時には、フォージャー家が終わってしまうことについて悩む、ストレートなSPY×FAMILYをやるのかなあと思っていた。しかしロイドは映画の中で家族関係が終わることの懸念などほぼせず、ヨルの勘違いも勝手に酔っ払ってロイドに問い詰めたことであっさりと片付いてしまう。アーニャが巻き込まれた大事件でさえ、物語の中盤ではほぼ忘れられており、最後にとってつけたかのような仕上がり。もっと言うと調理実習に関してもまどろっこしい。調理実習でメレメレを作りたくて練習したいからフリジス地方へ…ってその回りくどさは何??普通にフリジスにおでけけだ〜でいいだろ。しかもメレメレを作るって話で敵のせいで店の最後のメレメレが食べられなかった〜って流れまでやっておいて、最後にメレメレを食べる描写はなし。う、うそだろ…どう考えてもアーニャがメレメレを食べるハッピーエンドで終わると思って観てたので呆気に取られた。脚本の大河内一楼さんは『コードギアス』なども書いている人だしこんなことは言いたくないが、もしかするとSPY×FAMILYを全く知らないまま抜擢されたのかもしれない。それくらい再現度が低い上に、映画の根幹が分からない。伝えたいテーマとかはなくてもよいのだけれど、ただ要素だけ散りばめて収斂の仕方が雑なこの映画、SPY×FAMILY劇場版としてのクオリティはかなり低いと思う。

 

マイクロチップを飲み込んでしまったアーニャがフリジス地方で何度も敵に襲撃されて、よく分からないけど戦って勝っちゃうヨルとか、全てを知ってるけどアーニャを不安にさせないために奔走するロイドとか、ロイドの心を読んで迷惑にならないために1人で頑張っちゃうアーニャとか、そういう「王道」の面白さに振り切って全然よかったはずなのに、アクションすらほぼないままダラダラと物語が進んでしまう。こんなので110分画面に釘付けになっていろというのか。無理だ。無理がある。ロイドがメレメレの具材集めるだけで何分も掛けるような映画。もっとスタイリッシュにやってくれてよかったし、何ならリキュールだけが足りないでも全然よかっただろう。

 

やはり1番キツいなあと思ったのはロイドの扱い。物語の主人公であるロイド・フォージャーの魅力は完璧主義かつ実際完璧で何でもこなせるというスーパーヒーロー感もだが、ヨルやアーニャなどの身近な人間の心の動きに関してかなり鈍いポンコツでもあるところだと思っている。ヨルやアーニャがちょっと不機嫌なだけで任務に危機を感じ必死に家族の仲を取り持とうとするそのポンコツさに人間性が滲み出る。ロイドは完璧な人間ではないが、それを知るのは神の視点で物語を楽しむ私たちだけなのだ。しかしこの映画では、ロイドが慌てるような場面はほとんどない。フィオナがホテルに訪ねてきた時くらいだろうか。何故か本当に完璧人間として描かれてしまったロイド。この違いは映画と原作でかなり大きいように思う。もっと言えばSPY×FAMILY初見さん用のオープニングの迫力もなんか物足らないし、せっかく髭男と星野源が曲作ってくれてるのにどっちもラストに一纏めってどうなのだろう…。アニメーションっぽさがまるで足りてないというか、中盤まで実写かというくらいに動きがなかったのが残念。さすがに飛行船でのバトルは迫力があったが、それまでのモヤモヤを全て吹き飛ばせるほどではなかった。

 

正直、SPY×FAMILY云々の前に、1つの映画として全然まとまりがなかったので何をどう観ていいか分からなかった。でも2000年代のジャンプ漫画の映画化ってそうそうこれくらいのクオリティだったよね(特にNARUTOとか)…と妙な懐かしさも生まれている。とはいえヒットするのは間違いないし、SPY×FAMILYは今のところ永遠に原作に支障をきたさない映画作りができる作品なので、これが次回作に繋がればいいなあと期待している。

 

 

 

 

 

 

ドラマ『下剋上球児』評価・感想! これは南雲の下剋上なのか生徒の下剋上なのか

話題になった『VIVANT』の後枠であることから、相当なプレッシャーが掛かっていたであろう日曜劇場『下剋上球児』。それこそ『VIVANT』とはかけ離れた題材で、王道スポ根ものの要素が散りばめられた物語。原作はないがオリジナルではなく、『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』として書籍化された実際のエピソードが原案となっているらしい。第1話の時点で廃部寸前だった越山高校の野球部が3年後に「下剋上」を果たすことが明確になっており、その旅路を追っていく物語だった。廃部寸前の弱小高がのし上がっていくのはフィクションにおいては"あるある"でしかないが、実話がベースとなると強い訴求力が生まれる。野球にまるで詳しくない私も、放送前からかなり楽しみにしていたドラマだった。

 

ただいざ終わってみると、申し訳ないが非常に消化不良な感があった。それこそ「甲子園出場」という決定的なゴールに対して、物語がかなり端折られてしまったようにさえ思えてしまう。その理由としてはやはり、ストレートなスポ根ものと鈴木亮平演じる主人公で越山の監督を務める南雲のエピソードがうまく噛み合っていないせいだろう。南雲の免許偽造からの再生の物語と弱小野球部が栄光へと向かう物語が、ほぼ乖離してしまっていた。このドラマは南雲の下剋上なのか、それとも生徒達の下剋上なのか、はたまた野球部の下剋上だったのか。それらが一つ一つは粒立っているのに、合わさるとどうにも線が弱い。この乖離具合が気になってしまい、しっかりと感動できなかったというのが本音である。

 

 

 

 

