映画『真・鮫島事件』評価・ネタバレ感想! 驚きと興奮に満ちたお兄ちゃん遠隔操作系ホラー!

真・鮫島事件

 

都市伝説に疎い私は「鮫島事件」なるものを全く知らなかった。ホラー映画やホラービデオはよく観るものの、インターネットで所謂「怖い話」を読むことはあまりしない。そのため、映画のタイトルを聞いた時も、「鮫島事件とは何ぞや」と、映画の登場人物よろしくググった次第である。そしてその「名前だけが知られていて実態は誰も知らない、”語ってはいけない”事件」というアンサーに、なんか地味だなと思ってしまった。

 

とはいえ、ネットでは「鮫島事件、映画化するの!?」と驚きの声が多かったように記憶している。それほどまでに有名な題材なのかあと感心しながらも、結局公開時に観ることはなく、1年半が経過してようやくNetflixで鑑賞した。というのも、こちらの監督である永江二朗の新作『きさらぎ駅』が公開間近であり、その予習のためである。私も『きさらぎ駅』については知っており、初めて読んだ時は恐怖でしばらく眠れなかったのをよく覚えている。

 

武田玲奈、濱正悟、林カラス、そして佐野岳

特撮ヒーロー番組をよく観ている私からすれば最早お馴染みのメンツでもあり、「豪華キャスト」と言わざるを得ない。

そして肝心の内容も、事前情報のチープさをはるかに上回る、”しっかり怖い”ホラー映画だった。

 

永江監督はこれまでもいくつかホラー作品を監督しているようなのだが、私はどれも観たことがなかった。しかしこの『真・鮫島事件』を鑑賞して、「過去作も全部チェックしなきゃ!」と思ってしまうくらいには、監督のホラー演出に一目惚れしている。霊を出し過ぎず、霊を出すまでの前フリや雰囲気作りも巧みで、ここぞという時の期待を見事に裏切り、演出の妙でしっかりと「恐怖」を演出してくれる。何だろうこの手堅い安心感。

何より、登場人物がわーきゃー喚くようなこともなく、むしろ理解力と適応力が常軌を逸している。異常なほどテンポよく進む物語の合間を、見事な恐怖が彩ってくれるのだ。

 

リモート飲み会で久々に集まった菜奈たち6人。しかしうち一人が何故かずっと画面を切っており、出てきたと思ったら「お前たちだな!」と彼氏が絶叫。彼女を含めたリモート組3人が行った廃墟への肝試しが、呪いのトリガーとなっていた…。

冒頭、マスク姿で街を歩く武田玲奈の描写で、「あ、コロナ意識なんだ」と気付く。「コロナでなかなか会えないもんね~」というセリフが作品への没入感を高めてくれる。

 

その後、「鮫島事件」という言葉を聞くと呪いの拡散者になってしまうという事実に辿り着いた時、菜奈は「これってコロナウイルスと一緒だよ。被害者が加害者にもなるんだ」と、呪いとウイルスを重ね合わせる。貞子で有名な『リング』の原作でも、呪いとウイルスの関連性は物語られていた。言わば「鮫島事件」というメジャーなワードを利用した、そのオマージュとも言えるかもしれない。

 

リモートのカメラが急に止まったり、後ろに誰かが映ったり。また、他のメンバーの状況をカメラ越しと声でしか知る術がないという演出がなかなかに怖い。「みんなPC持ち歩いてうろうろしてるの?」と思わなくもないが、そうした野暮は”魅せる”力を持ったホラー描写がねじ伏せてくれる。

霊の動きが俊敏で、まるで猫のようにいきなり襲い掛かってくるのも恐ろしい。霊はゆっくりと動くイメージが強いが、やはり早い霊の方が怖いと思う。超常的なものがスピードを手にしているというのは本当に怖い。

 

序盤は何が何だか分からない恐怖が続く。メンバーの一人の女性が死に、その彼氏が残る5人に怒りを向けるも、ピンポンが鳴るとちゃんと出るのが面白い。肝試しメンバーによって鮫島事件の事が説明され、残った3人は呪いを解くため奮闘する。

「携帯繋がらない!警察に電話もできない!ネットもだめ!」という描写があるのに、その後鮫島事件についてはバンバン調べられるのは何なんだろう。呪いを解く推理描写にパートが移ると、途端に菜奈が大学教授もびっくりの大胆な仮説を打ち立てていく。「鮫島事件って言葉を聞いちゃだめなんだ」「あのドアを閉めればきっと呪いは解ける」…

本気かと思ってしまうくらいガバが過ぎる決定打の無さ。それにツッコミを入れられるキャラもおらず、菜奈の推理は物語上の「正解」となっていく。そこに嫌味がないのは、きっとホラー演出の素晴らしさが、そうした理性を観客から排除してくれるからだろう。

 

ホラー映画において、こうした「主人公たちが導き出した根拠の薄い解決策」は大概間違っており、しかもそれを果たした後に明かされるのが主である。だからなそ、「解決策」への道筋はある程度観客の納得をも促すものでなくてはならない。そうしなければ、「そんなんで終わるわけなくない?」とつっこまれてしまうからである。ここの磐石さとそれを覆す霊のパワーこそ、Jホラーの特徴かつ強みなのだ。

 

しかしこの映画はその基盤を敢えて雑にセットし、勢いで乗り切る見事な力業を披露する。主人公がインターネットで調べた情報と、「なんとなくの推理力」でぐんぐん進んでいく物語。

