TVアニメ『デジモンクロスウォーズ』感想

前作『デジモンセイバーズ』の完走から約2ヶ月。遂に『デジモンクロスウォーズ』を完走した。全79話という長丁場に幾度も心が折れそうになったものの、どうにか走り抜けた形である。リアルタイムでは確か3話辺りまでは観ていて、その後は録画を忘れて放置し、過去主人公勢揃いと聞いて終盤だけ鑑賞した記憶がある。それらももう10年以上前で朧げな記憶だったため、実質初視聴に近い。物語の流れをほとんど知らずに鑑賞するデジモンTVシリーズは初だし、それが79話も続くことにかなりの緊張感があったが、何とか完走することができた。

 

ただ、『セイバーズ』までの作品を観た時に各作品についていろいろ調べていたため、嫌でも他作品の評判や情報は入ってきていたのである。そのため『クロスウォーズ』に対して、設定を無視した駄作であるという意見も目にしていた。デジモンのメインである「進化」を敢えて封印し、デジモン同士をクロスさせる「デジクロス」で勝負する。過去にはオメガモンのような合体やパイルドラモンのようなジョグレスなどがあったものの、それはあくまで進化の1つの形だった。それが『クロスウォーズ』ではメインに据えられ、デジモン同士が合体することでロボットアニメ的な試みが取り入れられている。それにより副次的に人間×相棒デジモンという基本の型も崩壊することとなった。確かに賛否両論ありそうな設定ではあるが、自分は公式がデジモンと言ったらデジモンなので…くらいのスタンスであるため、そこには特に拒否反応はなかった。むしろパートナーデジモンのシステムはともかく、進化がデジモンの最大の特徴であるとして頑なにそこを譲ろうとしない人がこんなにも多いのかと驚いたくらいである。自分はデジモンのゲームもあんまりやってきていないため(今年無印完走した頃にゲームもやろうと思ってPS版『デジモンワールド』を購入したものの全然先に進めない…)、進化に特別な思い入れがないこともあるのかもしれない。

 

ただ、「クロスウォーズ」とタイトルにまでクロスを挿入し、デジモン同士の合体をゴリゴリに打ち出した作品としては、かなり消化不良だったように思えてしまう。オメガモンを大好きになれたのは映画版ならではの特別感があるためで、パイルドラモンの初登場で涙してしまうのはそこに大輔と賢の和解という物語が乗っかっているためであり、スサノオモンの登場に燃えるのは共に旅をした6人が1つになるという筋書きがあるから。しかし、『クロスウォーズ』は合体をメインに据えながら、その醍醐味である合体者同士の心の交流を描くことが極端に少ない。合体により強くなり強敵を撃破できるようにはなるものの、合体に至るプロセスは「俺も味方するぜ!」というカジュアルなものが多く、かなりファッション感覚。

 

前置きが長くなってしまったが、自分がこの『デジモンクロスウォーズ』に感じたのは、王道冒険譚であるが故の物語へのとっつき易さとマンネリ感である。悪の軍団からデジタルワールドを救うために各ゾーン/ランドを2〜3話かけて渡るという過去作と異なるアプローチは長編を意識させず初見にも優しい、小刻みに山場が来る構成という意味では成功しているが、反面メインストーリーが遅々として進まずストレスフルな作劇にもなってしまっていた。全3部構成で、タギルが登場する第3部は急遽製作が決まったために2部までとはガラッと方向性が変わったとのことだが、正直1部と2部の違いも路線変更にしか見えない。エピソードとして良質な短編もあるが、メインストーリーになると積み重ねが不足し設定が一気に放出されるために視聴意欲が削がれてしまう。王道故の視聴感が光にも闇にも傾く形となっていた。

 

第1話 タイキ、異世界へ行く!