南雲は高校野球経験者でありながら、頑なに野球部の顧問を務めることを拒否し、あまつさえ教師を辞めようとしていた。そして割と早い段階でその理由が「教員免許を偽造していたため」だと分かる。家族との生活のために魔が差してしまった南雲は、できる限り目立ちたくなかったのだ。これはもちろん原案の書籍に書かれた展開ではなく、完全なるフィクション。しかしこの南雲の葛藤こそが、数多く存在するスポ根ドラマの中で、この『下剋上球児』というドラマの特異性だったように思う。南雲の人柄の良さは表情や仕草からも滲み出ているし、彼は善人である。しかし、いやだからこそ、自分の罪に葛藤し続けていたのだろう。理由も納得こそできるが、決して許されることではない。この偽造問題がバレることのスリルが、ドラマにスポ根ものとは別の緊張感を生んでいた。「バレたらやばいぞ」という雰囲気が時間をかけてしっかり構築され、南雲の人柄を知る山住は共犯になると言い出す。その優しさは南雲にとってすごく嬉しい言葉でもあり、同時に辛いものだったはず。自分の浅はかな考えから人に迷惑を掛けてしまうことの戸惑い、そして一刻も早く教師を辞めて逃げ去りたいという思い。しかし同時に、野球部で活躍し続ける彼等に対しての気持ちも捨てきることはできずにいる。南雲の後ろめたさから生まれる歪な感情や行動を、鈴木亮平は立ち居振る舞いで見事に表現してくれた。

 

そして中盤、遂に南雲の罪が世間に知れ渡る。それは南雲の恩師を失望させ、何も知らない生徒達にも戸惑いを生んだ。南雲自身も罪に問われる形となり、事態は最悪。そこに対して生徒達が必死に署名を集め、南雲が監督として復帰してくれることを待ち望んでいるという展開は感涙ものだった。予想外の展開ではない。分かりきったストーリーだが、それをこんなにしっかりとやってくれて丁寧に感動まで誘導してくれる話運び。そして生徒達の無邪気さや南雲の人の良さが全てに納得を生む。事件を乗り越えた越山高校は、遂に県大会へと向かうことになるのだが…ここから雲行きが怪しくなってしまう。

 

南雲が監督に復帰してからも小日向文世演じる犬塚の風当たりが強くなったりと、すぐに南雲の罪がなかったことになるわけではなかった。しかしそれでも、「南雲の葛藤」というこのドラマをここまで引っ張ってきたメインの物語に、ほぼ終止符が打たれてしまった形になっていたようには思う。南雲を主人公に据える以上、「人は罪を犯してもやり直せる」というテーマでドラマが完結するのがストレートなやり方な気がするが、監督復帰以降はそこに対しての目線は非常に弱くなってしまった。生徒達には特に罪や隠し事はないし、犬塚の目の手術や山住の怪我ではさすがに対抗馬にはならない。ドラマの核でもあった南雲の葛藤が乗り越えられてからは、予定調和な甲子園出場へと物語がスルスルと進んでいってしまい、正直肩透かしですらあった。

 

最終回で南雲は生徒達に向けて「次を目指してる限り、人は終わらない」と言い放つ。このセリフは彼が罪を乗り越えたことを踏まえた上でのものだろうが、最終回にはもう南雲の罪を糾弾するようなキャラクターは存在せず、テーマの包括のセリフとしては威力があまりに弱くなってしまった。そして何より、彼の更生の物語と生徒の成長のリンクも薄く、どうしても消化不良に感じられてしまったのだ。罪悪感に揺れていた頃の南雲の弱さと強さが同居したような言動が好きだっただけに、終盤からそれがまるでなかったように話が進んでいくのはかなりショック。

 

もちろん彼の過去を知っているからこそ、監督として活き活きしているのを観ていて喜べるという側面もある。だがそもそも甲子園出場に至るまでの物語だと初回から示していた分、この後どうなるのだろうという期待を持つことは難しかった。もちろんここまでのエピソードで生徒達のことも大好きになっているし、試合の熱量も凄まじかったようには思う。だがあれほど事態を悪化させてきた南雲の罪が中盤でほぼ片付いてしまうのはすごく勿体無いという感覚がある。

 

とはいえかなり楽しめたドラマであることは間違いない。それこそ『VIVANT』のいつ視聴者を裏切るか分からないハラハラ感とは全く別の感動を生んでくれる物語だった。ニチアサ好きとしてはルパンレッド・仮面ライダージオウリュウソウゴールドとヒーローがたくさん出ていることも嬉しく、特にリュウソウゴールドの兵藤功海が根室としてかなり大きな役を担っていたのが良かった。最初は気弱だった彼が南雲との出会いで2番手のピッチャーへと成長していく過程には素直に感動させられた。美味しい役だったしこれからますます人気も出そうで嬉しい。他で言うとコンビニの店員を演じるコットンのきょんのさり気なさにもかなり救われていた。生徒達を取り巻く人々の人柄の良さも滲み出ていて、唯一気難しかった犬塚はキャラクターの勝利な感じもする。小日向さんって早口で喋ったらめちゃくちゃ嫌なやつに見えるという発見もあった。

 

ただ南雲の奥さんの元旦那だったり、南雲家であったりのエピソードはもう少ししっかり着地してほしかったな〜という気持ちもある。何なら家族は南雲の罪が発覚してから離れ離れになったけど、甲子園出場を決めて元に戻る、とか。それくらいガッツリ感動路線にいっても全然悪くなかったのにな〜と思ってしまうのだ。

 

ここまで書いていて世間の感想を見てみると、逆に南雲の教員免許偽造問題が要らなかったという意見も多く、そういう見方もあるかあと勉強になった。自分のように南雲の葛藤を観たかった人間には野球パートが残念に思えてしまうし、逆に青春の感動を期待した人にはあのハラハラ要素が邪魔になってしまった、ということなのかもしれない。あともう1つ個人的な不満を述べるのなら、甲子園がどうなったかとかをもっと知りたかった。初戦敗退でも全然構わないのだが、そこをすっ飛ばして数年後〜と生徒達の未来の話をされても気持ちがまるでついていかないのだ。彼等は甲子園優勝を目指していたわけで、甲子園出場だけで終わろうとしていたわけではないはず。もちろん実話に基づいていることもあるのだろうが、肝心の甲子園をぼかしてしまう辺りに不誠実さを感じてしまった。負けててもいいからせめて甲子園の話をしようよ…。

