【随時更新】ドラマ『笑うマトリョーシカ』感想

笑うマトリョーシカ (文春文庫)

 

 

2024年夏期金曜ドラマ『笑うマトリョーシカ』。

主演は水川あさみ、そして櫻井翔玉山鉄二というわありそうでなかった同年代俳優のトリオが新鮮に映る。調べた所、櫻井くんと玉鉄は初共演らしい。イメージはまるで異なる2人だが、確かに年齢は2歳しか違わない。ちなみに、水川あさみと玉鉄は過去に『絶対恐怖 プレイ』という映画で共演しているよう。2005年公開のため、19年ぶりの共演。

 

 

 

3人とも言うまでもなく有名な俳優だが、組み合わせはすごく斬新。3人が並んだイメージカットで、既にワクワクしてしまった。特に玉鉄は冬に放送していた『さよならマエストロ』でイメージとは真逆のナヨナヨした役を演じていたので、元のイメージに近い今回の鈴木は振れ幅がうまく作用している。

 

 

 

 

 

第1話

夏期ドラマなのに6月にもう始まるのかと、録画しながら驚いた。最近のドラマは大体月の中旬に始まるイメージだったのだが、話数が長いのだろうか。それとも夏は大体こうなのか。ドラマをそこまで積極的に観るほうではないのでよく分かっていない。

原作は早見和真の小説。3年前に単行本として出版されている。早見さんの作品は読んだことがないが、ドラマの宣伝を偶然目にして、水川あさみ櫻井翔玉山鉄二というトリオの珍しさから興味を持ち、観ることにした。政治が絡んだサスペンスで重厚な雰囲気。それでいて、オープニングでいきなり車が大破する演出に驚かされる。刺殺とかでも充分物語は進められるだろうに、サスペンスドラマであんなにちゃんと車が粉々になるとは…。話の筋からしてアクションはないだろうが、しっかりお金をかけて目を引くような演出をしてくれているのは嬉しい。視聴者の目をごまかしたりせず、いいものを作ろうという制作陣の気概を感じる。

 

1話はかなり不穏な雰囲気で、水川あさみ演じる道上が視聴者の目線となり、若干44歳にして内閣入りを果たした清家と、その秘書の鈴木、2人の関係性に迫っていく。父の死に鈴木が関わっていると確信した道上は、清家の自伝に高校時代から支え続けてくれている鈴木のことが一切書かれていないことを不審に思い、2人を問い詰める。その後、突如送られてきた清家の大学時代の論文にヒトラーとその側近であるハヌッセンを賞賛する内容が書かれていたことを知った道上は、送り主は清家であり、彼は鈴木に利用されていてSOSを送ってきたのではないかと疑い始める。

 

回想シーンから、鈴木が政治家に利用された父親の仇を打つために清家を利用していたことは明白。しかし当の清家の目的はまだ謎のまま。論文の送り主も明らかにはならなかったため、結局鈴木が敵討ちに清家を利用しているのか、清家が他の目的で鈴木を利用しているのかは分からない。政治家らしく笑顔を振り撒きながらも、真綿のように他人の意見を吸収し、自分のものとしてしまう清家が物語の構造を複雑にしていく。本心の読めない櫻井翔の演技は、『新空港占拠』で見せた、どこかコミカルさを感じてしまうものとは真逆の妖しさがあった。根っからの悪人ではないのかもしれないが、それでも信用できない何かをオーラとして放っている。正しく政治家の如く、食えない奴という表現がピッタリかもしれない。

 

一方の玉鉄演じる鈴木は、親の復讐という目的が明かされたこともあって、より魅力的なキャラクターに仕上がっている。落ち着き払った玉鉄が醸し出す空気感。背が高くて顔のいい40代が無表情で立っているだけなのに、何故か画になる。櫻井翔との身長差もうまく作用していて、映るだけで画面に緊迫感を与えてくれる貴重な存在だった。水川あさみの道上は今の所視聴者と目線を共有しているため癖は強くないが、毒気のない純真なライターというキャラクターがビシッと伝わってくる。

 

コミカルなシーンがほとんどなく、とにかく緊迫感が張り詰めているという雰囲気がかなり良かった。道上の職場でのコミュニケーションが清涼剤になってはいるが、それでもやはり櫻井くんと玉鉄が醸し出す異様さには到底敵わない。あの2人が並んでいるだけでもうお腹いっぱいになるというか、これは初共演ならではの部分もある気がしている。見慣れたコンビだと出せない独特の空気感が、ドラマの面白さに一役買っているのだろう。とはいえ2人とも40代、インタビューでは仲睦まじく話しているので微笑ましい。

 

1話時点では雰囲気がかなりよく出来ていて満足感も高かった。ツッコミどころのないパリッとした作風が好み。清家の腹の底が読めず、鈴木との関係性が明瞭でない状態は、真相が入れ子構造になっているようで正にマトリョーシカの様相。原作未読のため違いやオリジナリティについては言及できないが、ひとまずこれからも随時感想を書いていこうと思う。作品がそもそも硬いのでちょっと感想の文体もこんな感じで固く読みづらいものになってしまうかもしれない…。