 

79話を数週間で視聴したために情報量が多く、もう何から触れていいのかも整理できていないのだが、とりあえず良かった点について触れていきたい。まずはなんと言っても序盤のワクワク感である。

ダイの大冒険』を彷彿とさせるような設定に三条脚本味を感じ、「ほっとけない」という何気ないフレーズが主人公工藤タイキの行動基盤になっているのも上手い。タイキはスポーツも万能で多くの部活に助っ人で呼ばれるような人気者だが、嫌味ったらしさは一切なく、助けを求める人を放っておけないという聖人的な優しさがメインの人物。デジモンアニメは子供たちの心の弱さを描くことが多かったのだが、タイキの心はほとんど折れない。むしろ周囲の人々やデジモン達の希望となり、世界の救世主へと成長していく。「ジェネラル」と呼ばれる通り、彼は正に戦局を劇的に変えることのできる才能の持ち主なのだ。大門大とはまた別の形の、頼りになる男なのである。何なら喧嘩っ早くない分、大よりも隣にいて安心できる存在かもしれない。

 

そんな彼が次々とデジモンを味方につけ、各ゾーンでコードクラウンを手に入れるという展開は非常に分かりやすい。過去作は大概の場合1クール〜2クール毎にボスが配置され、その撃破に向かって物語が進んでいく形だった。『クロスウォーズ』も各部が大体2クールくらいのため大筋は変わっていないが、それでも2〜3話でゾーン毎に中ボスを倒していく展開は、1話完結が多かった過去作と比較すると物語が濃厚になっていて面白い。要は話に厚みが出ており、1話目と2話目で状況がガラリと変わるようなエピソードもあって、これがなかなかトリッキーで楽しめるのである。ヘブンゾーンの1話目では敵のバグラ軍こそいないものの正義感で雁字搦めになったゾーンでの戦いが描かれ、2話目ではタイキ達を欺いたルーチェモンとの戦いへとシフトする。こういうカラーの移り変わりをエピソード単位でできる物腰の柔軟さがクロスウォーズにはあり、他にも一匹狼のドルルモン(なのにキュートモンには優しい)タイキを認める回なんかもじっくりと心情が描かれていて良かった。

 

第1部のエピソードで特別に好きなのがベルゼブモンの回である。サンドゾーンで女神の戦士団に所属していた彼は、自分が女神に戦士として選ばれていないことに苦悩していた。憧れのリーダーであるエンジェモンにも認めてもらえずにいたところ、戦士団が何者かに襲われ、エンジェモンを含めた仲間たちがバアルモンに襲い掛かってくる。力を求め修行に励み、突出した実力を持った彼は暴走した戦士団を全滅させるが、それが彼のトラウマとなってしまった。認められないままに

仲間達を殺した後悔が尾を引いているという歪みが魅力的なバアルモンだが、黒幕のリリスモンとの戦いで瀕死の重傷を負う。仲間との戦いよりも自分を救出することを優先するタイキを見て、彼は仲間の重要性に気づくのである。そしてその気付きこそ、力に固執していた彼に対し女神等が求めていたことであり、バアルモンは女神に認められてベルゼブモンとして復活を遂げる。いつまでも女神や天使(エンジェモン)に認められなかった彼が紆余曲折を経て魔王の名を冠するベルゼブモンに変わるという辺りに意味が込められすぎていて、『クロスウォーズ』で初めて泣かされたエピソード。だからこそ、その後のベルゼブモンの扱いがあまり良くなかったことが残念でもある。シャウトモンX4Bなんかじゃなくて、X5と言ってあげてほしかった…。

 

脇を固める人間キャラクターについても言及したい。キリハは目つきもファッションも明らかに「工藤タイキ、貴様は甘いな!デジモンは戦うための道具なんだよ!」のタイプなのに、まるでそんなことはなく、むしろタイキ達を認めて仲間にしようとまでしている始末。いそうでいなかったキャラクター像は逆に好感が持てた。2部、3部とどんどんデザインが変わっていって見た目もかなり丸くなったのが凄く良かった。

ネネはとにかく見た目がかわいい。デジモンヒロインでは一番かわいいかもしれない。序盤のミステリアスな雰囲気が好き。3部で香港のアイドルになってたのはよく分からない。弟のユウに関してはかなり時間を掛けて語りたいという気持ちがある。序盤でこそネネのセリフにしか出てきていなかったが、第2部からかなり重要なキャラクターとして登場するこの少年。タイキの実力を認め、彼と戦うことを望む純粋な子どもだが、デジモンに命がないとダークナイトモンに吹き込まれたために、デジタルワールドにおける命の概念を羽毛くらい軽く見ている。ゲーム感覚で戦いに参戦してしまっている危険人物だが、実際には誰よりも優しい心の持ち主なのだ。命の重さに敏感だからこそ、命がない世界に魅力を感じ、あそこまで悪魔のように振る舞えるという歪なキャラクター造形はとにかく素敵。第2部は2話ごとにデスジェネラルを倒していくという基本筋が分かりやすい反面、かなりマンネリ状態になっていたのだが、ユウという魅力的なキャラクターのおかげで何とか完走することができた。ツワーモンとの別れに関してはもっと劇的にやってほしかった気持ちもあるが、ユウという人物の内面の美しさや魅力はしっかりと心に刻まれたので良し。