 

とまあいろいろ言ってしまったのだが、安心感のある鈴木亮平の南雲先生が抜群にハマってたしあの説得力だけで視聴を続けられるドラマだったので概ね満足はしている。でも、もっとやれたよな〜という気持ちもあるので複雑。野球パートでアニメになる演出はよく分からなかったです。でも挿入歌というかエンディングのSuperflyは最高でした。

 

 

 

 

 

 

 

Netflixドラマ『幽☆遊☆白書』評価・ネタバレ感想! スピーディーでスタイリッシュな新たな幽白だった

 

Netflixで配信された実写版の幽☆遊☆白書、観ました。

正直期待もしてなかったし、かといって不安があったわけでもない。連載当時生まれてなかった自分は幽☆遊☆白書に対してそこまで思い入れもなく、配信始まったら観てみよ〜くらいの軽い気持ちだった。最初のメイン4人のビジュアル解禁では、ちょっとリアリティラインが危なそうなイメージ。演技派俳優とはいえこの見た目で動いてたらさすがに浮いちゃうんじゃないかなあと。あと桑原役の上杉柊平さんを存じ上げなかったので失礼ながら「誰だよ!」となってしまった。そこから時間を置いて他のキャストが解禁される。気になる戸愚呂(弟)はまさかの綾野剛。肩に滝藤賢一を乗せているのはさすがにインパクトが強かった。

 

ただ、「おおっ!」と唸らせてくれるような絶妙な配役があったかというとそういうわけでもなく、志尊淳の蔵馬面白そーとか、そういった何となく面白いものが観られそうなふわっとした感触で昨日までいたのだけれど、Netflixが宣伝にかなり気合とお金を掛けているのを見ていろいろ調べることにした。するとアクション監督には『るろうに剣心』で殺陣を務め、『HIGH&LOW』シリーズでもアクション監督を務めた大内貴仁さんの名前が。そして予告編ではキャスト陣が縦横無尽に戦う、ドラマとは思えない驚異のクオリティが披露される。元々観る気ではいたけれど、なるほどアクション重視の方向性かと期待が高まった。

 

そもそも原作の『幽☆遊☆白書』は、少年漫画としてはかなり「変な」漫画だと思う。『ドラゴンボール』のような熱いバトルよりも、どこか冷淡でしっとりとしたバトルが多く、大技を繰り出したり熱い展開を繰り広げるより、その場での閃きや舞台装置を上手く利用して勝利をもぎ取るようなバトルが散見されるのだ。それこそ暗黒武術会という、バトル漫画の王道=トーナメントも存在するのだけれど、それもメインキャラが外で敵に足止めを喰らって参加できなくなったりと、ただ相手とぶつかるだけでなく、かなり捻ったシステムになっている。言ってしまえば『幽☆遊☆白書』においてバトルはメインではないのだ。『HUNTER × HUNTER』に顕著だが、冨樫義博先生は善を善として、悪を悪として描くことは少なく、どこまでもキャラクターの正義に基づく倫理観のぶつかり合いで物語を進めてきた。だからこそ有名な蔵馬VS海藤(五十音が一つずつ使えなくなっていく心理戦)のような、特別な戦いが輝いて見える。『ハンタ』の心理戦はもはや名物となっているが、言い換えれば従来の少年漫画にある「力と力のぶつかり合い」ではなく、「精神と精神のぶつかり合い」を視覚的に示してきたのが冨樫義博先生なのだ。

 

何が言いたいかというと、幽白においてアクションが最たる魅力となることはあまりないということ。キャラクターやストーリー、テーマが持ち出されることはあっても、アクションに目が向けられることはあまりない作品だったように思う。しかし、そんな幽白のアクションに焦点を当てたのが今回の実写版なのだ。幽白においては希薄ですらある少年漫画としての熱量を、アクションの見応えによって担保してくる。言わばこの実写版の幽☆遊☆白書は、冨樫先生とは真逆の製作陣が作った新たなる『幽☆遊☆白書』なのだ。幽白実写化に対してこのアプローチを世界向けで出してこれるのは彼等しかいないのではないだろうか。そう思わせてくれるほどのまさかの着眼点であり、その上でアクションやVFXが本当に圧巻なのである。『ゴジラ -1.0』で日本のVFXが評価されつつあるこの流れで物凄い実写化が来たということが既に嬉しい。

 

全話を観た上でやはり印象に残るのはアクションなのだが、次点でストーリーにも触れておきたい。驚くべきは原作再構築の巧さである。漫画はそもそも連載されるものであって、最初から展開の何もかもが決まっているわけではない。読者人気を取るために露骨に路線を変えることもあれば、人気投票で上位を獲得したキャラクターに焦点が当てられることもある。それが作品を盛り上げることになることもあれば、迷走を感じさせてしまう結果に繋がることも。その上で実写化の際には、それをどう作品に落とし込むのか、新たに物語を整理するにあたってどう取捨選択を行うかを私は重要視している。個人的には漫画の展開をひたすらなぞるだけのものは面白くないので多少なりオリジナリティがあるほうが好みだ。そしてこの実写版幽白は、とにかく原作の圧縮が凄い。かなり端折りながらたったの5話で原作の暗黒武術会編までの物語をやり切ってしまう。爆速…爆速である。

 