異世界に閉じ込められた彼等は、ホラー映画によく出没する「超常現象専門家」も「やたら田舎の風習に詳しい大学生」も頼ることができない。菜奈の推理こそが全てなのだ。

 

そしてネット検索の力も借りることで、「肝試し組が開けてしまった扉を閉めれば良い」という解決策を導き出す。そこに監禁されていた男の霊なわけだから確かに理屈が通っているような、いやでも扉を閉めるだけってちょっと単純すぎやしないか、と思ってしまうような。

 

だが、主人公達は呪いによって部屋から出ることができない。そこに差し出された救いの手が、菜奈の兄からの電話である。帰宅したはずの兄が部屋に入って来なかったことで、菜奈は自分たちが異世界に飛ばされたという結論に辿り着く。呪いを受けていない兄に対し、リモートメンバーが「扉を閉めてきて!」とお願い。「鮫島事件」というワードを出せないせいでなんとも不可解な頼みになっているのだが、「分かった。バイクならすぐだ」の一言でサラッと駆けつけてしまう辺り、佐野岳は現役でヒーローなのだろう。

 

ここで菜奈が、仲間達に対し「お兄ちゃんが呪われたらどうするの!」と激昂するシーンがあるのだが、なら電話切ればいいじゃん…と思ってしまった。ここまで抜群の推理力を発揮して冷静なキャラクターとして成立させていただけに、ここは電話を切らないことが何とも奇妙に見える。

もっと言えば、1度は兄を巻き込まないよう電話を切ったものの、誰かが死んで耐えられなくなり、菜奈からお願いするとか、そういう流れの方が気持ちが入りやすかったのではないだろうか。

 

そしてそこから、怒涛の佐野岳遠隔操作ゲームが始まる。廃墟に足を踏み入れた佐野岳(お兄ちゃん)を、ビデオ通話で遠隔操作し、開けてしまった扉を閉じてもらうのだ。サイト曰く、扉に辿り着くためには写真に写った全ての部屋に入らなければならないという。各部屋には血文字で七つの大罪が1つずつ描かれている。

 

事件の名前を聞くと呪われるというルール(これもあくまで主人公達の推論)のため、佐野岳は詳細を一切知らされないまま、「こういう部屋を見つけて!」とだけ言われる。そんな曖昧な声にも、時折心配をかけないためなのか自分をしっかりとカメラに映しつつ「分かった」の一言でどんどん奥に進んでいく佐野岳。マジで「分かった」の一言で済ませるので面白すぎる。

 

ただ、POVと化し、いつどこで何が来るか全く分からない映像はしっかりと恐怖を煽ってくれる。その緊張を解きほぐすかのようなお兄ちゃんの二つ返事。「強欲…」七つの大罪が書かれている意味は観客にも主人公達にも分からないが、きっとお兄ちゃんはもっと意味が分かっていない。

 

コロナ禍を意識したリモート演出のホラー作品の欠点はこの作品が浮き彫りにしてくれた。「外に出られない」ことである。つまり、メンバーの家の中だけで展開を完結させるほかなく、盛り上がりにかけてしまう。

 

しかし、この映画は同時にその解決策をも具体的に提示してくれた。

そう、「佐野岳の遠隔操作」である。佐野岳は言い過ぎだが、要するに、外にいるメンバーに概要を伝えないまま遠隔操作することで、緊迫感も演出でき、リモート組も置き去りにせずストーリーを進行させることができるのだ。

これは発明と言ってもいいのではないだろうか。

 

ほとんど怯えることもなく遠隔操作されるがままだった佐野岳だが、最後の部屋の直前で遂に霊と邂逅してしまい、絶叫。逃げた先で扉にたどり着き、菜奈に促されるままに閉めるものの、異世界に足を踏み入れてしまう。菜奈の部屋を外からノックし続けるも、菜奈が扉を開けた時には既に絶命。

そして怯える菜奈のまえに霊が現れ、唐突なエンドロールを迎える。Jホラーではよく見られるタイプのバッドエンドだ。

 

総じてかなり楽しめたのだが、菜奈のフルートが箱から出ているのがあまり関係なかったりというのは気になった。笛の音で撃退する方向性なのかとも感じたため、ただのアイテムになってしまったのは惜しい。

 

自分が最も怖いと思ったシーンは濱正悟が襲われるシーン。「お前らにこいつの正体見せてやるよ!」と半ばヤケクソに息巻いてバット片手に霊を迎え撃つ。突然落ちた鍋さえもあまりの恐怖にバットでツンツンしてしまうという怯え具合。何もいないことを確認し、冷蔵庫の扉を閉めたところに…「ドン!」と言わんばかりの霊の登場! これには思わず声が出てしまった。POVで緊張感と臨場感をうまく煽り、霊を出すまでのタメが非常に効果的な前振りになっていた。

 

レビューは酷評の嵐だし、どうしてもチープさは否めない。しかし限られた予算の制約の中で見事に恐怖を演出しつつ、驚きに満ちた強引な展開で観客を惹きつける…そんな魅力に溢れた作品だったと私は思う。

 

ゾゾゾは名前しか知らないのだが、そういったリンクは楽しい。廃墟に潜入系の動画が好きな人は気にいる1作なのではないだろうか。

 

 

 

真・鮫島事件

 

 

同じ永江監督の『きさらぎ駅』についてはこちら。

 

curepretottoko.hatenablog.jp