 

アカリとゼンジロウはかなり持て余していた印象。当初はスターモン達の剣を使ってゼンジロウが奮闘するのが新鮮で良かったのだが、それすらも次第になくなり、賑やかし状態になってしまっていたのが惜しい。嫌いなキャラではないけど、いなくても話が成立するのは明らかという立ち位置にモヤモヤしてしまった。だからこそ第2部で彼等を人間世界に置いてきたのは正解だと思うし、2部と3部の最終盤で復活し味方になってくれる構成はちょうどよかった。何より白眉はオメガシャウトモン初登場の第30話。タイキ達が突然人間界に戻り、同じく人間界に出てきてしまったタスクモンと対峙する筋書きなのだが、オメガシャウトモンへの初進化の要素としてアカリとゼンジロウが新たな力をシャウトモンにもたらす作劇が素晴らしい。しかもそれが『クロスウォーズ』がずっと封印してきたデジモンシリーズ伝家の宝刀「進化」なのがニクい。ここに来て進化が…!という興奮とアカリ・ゼンジロウというサブキャラの持つ意味が同時に襲い掛かってくる上に強敵撃破というテンションの上がる要素まで盛り込まれており、話題性に事欠かない1話だった。この回が一番好きかもしれない。

 

3部は主人公もタギルに変わって完全な別作品扱いにしたいのだが、タイキの先輩ポジションが輝いているのがよかった。かなり人間として完成されている男なので、あの立ち位置にいると余計に魅力が増す。常に戦いを強いられていた1部・2部から日常に起こる不可思議なデジモン事件を解決していく3部への変遷は、『ジョジョの奇妙な冒険』の3部から4部への移り変わりのようで面白い。1話完結のエピソードであるために小粒な話が多く、あまり楽しめないのが残念ではあるが、それでも『学校の怪談』や『妖怪ウォッチ』のような肩の力を抜いて観られる作りではあったと思う。ラスト4話くらいで急に畳み掛けるように物語が終わったのにはさすがに笑ってしまったが。そしてこのタギルとガムドラモンのコンビも、2クールしか出ていないのが勿体無いくらいに魅力的だった。おそらくガムドラモンもタギルも子供っぽいのがいいのだろう。従来のシリーズでは人間かデジモンのどちらがボケでどちらがツッコミというのは何となく雰囲気として抑えられたのだが、この2人は言うなれば両方ともボケられるバカなのである。野心に燃える2人の相棒感は新鮮な観心地を与えてくれた。もっといっぱい進化したりデジクロスしたりしてほしかったな…。

 

以上が、とりあえず印象的な『クロスウォーズ』の良かったところである。ブラストモンの吹っ切れた面白さもかなり好きだったし、敵の3幹部→デスジェネラルという、ゴリゴリのファンタジーな世界観も魅力的だった。結局、護廷十三隊とか十刃とかああいう幹部設定が大好きなので…。ダークナイトモンの暗躍によって戦局がガラッと変わるのも上手い。それゆえに彼がバグラモンの弟だと判明し、単にバグラ軍に取り込まれる結果となったのは残念。ただ、行く先々で登場するデジモンには知らない存在が多く、キャラクターがどんどん出てくる面白さにおいてはシリーズ随一かもしれない。

 

反面、そのキャラクターの物量によって物語性が失われてしまったようにも思う。ネネの目的こそ妥当なタイミングで明かされたものの、キリハの父親との問題やユウの登場はあまりに遅い。縦軸で物語を展開せず、各ゾーン/ランドでのエピソードに焦点を当てた作風は安定感こそあったが、締め方が唐突になっていたようにも感じてしまった。言葉を選ばずに言うのなら、「テーマを持たない空虚な玩具販促番組」のような。王道の面白さこそ詰め込まれているものの、積み重ねの薄い中で発動できる手札は限られており、心が動かされるほどの感動には出会うことができなかった。79話も観ればタイキやタギルを好きにはなるし、『フロンティア』なんてほぼ縦軸をやっていたのに主人公の拓也がどういう人物なのか全然見えてこないのでそれと比較するとだいぶ良いのだが、それでもなんというか…「王道」という名の既視感にだいぶ面白さを上げ底してもらってませんか?という気持ちになってしまった。嫌いではないが、好きと胸を張って言うには薄味なのである。