しかし、幽助VS戸愚呂(弟)のバトルをクライマックスとして盛り上げるための要素はちゃんとピックアップしていく。いやむしろ、そのバトルへの感動に特化させるための幽白と言ってもいいかもしれない。桑原・蔵馬・飛影との共闘がたったの5話なのにしっかりと盛り上がり、ほとんど出てきていないはずの戸愚呂ですらビジュアルに頼るばかりでない感動を生んでくれる。もちろんそこに超絶アクションが説得力を持たせてくれているのだけれど、それを差し引いても原作の再構築が本当に上手い。取捨選択の巧みさに感動してしまった。多分この実写版を観て、四聖獣が出てないとか蔵馬と鴉のバトルが違うとかそういう細かいところを挙げちゃう人は、根本的に実写化作品の視聴に向いていない。そう言えるくらいに再構築が素晴らしいのだ。

 

第1話で登場した人を操る虫(魔回虫)は本来四聖獣の朱雀の使い魔だったのだが、実写では魔界のゲートが開いたことにより現れた存在となっており、その魔回虫が幽助に助けられたいじめられっ子に憑依して人々を襲う。また、幽助を轢き殺した車の運転手さえも魔回虫に乗っ取られていたという設定を作ることで、幽助と妖怪の間の因縁を手っ取り早く構築するこのスピード感。幽助が生還を果たすまでには原作1冊分になるのだが、気弱ないじめられっ子が無理矢理街を破壊する描写だけで悲哀が生まれ、「彼を救いたい」と幽助と視聴者の感情がリンクする。合間には蛍子が幽助の遺体を守るために火の中に飛び込む原作ノルマもこなし、更に友達を傷つけられて怒る桑原もしっかり描写されていく。第1話は幽助が甦り霊界探偵になるというだけでなく、彼のライバルである桑原が正義に目覚めていく物語にもなっていた。

 

続く第2話では剛鬼を倒し、蔵馬と幽助が和解。幽助が蔵馬と和解するのは原作通りだが、それに対して魔回虫の一件で桑原が「妖怪を信じるのかよ!」と幽助と対立するのが面白い。原作では三枚目キャラとして、重要人物でありながらかなりギャグ的に成り上がってきた桑原和真の成長に、こんなにも地に足のついたドラマを与えてくれるとは……!街で人とすれ違ったら挨拶をする桑原。友達の怪我を病室の廊下から見て言葉を失くす桑原。このような桑原の扱い方だけでもう満点を出したいくらいである。

 

第3話は幻海との修行。場所のせいでマトリックス感が出てしまっていたが、言わば原作の乱童編を端折った形。修行には桑原も同行し、なぜか彼は炭治郎のように岩を斬ることを命じられる。霊界探偵になった理由を「生き返る条件だったから」と答える幽助を「その程度の覚悟で?」と諌める幻海がよかった。というか幻海役の梶芽衣子さん、76歳なのか…。無事に幻海から奥義を授けられる修行編だが、幽助達が去った後に戸愚呂(弟)が現れる。たった1エピソードなのにしっかり爪痕を残せる幻海。でも登場から死亡までのスピード感で煉獄さんを超えることになるとは。地味に飛影と幽助の決着がつかないままで、飛影の格が落ちてないのも良かった。

 

4話は蔵馬VS鴉、飛影VS武威がメイン。原作の暗黒武術会編での彼等の戦いを一戦にまとめたかのような形。この辺りは強火原作ファンだと結構キツいかもしれない。妖狐蔵馬が見られたのは嬉しいけど、さすがにどんぎつねすぎて笑ってしまった。いい実写化だとは思っているが、総じてキャラクターのビジュアルはかなり映像から浮いて見えてしまうかもしれない。幽助や桑原のビビッドカラーの制服もそうだし、蔵馬なんてあの見た目だったらどう見ても妖怪だろう。妖怪とまでいかなくとも、変な人だなあとは思ってしまう。映像の色味が控えめで物語もかなり現代的になっている分、あのビジュアルはちょっと目立ちすぎているように見えた。でも志尊淳のどんぎつねは結構見たい人多いと思うのでそういう意味では楽しかった気がする。

 

最終第5話。戸愚呂(弟)と幽助は初対面なのだが、幻海を殺した相手であることから因縁はバッチリ。綾野剛戸愚呂のビジュアルは笑えるほど面白くはないが、全く笑えないこともないほどつまらなくもないという中途半端さ。けれどバトルが圧巻なので全然やり過ごせてしまう。それぞれの戦いを終えた飛影や蔵馬も参加しての戸愚呂戦。最終決戦へのルートがここまでの4話でしっかりと描かれていたので素直に面白かった。期待してた通りの着地をしてくれた感じ。死後の戸愚呂と幻海の会話もちゃんと挟まれていて良かった。

 

もちろん細かい粗を探せばいくらでも言うことはできると思う。原作の多くを端折っているので、不満が出るのも全然仕方のないことだろう。しかしそれでも、アクションを最重要視した演出と勢いに特化した物語のスピーディーさは、原作やアニメの幽☆遊☆白書にはなかったもので、同じ物語なのに全5話を前のめりに観てしまった。

 

特に桑原である。幽助のライバルであり永遠の三枚目キャラクター。原作はここから更に重要な役割を担っていくことになるのだが、それまでも幽白において欠かせないポジションに位置している。しかし、リアリティラインが高めの原作では彼の三枚目感は薄く、原作のような魅力を醸し出すには至っていない。だがこの桑原は、まるで原作の桑原から丁寧に逆算したかのように緻密で些細な描写で、その正義感が際立っていた。街で挨拶をする桑原、火傷した友人の苦しむ姿を見て言葉を失う桑原、人が傷つけられるのを黙って見ていられない桑原。幽助の覚醒よりもこっちに興味がいってしまうくらい、この作品は桑原和真というキャラクターの積み重ねを丁寧に行なっていく。少なくとも蔵馬や飛影よりは存在感があったし、幽助の相棒としても完璧な立ち位置。演じた上杉柊平はオーディションで役を勝ち取ったとのこと。確かにメインキャスト発表で1人だけ知名度が低く、自分も「だ、だれ???」となってしまったが、既にドラマの『18/40』を観ていたので深キョンの彼氏か〜と嬉しくなってしまった。この桑原、間違いなく彼の代表作になっていく気がする。

 

ギャグ濃度はかなり控えめだし、画面の落ち着いた色調のおかげでかなりダークな物語のイメージがある本作。この角度の幽☆遊☆白書は冨樫先生からは出てこないアプローチな気がするので、そういう意味でも別角度からのファンを取り入れる力のある作品だなあと思った。最初に度肝を抜かれたのはやはり幽助が車に轢かれるシーン。ありがちな「あぶな~い!」というスローモーションなどなく、躊躇も慈悲もなしにあっさりと車に轢かれる幽助。既にXでは多くの方が言及しているけれど、この車に轢かれるシーンが「この幽白はこういう路線でいきます!」と視聴者にしっかりと明言してくれるかのようだった。映像から伝わる悲惨さが、幽助や桑原の戦う覚悟に説得力を持たせてくれる。たった5話だが、こうしたグロテスクさに甘えを許さない姿勢が、物語をうまく引き立たせているようにも思う。

 

スピーディーさでどんどん観られたものの、充分に面白い出来だったので四聖獣編や暗黒武術会をすっ飛ばしてしまったのがちょっと勿体ない気もしている。このクオリティで観られるのなら原作の更に先の物語もぜひ実写化してほしい。というかあのメイン4人でオリジナルの霊界探偵編をやってくれてもいい。きっとアクションたっぷりになるだろうし、元々そういう短編の良さが幽☆遊☆白書の魅力でもある。何ならここから「実写化Netflixドラマ」の流れがきてほしいという気持ちさえ生まれてしまった。幽助が煙草を吸うシーンなど、きっと映画や地上波では観られないだろう。そういう制限なしに縦横無尽に、自由に作品を作れるというのは、実写化と非常に相性が良いのかもしれない。ひとまず仙水編を待つことにする。

 

 

 

 

 

 

ドラマ『ブラックファミリア 〜新堂家の復讐〜』感想 秋生の性欲にケリをつけてほしかった…

#1

 

ブラックファミリア〜新堂家の復讐、最終話まで観ました。

リアタイはできていないどころか、中盤くらいが放送されていた頃に駆け足で一気に観て追いついたので作品の背景についてはよく知らず。調べてみると日テレはこの路線で既に「ブラックシリーズ」としてシリーズ化をしているらしい。これが3作目とのことだったが、あまりドラマに詳しくない私は1作目と2作目を知らなかった。女性主人公のちょっと暗めなシリーズという位置付けなのだろうか。佐藤友治さんという日テレでドラマ脚本を多く手掛けている方がシリーズに関わっているようだった。

普段特撮ヒーロー作品ばかり観ているので、1話を観た時にはキョウリュウグリーンと仮面ライダーナーゴが出てるぅ〜とかなりテンションが上がる。特にナーゴの星乃夢奈はついこの前までニチアサで毎週観ていたし、1年追いかけたヒーロー作品に出ていた役者さんがすぐに他のドラマに抜擢されていると、途端に嬉しくなってしまうのがニチアサ民なのだ。

 

観た動機としては、今期追ってるドラマ作品にサスペンスがなかったため。ちょっと物騒な作品もレパートリーに入れてみるかあとU-NEXTに出てきたこのドラマを選んだ。だが、まずキャスト欄を見て手が止まる。板谷由夏が主演……!?

正直ドラマを観るまでは、失礼ながら顔と名前さえ一致していなかった。他のキャストも名前や顔こそ知っているものの、地上波ドラマなのにメインメンバーをこの面子で???と首を傾げざるを得ない。だが、実際ドラマの良し悪しに役者さんの知名度は一切関係ないし、売れっ子の拙い演技に嫌気が差して視聴を止めてしまったドラマもいくつかある。そんな中で、「何かしらの映画やドラマで見たことがある」メンバーを中心に固められたこの作品には、他のドラマにはない強い意志を感じた。坂道出身の渡邉理佐も出ているし、星乃夢奈も演技経験こそ浅いが、ノイズになんてならないどころかしっかりと役割を果たしている。渡邉理佐のクールな瞳は妹を失い復讐に燃える沙奈にピッタリだったし、星乃夢奈の溌剌とした雰囲気は家族の光だった梨里杏そのものに見える。

そして板谷由夏山中崇森崎ウィン。それこそテレビをそんなに観ない人に「誰が出てるの?」と聞かれて名前を答えてもリアクションは薄いドラマかもしれない。それでも役者の知名度だけに頼らない作品が地上波で放送されるということそれ自体に意味があると思うし、実際それがうまくハマっていた作品だと、最終話まで観た今改めて感じるのである。

 

 

 

 

正直、どの役者さんが出ているかは私はあまり気にしない。なぜならドラマの面白さは全てに優先するからである。ドラマ自体が面白ければ、演技力など二の次と言っても過言ではない。ではこのドラマはどうだったのか。私はほとんど一気に観たので毎週リアタイしていた人とはまた切り口が異なるかもしれないが、一言で言うのなら期待したほどではなかったなあという印象。ネットではそれこそ「期待外れ」「途中で切った」「矛盾多すぎ」といったネガティブな感想が散見された。

 

ただ、私はこのドラマに対してそこまでネガティブな感情は抱いていない。つまらない、展開が雑、共感できない…そんな感想に寄り添う気持ちもあるが、このドラマにはそうした理屈を越える「歪さ」「禍々しさ」が存在しているのだ。サスペンスなのに思わず笑ってしまうような、シュールギャグにも見えてくる復讐劇。それこそ直接的に作り手が意図したものではないかもしれないが、このドラマは演出と演技によってかなり目を引く場面が度々ある。その瞬間最大風速を感じられるというだけでも、このドラマには大いなる価値があると私は思っている。