 

タイキ達の冒険ではとにかく仲間が増え、それ自体はデジクロスの拡張という意味で良い判断だと思うのだが、結局メインで使うのはX3かX4くらいで、各ゾーンで仲間にしたデジモンが次のゾーンで活躍することはそう多くない。キャラクターは多いために集合した時の見栄えは悪くないのだけれど、それゆえに一体一体の価値が低くなってしまった印象を受ける。さすがにシャウトモンは常に優遇されていたが、ドルルモンですら単なる合体要因くらいにしかなっていないエピソードがあったりというのは残念。ただ、もう背景とかは一切ないんだろうな…と諦めていたバリスタモンに突如デスジェネラルに作られた兵器なんて物語が加えられたりと、サプライズ的な面白さもあった。あの回はシャウトモンとバリスタモンの絆という部分を徹底して描いていてかなり好きなエピソードである。

 

とはいえ、デジクロスという合体が肝の作品で、割と形態が固定されてしまったのは勿体無い。三条脚本なら「こういうピンチはこのクロスで切り抜けよう」と様々なアプローチが楽しめるのではと期待していたのだが、中盤からはそういったこともほとんどなくなり、とにかくX5などのゴリ押しで戦っていくようになる。せっかく仲間になったデジモン達も再起用は少なくなっていってしまった。そう考えるとポケモンの手持ち6体以下という縛りがアニメにもあるのはかなりクレバーなのかもしれない。「クロスウォーズ」のクロスの部分の魅力は段々と薄れ、ウォーズについても単なる善と悪の戦い、しかもノルマ的に敵幹部を2話ずつで倒していくというマンネリ感が漂うようになる。軍勢が複数あり、戦国時代のように敵味方が曖昧でワクワクできた第1部の魅力は、第2部の勧善懲悪によってかき消されてしまった。この辺り、毎週1話のペースで観ると、難しいことを考えずに楽しめるという意味でいいのかもしれない。『クロスウォーズ』は一気観には向いていないのだろう。いやそもそも79話なんて話数で向いているわけがないのだが。

 

第3部に関してはもう1話完結をずっとやっていくのだなと気付いてからかなり諦めモードに入ってしまった。もちろん急遽決まった2クールで、しかもラスボス撃破後となれば出来ることも限られるのだろうけれど、『ドラえもん』的な楽しみ方しかできなくなってしまったのは残念。取ってつけたような終盤の畳み掛けも薄味で勿体無い。リョウマのタイキへの憧れなんかは、時間を掛けて描写すればもっと面白くなっただろうに…これも後付けだったのだろうか。ただ、ハンター達によるハントを描く物語として、殺伐としていないのは凄くよかったなと思う。デジモンアニメは基本的にデジタルワールドと人間界を救う話なので、こういうカラッとした作品が生まれたことは評価したい。突貫工事で粗が出てしまうのはまあ仕方のないことだろう。

 

総じて言うと、全体的に薄味な作品になってしまったな、と。コンセプトも分かるし決定的に何が悪いと訊かれると言葉に詰まるのだが、単純にワクワクさせてくれないという意味で勿体無い。期待値を無闇に上げるようなことはしないが、無難なクオリティに終わってしまったという印象がある。もっと小さい頃に出会っていたらそれなりに楽しめたのかもしれない。「デジクロス」などの新しい試みも物語に効果的に取り入れられていたかと聞かれるとそうでもないのだが、王道な物語ゆえにまとまりはある。そういう意味では大風呂敷を広げた割にこじんまりとしていった『テイマーズ』や『フロンティア』よりも好感が持てる気はする。ただ、思い出補正でこの2作が勝つが…。

 

「ここが良いよね!」と声高らかに主張できるほどの個性を感じられなかったのは残念だが、突き放すほどつまらないわけではないので判断に困る。ただ王道ファンタジー路線のデジモンと日常事件解決もののデジモンはどちらも新鮮だったので(セイバーズ序盤が事件解決ものだったが、こちらはあくまで後半への繋ぎだった)、シリーズの拡張という意味ではデジクロスも含めて悪くなかったのではないだろうか。ちなみに一番好きなデジモンはブラストモンです。