 

第1話を観た時、「かったるい」と感じた。あらすじすら知らなかったので「なるほど次女が死んでその真相を突き止めるために復讐って話ね」と納得する。昨今のドラマのスピード感ならいきなり板谷由夏が家政婦として出てきて「絶対に犯人を許さない…!」みたいなモノローグと共に次女の死という潜入の理由を少しずつ明かす…というのがセオリーだと思うのだが、このドラマはしっかりと1時間かけて梨里杏の死を描く。他のドラマと比べても明らかに展開の動く速度が緩慢だった。2倍速で観てもくっきりとした輪郭を保てそうなくらいである。これはハズレだったか…と思ったのも束の間、第1話の後半に板谷由夏が突然泣きながらケーキを頬張るシーンで「な、なんだこれは!!!」と目を見開いてしまった。

 

そのケーキは梨里杏の芸能界デビューのお祝いのためのもの。しかしその日に彼女は約束の店に現れず、駆けつけた家族の目の前で死ぬという恐ろしい結果となってしまう。食べさせてあげられなかったケーキ、祝えなかったデビュー、戻らない娘。そんなケーキが仏壇に置かれている。生物なのに…とツッコんでしまいそうになるが、彼女を失った家族の気持ちを汲むのなら自然だったかもしれない。すぐに腐るけど、彼女を祝いたいというせめてもの思いがお供え物のケーキなのだ。しかし、彼女の死によって失意に暮れる母の一葉は突如嗚咽を漏らし、そのまま…ケーキを手で貪る……!!!

 

何故食べるのかは分からない。こういうシーンでとにかく物に当たるというのはよく分かるし、その上で家がめちゃくちゃになって帰ってきた旦那が優しく抱きしめる〜みたいなシーンもよく見る。なのに、このドラマはひたすら一葉にケーキを食べさせるのだ。そしてその後、一葉は食べたケーキを全て戻してしまう。このシーンの気持ち悪さと独特さにガツンとやられてしまった。最後まで観た今、1クールのドラマとしては薄味だったかもしれない。しかしあの映像を観た時の興奮と驚きは今でも鮮明に思い出すことができる。その後流れてくるエンドクレジットには「城定秀夫」の文字。元々ピンク映画などを撮っていた人で、映像の艶っぽさと気持ち悪さがウリの監督である。おそらく城定監督の作品だからとこのドラマに触れる方も多かったのではないだろうか。

 

私も好んで城定監督の作品を観るほうではないが、それでも彼の撮る映像に含まれる「何か」には強い刺激を受けてしまう。最近だと映画『女子高生に殺されたい』。古屋兎丸原作で、タイトル通り女子高生に殺されたいという欲求を持った教師が女子高生に殺されるために奔走する物語。教師を演じるのは田中圭。原作の設定の時点で相当な気持ち悪さだが、城定監督はうまくそれを映像に落とし込み、オリジナルのキャラや展開まで捻り出す変態っぷり。おそらく『ブラックファミリア』のねちっこさがハマった人にはドンピシャだと思うので、未見の方はぜひ観てほしい。

 

 

 

 

話を戻す。一葉のケーキバカ食いに光るものを感じた私の興味は、その後早乙女秋生へと移っていく。新堂家の敵であり、梨里杏殺害の容疑者でもあったこの人物。演じる平山祐介の演技力がとにかくものすごかった。女好きの権力者。オーディションを利用して女優の卵を食いまくる。鍛え抜かれた肉体と恵まれた身長、そして何より強大な権力が彼の歪んだ欲望の心強い味方となっていたのだろう。女性を道具としてしか見ていない秋生の行動には、性欲以外の一切が存在していなかった。何の深みもない、欲求にただただ忠実な男。そのために子供たちからも嫌われている。だがその性欲は天井知らずで、遂に一葉にまでその魔の手が伸びようとしていた。確かに復讐のために忍び込んだ一葉の挙動は側から見たら怪しいのだが、それを「あんたの目的は俺だろお!」と半裸の寝巻きでグイグイ迫り来る姿はさすがに滑稽である。しかし一葉からしたら早乙女家に取り入るためにそれを受け入れるしかなく、一葉の夫である航輔からしたらそんなことを許せるはずがない。そして何より犯人が明かされた時、この物語が彼の性欲によってスタートした作品であるとも読み取れる構図になっていた。早乙女秋生のテンションだけで後半はこのドラマが輝いていたような節さえある。本当に面白かった。

 

もちろんこういった面白ポイントがモチベーションにはなっていたのだが、最終回まで観るとかなり強引な話運びのドラマであったことは否めない。サスペンスとしても「それはさすがにバレるだろ」とか「みんなに話してから行動してくれ!」みたいなことが多すぎて、感動よりはツッコミどころを探す方が楽な作品ではあると思う。ただ、最終的に新堂家と早乙女家を対比させたかったは強く感じた。新堂家にとって梨里杏が光であり、失ったことで彼等の人生が大きく変わってしまったのと同じく、早乙女家にとっても葵は眩しい存在だったということなのだろう。だから秋生も麗美も、培ってきた全てをなげうってでも葵を必死に守ろうとしたのだ。そして秋生はこれまで向き合ってこなかった倫太郎にも誠意を見せたのだ。

 

この構図は新堂家の4人がそれぞれ早乙女家の4人と接触している辺りからも読み取れる。まるで少年漫画の四天王戦のようにしっかりと因縁が生まれ、お互いに少しずつ関係性や心情が変わっていく様子は観ていて楽しかった。葵と本当の姿でぶつかりたくなった優磨や沙奈に心を許し始めた倫太郎。そういう心の動きがあったからこそ、最終的に彼等一人一人が互いの心を動かし切らずに終わってしまったことは残念でならない。復讐劇の発端は結局のところ秋生の性欲であり、それを受け入れられなかった早乙女家の面々が他に拠り所を求めたせいでもある。そんな元凶に目を合わせず秋生が倫太郎にこれまでのことを謝罪する場面はさすがに展開が急すぎた。感情の変遷をもっと巧みにじっくりと描いてくれていれば、変態的なキャラ付け以外の部分でも彼に好感を持てたかもしれない。秋生は最後、麗美の不倫相手に刺されて終わるが、麗美と彼の関係も非常に描写が薄っぺらく、ただノルマを消化しただけの展開に思えてしまった。

 

それでも最終回の秋生のセリフにあるように、「権力や名誉、地位、金。その全てを失ったとしても残るのが家族」なのだ。リスク分散と同様、人は居場所が多いほどに幸福度の高い人生を過ごすことができる。1人の恋人や1つのコンテンツに依存してしまうとそれを失った時に立ち上がるのは容易ではない。しかしたくさんのものを好きになることで、1つを失っても立ち上がることができ、失ったものを取り戻そうと思えるのだ。秋生は最低の人間だったが、それでも彼が家族の大切さに気づいたことには大いなる意味があると思う。蔑ろにしてきたものに向き合おうとする姿勢は『葬送のフリーレン』と同じだ。

 

 

 

 

ラストシーン、新堂家で暮らす葵は正直話題性以外の何物でもない気がしている。物騒な物語であったからこそ、ただ平凡には終わることができないような。でも一葉達の「葵を許さない」という思いを描写するのなら、事件後も普通に暮らす葵の写真をめっちゃ家に貼ってあるとかのほうが狂気を感じられた。復讐はまだ終わっていないんだぜ方式。正直あのラストは殺人犯と同居する新堂家の異常さや、彼等と暮らせる葵の不自然さが際立ってしまっていて微妙だった。

 

そもそもやはりこのドラマにおける「復讐」の定義が曖昧だったのがよくなかったかもしれない。「梨里杏の死の真相を知りたい」「犯人を許さない」というのは伝わってきたが、新堂家が犯人をどうするかはいつまでも宙ぶらりんなままだった。仮にこれが「犯人を私たちが裁く」とかにしていたのなら、葵が犯人だった時の衝撃もより強かっただろう。だが復讐劇のゴールが見えないままに潜入の緊迫感と各シーンのエロティックさだけで突き進んでしまったために、新堂家のゴールや一人一人の心情の変化がおざなりになっていたのかもしれない。

 

ただやはりこのキャスト陣で1クールドラマを観られたというのは素直に嬉しいし、倫太郎役の塩野瑛久もドラマを追ってきた人達の目には演技派イケメンとして映ってくれたようで満足である。もし塩野瑛久に興味を持ってくれたのなら、是非『キョウリュウジャー』や『HIGH & LOW THE WORST』も観てほしい。そこでは初々しい塩野瑛久やノリノリヤンキーの塩野瑛久を拝むことができる。

 

程よい緊迫感で楽しめたので、これからもブラックシリーズにはぜひ続いてほしいなあと思った。年末に時間ができたら過去2作も観ておきたい。

 

 

 

 

 

 

映画『怪物の木こり』評価・ネタバレ感想! こんなんもう仮面ライダーだろ…

 

サイコパス VS 殺人鬼

このフレーズだけ聞くと一時期流行した「舐めてた相手がヤバい奴だった系映画」かと思うが、『怪物の木こり』の実態はそこから連想されるものとはかなり異なっていた。連続殺人鬼が狙った相手が偶然にも平気で人の心を理解しないサイコパスだったんだぜ~みたいな、そんなノリかと勝手に思っていたので、映画を観てしっかり驚いてしまった。ただ、そういう作風を匂わせているのはあくまで予告だけで、劇中では割と序盤にはっきりとリアリティラインを決定づけてくれる場面があるので「期待と違った!」とまではならない。その場面が、「亀梨君が自分の頭に脳チップが埋め込まれていたことを知る場面」である。脳チップ!??????

 

斧を使って人の脳みそを奪う連続殺人鬼、通称「脳泥棒」に突然襲われた二宮彰(亀梨和也)が、何度も襲われながら自分の出自と向き合い、戦いに身を投じていく物語。監督は三池崇史。三池監督はオファーを基本的に断らないことで有名で、「多くの監督から断られた漫画の実写化映画を最終的に全部請け負う男」とまで言われている。そのため実写化映画も数多く手掛けているが、『悪の教典』などの血生臭いサスペンス映画も得意としている。死人が出続ける今回の『怪物の木こり』も、三池監督にピッタリな作品と言えるかもしれない。

 

主人公の彰はサイコパスであり、平気で人を傷つけ、殺害することができる弁護士。序盤だけでも自分を追ってきた男と自分を診療した医者、2人をあっさりと殺していく。その会話の中で殺人に慣れていることも示唆されており、死体を内密に処理してくれる医者も味方につけているのだ。おそらくは快楽殺人鬼なのだろう。息をするように人を殺めてしまう彼の異常性が、亀梨君の冷たい瞳に確かに宿っているように感じられた。

サイコパス」という言葉は日常でも一般的になっているが、実際に身近にいるとしたら本当に恐ろしい人物だと思う。「お前サイコパスじゃん!」なんて掛け合いも普通に横行しているし、サイコパスだと言われてちょっと喜んでしまう人がいることも分かっているのだが、本当のサイコパスはたとえ犯罪に手を染めていなくとも、社会に適応しづらいという特徴を持っていて、簡単に人に使う言葉ではないよなあと私は考えている。

要は共感性に乏しく社会に適応することが難しい人のことを「サイコパス」と呼称するのだけれど、この映画では少し話が変わってくる。『怪物の木こり』において「サイコパス」は人工的に作り出すことができるのだ。人工サイコパス…人工サイコパス!?

 

殺人鬼に襲撃された彰のレントゲン写真には、頭蓋骨の辺りに脳チップなるものが埋め込まれていたのである。存在を全く知らない彰は驚くが、医者の前では何とか平静を装う。この場面でこっちは完全に「え????」状態。まず脳にチップが埋め込まれてるって何? というかそれはもうチップでよくないだろうか。脳チップとわざわざ言う必要があるか? いやそもそも脳チップって何????

 

結論から言うと、この脳チップは人間をサイコパスに変えることができるチップなのである。ある児童養護施設を経営する夫婦が、そこで育てていた子どもたちに次々とこの脳チップを埋め込み、サイコパスを作り出していた…というオチ。

劇中だと「サイコパス」と言われているからちょっと微妙なニュアンスも出てくるのだが、簡単に言えばこれはもう「仮面ライダーの改造手術」レベルだと思う。何ならこの映画、非常にニチアサ度が強い。亀梨君がとことこ夜道を歩いていると突如斧を振り下ろす殺人鬼! ニチアサの怪人もこんな感じでサラッと出てくるんだよな…。それに対してまあまあ応戦できる亀梨君も完全に変身前の仮面ライダームーブ。

 

脳チップを埋め込まれると強烈な殺人衝動に駆られる…とか共感性が著しく欠如する…とか、彰の特性が文章で表せるものだったのなら分かるのだけれど、「サイコパス」と実際に存在する用語にしてしまうとちょっと話の趣旨がズレてくるよなあという気もしてしまう。サイコパスであることに悩んでいたり、突然殺人衝動が一気に消えて罪悪感が湧き出たりとか、そういう葛藤があるともっとスムーズにこの人工サイコパス設定が入ってきたかもしれない。ただこの「脳チップ」発言でこの映画のリアリティラインがかなり現実と乖離していることは一瞬で明らかになるので、ちょっとした「バカ映画」だと思うと一気に2時間が楽しくなる。映画自体は非常にシリアスだけれど、実はそんなに身構えて観る必要はない映画なのだと思う。

 

殺人鬼に襲われつつ婚約者の吉岡里穂との関係を進めていく彰。実は婚約者の父親を殺していたりもするのだが、それを公言したりはしない。話したらヤバいと思っているというより、話したらヤバいと「理解している」とだけ思わせる亀梨君の絶妙な冷たさが素晴らしかった。マジで体温ないだろアイツ。本当に亀梨和也がハマり役で、仲間の医者の染谷将太もしっかりとサイコパスなので、多分目が死んでる系人間が好きな人には堪らないだろう。そして同時に菜々緒演じるプロファイリングを得意とする刑事の話も進行しており、その過程で過去の殺人事件の犯人である武士(中村獅童)が登場したりもする。殺人鬼に襲われたことで脳チップが破損し、人を殺せなくなっていく彰の葛藤と、殺人鬼の正体を軸に物語は展開していくのだが、犯人候補が異常に少ないので観ているこっちは消去法で結構簡単に犯人を当てることができてしまう。

 

そう、殺人犯の正体は中村獅童演じる武士だったのだ。そして彼の目的は、サイコパスをこの世から消すこと。自身も幼い頃に脳チップを埋め込まれ、残虐な事件さえ起こしてしまっていたが、チップの破損により罪悪感が芽生え、自分と同じような脳チップ入りサイコパス達を世界から葬ることを決意する。いや、これまんま仮面ライダーにいただろ…。『仮面ライダーアマゾンズ』の仁さんっていうワイルドなホームレスみたいな男がまんまこの武士なので気になる方はぜひ観てほしい。ここまでずっと「仮面ライダーだろこれ…」と思ってたのにこの正体と動機発覚で「仮面ライダーだろ!!!」と叫びたくなった。仮面ライダー過ぎる。

 

 

 

 

というか人工サイコパスが何人もいる日本社会がもう面白すぎるし、正義に目覚めたサイコパスが他の悪しきサイコパスと戦おうとする物語も、ヒーロー映画のようで興奮してしまった。私は予告から全く想像できない展開に話をシフトしていく映画が大好きなので、出来はさておきこの映画が大好きになってしまったのである。後はこういう暴力性や残虐性の中に見え隠れする人の心や人情、友愛というのは三池監督の得意とするテーマでもあるので、そこが上手く乗っかってきているのも良かった。何だかいろんな意味で興奮させられる映画だった。

 

公式サイトの原作者のコメントによると、ラストは原作とは異なっているらしい。映画では婚約者を救出し2人で歩んでいこうとした彰が、父親を殺されたことを知った婚約者によって刺されてしまうラスト。それに怒り狂った彰は婚約者の首を絞めて殺そうとするが、それは実は演技だった。彼女の首に絞め跡を付けたことで、正当防衛を主張できるようにしたのである。自宅のリビングで腹から血を流し、白い敷物が真っ赤に染まっていく…。心から愛した婚約者に殺されるという皮肉なオチは、サイコパス時代に多くの人の命を奪ってきた彼への報いなのだろう。彼は正義に目覚めることとなったが、それでも過去の罪が消えるわけではない。ダークヒーロー映画としても、かなり考えさせられるラストだったように思う。

 

ただ、映画自体のトーンは非常に重い。また、彰が徐々に人間性に目覚めていく…という過程をほとんどすっ飛ばして犯人の正体に迫っていく物語なので、感情移入もしづらいかもしれない。せっかく人の心を取り戻す物語なのだから、もっと丁寧に心の機微を演出してくれてもよかった。人を殺せず以前と明らかに変わってしまったことによる戸惑いだったり、周囲の人々の彰への見方だったり、そうした側面から彼の変化を上手く追ってくれていれば、もっと前のめりになって観ることができただろう。とはいえ私はこのトンチキさやニチアサ感に一発で心を奪われてしまった。多分世間的評価はそこまで高くはならないと思うのだが、それでも一蹴することはできない独特な味のするサスペンス映画だった。